32、お姫様抱っこ
フェルが旅立ってしまった。
フェルがいないと私の世界は閉ざされてつまらないものになる。
「アレス~フェル早く帰って来るといいね~」
壁際に立つアレスに話しかける。
最近アレスに話かけるのが多くなった気がする。
ううっ寂しい。
まだフェルが行って1日なのに寂しい…
フェルはアレスに会うたびに抱きついていたな…。
「………。アレス。寂しいからだっこして」
わーーーーーーーっ! ついに変なこと言ってしまった。
するとアレスはそっと私を抱き上げた。
こ、これは! "お姫様だっこ"だ!
その瞬間私は、アレスの姿を思い浮かべる。
あの黒髪のイケメン勇者。
「今は私だけの勇者だね~アレス」
と言ってスリスリしてみた。
すると……
「えーーーーーーー!?!!」
いきなり後ろから声がする。
振り返るとキャロルが立っていた。
「姫様って屍兵に名前つけてるのー!!?」
ヤバいところを見られた。
それにしても失礼だな。アレスは屍兵じゃないのよ。ちゃんと屍戦士の格好してるでしょ!? 戦士よ。戦士!!
「姫様~。ひとりで王子さまごっこですか~」
ニヤニヤしながらキャロルが寄ってきた。
あんたノックは!? どこに勝手に入り込んでたんだよ。
「姫様もお年頃って事ですね~うふふ」
うふふじゃねえよ! 確かに私は屍戦士に話しかけて抱っこまでしてもらったイタイ子かもしれないが、お前はあのロイドがカッコいいとか言ってる、おめでたい奴じゃん!
「キャロル……どうして私の部屋にいるの?」
「やだ姫様、怒っちゃいました? 私は掃除に来てたんですよ。お風呂の部屋から順番に! ちゃんとお仕事してるんで継続して雇って貰えるように姫様からもお願いしますね~」
お掃除道具を見せながらアピールされた。
私に言われてもね~。私に決定権なんて無いもん。
それにしてもロイドが私の為にキャロルを雇ったってフェルが言ってたけど……
無いな……
なんかこの子苦手だし……。
あ! まずいアレスって呼んでたの聞かれちゃってるんだ。ロイドにばれたら屍戦士の中身が入れ替わっているのバレちゃうんじゃ……
ん? バレるとまずい? もう死んでるから屍戦士の材料が誰でも関係ないような……??
いやダメだろ。やっぱりアレスは特別だもん。
「キャロル~今見たこと黙っててね。その代わりキャロルの継続雇用、私もお願いしてみるから……」
また、したたかになった私。どうせ私がお願いしても通らないし……でも言うだけならただ。
「本当ですか~!? 嬉しいです。私ロイド様に認められるように頑張ります」
キャロル聞いてた? 私のお願い聞いてた?




