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夢国冒険記  作者: 固豆腐
10/70

少女はガレキの中で夢を見る(1)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・今回は、2つ目の長編の1パート目です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

【前回までのあらすじ】

 講義に向かう舞を見送った後、靖之は1人図書館で調査を続行していた。

 とはいえ、人間の集中力には限界がある。気晴らしも兼ねて外の自販機でコーヒーを買おうとして、ガイコツの化け物に遭遇。

 千載一遇のチャンスとばかりに話を聞き出そうとするも、中途半端なまま。

 それでも、幾つかのキーワードを得る事には成功。不吉な予言じみた言葉をガン無視して、前向きに捉えたのだろうか。

 コーヒーを片手に、図書館に戻って行った。




 ――その日の夜。


「よしっ……周りに人も居ないし、大丈夫そうだな?」


 今夜も靖之も例によって『あの世界』に飛ばされたものの、さすがに慣れたようだ。

 まずは物陰に隠れて周囲を観察して安全を確保すると、情報収集に移行。これまでトラブル続きなので、今回こそはと気合が入っているらしい。

 キョロキョロ見回し、必死に何かを探す。


「どうやら、ここは普通の町みたいだな……とはいえ、最初に来た大都会とは違う。これぐらいの規模なら、調べる事も出来そうだ」


 まず目に入るのは、石を積み上げただけの簡素な家。

 それと手入れのされていない、土が剥き出しの道路だけである。往来する人の数も少なく、お世辞にも賑わった町とは言えなかった。

 ただ、今の靖之にはもってこいの環境だろう。


「さて……情報収集の定番といえば、飲み屋か食い物屋って相場が決まってる。しかし、場所が解らんうえに俺はこっちの金を持ってないからな。クソッたれ……こんな事なら、昨日爺さんに理由を付けて貰っとくんだった」


 後悔先に立たずのシチュエーションに、やり場のない怒りを覚える靖之。

 とはいえ、いくら嘆いても事実は変わらない。頭を振って、まずはマイナスの感情をリセット。

 気持ちを入れ替えて、すぐに次の行動に移る。


「メモとペンは……ダメか。こっちの世界に物を持って来ればと思ったけど、それが出来たら苦労しないからな。しょうがない……覚えられる範囲でいいから、目が覚めたらメモとかに急いで書いておくか」


 ゴソゴソとズボンのポケットを漁るも、手応えなし。

 それでなくても、服装は昨日途中で着替えた海賊服の状態である。町では明らかに浮く出で立ちであり、下手に住人と接触するのも危険だろう。

 自覚は当の本人にもあるらしく、手でペタペタと服越しに体を触り始める。


「ダメだ……どうやっても、誤魔化せそうにない。そもそも、店に入ろうにも金を持ってないからな。だったら、別の方法に切り替えるべきじゃないか?」


 上手い解決策が浮かばないのか、あっさり方針転換するようだ。

 早々に今隠れている場所を離れると、人目を避けて体を隠せる場所を確保。そのまま、転々とポイントを変えながら移動する。

 この辺りは、今までの経験が生きているのだろう。

 細心の注意を払い、ゆっくりとしたペースを維持する。


 飲食店は、どう考えてもアウトだよな?

 だとするなら、昨日みたいに新聞が手に入ればいいんだけど。全国紙なんて贅沢は言わないから、とにかく情報が欲しい。

 いっその事、ゴミ箱でも……って、この時代に道端に置いてるわけないだろ?

 ロンドン市内でさえ、キレイになったのは産業革命の後期なんだぞ?

