少女はガレキの中で夢を見る(2)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・今回は、2つ目の長編の2パート目です。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
【前回までのあらすじ】
この日靖之が居たのは、ありふれた町の1つだった。
とはいえ、これまでの経験を踏まえて慎重に行動。露店が集まっている市場を発見し、情報収集を実施した。
取り留めのない話から、農作物に関する話まで様々な内容を耳にする。
そんな中、気になったのは役人を狙った連続殺人事件だ。今日やるべき事も決まり、ベンチで休憩。
情報を整理していると、急に声を掛けられた。
――前回の直後。
「フィッシュ&チップス……1つでいいんです。買って下さい。お願いします」
「……申し訳ない。買ってあげたいのは山々なんだが、今手持ちがないんだ」
靖之から見れば正直に答えただけなのに、何故か少し声が上ずってしまう。
一方で相手は断れてしまい、露骨にショックを受けているようだ。
「……すいません。いきなり買えって言われても、押し付けがましいだけですもんね。ごめんなさい……」
「いっ、いや……そうじゃないんだ……まっ、待ってくれ!」
諦めて肩を落として立ち去ろうとする相手に向けて、靖之は慌てて声を掛けた。
居ても立っても居られなかったのだろうか。キョトンとする彼女を、手のジェスチャーで制止。
腰を上げると、自分が居た場所の横に座るように指で促した。
「持っている分全部買うから、そこに座って待っていて欲しい。そうだな……10分もすれば、戻って来るから」
「えっ、そんな……だって、お金がないんでしょ? 無理をしてまで買ってくれなくても」
「いいから、座っててくれ。俺は腹が膨れて、君はお金を得る。お互いにメリットしかないんだから、それでいいだろ?」
「うーんっ……じゃあ、お言葉に甘えて!」
「よしっ! それでいい」
相手がベンチに腰を下ろしたのを確認すると、ニコッと笑顔を見せる。
そして靖之は何を思ったのか、露店の方に歩いて行った。
信じられん……
まだ子供、それも女の子じゃないか。年だって、どう見ても10歳前後のはず。カワイイ盛りなのに、親ときたら……
自分の子供をこんな時間まで働かせて、恥ずかしくないのか?
もし、何か事件にでも巻き込まれたらどうするんだ?
服はくすんでて、靴は泥で汚れてグチャグチャ。手だって荒れてキズだらけだし、髪だって手入れしてないのか、ブロンドの巻き毛がパサパサだった。
顔だって可愛らしいんだから、もっとお洒落すべきなのに……
いや、解ってる。
下手に、『こっちの世界』の人間に関わるべきじゃないと。また、トラブルに巻き込まれるかもしれないから。
今日1日助けたところで、状況は改善しない。
その通りだと思う。
でも、ダメだ……黙って見て見ぬふりをするぐらいだったら、俺は……
何かスイッチが入ったかのように、激しく葛藤する靖之。
ただ、それも僅かな時間だけである。すぐに我に戻ると、そのまま何食わぬ顔で、人混みの中に入って行った。
お金を持っていない彼が、これから何をしようというのか。
ただ、人に自慢出来ない事なのは確かだろう。
――15分後。
「ほらっ……中が熱いから、火傷には注意して。後、これはオレンジジュース。空きビンは、後で俺が返しに行くから」
「えっ、本当にいいの? 私、お金はお釣りぐらいしか持ってないよ?」
「いいから、いいから……冷めたら不味くなるし、さっさと食ってしまおう」
「うんっ! ありがとう」
彼は再びベンチに戻って来ると、少女にミートパイと飲み物を手渡した。
代金は通行人の財布から失敬した物であり、立派な犯罪行為ではある。それでも他に方法が無いだけに、心の中で詫びつつも必要な額だけをゲットした。
そして、靖之自身は彼女から買い取った冷えたフィッシュ&チップスを口にする。
子供の労働者が、こんな過酷な生活をしてるとは。
図書室で、色々本を読んだからな。この時代の歴史や文化について、頭では理解したつもりだった。
ただ、現実は過酷そのもの。
今日は大丈夫だとして、じゃあ明日は? 一体何を心の支えにして、生にしがみ付くのか? 親や親族は何をしている?
