124、バカップルめんどくせえよ
バタバタと走る音がした。
「ロイドさまーーー! お久しぶりですーーー今日もかっこいいですぅ! 今日は髪をおろされてますね~スッゴい、スッゴい、いい感じですぅ。一緒にお祭り行きたいですー!」
この喋りは……キャロルだ!
懐かしのキャロル。なぜこんなところに?
「あれーーー? もしかして姫様ですか~? お忍びですね。私です。キャロルです。今ここで下宿してるんですよぉ」
「うん。久しぶりだね。元気そうで良かったよ」
ここで下宿してるんかい。
キャロルがアレスを見た。
「うわーこちらのお兄さんもかっこ良さそうですね~! ドキドキですぅ。お顔見せて下さい!!」
「ダメです」
キャロルが調子づく前にはっきり断る!
アレスに仮面をつけておいて良かった。
キャロルには絶対に見せたくない。
「あ、ロイド様、今日の"かがり火"で一緒に踊って下さい!」
急に話題を変えてきた。
相変わらず立ち直りも早いし、切り替えも早い。これがキャロルの強さ!
「かがり火? 踊る? なあにそれ?」
「やだぁ姫様知らないんですか? お祭りの"かがり火広場"でカップルで踊ってキスをすると結ばれるってジンクスがあるんです。立派なカップルイベントですよ。好きな人がいたら皆行っちゃいますからね!」
なんかやたら偉そうに教えてくれた。
そういうイベントってありがちだね。
「なのでロイド様! 私と踊って下さい!!」
キャロルが"お願いします!"と言うポーズで右手を差し出した。
するとロイドが無言で下を向いていたキャロルの顎をグイっと持ち上げた。
え? 一瞬ドキッとした。それは顎クイだよ!! マルタの前で何するの?
キャロルが真っ赤になった。
「うきゃ!」
マルタから変な叫びが聞こえた。うきゃ?
「さあ、行きますよ」
ロイドが向き直る。
は? マルタも私もキョトンとなる。
キャロルは真っ赤になったまま固まっていた。
もう全く動かない。
「キャロルに何かしたの?」
「うるさいから、私達に会ったことを忘れてもらいました。
しばらくしたら動き出すでしょう、その前に行きますよ」
あ、ロイドさまの眼の力を使ったんですか。
その為の顎クイとは……
まあキャロルは一瞬でもスゴイ幸せだったでしょうが、その幸せな記憶は無くなってしまうのね。気の毒に。
でもこれで静かになった。良かった。
ロイドが廊下を歩き出す。
「ふ……うっ……ううっ」
マルタから変な声が……!! 泣いてる!? 泣いているの?
何故かマルタの目から大粒の涙が?
行こうとしたロイドがギョっとして戻ってくる。
「どうした?」
「だって、だってロイドが私以外の娘に、キスするかとビックリしちゃって……涙が……」
マルタがぼろぼろ泣きながら言った。
他の子への顎クイが相当堪えたようだ。
「何でキャロルにそんなことを……する筈もない」
ロイドがあきれたっぽく言う。
「う……だって、だってロイド……モテるから……」
マルタがふるふるしながら言った。
まあ、眼を見せる為の行動でやられた本人も記憶がなくなるのであれば、ああ言った行動になるかもしれないが、マルタにはかなり不愉快だったらしい。
ロイドは少し困った顔をした。
……がすぐにマルタを抱き抱えて、顔を近付けてこう言った。
「昔から君は僕がモテると言うけど僕がモテたいのは君にだけだよ」
マルタがみるみる赤くなる。
また、バカップルがイチャつきだしたか。
アレス、あれ真似して私にやってほしい。やって!




