イスパニアの醜聞(8)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――靖之達と鎧の化け物が会話をしている頃。
「……この雨だ。足音に気付かず、偶発的に敵と遭遇する可能性も考えられる。目と耳に頼るんじゃなく、感覚を研ぎ澄ませるんだ」
「解っています……ただ土砂の流出が激しく、ここもいつまで持つか……」
止む気配を見せない雨により、王子達の移動もままならないようだ。
警備隊の面々が危惧するように、いよいよ危険な領域に陥ろうとしていた。
「止むを得ん……5分待ってルートを確保出来ない場合、我々の判断で移動を開始しよう」
「……えっ? いくら何でも、それは無謀でしょう。せめて、部下が戻って来るまで様子を見るべきでは?」
「我々だけなら、いくらでも待つ。しかし、国賓であるイスパニア王室の方々が一緒なのだ。これ以上の消耗は、命に関わる……全員がここを通過する為には、多少のリスクは受け入れるしかない。お前も、それは解るだろ?」
「……ええ、確かにその通りです。解りました」
隊長の言葉に、部下もそれ以上聞こうとはしなかった。
ただ、現場の空気は最悪である。護衛対象の王子一家も自分の事で精一杯らしく、口を開く素振りすら見せない。
そして、恐れていた報告が飛び込んで来た。
「……てっ、敵襲です! 隊長……王子達を早く!」
「何だと! 状況を説明しろ!」
慌てて駈け込んで来た部下の言葉に、動揺を隠せない護衛隊の面々。
辛うじて状況を把握しようとしたのは隊長だけで、他の人間は咄嗟に言葉が出なかった。
“ここまでか……
敵の数は解らんが、こっちより多いのは間違いない。どう考えても、このまま逃げるのは不可能だろう。
ヤツ等の狙いは、王子達だけだからな。
それに、仲間の殆どは何者かに攻撃され失っているのだ。引くに引けない以上、被害など度外視して突っ込んでくるはず。
この体制のまま迎撃出来るとは、到底思えない。
だったら、採るべき手段はただ1つ!”
隊長は考えをまとめると、そのまま部下達に伝えた。
彼らはそれが妙案だとは思わなかったようだが、対案も無く採用されたようだ。
――同時刻。
「警備隊と残党の間で、戦闘が始まったようだな?」
「そのようです。後は、こちらのタイミング次第かと」
漁夫の利を狙うテロリスト一行は、自身の計画通りに進んでいる事を確認していた。
とはいえ、油断した素振りは見せない。
「警備隊は、王子一家を逃がす為に総力を挙げて迎撃に当たるだろう。町への護衛は、数人しか避けないからな」
「ええ……残っているのは、リーダーを含めて限られていますからね。数もほぼ互角な以上、そう簡単に突破は出来ないでしょう」
「両者が潰し合っている間に、我々が王子達を救出する。町への移動ルートは、もう解っているのか?」
「はい。土砂崩れと地盤の状態から推測して、既に2つに絞られています。想定外の動きを見せても、現場に張り付かせた偵察の人間から報告が入りますので」
不測の事態への対処も出来ているのを確認し、満足そうに頷く首領。
ただ、もう1つの不安材料が気になるようだ。
“後は、例の2人組だな……
ここまで完璧に進めていても、肝心な時に邪魔をされては意味が無い。まぁ、その為にわざわざ『アイツ』を雇ったんだ。
自分の手で始末出来ないのは残念だが、仕方ない。
組織の長として、個人の私怨よりも利益を優先しなければ。
これ以上バカ共に増長されては、国が亡びかねない。裏切り者の議員も含めて、抹殺するべき輩が多過ぎるからな。
その為にも、イスパニア王室は我々が利用させて貰う。
我々には、もう時間が無いのだ……”
逸る気持ちを、どうにか落ち着かせる首領。
周りの人間もその時に備えて準備をする中、部下が姿を現した。
「……報告します! 王子家族が移動を開始しました。ルートは想定していた南側のルートで、護衛は3人。残りは、迎撃している部隊に合流するようです」
「なるほど……人が少ない以上、そうせざるを得ないからな。それで護衛隊の隊長だが、どっちのグループに居る?」
「隊長は、迎撃グループに合流して指揮を執るようです。王子達には、雑兵3人のみであります」
「末端の兵士には、咄嗟の判断など出来んからな。これで、我々の仕事も簡単になったのも同然だ」
待っていた報告の上に、状況は自分達に有利に働いている事が判明。
ここが勝負所と判断したのか、首領はすぐに決断を下す。
「これより、王子一家を保護する。作戦計画に従い、独断行動しないように全員に徹底させてくれ」
