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護衛授業 前編

 六年生になると普段の授業に護衛という授業が追加された。

 内容は護衛対象を守る護衛チームと襲う襲撃チーム二つのチームに分かれて訓練を行う。

 チームメンバーは都市外授業を行うチームだ。今年は運よくフェアチャイルドさん、カイル君、ラット君といういつも依頼で一緒のメンバーが揃った。

 そして、護衛の初回の授業の時間がやってきた。今日この授業に僕の魔獣達は参加できないけれど、後日協力して欲しいと先生からお願いされている。


「護衛って守ればいいんだよね? どう守ればいいのかな」


 作戦会議の時間、ラット君が最初に口を開いた。


「ええっと、今回の護衛対象は人だよね。とりあえず囲む?」

「それしかないんじゃないか?」

「警戒はナギさんが魔力感知(マナパーセプション)で主に行い、他の三人は目で補助するのがいいんじゃないでしょうか」

「ナギいけるか?」

「うん。最近は『拡散』の感知力が上がったから少ない消費魔力(マナ)で遠くまで警戒できるよ」

「相変わらずナギさんって規格外だよね」

「毎日ちゃんと練習してれば誰でもできるって」

「出来ないからすごいんだと思いますけど」

「いやいや、ラット君だって毎日鑑定の力を磨いてるでしょ?」

「え? さ、さすがに毎日ではないよ」

「そうなの?」

「同じ物を鑑定するわけにはいかないし、それなりに難しい物じゃないと簡単すぎて手応えを感じないんだよ。だからなるべく難しい物がいいんだけど、高かったり手に入りにくかったりしてさ」

「ああ、わかるわかる。僕も最近魔力が……」

「お前ら話がずれてるぞ。どう守るかについてだろ」

「ごめんごめん。それじゃあ並びはどうしようか」

「前は俺、左右にラットとレナス。後ろに魔力感知(マナパーセプション)出来るナギでいいんじゃないか?」

「それしかないんじゃないかな? 僕とレナスさんは盾持ってた方がいいよね」

「そうだね。護衛なんだからすぐに倒れない方がいいだろうし……全員持ってた方がいいでしょ」

「さすがに弓は撃って来ません……よね」

「いや、見ろ。先生が先っぽに布の塊がついてる矢を準備してる。魔法は魔法石から発動させるもののみ許可されてるんだっけ」

「そうだよ。これだね」


 事前に支給された魔法石をカイル君に見せる。込められているのは殺傷能力の無い『ウォーターボール』という水の魔法だ。これに当たった者は戦闘不能になったとみなされ戦線離脱となる。

 一応精霊術士であるフェアチャイルドさんにも持たされている。

 精霊さんに怒られないかと聞くと、どうやら魔力道具(マナアイテム)は許容範囲内らしい。


「この大きさなら僕の魔力(マナ)である程度邪魔できると思うけど、弓は無理だよ。相手に弓使いはいないけど」

「なんで邪魔できるほど魔力(マナ)あるんだよお前は!」

「日頃の鍛錬の賜物です」

「ナギさんだから当然です」

「なんでレナスが偉そうに言うんだ。まぁいい。こんな所か?」

「かな?」


 後はとりあえず実際に戦ってみれば分かるだろうという事で作戦会議は終わった。

 今日の護衛対象は先生。襲撃チームは僕達と同じ四人チームだ。最初なので人数の差が無いように先生が組んでくれたらしい。

 状況は僕達が先生の依頼を受けて校庭を横切る間に襲撃をしてくるという物。隠れる場所は目標地点近くにあるにある木々位だ。相手のチームは別の遠くの所からスタートするんだけれど、障害物がないから丸見えだ。

 相手が襲撃してくるのは校庭を横切っている途中と決められている為準備を終わらせてから歩き出す。

 半分ほど横切った所で相手のチームと僕達が向かい合った。けどそれだけじゃ僕達護衛側は動いてはいけない。相手が明確な敵対行動を取ってからじゃないと剣を抜く事も禁止されている。

 これは多分実際に護衛する時に怪しいからと言って見境なく攻撃してはいけないという事を教えたいんだと思う。本当にそんな事をする人がいるかは疑問だが。

 襲撃チームはある程度近づいてきた所でそれぞれ武器を手にした。剣、槍、魔法石が二つだ。

 僕は急いで腰に下げた木剣を抜きつつカイル君の横に並ぶ。


「『ウォーターボール』!」


 相手の二人の魔法使いが同時に魔法を放つ。ウォーターボールは頭一つ分の大きさの球だ。僕とカイル君はその水球を木剣で切り落とす。


「『ウォーターボール』!」

「『ウォーターボール』!」


 ラット君とフェアチャイルドさんが魔法を放つ声が聞こえると、僕とカイル君の横を水球が通り過ぎた。

 どうやら相手は水球を囮に前衛二人が距離を詰めるつもりだったのだろう。避けられて当たりはしなかったものの、接近を防げたようだ。


「先生は後ろに下がって!」


 ラット君が叫ぶと先生は言われた通りに後ろの方へ下がる。

 すぐに相手の魔法の第二射がやってくる。

 無詠唱で魔法を発動させ相手の水球に僕の水球を当てて威力を殺す。完全に相殺できたわけじゃないけれど残りは僕の魔力(マナ)で完全に防げる。

 相手の前衛二人は二手に分かれて回り込むようだ。


「カイル君、左の剣を持ったブレット君をお願い。僕がスピリア君を受け持つよ」

「わかった」



 僕が槍使いのスピリア君を選んだのは単純に僕も魔法を使えるから間合い的には有利だと思ったからだ。カイル君もそこら辺を分かっているのか淀みなく僕のお願いを実行させた。


