当事者達の憂鬱
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
「ねぇねぇ、奥田さん? 今日ウチのゼミで飲み会があるんだけど、参加しない? 先生が、普段接点が無い生徒の意見も聞いてみたいとか言っててさ……」
「……あーっ、ゴメンね。今、風間先生の手伝いで野外調査をしてて……色々準備もあるし、ちょっと参加するのは難しいのよ」
舞は1限目終わりに友人に声を掛けられたが、やんわりと断った。
無理をすれば参加する事も可能だが、ただでさえ昨晩あんな事があったのだ。出来るだけ早く靖之と合流する必要がある以上、遊んでいるヒマは無い。
会話を打ち切って2限目の教室に向かいたいのだが、相手はお構いなし。
「奥田さんは、羽生ゼミ所属でしょ? それで風間先生の手伝いをするって、どういう風の吹き回しよ?」
「いや……友達が、風間ゼミ所属でね。たまたま一緒に居る時に声を掛けて貰ったんだけど、1回生のうちに野外調査に参加できるって良い経験でしょ? 時間は掛かるけど、今後を考えたら自分にとってもプラスになるし」
「なるほど……まぁ、そういう事なら仕方ないよね。ごめんね? 急に、声を掛けたりして」
「いえ、私の方こそごめんね? 今は無理だけど、また次の機会があったら誘ってよ」
理由を伝えると相手も納得したのか、あっさり引き下がり安心する舞。
そのまま立ち去ろうとするが、今度は何かを思い出したように話を振って来た。
「そういえば、一昨日だったかな? 学食で男の子とご飯を食べてたでしょ? 彼って、奥田さんの彼氏?」
「……えっ? 急にどうしたのよ」
「いや、かなり親しそうだったからさ……趣味が合うなら、ちょっと話してみたいなと思って。別に狙ってるとか、そんなのとはまた別だから誤解して欲しくないんだけどね」
「ああ、そういう事。んーっ、彼とは高校時代からの友達だからね。ただ向こうから告白して来たら、断るつもりはないけど。今は、まだそんな感じかな?」
「へぇ……あっ、そろそろ移動しないと2限目に間に合わない! じゃあ、また今度ね」
「ええ、またね」
結局軽く言葉を交わしただけで、2人の会話は終了。
舞も、次の講義に向かうべく移動を始めた。
「えーっと……靖之からは朝電話があったから、無事なのは確認済み。一緒にランチする事になってるし、今は連絡しなくてもいいかな? 全く……このご時世に、ツイッターしかやってないとはね。まぁ、電話とメールだけよりかはマシだけど」
スマホをいじりながら愚痴を言うが、今は講義の間の休憩時間である。
どこも生徒でひしめき合っているだけに、画面だけに集中するわけにもいかない。
「あーっ、イライラする……道の真ん中で、グダグダ喋らないでよ。仕方ない……遠回りになるけど、裏の道を使おう」
前進もままならない状況に痺れを切らしたのか、強引に人の波を突破。
非常口を開けて、そのまま外に出た。
「ふぅ……確かこのまま直進すれば、メインストリートに出るから……よしっ! まだ10分あるし、遅刻する事は無いはず」
舗装もされてない裏道なだけあって、周囲に人の姿はゼロ。
頭の中に構内の地図を広げると、スマホを操作しながら目的地に向かって歩き始めた。
「うーん……入荷する頻度自体は高いから、問題になるのはやっぱり水槽かぁ。120センチならどうにか置けるんだけど、さすがにそれだとね。150以上は必要だから……どう考えても、今は無理だわ」
画面に移った流線型のナマズを見て、露骨に肩を落とす舞。
価格やその他情報はサラッと流すものの、問題はそこではないようだ。
「はぁ……アロワナと組み合わせようと思ってたけど、水槽がね……まぁ、今は学生の身分だから仕方ないか。それに、今はそんな悠長な事を言ってる場合じゃないし」
考えている内に、現実に引き戻されたのだろうか。
スマホを閉じると、今度は真剣な表情で考え込んでしまう。
議事堂が炎上し、更に大勢の国会議員が巻き添えで死亡……
もはや、テロと呼べるレベルを超えたのは明白。捜査をしようにも、現在のように科学技術が進歩しているわけでもない。
どう考えても、これから待つのは地獄のみ。
私と靖之は助かったとはいえ、次がある保障なんてどこにもない。