学校に……行ってる場合じゃないな。
行政に……ダメだ。この時代のイギリスは、産業にオールインしている状態。弱者を構っている余裕はどこにもない。
『ゆりかごから墓場まで』なんて言葉は、ここ最近の話。
彼女達のような存在は、このまま誰にも気付かれずに消えて行くだけ……
どうにかして、助ける方法はないのか?
考えても希望が見出せず、苛立ちを募らせる靖之。
味も感じず気分が沈んでいる中、当の本人は無邪気そのもの。ミートパイを完食し、ジュースを一気に飲み干す。
そして、お腹が満たされて気分が良くなったのだろう。
笑顔で、向こうから話し掛けて来た。
「ねぇ、お兄さんはどこから来たの? ここの人じゃないよね? 名前は、なんていうの?」
「……ああ、申し訳ない。俺の名前は、佐山靖之。確かに、ここの住人じゃない。どこから来た? そうだな……海を渡った先にある大陸を東にずっと進んで、更に先にある島とでもいっておこうかな」
「……ふ~ん。私にはよく解らないけど、とにかく遠くから来たってことよね? 旅人さんでしょ?」
「うん、その認識で間違ってないよ」
よく笑い頭を捻って考える仕草と彼女の現状が重なったのか、唇を噛み締める靖之。
暗い気持ちになっている彼に対し、女の子は言葉を続ける。
「私はミコット・ストーンズ。2つ先の通りのバーっていう所? で、働いててね。あんまり売れないから、お金は無いけど……でも、そんなのはどうでもいいの。今日、お兄さんみたいな人に遭えたから」
「……そうか? なら、よかった」
「えーっと……それでね。近くの教会で住ませて貰ってるんだけど、たまには恩返しをしたいじゃない? だから、今お金を溜めてるの」
当たり前のように話すミコットとは違い、靖之は歯を食いしばって天を見る。
それでも、我慢出来ないのだろう。
「住ませてるんだったら、ついでに職を与えるか学校に通わせてやれよ。何、当然とばかりに子供を働かせてるんだよ。教会だろ? いや……何でもない。続けて」
「えっ……あっ、そう? じゃあ、話すね。私は親の顔を見たことがないから、シスターがお母さんでありお姉さん。今は給仕の仕事しかないけど、いつか旦那さんを見つけて結婚するのが夢なの」
「……心配しなくても、大丈夫。君は若いし、可能性は無限大なんだから。希望を諦めなければ、必ず道は開ける。俺はそう思うし、そうでなければならない」
「あはは、ありがとう。今日初めて会った人に、こんな変な話をしてごめんね? でも、言葉にしたら楽になったわ」
「そう……ならよかった」
眩い笑顔を向けるミコットに、靖之は暗い顔で単調な返事をするだけ。
口には出さないものの、心の中では過去の記憶がフラッシュバックしていた。
それは、雲1つない晴天のある日に起こった。
当時中学2年だった靖之は、登校して教室に着くなりクラスの異変に気付いた。
既に半数の生徒が居たが、ある1人の女の子の机をほぼ全員で包囲。口々に、心無い言葉を浴びせかけていた。
どこから見ても、悪質なイジメそのもの。
実は前日にとある政治スキャンダルが発覚したタイミングである。理由は容易に想像出来ただけに、彼は慌てて輪に飛び込んだ。
涙を流して耐える女の子に、冷たい視線を投げ掛ける愚かな級友達。
どちらの肩を持つべきか、そんな事は考えるまでも無かった。
「わっ、私は気にしてないから……そんな事をしたら、佐山君まで――」
「何が、気にしてないだよ! 親父さんは、野党の国会議員と市民団体の癒着を告発しただけだろ? 与党だからダメなのか? ああ、ウチのクラスは、土建屋の関係者が多いからな。今まで口利きして貰ってたのが、これでパアになったから恨んでるんだろう……ふざけるなよ! 文句を言うのは筋違いだし、寄ってたかって村八分にするとか恥ずかしくないのか?」
「もういい……もういいから」
