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夢国冒険記  作者: 固豆腐
35/70

3原則と自我の目覚め(2)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「……ありがとう。あなた方には、決して迷惑を掛けないと約束する」

「いやいや……他ならぬ、嬢ちゃんの頼みだ。好きなだけ見て行ってくれ」


 目的地に到着した女性は、受付で1つのカギを受け取った。

 それとなく謝礼を渡そうとするも、やんわり拒否され断念。手のジェスチャーで、謝意を伝えるに留めた。

 そう、世間話をしに来たのではない。

 無人のロビーを抜け、そのまま階段のある所に向かった。


 昨日、あんな事があったばかり……

 さすがに、宿泊する物好きは居ないな。私にとっては好都合とはいえ、油断出来ない事に変わりは無い。

 どこで、誰が見てるか解らないのだから。


 客室1つ1つに視線を向けながら、慎重に前進。

 同時に胸ポケットから拳銃を取り出し、即時発砲の体勢をキープする。


「なぁなぁ、聞いたか? 議事堂が落ちたらしく、警察はそっちに意識が向いている。商店ぐらいなら、襲ってもスルーするんじゃねぇか?」

「そうだな……拳闘(賭けボクシング)で有り金をスッたばかりだし、ちょうどいい。俺は仲間を集めて来るから、いつもの所で合流と言う事で」


 通路で堂々と犯罪を計画する2人組を発見し、頭を横に振る女性。

 ただ、見て見ぬふりは出来ないのだろう。仲間を集めに行こうとする男が接近して来たので、十字路で待ち伏せ。

 素早く相手の口を抑え、引きずり込んでそのまま首をロック。

 言葉を発する隙も与えず、一気に頸椎をへし折った。


 残る1人も接近して来たので、壁の死角から銃で狙いを付けて発砲。

 眉間を1発で撃ち抜き、始末する事に成功した。


「犯罪者は、容赦しない。ただ……ホテルの爺さん(受付の男性)には悪い事をした。後で謝るとして、死体は後で私から警察に説明すればいい。今は、それよりも調査だ」


 転がっている2つの死体をスルーし、そのまま階段フロアに移動。

 周囲の動きに注意を払いつつ、目的の部屋を目指した。


 ――同時刻。


「……来たぞ! シカの集団は、パニックに陥っているはず。夜目も効かないはずだし、俺達が躱すしかない」

「解ってる……相手は、車を廃車にするだけのパワーがある。かすっただけでも、致命傷になりかねないからね」


 余程接近しているのか、既に蹄の音と振動でカオスな状況。

 全力で回避するべく靖之と舞が待ち構える中、遂に先頭の1頭が飛び出して来た。


「デカい! って、言ってる場合じゃない……」

「うそでしょ? ひっ……全部で何頭いるのよ!」


 想定より遥かに大きな体格に驚き、かつ数の多さに恐怖を感じる2人。

 一方でシカも逃げるのに必死らしく、人間が居るのもお構いなし。周辺の草や、隠れ場所に利用していた切り株をなぎ倒して行った。

 時間にすると5分にも満たないが、2人には永遠と等しく感じた。


「ふぅ……やり過ごしたのはいいとして、問題はこれからどうするか」

「さすがに、これはちょっとね……」


 根元の土が抉れて悲惨な事になっている切り株を見詰めつつ、呆れた表情を見せる2人。

 咄嗟に言葉が出て来ないようだが、無理はないだろう。


「そういえば、日本に居るシカより相当大きく見えたけど……もしかして、そもそも種類が違うとか?」

「あれは、アカシカだと思う。大型のオスだったら、200キロぐらいになるみたいだし。角が無かったのは、今が繁殖期直後の時期だから。もう少し早かったら、本当に危なかった」

「へーっ、なるほど……まぁ、ケガもせずに済んだし良かったとしましょう」

「……確かに。次は、もっと余裕を持って動くようにしないと」


 興奮は残ったままではあるが、軽く反省をして終了。

 しかし、これで全てが解決したわけではない。


「気になるのは、シカがパニックを起こした原因だ。猟師が居るなら、とっくに銃声の1つぐらいは聞こえてるからな。何か、別の要因があると考えるべきだろう」

「ええ、私もそう思う。追ってるならそろそろ姿を見せるはずだし、もしかして森の中で逃げ遅れた個体を捕まえたとか?」

「その可能性もあるけど、断言するには早過ぎる。だからといって、放置して後をつけられるのも避けたい……そして森に入るのは論外とすると、残るはこの近くで待機するぐらいか?」

