110、マルタの家出
サクラコが部屋を出たあと、早速私はマルタに会いに行く準備の為着ぐるみウサギをぬいぐるみから元の大きさに戻そうとしたが、その時ノックの音がした。
危なっ! 着ぐるみを見られるところだ。
私はぬいぐるみとして着ぐるみウサギを抱っこした。
「誰?」
「マルタです、リリア様」
「マルタ? どうしたの、大丈夫なの?」
部屋に入ってきたマルタはいつものメイド服ではなく、水色のワンピースの私服だった。髪型もいつものピシッとした髪型ではなく、軽くひとつに縛っている。後れ毛も垂れていてかわいらしい。これはロイドもデレるね。
「こんな格好ですみません」
「いいよ。その格好すっごく可愛い、身体は大丈夫なの?」
「ロイドが勝手に私を病気にして休ませたんです。"話し合いをしよう"とか言って、だから身体は本当に何でもないんですよ」
マルタがふくれ気味に言う。
話し合い?
何か大事な話があるのでは?
「私、ちょっと家出中です」
「家出? いつから?」
「今からです! リリア様にだけ言っておきます」
いったいどこへ?
「何があったの? 話し合いってしたの?」
マルタの瞳がうるうるしてきた。
「昨日から私達ろくに話してなくて……さっきロイドが呼ばれた隙に部屋を抜けてきたんです」
「何で? 昨日話していた事と関係あるの?」
「昨日……気まずくてロイドと話が出来なくて、夜ゆっくり話そうと思ってたんです。でも先に寝ているように言って部屋を出ていってしまった上に2時間も帰って来なかったんです」
ん? きのう、夜……?
「そりゃたまに夜仕事でちょっといなくなる事はありますけど、そう言うときは必ず私に言ってから行きます。昨日は帰って来てからも、どこに行っていたのか言わないで話を逸らすんです!」
こ、これは昨日アレスと戦ってたあれですよね……?
「その上、ちょっと疲れてるっぽくて水浴びしたあと、私になにもしないで寝ちゃったんです」
私になにもしないで……?
う……ん、アレスと戦ったから疲れたよね? 私が見に行く前からだから結構戦ってたのかな?
「こんなこと初めてなんです! これはきっと……浮気!!」
マルタがボソッと呟いた。
「ち、違うと思うよ……」
時間がないってすぐ帰ってたし……
「リリア様は優しいから、そういいますけど……間違いないです」
マルタが変な自信を持っている。
間違いなく違うと思うよ。
これは……どうしたものか……
マルタが一番大事だと言っているロイドが、マルタ本人からとんでもない誤解を受けている。
「なので、家出です。ではリリア様、失礼します」
マルタが立ち上がり部屋を出ようとする。
「ちょっと待って、家出って何処に行くの?」
「本当は王都を出たいですけど無理なので、三階に……」
三階!? この建物の!?
なんて身近でお手軽な家出!
近場で良かったよ。
「私もついていくよ」
三階は行ったことないし……ちょっと探検気分。
ついでに四階も見てこよう。