 ここみたいな地方都市だと、更に後になってからのはず。変に期待するぐらいなら、まだ別の方法を探した方がマシ。

 ダメだ……新聞の線はとりあえず保留するしかないな。

 まずは、どこかにいる奥田さんとの合流が最優先。その上で、この世界の情報を少しでもいいから集める。

 いきなり元の生活に戻るのは無理だからこそ、地道にコツコツと動く必要がある。

 心が折れたら、そこで終わりだからな。

 とはいえ、奥田さんが全く違う場所に飛ばされた可能性もある。

 会えない可能性も頭に入れておかないと……


 土地艦が全く無く右も左も解らない中、靖之は1人夜の街を徘徊する。

 もちろん人とは遭遇するものの、出で立ちから推測して地元の住民ばかり。時間的に、仕事終わりに酒を飲むべく出歩く男性が殆どだった。

 女性も、一応少数ながら存在するのだが……


「お兄さん、寄ってかない? 安くしとくからさ」

「仕事で疲れてるんだろ? ちょっと、そこで休んでかない?」

「野郎ばかりと飲んでも、全然楽しくないだろう? ウチなら、カワイイ子と一緒にワイワイ飲めるよ?」


 明るい場所があると思ったら、ご多分に漏れず歓楽街だった。

 しかも水商売関連の店から売春宿の店までごっちゃになっており、カオスな光景を醸成。見るからに関わってはいけない場所なだけに、足早に通過した。

 それでも、30分程経った頃だろうか。

 広場のような場所で、露店がひしめき合って営業しているのを発見した。


「長かった……一時は諦めようかと思ったけど、諦めなくてよかった。これで……これだけ人も居るし、1個か2個なら情報が手に入るはず」


 待ちに待った光景に、靖之としては喜びを隠せないのだろう。

 ごった返す人混みに混じって、情報収集を開始した。


「よぉ、兄弟! どうよ、そっちの様子は?」

「どうもこうもねぇよ! ジャガイモは病気でダメだし、そもそも雨も多過ぎる。ウチを畳むまでではないにしろ、ちょっと厳しいな……それで、そっちは?」


 仕事終わりに飲みに来て、既に何件か回っているのだろう。

 汗とアルコール臭のダブルパンチに苦しむが、どうにか耐える靖之。


「ウチも同じだ。長雨の影響で、半分近くでパア……役所は何もしてくれねぇし、お先真っ暗だ」

「……お互い、今年は辛いな。役人が役に立たないのは昔からとはいえ、最近ちょっと酷過ぎる。誰か、どうにかしようってヤツは居ないのかねぇ?」

「無駄、無駄……変に逆らっても、組合に潰されるのがオチだからな。女房や子供達も居るんだし、下手に動けん」

「どこで、誰が聞いてるかも解らんからな。全く……世知辛い世の中になったもんだ」


 目の前に居る2人組はどうやら農家らしく、話している内容は暗いものばかり。

 これ以上得るものがないと判断したのか、横をすり抜けて前方に出る靖之。


「なぁ……最近、コショウの値段がまた上がってねぇか?」

「……ああ、今年に入って2回目だからな。今回はさすがにウチも、値上げせざるを得なかったわ」

「お前の所も……でも、おかしくないか? 産地でトラブルがあったって話は聞かないし、運ぶ船関連も同じ。それにも関わらず、この値上げラッシュだろ? 正直、ウチはこのままじゃ1ヶ月も持たんぞ」

「解ってる……マウリヤ(産地)でトラブルが無い以上、原因は国内にあるはず。それに全国紙が黙ってるところをみると、都市部には影響が出ていない。と言う事は、残る可能性は1つだけ」


 先程のコンビとは違い、こちらは小奇麗な格好をして臭いもほぼなし。

 どうやら物価が上がっているようだが、話の内容は少々キナ臭い。


「……あっ、買占めか!」

「そうだ。そもそもマウリヤはウチの植民地のうえに、コショウと綿花は花形商品。管理も厳重にやってるだろうし、手出しはそうそう出来ない。当然希少性が高く、下手をしたら現金以上に価値がある代物だ。特に、ここみたいに塩が採れない、田舎で内陸部の街だと尚更な」

「えっ? それって……ここの役人が、1枚噛んでるってことか?」

「可能性の話だ。あってはならない事だけど、さすがに疑わざるを得ない。違うか?」


 会話の内容は法に引っ掛かりそうだが、時代と場所だからなのか。

 犯人の目星もついているからか、公然と自国政府の不満を口にする。


「あっ、ああ……そうだな。でも、だとしたら俺達はどうすればいい? 黙って、このまま耐えるしかないのか? 俺は、嫌だ!」

「しっ! 声が大きい……誰かに聞かれでもしたら、どうする? とにかく、ここで喚いても時間の無駄。都会の議員連中の力を借りる為にも、まずは仲間を増やすんだ。こっちの声が大きくなれば、新聞だって取り上げてくれる。もちろん地方紙なんかじゃなくて、全国紙が」