「了解しました!」
まずは、報告に来た人間に対して指示を出す首領。
他の部隊にも同じ命令を伝えるべく、数人の人間が後を追って姿を消した。
「町に入られたら、面倒事になりかねんからな。日が昇るまでに、ターゲットの身柄を確保するぞ」
「解っております。既に手を打っておりますので、よほどのイレギュラーでもない限り問題ないかと」
「よしっ……では、我々も向かうとするか」
「了解しました」
軽く側近と言葉を交わすと、そのまま移動を始める首領。
目的の達成を目指して、その足取りに迷いは無かった。
――その頃、靖之達はというと。
「……はぁ……はぁ……はぁ……どっ、どうした? 最初の勢いがウソみたいに、急に大人しくなったな。さすがのアンタも、疲れてきたんじゃないのか?」
「人間のガキ風情が、偉そうに! 今すぐ、減らず口が利けないようにしてやる」
相変わらず戦っていたものの、靖之と鎧の化け物の双方が疲労困憊。
露骨に動きが鈍っているが、攻防を続けていた。
“よしっ……
どうにか、コイツの注意を逸らす事には成功した。まだ気付いて無いようだし、今更気付いても遅い。
向こうの事は舞に任せるとして、問題はこの化け物だ。
ここまでどうにか持ち堪えているが、それにも限界がある。後10分ぐらいで決着を付けんと、俺の体力が持たない。
とはいえ、まともに戦っても勝ち目がないのは事実。
成功するかは解らんけど、こうなった以上アレに賭けるしかない……”
靖之は自身の体を客観的に分析し、これ以上戦闘を長引かせるのが不可能と判断。
起死回生の一手を打つべく、慎重に立ち回り始めた。
「何が、『彼らと戦えば解る』だ! 所詮は、コイツもただの人間。運命に抗った所で、結末は変わらん」
「……その人間に、ここまで苦戦しているアンタはどうだ? 俺から見れば、アンタだって言い訳をして運命に縛られてるだけ。現実から、目を背けているじゃねぇか」
「うるさい! 人間如きが!」
「……哀れな奴よ」
完全に頭に血が上っている化け物と、どうにか攻撃に対処する靖之。
考えている事は違っても、負けられない想いなのは一緒である。
「もし仮に今日を生き延びたとして、その先に何がある……いずれ死ぬ定めなのに、そこまで生にしがみ付いて何になるというのだ!」
「運命や定めとか、そんな事はどうでもいい! 俺は、俺の大切な人を絶対に守るし死なせない……死なせてたまるか!」
「そうか……最初は現実が見えずに吠えてるだけだと思っていたが、どうやらちがうようだな。貴様が恐れるのは、死だ。それも自分ではなく、自分に関係する者の死に対する恐怖。むしろ、自分は死に場所を探しているだけ」
「急に、何を言い出すかと思えば……俺には、まだやりたい事があるからな。こんな所で死ぬわけにはいかないし、どんな事があっても元の生活を取り戻してみせる」
言葉を交わしても、和解には程遠い有様である。
だったら、感情のままに刃を交えるしかない。
「議事堂は破壊され、国の威厳は地に堕ちた。貴様は、自分達には関係無いと思っているのか? 貴様達さえ居なければ、ここまで混乱する事もなかった。好き勝手に正義を振りかざすのは勝手だが、大勢の人間が不幸になっているんだぞ!」
「確かに、俺達がマイナスの影響を与えたのかもしれない……しかし、悪影響でいえば貴様等こそ元凶だろうが! 偉そうに人間を見下すだけで、自分達が神様にでもなったつもりか?」
「神? そんなものは、人間の弱い心が作り出した幻想に過ぎない。自分達の自制心の無さを棚に上げ、責任逃れをする方便。宗教の名のもとに、好き勝手してきた結果が、このザマだ。そんな醜い存在を蔑んで、何が悪い?」
「確かに、人間は醜く救いようの無い存在なのかもしれない。だからといって、あんた等のやっている事はそれ以下。蔑むんじゃなくて、自分達を正当化したいだけなんじゃないか?」
持論をぶつけながら戦うも、平行線のまま。
戦闘自体も長引くだけで、何の変化も無く体力だけを奪っていた。
「……確か、イスパニアだったか? 王族の暗殺計画が成功するか、それとも失敗に終わるのか。どちらにせよ、貴様等には何も出来ない。せいぜい自分の運命を呪いながら、私に殺されるだけの話」
「いや……あんた等の雇い主には悪いが、俺達がただ黙って指を咥えているだけだと思うか? 既に、手は打ってあるさ」
「何? そっ、そういえば……女はどこに行った! まさか……」
「舞なら、既に国賓とやらの救出に向かっている。アンタは俺達の足止めが仕事なんだろうが、失敗に終わったな」