今まで以上に、気を引き締める必要がある。特に、あっちでは身分の説明のしようがないんだから。
ただでさえ、先が見えずに心が折れそうなのに……
まぁ、嘆いた所で状況は改善しないからね。今日は3限目までだし、しっかりと話し合って行動方針を決めないと。
元の生活を取り戻すまで、諦めるわけにはいかない。
舞はどうにか気持ちを立て直し、それ以上考えるのを止めた。
今ある、目の前の2限目の講義に集中する為に。
――同時刻。
「とりあえず、検査に異常は無かった……正直意味が解らないけど、だからといって引きずるわけにはいかない。舞には後で説明するとして、まずは2限目に集中しないと。単位が足りずに留年なんて、洒落にならん」
病院での診察を終えた靖之は、講義が始まる前に学校に到着する事に成功。
残り時間が少なくなる中、教室に向かって走っていた。
血液検査までしたんだから、とりあえず問題無いはず。
全く……
講義にも出ないといけないし、ウチの先生(風間准教授)の依頼もこなす。両方やるのは大変だけど、これも俺が決めた事だ。
空いた時間を見つけて、さっさと終わらせればいい。
それよりも問題なのは、あの事件後の動きだ。
警察の調査は続いているとはいえ、襲撃時の動きを見る限り信用するのは不可能。おそらく、今晩の段階では進展がゼロのはず。
まぁ、モントレー卿は助かったみたいだし最悪のケースは回避出来た。
海外勢のヤツ等も、暫くは表立った動きは見せないだろう。となると、最大の問題はウォルコットとかいう裏切り者だ。
コイツを止めない限り、第2の暗殺計画が実行されるだけ。
今夜どこに飛ばされるか解らんけど、早めに潰す必要があるだろう。その事も含めて、大事なのは今日の舞との話し合い。
時間は掛かっても、細部まで詰める必要がある。
考えないつもりでも、どうしても頭から離れないのだろう。
走りながらアレコレ考えていると、急に声を掛けられた。
「あれ? 靖之君も、ラテン語の講義?」
「ああ、吉川さん? まぁ……学名はラテン語表記だから、ある程度の知識は必要だと思って」
咄嗟に振り返るも、声の主を確認して驚きを隠せない靖之。
形だけの挨拶だけで済まそうとするも、彼女の方はそんな事はお構いなし。
「そうよね……さっかく同じ講義を受けてるんだし、一緒に行きましょう?」
「えっ? ええ、まぁいいけどさ。でも、吉川さんがラテン語の講義を取ってるとは、ちょっと意外というか……」
「まぁ、私も夢は靖之君と同じで研究者だからね。ラテン語は早めに取っておいて損は無いだろうし」
「確かに……」
どうにか話題を探そうと試みるも、どうにも不発。
このままでは講義が終わった後も付いてきそうなだけに、内心では焦りを募らせる靖之。
「あっ、そうそう……せっかく2限目が一緒なんだから、後でランチしない?」
「ランチ? でもなぁ……申し訳ないけど、俺は先に約束した友達がいるからさ」
「友達って、例の奥田さんでしょ? いいんじゃない。せっかくだし、彼女と私に靖之君の3人でご飯にすればさ」
「えっ、そうなんだけど……いや、その何ていうか」
「私は別に3人でも構わないけど、靖之君は嫌? それとも、奥田さんは2人きりがいいと思ってるとか?」
「いや、別にいいとは思うけどさ……」
「じゃあ、決まりね。いつも早めに終わるし、席が埋まる前に場所が取れるだろうし」
「……ああ、そりゃあ良かった」
上手く断る事が出来ず、勢いに呑まれてしまう靖之。
そして後の展開をシミュレーションし、頭が痛くなるのを感じた。
――30分後。
「……ごめん。ちょっと、トイレに行って来る」
「うん、解った。でも、大丈夫? お腹が痛いんだったら、病院に着いて行くけど」
「いやいや……普通に、催しただけだから。10分ぐらいで戻って来るから、吉川さんは授業に集中してて」
「あーっ、うん……解ったけど、辛かったら我慢しなくてもいいからね」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
靖之はトイレに着いてこようとする陽菜をどうにか制止。
先生に断りを入れて、そのままトイレに向かった。
「はぁ……気が重いな。別にご飯を食べるぐらいならいいんだけど、今は1分1秒が惜しい時期。どうにかして、断る理由を考えないと」