「ナギっ、無詠唱で魔法石を使うな。魔法石を使っているのか区別がつきにくい!」

「あっはい!」


 先生に怒られてしまった。気を付けないと。

 気を取り直して周りを見る。魔法使い二人も二手に分かれて動き出している。相手は護衛対象に攻撃を与えればいいだけだから固まって動くよりも個別に動いてこちらをかく乱させるのを選んだんだ。


「ラット、レナス。向こうの魔法を防いでくれ。その間に俺とナギが前に出てるのを倒す」

「わかった」

「了解しました」


 難しい。同数だと一人が欠けただけで守るのが辛くなる。これが相手が五人だったら一人で二人を相手にしないといけなくなるのか。

 障害物もないこんな場所だと守るのも一苦労だ。

 考えるのは後だ。スピリア君と相対した僕は剣を構えつつ魔法を今度はちゃんと発音して放つ。


「『ウォーターボール』!」


 近距離での水球は避け辛い。僕の予想通り先ほどの僕やカイル君のように水球を槍で切り落とした。

 けれど二発目、三発目はどうだろう? 僕は連続で水球をスピリア君に放つ。

 スピリア君は水球を槍で捌きつつ偶に避ける。


「これなら後五百発以上は出せるなー」


 わざと大きめの声で言ってみる。諦めるかそれとも……。


「はあ!? 無理無理無理!」


 諦めたみたいだ。驚きの所為か諦めの所為か動きが鈍くなったスピリア君に水球が次々と襲い掛かる。なす術もなく身体を濡らすスピリア君はこれで脱落だ。

 前から薄々気づいてはいたけれど僕はどうやら同世代の中では抜きん出て魔力マナの量が多いようだ。毎日欠かさず寝る前に魔力マナを空っぽにしているだけなんだけれど、普通の子はこの毎日欠かさずというのが面倒だったり忘れてたりで中々出来ないらしい。

 そもそも本気で魔法使いを目指しているという子が僕の周りにはいない。

 授業で魔法を習っている子も魔法への好奇心や身体を動かすのが苦手な子が選択している子ばかりだ。

 ラット君とかは後者の典型だろう。

 寝る前に空っぽにしている僕だって周りから浮くくらいの魔力(マナ)を持っているんだ。本気で魔法使いを目指している子は一日中不便を承知で魔力(マナ)を空っぽにするくらいの事はしているかもしれない……。

 ふと、天啓が下りてきた。授業とは全く関係のない物だけど、僕のこれからにかかわる重要なひらめき。


「……なんてこった」


 どうして今まで気づかなかったんだ。普段は魔力(マナ)をマナポーションに変えて空にして、必要な時にその変えたマナポーションを飲めばいいんじゃないか? 幸い僕はブリザベーションを使えるからマナポーションを腐らせる事はない。

 回復して必要な分を使って余っていたらマナポーションに変えればいいんだ。どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだ。この方法があれば皆楽に魔力(マナ)を増やす事が出来るぞ!

 もっとも皆が皆マナポーションを作れるわけじゃないんだね。ある程度魔力操作(マナコントロール)が出来ないと作れない。でもその魔力操作(マナコントロール)を上達させるためには魔力(マナ)がないといけない訳で。


「ナギ! そっち終わったんなら魔法使ってるやつら相手してくれ!」


 おっと不味い不味い。こんな時に考える事じゃなかった。

 カイル君に言われたとおりにフェアチャイルドさんとラット君に加勢する。

 僕が加勢した事によって魔法を使っている二人はあっという間に脱落した。戦いはやっぱ数だな。

 カイル君の方を見るとブレット君を制していた。一対一ならカイル君が負ける事はないか。


「ナギさんってやっぱすごいよね」

「当然です」

「なんかあったのか?」

「多分僕の魔法の連続発動の事じゃないかな?」

「それってすごいのか?」

「すごいかは分からないけど、魔力(マナ)を淀みなく素早く注ぎ込まないといけないから慣れてないと難しいと思うよ。多分同じ学年で僕以外に出来るのは二人位かな」


 その二人も魔力(マナ)の量が僕よりも少ないから僕ほど大量に出せるわけじゃないと思うけれど。


「おまえらー護衛対象の事忘れるなー」

「やべっ、皆、さっきの隊形に戻るぞ!」


 護衛対象の先生の周りに戦闘前と同じように集まり目標地点まで行った。

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