251、何も言えない
アレスがここまで行きたくないなら行かなくていいじゃない、と言いたい。
でもきっとそれは彼には出来ないだろう。
せっかくのお出かけは行きと違って帰りは無言でウキウキ気分はしぼんでしまった。
フェンリルさんに乗ってあっという間に王都に戻って来てしまった。
後宮に戻りメイドさんたちにどこに行ってきたと色々詮索されたが私達のぎこちない様子を見てデートは失敗だった? と察して皆、詮索をやめてくれた。
マルタにお弁当ありがとうとバスケットを返した。
沢山用意してくれたので食べきれなかった分はフェンリルさんがペロリと食べてくれ、おかわりを要求したくらいの完食だ。
いっぱい用意してくれた事を感謝しなければ、
すっかり疲れてしまったので夜は早めに休むことにした。
帰りのフェンリルさんの背中でも考えていた事だがアレスが過去でヴァリアルを倒した場合、私はどうなるのか? 一応ヴァリアルの子供だよね。
ヴァリアルが生きていたとしても私ってこの世界に生まれるのかな?
アレスが戻るのは32年位前?
私が生まれたのが12年前?
32年前って私いないのか……
柚子も産まれて無い!?
じゃあ私ってどこに行くんだろう……?
もう一度柚子に生まれる?
和くんは?
和くんは生まれてくるの?
もしかして和くんのいない世界に私は生まれるんじゃ……!?
私は心臓が苦しくなった!!
昼間のアレスの言葉を思い出す。
私がいなくなったら探す、と……それって探せるの?
違う異世界に産まれてしまったら?
私が和くんを追ってこの世界に産まれたのなんて奇跡としか言いようがない!!
またそんな奇跡っておきる?
そもそも生まれ変われる?
この、今のリリアでおしまいってこと無いよね?
話を聞いた直後はアレスの不安が私にはよくわかってなかった。
これはとても大変な事だ。
思っていた以上に大変な事なんだ!
どうして私は気がつくのが遅いんだ!!
この世界をやり直しにしたら私達は本当にお別れになってしまうかもしれない!
寝ている場合では無い!!
私は飛び起きた。
アレスがあんなに言ってくれてたのにまるで分かってなかった!!
私も大好きで離れたくないことをちゃんと伝えなくてはだ!
何も言わない私の事を凄く冷たい子だと思ったかもしれない。
今すぐに彼に会って伝えないと!
急いでフェルの地下室に走った。
地下室に着くとそこにはフェルとぷるるんとチビリルがいた。
あれ? アレスは?
「アレスなら街にワインを買いに行ったよ」
フェルが教えてくれた。
ワイン? ワインなんて買うの? 未成年ちゃうん? 17だよ。
あ、この世界の成人は15歳だからいいのね?
「魔導コアの完成祝いにボクの為に買いに行ってくれたの」
フェルが嬉しそうに微笑む。
やつれているフェルだけど今の言い方はちょっと乙女っぽかった。
"ボクの為に"を強調されたように聞こえた。
もしフェルが女性だったら少し嫌な感じに聞こえたかも知れない……
「か……完成したんだ……」
私は複雑な気持ちを押さえられそうにない。
完成してしまったらアレスが過去に旅立ってしまう……?
私はフェルに何とか今の世界のままで暮らしていけないかを説得してみようと考えた。
「どうしたの? リリアも座って」
そう言って椅子を引いてくれたフェルの腕が細すぎて思わず泣きそうになった。
フェルの30年以上の苦しみを考えたら……
そして最近ずっとコアに魔力を込めて頑張っていたフェルに対して何も言えなくなってしまった。
フェルのデザイン変更の為一度挿絵を下げます(^人^)




