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沈まない太陽

 さてやってまいりました本年の初都市外授業。五年生初の都市外授業の内容は都市から東西南北にある村を通り二つ目の村にたどり着く事だ。

 どの方向の村に行っても二つ目の村には調子が良ければ二日で往復することができる。

 今年のチームメイトは五人。僕とカイル君の紹介は省くとして、残りの三人を紹介しよう。

 茶色の髪のバルドラ=ファイル君。元気のある子でちょっと乱暴な所はあるけど友達想いな子だ。

 藍色の髪をしたレンティス=ライチ君。気弱な性格をしている男の子でどこか昔の僕を思い出させる。

 僕と同じ黒髪をしたエモット=ピエトル君。口数が少ないけれど表情がころころと変わる為何を言いたいのかわかりやすい子だ。

 三人とも昔からお昼休みの時間に一緒に遊んでいる子達で仲がいいと僕は思っている。……友達だよね?

 今年は男の子ばかりだから幾分か気が楽になる……訳もない。

 実は最近僕の胸が少し膨らんできた。これはいかんですよ。年頃の男の子の中に女の子が一人。それをこんなモノ()で意識させたら僕達の友情にひびが入ってしまう。いつかはある程度距離を取らないといけないんだろうけど、今はまだもう少しだけ友達でいたい。

 なので僕はなるべく肌が出ない服装を心がける。そして、胸だけは成長を防ぎたいので胸の部分に布をきつく巻きつける。これで完璧だ。


 僕達が今回向かうのは西の村、トニア村の北にあるヨーレ村だ。都市から草原を突っ切って行けば一日でつける位置だけど、緊急時以外草原を通る人は滅多にいない。

 草原は動物達のなわばりで、その動物達は非常用の食料なので人間は草原を荒らしてはいけない事になっている。

 さらに都市から離れるにしたがって凶暴な動物が住んでいる為、草原に入ってはいけないと幼い頃から教えられている。

 先生もついてくるから素直に道を歩いていく事しかできないだろう。

 今年の僕はいつもの装備に加えて料理鍋を背負っている。今年の僕は料理係だ。去年ベルナデットさんに料理を手伝う傍ら教えてもらっていたから何とかなるといいな。

 去年と違う点と言えば今年は時計がないため去年のような一時間歩いて十分間休むという事は出来ない。報奨金の残りで懐中時計を買おうかとも思ったけれど、疫病を僕が治した事はフェアチャイルドさん以外には教えてないので高価な時計を持っている事について怪しまれずに説明できる自信はない。

 そんな訳で今年は普通に歩いて疲れたら休むという風に進む事になった。


 先生から剣を借り受けるとなんとなく剣の重さになじんできたのを再確認する。

 去年の今頃はまだ剣を重く感じていた。今は……別の意味で重い。この重さは去年の六月から少しずつ重く感じていた。

 剣の重さを確かめているとカイル君が声をかけてきた。


「どうした? ナギ」

「剣の重さを確かめてたんだよ」

「重いのか?」

「……うん。重い」

「振れるか?」

「うん。大丈夫」


 あれから三度ナビィを狩る授業があった。平気だと胸を張って言えるほど度胸がついたわけじゃないけれど、それでも剣を何度もナビィに向けたんだ。


「おーい、早く来いよー」


 いつの間にかバルドラ君が先に行ってしまっている。


「もう……一人で先に行っちゃだめだよー」


 そう注意しながら僕はバルドラ君を追いかけた。




 特に問題も起こる事無く道中を進む事ができ僕達はなんとヨーレ村に着く事ができた。

 ヨーレ村には宿屋があった。みんなと相談し宿屋で泊まる事になったんだけど……。


「空いてるのは四部屋で一部屋三人まで泊まれるってさ」


 カイル君がお店の人に聞いてきた事を僕達に教えてくれた。


「じゃあ二人と三人で別れようか?」

「どう分かれる?」

「……じゃんけんするか?」

「まぁ待てって。その前に希望取ろう」


 バルドラ君がじゃんけんを始める前にカイル君が止めた。

 希望か。僕はどちらでもいいけど……女の子を感じさせないためにはどっちの方がいいんだろうか。二人きり……は不味いかな? うーん。まぁどうせまだ十歳なんだしなりゆきにまかせるか。まだ毛も生えてないだろう子供相手に意識しすぎても仕方ないしね。……そういえば僕は高校生で生え揃ったんだよなぁ。はぁ……今世じゃどうなるだろう。大きくなりたいなぁ。せめて六十五は越えて七十は……。