「吉川さんは黙っててくれ。俺は、この卑怯者達が我慢出来ないだけだ。数で叩いて、自分達がさも正しいかのように振る舞うクズさ……反吐が出る。巻き込まれたくないから、目を背ける傍観者も同様だ。恥を知らないのか? 自分が将来結婚して、子供が生まれた時にどうやって向き合う。どんなに取り繕っても、イジメに加担した事実は変わらない。いや、自分の子供がイジメを受けたらどうする? 相談を受けた時に、どんな対応をするつもりだ? 今なら、まだ間に合う。吉川さんに、謝るべきだ」
感情丸出しの靖之の訴えに、被害者は泣いたまま。
一方の加害者達は、黙って下を向いて答えない。クラス崩壊どころの話では空気が蔓延する中、誰しもが他人の顔色を窺うばかりである。
解決の糸口が見つからない中、堪りかねた靖之が口を開こうとした時だった。
「もう、その辺でいいだろう。吉川に、何の落ち度も無い。また彼女が誰にも分け隔てなく優しく接する人格者なのは、皆が一番知っているはず。ましてや、どんな理由があろうとイジメをしていい理由にはならない。佐山の言う事はもっともであり、後で逆恨みなどしないように……今回が、最後通告だ。イジメをする、もしくはその兆候が見られた場合、進学時の内申点はゼロだし、親だけではなく進学先にも報告するからな?」
騒ぎを聞きつけたのか、入口に立っていた担任が強引に介入。
冷たく突き放す口調に、加害者達も本気だと理解したのだろう。イジメに対する反省を見せる者はゼロだったが、効果はテキメン。
露骨に悔しがったり顔を青ざめたりしつつ、自分の席に戻って行った。
「ごめんね、佐山君。私のせいで、危うく君までイジメに巻き込むところだった」
「いや、友達が悲しんでるんだったら助けるのが道理。謝られる理由なんて、どこにもないさ」
「……すごいね。その心の強さを、私も見習いたいわ」
「いや、感心してる場合じゃない。昨日のニュースを見る限り、スキャンダルは全国の関心事だ。学校にもマスコミが来るかもしれないし、そうなれば吉川さんは好奇の目に晒される。ほとぼりが冷めるまで家まで送るから、俺と一緒に帰ろう」
事の重大さを理解しているだけに、しっかりフォローもする靖之。
彼女も1人だけとはいえ、手を差し伸べる人間が居た事に安堵したのだろう。
「……ありがとう。佐山君は優しいね」
「いや、俺だって庇う相手は選ぶさ。それにお金の貸し借りはトラブルになるから、基本スルーするし。ただそれ以外で友達が助けを求めているなら、全力で守る。そんな人間でありたい、とは思ってるけど」
「うん、私もこれから強くなれるように頑張ってみる」
「そうそう……吉川さんらしさを忘れなければ、それで大丈夫。君は誰よりも優しく、笑顔が輝いてるんだから」
「ふふっ、佐山君もね」
2人は、人目も気にせず笑い合って互いを励ました。
周りの人間の反応は、完全に無視して。
その後吉川さんへのイジメは、全く無くなった。
もちろん、この時の亀裂が影響してかクラスの人間関係は完全に崩壊。家庭崩壊を起こした事例も複数確認されたが、それはまた別の話だろう。
そして警戒していたマスコミが学校に来る事態も、最初の1週間のみ。
彼女は無事に中学校生活を全うし、靖之とは別の高校に進学した。
ちなみにこの1件で2人が周囲にカップル認定をされるも、完全に否定。あくまでも、仲の良い友人関係に留まったまま。
現在はたまに休日に映画を見たり、メールをしたりするぐらいだ。
そして靖之には黙っているが、彼女も同じ大学に合格し通っていた。
――再び、時は戻り。
「どうしたの? 急に黙って、何か気になる事でもあった?」
「いや……君の目を見てたら、友達の女の子を思い出しただけ。それだけだから、別に気にしなくても大丈夫」
ミコットの声掛けで現実に引き戻され、慌てて取り繕う靖之。
ただ、さすがは幼くても女の子である。男に比べて変にマセているのか、それともゴシップが好きなのか。
ともかく、友達の女の子が気になるらしい。
「ねぇねぇ、その女の人はお兄さんの恋人でしょ? 今も付き合ってるの? それとも、もう別れたの? キスはした? それから、裸の付き合いって言うんだっけ? 大人の関係って言うんだっけ? 深い関係になったの?」
