219、アレス復活
あーーーー寝ちゃったよーーーーー!
地下室行けなかったじゃん!
アレスはいない……地下室か……
まだマルタやサクラコが部屋に来るには早い。
ちょっとフェルの地下室に行ってこよう。
抜け穴を通り地下室へ……
すると様子が違っていた。
バトルステージの時と違う床で一階分高さが低くなっていた。
薄暗い地下室で気がつかずに落ちたら怪我をしそうだ。
その深い位置に魔方陣があり中央にアレスが立っていた。
鎧は着ていない。包帯男だ。
魔方陣の外にフェルとロイドが立っている。
今から調度何かが始まるところ?
すごいタイミングで来ちゃったのかな?
前にアレスに私のタイミングは凄いと言われたがこういうこと?
私って持ってるヤツ?
凄いね。
アレスは動かない。
アレスの両手は目の前にある剣の上に置かれていた。
緩やかな光と共に剣の形が変化していく。
あの剣て勇者の剣だ!!
アレスが背負っていた【勇者の剣エルシオン】
剣の形は透き通る大剣エルシオンの形から歯車がいくつもついた変な形の剣へ変わっていく。
なんだあれ?
この前アレスが街で暴れていた時の黒と赤の禍々しい剣とも違う。
機械仕掛けみたいな歯車の剣だ。黒と茶と銀色の歯車の大剣。
歯車が回転し始めた。
剣の形が更に変わり機械っぽい印象の剣でようやく落ち着いたようだった。
美しさで言ったらさっきのままの透明な光の剣の方が綺麗。
きっとエルシオンてさっきの形がスタンダードで、変形しちゃったりする剣なんだね。さすが『神の贈り物』とかって言われてる剣だ。
もちょっと近くで見られるかな?
ロイド達のいる辺り迄降りられないかな?
ちょっとキョロキョロしていると大きな光で目が眩んだ。
え? 何があった?
「あああああああああああーーーー!!」
誰かの叫びーーーーー?
目が眩らんで見えない!
アレス!?
アレスの声?
何かあった!?
暫く真っ白い光で何も見えない状態だ。
目をつぶっていても光を感じる!!
光の収束と共にだんだん周りが見えてきた。
アレスが剣にもたれてしゃがみこんでいた。
え? どうしたの?
座り込むアレスの背中から血が滲んだかと思うと血飛沫が周りに飛び散った。血が吹き出し床に溢れる。
巻いてあった包帯は真っ赤に染まって滴るようだ。
アレスが……!! 何で?
死んじゃう?
私は目の前が真っ暗になった。
アレスがいなくなってしまったら……やっと再会出来た彼にまた会えなくなるのは……! 彼を失う恐怖が全身を襲う。そんな世界は考えられない!!
ぐらりとした。倒れそうになった。
いきなり腕が掴まれハッとした。
「段差があるので危ないですよ」
ーーーーーロイドだった。
私はもう気分が悪くて悪くて立ってられない。
足もガクガクだ。
私の世界からアレスを取らないで!! お願い神様!
心の中で何度も繰り返し、いるかも分からない神様にお願いをした。
「落ち着いて、姫様。アレスは今【時間停止魔法】を解除したのです。アレスは死んでません!! 一時的に魂は身体を抜けていましたが、魂も体も繋がってます。本来なら致命傷の傷ですがエルシオンは持ち主のアレスの命を奪うまでは至らなかった。エルシオンの本来の能力ならアレスの傷はあんなものじゃない。背中の傷は今から本人が塞ぎます。失敗しても師匠が回復させます。何も問題ないです」
ロイドの落ち着いた口調で少しだけ落ち着けた。
でも!あれが、あの血が溢れているのが前に夢で見たヴァリアルに刺された傷なんだ!震えが止まらない。
アレスをあんな目に合わせるなんて許せない!!
「アレスがアレスが苦しんでる。痛がってる。」
涙ぼろぼろ出てきた。声もうわずってしまう。
あんな状態で生きてられるものなの?
「姫様、アレスの持っている剣はエルシオンの第三形態クロノスだそうですよ。アレスの意思であの形を保っている限りアレスは大丈夫ですよ」
「あ、昨日言ってたんだ……時間遡行って……? そう言えば自分の身体で試すとか言ってた」
「そうですよ。今はアレスの身体を怪我をする前の状態に戻すだけです。凄いですね。あ、成功したようですよ」
え?
アレスの背中の溢れる血が巻き戻るかのように戻っていく。見る間に身体に吸収されて戻った!?
アレスが立ち上がる。
汗がひどい。
「はあーーーー死ぬかと思った……」
アレスが額を拭いながら呟く。
「おめでとうアレス、成功だ。やっと本当に戻れたね。MP残量は?」
フェルが嬉しそうに言った。
「半分きってる。今後の課題はMP消費を押さえることだな」
フェルが何か手渡した。
アレスが受け取り飲んでいた。
MP回復ポーションだろうか?
こっちを見て「あ!」と言った。
「リリアいつからそこに……?」
アレスが少しだけ焦った表情だ。
「ちゃんと最初からいましたよ」
ロイドが微笑みながら答えた。
私を抱えてアレスの所に行った。
「全く、姫様は泣き虫だ。こんなに震えて泣いてるのを、こんな包帯で半裸で汗だくの男に渡さなければなんて……腹が立ちますが、私では泣き止みそうもないので特別ですよ」
そう言ってロイドは私をアレスに渡した。
「ひどい言われようだ」
アレスは笑って私を受けとる。
そして私をぎゅっと抱き締めた。
「泣かないでリリア、カッコ悪いところを見せちゃったね」
「アレス、大丈夫なの? 痛くない?」
「もう痛くないよ。久しぶりの痛みだったからヤバかったけど、出来ればリリアに見られたくなかったな……」
「何で?」
「痛がったり、苦しんでる所は好きな子に見せたくないよ。出来ればかっこいいとこだけ見せたいしね。はははっ」
アレスが笑った。
本当にもう大丈夫そうだ。
笑顔を見て安心した。
アレスにぎゅっとしがみつく。
!!
今まで聞こえなかったアレスの鼓動が聞こえた。
ちゃんと心臓が動いている。
ちゃんと生きている!!
止まった涙がまた溢れてきた。
離れて見ていたロイドが
「女の子は寂しいですね……育つと取られてしまう。娘は寂しいから息子が良いですね……」
と呟き、それを聞いたフェルが、はははっと笑っていた。




