81、勇者の村
早朝モーモ村のあちこちからモーモ、モーモとモーモの声が響き渡る。
のどかだ~
モーモの声ウザと思ってたけど今は全く思わない!
良い声で鳴いてますね!
離れていると故郷の有り難みが分かる的な気がする。
馬車から降りて朝もやの中に立つ。伸びをした。
今日の朝もやは濃いな。3メートル先がボヤける。
うーーん! 深呼吸。
このモーモ臭さが堪らなく帰って来たのを実感させてくれる。
アレスも馬車から降りる。
私はアレスと手を繋いだ。
せっかく来たけどうちのおじいちゃんはいないのよね。残念。
「姫様、この村に"勇者の剣"はありますか?」
ロイドが質問してきたが……"勇者の剣"?
もしやあのショボい広場のショボそうな剣? あれは違うか?
夢で見た"勇者の剣"はかなりでかくてかっこ良かった。
別物だろう。
いや、夢だからあれは私の妄想? あのショボそうな剣こそが勇者の剣?
ちょっと悩んでいるとモーモを連れたおばさんが通りかかる。
もちろん顔見知りのおばさんだ(狭い村ですから)よくお手伝いをすると果物をくれた"サナおばさん"だった。
「あれ、リリアちゃん? 最近見かけないと思ったけどどこに行ってたの? バルさんもずっと留守だし、その人たちは?」
どうやら私が誘拐された事は知らないらしい。
あ、誘拐ではなく、王宮のお迎えですか?
バルさんとはおじいちゃんの事です。
「おはようサナおばさん。ちょっと用事があって……」
「失礼します。お尋ねしたい事があるのですが、この村に勇者の剣はありますか?」
ロイドが尋ねる。
「勇者の剣なら、勇者の広場のでしょ? リリアちゃんも知ってると思うけど、この"勇者の村"自慢のスポットよ!」
サナおばさんが嬉しそうに答えた。
外の人が来ると"勇者の村"だと自慢したがるモーモ村の住人は多い。それは他に何もない田舎だからだ。
恥ずかしい……
勝手に"勇者の村"とか名乗ってて……アレスに聞かれたら私が恥ずかしくなる。
ホンモノの前でニセモノが自慢しているみたいな……
「是非そこへご案内下さい」
お前知ってるのに何教えないん? と言うロイドの冷ややかな視線を感じつつ私達はモーモ村の勇者の広場へ移動した。
台座がボロボロでよく見ると斜めっているような勇者の像と剣が小さな広場に飾ってある。小さな頃から村にあり、私にとってはありがたくも何ともないただのオブジェだ。
台座部分を見る……私はフェルと行った王都の大広場の事を思い出した。
石畳の割れたカケラ……
これ……もしや本来はあっちの広場に飾ってあったモノでは!?
「この勇者の像と剣は昔バルさんが王都から運んで来たのよ」
サナおばさんが説明してくれた。
初耳だよ。
「勇者信仰禁止の為、取り壊される寸前に台座ごと運んだらしいですね。バルク様が……」
ロイドが補足情報をぶっこんできた。
うわ~おじいちゃん……前から思ってたけど、やることがワイルドだ。
と言うことはショボいと思っていたこの剣もホンモノですか?
「フフ、勇者アレス様はこの村出身だから、せめてこの村だけは勇者を忘れないようにってね。バルさんは王都で騎士をしていた時にアレス様に剣を教えた事が自慢だったのよ。尤も元からアレス様は村を守るために魔物と戦ったりしていたから、王都に行く前から充分強かったの。本当にかっこ良かったわよ。彼は人を寄せ付けないところがあったから村にいた時もあまり話せなかったけど彼が王都に行ってしまった時はショックだったわ。彼は年下だったけれど私にとって憧れだったのよ」
全部初耳だよ? この村出身? だから"勇者の村"だってみんなが自慢してたの?
サナおばさんが懐かしそうに話してくれた。
サナおばさんてこんなに話す人だったっけ?
勇者自慢のネタにうんざりしてたから、私が聞かなかっただけかもしれない。
すみません。
「サナおばさんて本物の勇者に会った事あるんだね?」
「何言ってるの? リリアちゃん。モーモ村の全員が勇者様の知り合いよ。バルさんから聞いてなかった?」
同じ村の中でも私だけ情報格差があったようで知らない事が多い。
酷いよ、おじいちゃん。もっと色々教えといてくれればいいのに!!