靖之の言葉に、あからさまに動揺する鎧の化け物。
言われるまで、全く気付いていなかったのだろう。想定外の出来事に、咄嗟に返す言葉もなければ反応もない。
そして、この隙を待っていたのだ。
「……おっ、おのれ! まっ、まだだ! すぐに貴様を殺して後を追えば、女に追い付く事は造作も無い事」
「アンタが、正常な判断能力ならそれも出来ただろう。ただ感情を抑えられない上に、この天候……俺は、この時を待っていた」
大振りの薙ぎ払い攻撃を躱し、一気に距離を詰める靖之。
そして、何を思ったのか全体重を乗せて鎧の化け物にタックルを仕掛けた。
「ふんっ、何をするかと思えば……人間のパワーで、この私が倒れると思ったか! このまま弾き飛ばして、串刺しにしてくれる」
「……普通の状態なら、そうなるだろうな。ただし、降り続いた雨でぬかるんだ地面なら話は別だ」
鎧の化け物は咄嗟に踏ん張ろうとするも、土は保水力の限界を超えているのだ。
呆気なく転倒するだけではなく、重みに耐えられずズブズブ沈下して行く。
「おっ、おのれ! この程度で、私に勝ったつもりか? 周りの土諸共、貴様を消し飛ばしてくれる!」
「だろうな……苦し紛れに、その攻撃に頼ると思っていた」
最大火力で吹き飛ばそうとするも、予備動作の段階で靖之が反応。
棍棒に変化した武器を振りかぶると、渾身の力を込めて頭部に打ち込んだ。
「……よっ、よしっ! とりあえずコイツは放置するとして、舞が心配だ。具体的な場所は解らんが、応援に行かなければ……」
ピクリとも動かない鎧の化け物を見て安堵するも、次の瞬間には現実に引き戻される。
体はボロボロではあるものの、すぐに後を追ってその場を後にした。
“おそらく、向こうも雨の影響をモロに受けているはず……
そして話を聞く限り、王族を狙った集団はヤツ等が始末したはず。残党が襲う可能性もあるが、警備の人間が応戦するだろうからな。
気を付けるべきは、漁夫の利を狙っているバカ共の方だ。
アイツ等の事だ。国賓である王族を助けたという実績を手に、組織の地位向上を目指すはず。
テロリストに、そんな事をさせるわけにはいかない。
どうにかして阻止し、尚且つ全員を生きて脱出させる必要がある。となると、不本意だが俺達が接触するしかないだろう。
その結果、戦闘になろうとも引き下がれんからな。
こっちは2人だけだが、やるしかない……”
移動しながらプランを練るも、どうしても中途半端な内容になってしまう。
それでも、靖之は実行する決意だけは固めていた。
――当のテロリストグループはというと。
「……申し訳ありません。ちょっと、気になる情報が入りまして」
「どうした?」
自身の目的を遂行する為移動していたが、部下の1人が来て話を振って来た。
しかもデリケートな内容なのか、首領に耳打ちをする徹底ぶりである。
「例の2人組ですが、女の方がターゲットの居る方角に向かって走って行ったそうです」
「……見間違えではないのか?」
「ええ……私も確認しましたが、見た者は間違いないと。来た方角も一致しますし、複数人が同じ証言をしております。本人だと断定して、間違いないかと」
「……なるほど」
話を聞くなり、少し視線を宙に向ける首領。
考え事をしたのか数秒の無言が続き、確認を始める。
「見たのは、女だけなんだな?」
「ええ、男を見た者はおりません」
「ターゲットの居る方角に向かったそうだが、正確な位置を把握しているのかが問題だ。誰か、マークは?」
「はい……一応、2人が尾行しています。何か解ればすぐに報告が入ると思いますが、どうしますか?」
報告に来た人間も、事の重大さに気付いているのだろう。
首領は再び考え込むと、すぐに具体的な指示を出す。
「ここまで来て、邪魔をされるわけにはいかない。何人か人間を向かわせるから、女は徹底的にマーク。ターゲットに接触する可能性があるなら、足止めしてくれ。可能であれば、排除しても構わない」
「了解しました」
「近くに男の方もいるかもしれん。とりあえず監視を続け、絶えず情報を報告するようにしてくれ」
「解っております……それでは、私はこれで」
手早く話を済ませると、指示を伝えるべく去って行く報告者。
首領も無言ではあるものの、その後ろ姿に一抹の不安を覚えていた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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