235、痛々しい姿
薄暗い廊下を通ってロイドの部屋の前まで来た。
前はお化けが怖いと思いながら来たが今日はそれどころでは無かった。
コンコン
ノックをしてみた。
……。
あれ?治療してもう寝ちゃったのかな?
「…どうぞ、開いてますよ。」
中から小さく声が聞こえた。
私はそっとドアを開けた。
中にはベッドで眠るマルタと床に座り込んでいるロイドがいた。
え?大丈夫なの?
私は急いでロイドに駆け寄る。
右目と頭部に包帯ぐるぐる巻き状態だ。
「やっとエリザ達がひきあげてくれたと思ったら…今度はあなたですか…。少し眠らせてくれればいいのに…」
床にうずくまりロイドが小声で言った。
「だ、大丈夫…?」
「大丈夫じゃないです。物凄く痛いです。もう顔が痛いのか目が痛いのか頭が痛いのかわからないです。」
珍しくロイドが痛いと言った。
痛覚はちゃんとあったらしい…。
「フェルから聞いたよ。何でこんなバカな事をしたの?」
「バカなこと…?違いますよ。魔王を倒して世界平和です。」
世界平和ですって胡散臭い…。
「ロイドはそう言う人じゃない気がする。」
「ははは…酷いですね。……でもその通りです。」
ロイドが顔をあげてこっちを向いた。
「アレスがね。マルタを治してくれるって言うので交換条件ですよ。」
マルタを治す?
交換条件!?
「はは…嘘です。あなたのアレスは交換条件なんて出してません。でもマルタを治してもらえるならこのくらいたいした事では無いです。
その上おそらく片眼になったことで以前のように戦えないでしょうから前線に出なくて済むと言うおまけ付きです。私はもう誰かを殺すのは嫌だったのでちょうど良いでしょう。」
またロイドが顔を伏せてしまった。
顔が少しむくんでいた気がする。
「あの…これフェルから…ハイポーション、最後の一本みたい、飲んだら痛み引くよね?」
ロイドにハイポーションをわたそうとするが顔を伏せたままだ。
「最後の一本なら飲めないですね。とっておきましょう。」
ええ?飲んだ方がいいよ!
「昔はハイポーションなんて山ほどあったんですよ。低価格で売り買いされて…でもこれが最後の一本ですか…」
「え?探せば街にもあるんじゃ…」
「探してないのでわかりませんが…もうポーションを作る者もいないし、材料を採ってくる者や薬草を育てたりする者もいないのです。屍兵にされてしまったんじゃないでしょうか…」
「え?」
ハイポーションを落としそうになった。
「…もう人間の国としてはエターナルは詰んでます。今回の魔王は目覚める前から最強ですよ。準備が良い。」
「ロイドの眼を使ったら魔王の核が見えるの?」
「そう言うことです。だからアレスを責めるのは気の毒ですよ。」
それでも他に方法は無かったのかと思ってしまう。
「ロイドがアレスと一緒に行けば良かったのに…」
「言われましたよ、勇者自ら俺のパーティに入ってくれって…」
勇者のパーティ!!いいね!それで一緒に行けばいいのに
「ロイドならきっとアレスの良い相棒になれるよ。」
「それはどうでしょう…」
「ねえ、今からでもいいよ。アレスに協力してあげて眼を返して貰って治せないかな?」
「姫様は何でも簡単に言いますね。私はアレスと一緒には行けません。」
「マルタがいるから…?」
「そうです。私の中で最優先事項ですよ。アレスには私の右眼を役立てて貰いましょう。」
「でもそれじゃキレイな顔が台無しだよ。」
ロイドが驚いた顔をした。
「姫様からそんな言葉が出るとは……私が、綺麗ですか?」
しまった勢いで言ってしまった。
「綺麗でしょ?…だからもったいないです。」
「フフフ……姫様から言われるのは悪い気はしませんね。……でもその言葉は幼い頃からよく言われた言葉です」
自慢か!?
「でも男は綺麗と言われて別に嬉しくないですよ。」
それは綺麗に慣れている人だからでは…?
「とにかくロイドには綺麗なままでいてほしいから眼を治して!」
なんてムチャを言うんだ私は!
でもロイドが痛々しい姿なのは嫌だ!見てられない!!
その時寝ていた筈のマルタが起き上がった。
「あ、マルタ起きた?」
「………」
マルタの様子がおかしかった。
眼の焦点が合ってないような。
変な感じだ。
マルタがベッドから降りてフラフラと外扉へ向かう。
「どうしたの、マルタ?」
私が声をかけても反応が無い。
「………探さないと…」
マルタが何か呟いた。
え?なんて言った?
「ロイドが帰って来ないの。探しに行かないと…」
そう言って外扉を開けた。