「とにかく、姿ぐらいは確認しておいた方が良さそうね。まぁ……この切り株は、さすがに使えないけど」


 とりあえず、現場で観察する事で一致した2人。

 近くの木の陰に身を隠しつつ、何かが姿を現すのを待ち始める。


 うーん……

 いくらシカの警戒心が強いとはいえ、あの逃げ方は尋常ではない。明らかに、何かに追われている様子だったからな。

 普通に考えるならオオカミなんだけど、イギリスではとっくに絶滅した後。

 となると、化け物の仲間と言う事になる。

 だとしたら、かなり危ない事になった……

 生身の俺達人間が、戦って勝てる相手じゃないからな。ベストは、隙を見て逃げるかやり過ごすかの2択。

 最悪でも、発見されるのだけは避けなければ。


 頭の中でシミュレーションをしつつ、警戒を強める靖之。

 同時に何かを思い出したようで、すぐ横に居る舞に小声で話を振る。


「そういえばさ……忘れてたけど、ブレスレットかとしてる?」

「んっ? あれなら、この通り。正直、まだ半信半疑だけどね。でも、藁にでもすがりたいのも事実でしょ? だったら、多少のリスクは背負わないと」

「そうだよな……いつまでも、無事でいられる保障なんてどこにもないし。アイツを信用したわけじゃないけど、懸けてみるだけの価値はあるか」

「……それぐらいの覚悟は、私達にも必要でしょうね」


 右腕に付けたブレスレットを確認し、複雑な表情を見せる2人。

 元々化け物達の世界の代物なだけに、持込みには成功している。ただ苦い思い出が甦るのか、ネックレスには触れないまま。

 こちらも身に付けはしているものの、話題に上がる事はなかった。


「……何かが、こっちに来る」

「そうね……まずは、姿を確認しないと」


 森の奥で、何かが動くのを確認。

 2人が気配を殺して待ち構える中、それは姿を現した。


「……あーっ、やっぱり逃げた後か。話を聞きたかっただけで、危害を加えるつもりはなかったのに……何が、『化け物だ! 逃げろ!』だ。そっちだって、集団で森を破壊する化け物じゃねぇか」


 姿を現したのは、海賊風のコスプレ衣装を身にまとったマーフォーク。

 正体に関しては、考えるまでも無いだろう。シカが逃げ出した原因は判明したものの、当の本人は相当ショックのようだ。

 道路を右に左に歩くのはいいが、違う場所に移動する気配はゼロである。


「……どうしよう。始めての単独任務にも関わらず、この体たらく。恥ずかしくて、カリーナ様に報告出来ない」


 真剣に悩んでいるらしく、両手で頭を押さえて首を横に何回も振るマーフォーク。

 近くに聞き耳を立てている人間が居るとも知らず、心の声が漏れ始める。


「まぁ……所詮、シカは知能の低い獣に過ぎない。楽をして情報を集めるんじゃなくて、もっと自分から動くようにしないと」


 何か思い立ったのか、急に左手の指を左耳に当てる。

 そして、誰かと会話を始めた。


「……あっ、私です。例の森で、アレの捜索を……」

「はい。昨日の騒動の影響もあるようで、農林業関係者は誰も……」

「ジョージ? 申し訳ありません。私は見ていません」

「えっ? あっ、はい……とりあえずシカの群れを発見したので、話を聞こうとして逃げられました……はい……はい……了解です」

「それでは、このまま調査を続行します。何か解りましたら、またその時に……はい。それでは……」


 聞き取れるのはマーフォークの言葉だけだが、繋げ合わせる事は可能。

 そのまま通信を終えたようだが、最後まで靖之達の存在は気付かないまま。それどころか、両頬を叩いて気合を注入。

 己の仕事をこなすべく、Uターンして森の中に戻って行った。


「……どうやら、キナ臭い事になってるみたいだな」

「居ても驚かないけど、正直もう関わりたくはないわ」


 靖之と舞は相手の気配が完全に消えてから姿を現したが、神妙な面持ちのまま。

 暫く、顔を見合わせて固まってしまった。


 会話の内容からして、ヤツ等が何かを探してるのは明白……

 具体的な内容が解らないのが残念だけど、メデューサ達の存在を確認出来ただけマシだ。とはいえ、何なんだ?

 ジョージは例のカエルの名前として、それとは別件みたいだし……

 口ぶりからして、逃げ延びたモントレー卿の線も無いはず。となると、残るのはテロリストグループかウォルコット達クーデターグループ。

 でもなぁ……

 それも、違うような気がする。

 そういえば、あのマーフォークは調査すると伝えてたな。だとするなら、この森に居る何かが対象だという事になる。

 アイツ等が、そこまでして探す物って何なんだ?