「こらこら……子供がそんな話をするんじゃない。まだ早いっていうか、そんな事は気にしなくてもいいだろ?」
「知りたい! 知りたい!」
「はぁ……どの時代でも、女性は……いや、男女問わずこの手の話が好きだねぇ。心配しなくても、ただの友達。手だって繋いでないんだから」
「ちぇっ、なーんだ。つまんないの」
「ははっ、悪かったな」
露骨に残念がるミコットに、靖之は無機質に笑うことしか出来なかった。
ただ、気が付いたら両人共に食事は完食。各々に包装等のゴミを、ベンチ脇に投げ捨てた。
後は、ジュースの空きビンを店に持って行くだけ。
ミコットから受け取り、靖之がベンチから腰を上げようとした時である。
「しっ、静かに……とりあえず、そこの植え込みに隠れよう」
「えっ? うっ、うん……解った」
爆竹が鳴るような音と複数の人間が争うような声が聞こえ、慌てて退避する2人。
ミコットも最初こそ戸惑ったものの、すぐに事態を把握したらしい。あからさまに集団近付いて来るのを感じながらも、茂みの中に身を隠す事に成功。
もちろん万が一発見された時に備え、目で逃げるルートを探すことにも余念が無い。
それから、15分ぐらい経った頃だろうか。
町の方角から誰かが飛び出して来ると、一拍の間をおいて銃声が発生。どうやら被弾したらしく、右足を引きずりながら広場に逃げ込んで来た。
もちろん、万全には程遠い状態である。
当然逃げ切れるわけもなく、1分としないうちに追っ手と思われる2人組の男が現れた。
「いいか、よく聞くんだ。もしここでヤツ等に見つかったら、口封じで殺されるのが目に見えてる。でも、君を連れて逃げるのも難しい。だから、こちらから先に仕掛ける。俺が攻撃するから、止めを頼む。相手は躊躇なく人を殺す輩だ。殺すつもりで、これで思いっきり頭を殴ればいい」
「……わっ、解った。任せて」
靖之は近くに置かれた掃除用と思われる箒をミコットに渡し、自分も同じ物で武装。
茂みに隠れながら接近する中、2人組の男が命乞いするターゲットに向かって発砲。
多数の銃弾がヒットしたらしく、糸の切れたマリオネットのように地面に倒れ込んだ。
「野郎……躊躇なく撃ち込みやがった。でも、逆に考えるのであればこれは絶好のチャンスともいえる。このまま、1撃で倒す事が出来れば」
「そっ、そう? どっちも、おっかない顔をしてるけど……本当に、大丈夫? 失敗して、こっちに向かって来たら……」
「大丈夫、俺を信じてくれ。相手はたかが2人。それに、ここ数日物騒な事件が増えてるんだろう? 危ない目に遭いたくないのは理解出来るが、目の前の事実から目を背けても現実は変わらない。この町は、君の町でもあるんだ。覚悟を決めるべきじゃないか?」
「それは……そうかもしれないけど。でも、怖いの……」
とても子供に話す内容ではないが、この時代で生き抜くにはタフな精神も必要なのだ。
怯える彼女の目をジッと見詰めつつ、覚悟を促す靖之。
「俺だって、怖いさ。それでも、俺にはやらなければならない事がある。君も、夢があるんだろ? 今のままじゃ、教会の人も安心して暮らせないはず。誰かがやってくれるだろうなんて甘い考えは、今すぐ捨てるべき。覚悟を決めるんだ」
「うっ、うん……私の大切な人を守る為……解った。やってみる」
「ああ、その意気だ。まずは俺が突っ込むから、君は後から続いてサポートをするだけでいい。なーに、勝負は一瞬で終わる」
2人が死体の持ち物チェックを始めたのを見て、覚悟を固める靖之とミコット。
焦る気持ちを抑え、10メートルぐらいまで接近しただろうか。遮蔽物がなくなり、尚且つターゲットはこちらの存在に気付いて無い状態である。
靖之なりに今が好機と判断したのか、迷わず茂みから飛び出した。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。
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