今後の展開を考えると、どうしてもポジティブに取れないのだろう。
重い気分のままトイレに到着すると、そのまま用を足す靖之。
「あっ、そうだ! 風間先生に頼まれた、池の調査。アレをいつやるか考えないと、ダラダラ先延ばしになるだけ。全く……こんな事になるなら、安請け合いしなければよかった」
短時間で終わらない作業なだけに、思わず声を上げてしまう。
講義の最中で人が居なかったから良かったものの、恥ずかしい思いをしたのは同じ。暗い気分を引きずったままトイレを済ませると、後は手を洗うだけ。
ハンカチで水を拭って、教室に戻ろうとするのだが。
「どうにか生き延びているようだが、調子はどうだ?」
「……あんたか。おかげさまで、この通り。出来る事なら、今すぐ元の生活に戻して貰えると助かるんだが?」
背後で声がしたかと思うと、いつぞやのガイコツの化け物が出現。
前回とは違い靖之も普通に対応するも、向こうも世間話をしにきたわけではないらしい。
「……確か、ブレスレットが手元にあるはずだが? 人間は非力なんだから、使うべきだろ? 変なプライドが邪魔して、使うのを躊躇ってしまうのか?」
「あんな物をいきなり送り付けられて、『はい、そうですか』って使えるかよ。何が起こるのさえ、こっちには解らんのだから」
「案外、用心深いんだな……ちょっと、意外だな。てっきり、飛び付くとばかり思ってたんだけどな」
「いや、だから用途を説明しろよ。それを聞いて俺達にプラスに働くんだったら、喜んで使うからよ」
会話が噛み合っていないが、強引に終わらせるつもりもないらしい。
靖之の言葉にガイコツは少し考え込む仕草を見せた後、口を開いた。
「あれは、一種の装備品。どのような効果があるかは、私にはあずかり知らぬ事だからな。そこまで、貴様等に手を貸してやる義理は無いだろう? ただ……1つアドバイスをするのであれば、アレとネックレスは身に着けておけ。寝る前だけでいい。効果については、自分で確認しろ」
「……随分、回りくどい言い方だな? それを聞いて、俺達が『はい、そうですか』と信じるとでも思ってるのか?」
「貴様達が、信じるかどうかはどうでもいい。ただ、生き残りたかったらどうするのか助言しただけ。受け入れるかどうかは、そちら次第だ」
「使って、効果が無かったら。いや……メデューサの化け物みたいに、俺達を利用するだけのアイテムじゃないのか?」
「……話は以上だ。伝える事は全て話したし、他に用は無いからな」
食い下がる靖之を無視し、スッと姿を消す化け物。
残された靖之はやり場のない怒りを抱えるが、彼に出来る事は何も無かった。
――その頃、モントレー卿はというと。
「……という事で、私には24時間の監視が付く事になる。表立って動けない以上、君に託すしかないんだ。もちろん、大変な事なのは私も理解している……それでも、これ以上ウォルコット達の好き勝手にさせるわけにはいかんのだ」
「……解りました。私は、モントレー卿に雇われた身。命令とあれば、従うのみ……ただ、これだけは約束して下さい。自暴自棄になって、彼らに利用される行動をとらないと」
町はずれの民家の1室で話し合う、モントレー卿と妙齢の女性。
周りに人は居ないものの、警戒はしているのだろう。建物の外は、完全に警官達がガードした状態。
移動の為の場所も、いつでも動ける状態で待機していた。
「……私は、暫く警察の保護下に置かれ過ごすことになる。連絡手段は、おって伝える」
「了解しました。それでは……しばしの間、ご辛抱下さい」
2人は短く話を済ませると、モントレー卿は警官に付き添われて馬車に移動。
どこかは解らない安全な場所に向かって出発したのを、女性は黙って見送った。
「今回の事件の対応次第で、我が国の未来が変わってしまう。警察が役に立たない以上、私がやるしかないのか……ウォルコット議員の暴走を止め、テロの実行犯の素性を洗い出す。出来るか出来ないかではない……やるしかないのだから」
窓から外を眺めつつ、彼女はそう呟く。
まるで、自分に言い聞かせるように……
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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