「俺は三人部屋がいいなー」

「僕はどっちでも……」

「……」

「エモット君は広い方がいいの? じゃあ二人部屋? そっか。僕もどっちでもいいかな」

「……じゃあくじにするか。バルドラは三人部屋でエモットは二人部屋でいいな?」

「おう」


 エモット君は首肯だけで答える。


「んじゃあ……何かあったかな」


 腰に下げたポーチ型の小物入れや背負袋の中を探ってくじに使えない物はないか確かめたけれど見つからなかった。

 他の皆も使えそうな物は見つからなかったようだ。あんまりここでまごまごしていられない。受付に座っているおばさんの視線が痛い。


「とりあえず先に部屋取ろうか」

「……だな」


 部屋を取った後グーパーで部屋割りを決めた結果、僕とカイル君が三人部屋に泊まる事になった。荷物を部屋に置いて食事をとった後僕はいつものように皆に散歩に行くと断って宿を出た。

 月明かりの下日課となっているシエル様との交信で今日あった事を話す。

 今日は本当にトラブルもなく来れた。バルドラ君がはしゃいでた位だろう。

 本当に何もないから話す事はあっという間に尽きてしまった。そんな事はよくある。そんな日は決まって僕はシエル様の事を聞いた。あまり詳しくは教えてくれないけれど。

 僕が今シエル様の事で知っているのはクジラのようなシルエットの身体をしている事と魂の斡旋をしている事、世界になる前の記憶は一応あり、人間以外の種族で地球にはいない生き物らしい事くらいだ。けど知性はあまりなかったらしく残っている記憶はただひたすらに海の中を泳いでいた事だけらしい

 シエル様の世界がどういう世界なのかは教えてはくれない。いつも聞いても曖昧にはぐらかされてしまう。

 それ以外の事で教えてくれるのは変わった転生者の話だ。

 自ら地獄のような世界を望む者、シエル様を口説いた強者、最後まで夢と勘違いしていた者……最後って僕だよね?

 いろんな人が世界を渡ったらしい。この世界にも過去に何度か魂を送っている。しかも約千年前にこの世界に魂を送っていると教えてもらった。

 たぶん、伝説の勇者でありアーク王国の初代国王であるアークは転生者なんだと思う。そして、アークと同じ固有能力を持っているといわれているアールスは多分アークの生まれ変わりなんだろう。何度か同じ固有能力を持った者が生まれているらしいから何回か生まれ変わっているんだろうけど。

 僕が転生する際に特典として死んだ後も固有能力を持ち越す事ができるらしいから、多分ブレイバーが貰った固有能力でずっと受け継がれてきたんだろう。

 ……そう考えるとアールスに対して今まで感じていなかった不思議な親近感を感じる。

 今日のシエル様との交信を終え宿に帰ろうとする途中カイル君と出会った。


「あっ、カイル君も散歩?」

「いや、ナギが遅いからさ、探してたんだ」

「そうだったの? ごめんごめん。考え事してたんだ」

「まったく。心配させるなよ」

「うん。気を付けるよ。探しに来てくれてありがとう」

「お、おう。……ナギはさ、考え事って何考えてたんだ?」

「んー? 神様とこの世界の事」

「……難しい事考えてるんだな」

「難しいかな?」

「世界の事なんて俺にはわかんねーよ」

「僕だってわからないから考えるんだよ。それに本当に難しい事じゃないよ。たとえばアールスは伝説の勇者様の生まれ変わりなんじゃないかーとか。そんな他愛もない妄想さ」

「アールスかぁ……あいつ勇者様と同じ固有能力だもんな。羨ましいよ」

「カイル君は『白夜』っていう固有能力だっけ」

「ああ、よくわかんない能力のやつ」


 白夜は普通に考えれば沈まない太陽という意味だ。けど、それが固有能力として与えられているとなると途端に意味が解らなくなる。

 白夜という固有能力は希少で、得られる恩恵が判明していない固有能力の一つだ。

 僕も興味をもって調べてみたけどわからなかった。シエル様に調べてもらえればわかるんだろうけど、その結果をどう伝えればいいのか迷う。本で見た……なんて通じないだろう。

 希少な固有能力は『時読み』のように能力がわかりやすい物は本当に稀だ。そのほとんどはどんな効果なのかわかっていない。なのでどんな文献にも載っていない可能性があるし、もしかしたら実は機密情報で知っていたら国に怪しまれるなんて事もあるかもしれない。


「でも……騎士様になるなら悪くない固有能力だと思うよ」

「なんでそう思うんだよ?」

「白夜ってね、一日中太陽が沈まない事をいうんだ。カイル君にとって憧れている騎士様はきっと太陽のように眩しい存在じゃないかな? 沈まない騎士、なんとなくかっこよくない?」

「沈まない騎士……」

「あはは……」


 やばい。滑ったか? なんだか恥ずかしくなってきたぞ……。


「太陽みたいに輝いて、沈まない騎士……うん。俺なってみる」

「え?」

「俺絶対白夜の騎士になってみせる!」

「う、うん。頑張って」


 二つ名考えるほどに気に入ったのかな?

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