「……なるほど。隠れて、同志を募るんだな?」


 物騒極まりない内容なだけあり、慌てて片方が止めに入る。

 ただ、その解決策が成功する確率は限りなく低いだろう。


「そうだ。例えイバラの道だとしても、生活が懸かってるんだ。やるしかない」

「ああ、やってやるさ」


 こちらは商店主の2人組のようで、話の内容は深刻そのもの。

 ただ無関係の靖之としては、貴重な情報が得られて満足したようだ。そもそも首を突っ込んだ所で、何かを変えられるほどの影響力もない。

 決意を固める当事者を横目に、次のターゲットを探し始める。


「ねぇ、奥さん……最近、役人が殺される事件が数件あったらしいじゃない? 新聞を読んでも何も書いてないけど、本当かしら」

「……そうね。ここの新聞屋のことだから、正直何も期待してないけど……実際は、どうなんでしょうね?」

「私は、本当に事件があったんだと思うわ。旦那も忙しくて家に帰れないってボヤいてるし、間違いないはずよ」

「警察官の奥さんが言うなら、間違いないわね。全く……ただでさえここの役人は働かないのに、こんな物騒だと萎縮して余計にサボり出すんじゃないの?」

「はぁ……本当に、嫌になるわね」

「旦那が忙しいのは別にいいとして、治安が悪くなるのは勘弁して欲しいわ。早く捕まってくれればいいけど……」


 こちらのマダム3人組は、物騒な話をするだけ。

 靖之としてはこれも興味が無かったらしく、早々にスルー。出来るだけ多くの、人の話を聞きたいのだろう。

 さっさと、次のターゲットを探し始める。


「あーっ、今日も1日よく働いた……明日も早いし適当に屋台の飯でも腹に入れて、そのまま飲み屋にでも行こうぜ!」

「そうだな。雨でジャガイモも殆どダメになったし……いや、考えないようにしよう。さっさと食って飲んで、そのまま寝る。後がどうなろうと、知った事か!」


 今度は、あからさまな酔っ払い達である。

 普段なら見て見ぬふりを対象だが、今回だけはそんな事は言っていられない。


「そうそう……どうせ俺達みたいな農家は、誰も助けてくれないんだからな」

「……どいつもこいつも、自分の保身ばかり。嫌になるねぇ」

「はぁ……あっ、そうだ。この前、そこの裏路地で役人が殺されたらしいな」

「ああ、それなら俺も知ってる。銃で頭をぶち抜かれたのに、事件自体まだ発表されてないみたいだし……どうしたんだろうな?」


 話している事件は、先程のマダム達の件と同じなのだろうか。

 詳細は不明ながら、会話は構わず先に進む。


「さぁ? おおかた、同僚の嫁さんでも寝取って旦那に殺されたんだろ」

「はははっ! マジで、それかもよ? 役人って、何かそういう事しそうだし」

「だろ? 今月に入って、もう3~4人。別に役人がどうなろうと俺の知った事じゃないけど、そろそろ仕事ぐらいはしてもらわんと」

「全くだ……って、そろそろ辛気臭い話は止めようぜ?」


 勝手に推測して、勝手に盛り上がる野郎達。

 それでも、永遠と愚痴を垂れ流すつもりはないようだ。


「ごもっとも。さぁ、食って飲んで帰るぞ!」

「そうそう、現実なんてクソくらえ!」


 この2人組は相当溜まっているらしく、不満がダダ漏れの状態だった。

 彼らが臭いに釣られたように露店に向かうのに対し、靖之はそのまま直進。露店地帯を抜け、広場の端に置かれた石のベンチに腰掛けた。

 人混みはさすがに疲れたらしく、人気の無い場所で休憩するらしい。


 ふぅ……

 収穫はまずまずとはいえ、さすが町だな。昨日みたいな漁村も悪くないけど、やっぱり人が多いと得られる情報も段違いだ。

 この調子で頑張る……といいたいところだが、その前にまずは情報を整理しよう。

 最初の農家2人組。

 大雨の話は、自然相手だから仕方ないとは思う。それにしても、作ってるのがジャガイモな辺りがいかにもイギリスだな。

 半分近くがゴミになったんじゃ、もって来年か再来年か……

 次は、商人2人組だったか。

 こっちは、コショウの話がメイン。マウリヤというのは、俺達の世界でいうところのインド辺りだろう。

 あっちも、当時はコショウと綿花が輸出の主要産業だったはず。なんたって、イギリスが長年植民地支配してたからな。

 抗議活動は、まぁ……あれだ。

 切実なのは理解出来るとして、成功するかはまた別の話。俺1人でどうこうというレベルを、完全に超えている。

 悪いが、スルーするしかない。

 えーっと……次は、マダム3人組だったな?

 その後の、農家2人組もそう。

 役人ばかりを狙った殺人事件とは、また物騒な。おそらく反政府活動ではないとして、犯人の目的は何だ?

 都会ならまだしも、ここは田舎町に過ぎない。

 しかも、1件ならただの事件を疑うとして今回は数件。何かしらの、それこそ政治的な理由があると考えるべきだろう。

 でも、それなら表沙汰にならないのはおかしくないか?

 俺が犯人なら、ますは新聞にリークして住民の混乱を狙う。

 もしくは、自分の主張を誇示するけどな。

 いや……わざわざ、真面目に推理してる場合か?

 今俺がやるべき事は、この世界の情報収集。元の生活を取り戻す為に、奥田さんと協力する事だろ?

 多くの人間の話が聞ける、またとない機会。

 買い物に集中して、周囲が見えてない状況が勝手に作られてるからな。明日はまた別な場所だろうし、時間を有効活用しないと。

 まさに、タイム・イズ・マネーだ。


 途中で脱線し掛けたものの、どうにかリカバリーに成功する靖之。

 味を占めたのか、再び人混みに戻ろうとした時だった。


「あっ、あの……その、すみません。フィッシュ&チップス……買って下さい! お願いします!」


 意識外からの声掛けに、反射的に顔を向ける靖之。

 しかし相手を確認した瞬間、驚きを隠せなかった。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。

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