 いや……こうやって、下手に首を突っ込むから面倒な事になるんだ。せっかく俺達に気付いてないんだから、ここは無視するべき。

 町に逃げ込んでしまえば、こっちのもの。

 新聞を確保するなりして、適当に時間を潰せばいい。


 靖之なりにアレコレ考えたはいいが、途中で我に返ったのだろう。

 余計な詮索は止め、本来の目的地を目指すべきという結論に至った。


「町まで、30分ぐらいか? ここに居ても、何も得る物は無い。議事堂の件の続報も気になるし、さっさと移動するべきだと思う」

「えっ、ええ……確かに。ここで私達がああだこうだ言ってても、仕方ないからね。さっさと行って、情報を集めましょう」


 あっさりと話がまとまると、すぐに移動を再開。

 とはいえ危険因子の存在が明らかになっただけに、それまで以上に周囲を警戒した。


 ――その頃、ホテルでは。


「……やっぱり、昨日のうちに調べるんだった。隅から隅まで調べて、残っていたのがこれだけとは」


 受付で預かったカギを使って部屋の1つを調べたが、成果は今1つだったようだ。

 ベッドの上に置かれているのは、焼け残った書類の断片が数個だけ。後悔するも、後の祭り状態である。

 それでも、希望が完全に消えたわけではないらしい。


「どんな、些細な情報でも構わない。犯人グループに繋がる、足掛かりが欲しい」


 祈るような顔でそう言うと、懐から小瓶を取り出す女性。

 そして、蓋を開けて中の液体を紙の断片に掛けた。


 頼む……お願いだから、上手くいってくれ!

 理論上、これにインクの中のマグネシウムが反応するはず。つまり、書かれている文字だけが浮かび上がる。

 紙の大きさから考えて、文章を復元するのが難しいのは解っている。

 それでも、固有名詞の1つでも拾えれば儲けもの。国外の武装集団だけでは、調べようがないからな。

 だから、頼む!


 反応が出るのを必死に待つが、残念ながら白紙になるだけ。

 黒片から、茶片の何かに変化しただけ。ガックリ肩を落とすも、それでも僅かな可能性に賭けたいのか凝視し続ける。

 沈黙が、数分続いた頃だろうか。


「……おいっ! 何か、変な奴が居なかったか?」

「ちょ、ちょっと……もしかして、昨日騒動を起こした人達じゃないの?」

「警察だ! 誰か、警察の人間を読んで来い!」


 窓の外が騒がしくなったかと思うと、内容が聞き捨てならない物だと判明。

 すぐに窓を開け、真相を確かめようとするのだが。


「クソッ! どいつもこいつも、野次馬になるだけ。道の真ん中で固まって、どこに居るのか見当もつかない」


 のどから手が出る程望んでいる情報にも関わらず、詳細は不明なまま。

 痺れを切らしたのか、部屋での調査を独断で打ち切り。勢いに任せて部屋から出ると、その足で1階まで駆け下りて外に出た。

 当然ながら、そこは声を聞きつけた住民達で歩くのも困難な状況である。


「あーっ、イライラする……こっちは、犯人を追うのに苦労しているのに……コイツ等ときたら」


 野次馬の大半が冷やかし目的なだけに、女性のストレスはマッハで上昇。

 立ち止まっている人間達を押し退け、問題の人物を探した。


「……やっ、やっと見つけた手掛かりなんだ! このまま……逃がして堪るか! って、どこに行った? どいつもこいつも、邪魔をするなら余所でやってくれ!」


 闇雲に走り回るも、どこも住民達が障害になり身動きが取れなくなるだけ。

 それでも、人と人の隙間に何かが横切ったのを確認。肩や手がぶつかろうが無視して、その何かを追い始める。

 もちろん、それなりのダメージを負いながらではあるが。


「はぁ……はぁ……はぁ……たっ、確か……こっちに来たように感じたんだけど」


 無我夢中で追ううちに、町の玄関口にまで移動。

 野次馬はさすがに見なくなったが、変わりに探している不審者まで消えてしまった。


「おそらく、近くに隠れているはず……せっかく、ここまで追い詰めたんだ。逃がしてなるものか」


 目をギラつかせながら周囲に目を向けるも、あるのは農作業用の小屋ぐらい。

 そして、探しているのが人間だという先入観があるのだろう。同じ目線で固定してしまい、空中は完全に死角。

 だから、自らの頭上に浮かぶ物体には気付かなかった。

 自らを、興味深く見詰めている存在が居る事に。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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