エウネイラ その7
エウレ湖を観光して満足した僕達は一度首都ネルに寄って国冒連にシャイリーさんの依頼の達成報告と報酬を渡した。
そして、引き続きシャイリーさんにエウネイラの北にある国、メランゾの国境までの案内を依頼してみた。
エウネイラとメランゾの間にはフツノーカ山脈というがあり、越えなければメランゾには入れない。
ネルから山脈の麓までの道が複数ありどの道にも町がある。
最短距離で行くならまっすぐ行けばいいが、どうせだから遠回りになってもシャイリーさんにおすすめの観光名所を教えてもらいながら進もうという事になったのだ。
残念ながらシャイリーさんは国外に出る気はないみたいなので案内は山脈の麓の町までだ。
ネルを出て僕達は東や西にふらふらと寄り道しながら北上していく。
東に行けば川で魚を釣り、釣った魚でシャイリーさんに教えてもらった郷土料理に挑戦をした。
西に行けば古い遺跡がありレナスさんが興奮していた。
また東にそれてみれば果樹園があり、そこの果物を使った郷土料理を堪能する事が出来た。
そのまま北上すると今度は遺跡ではなく歴史ある寺院があった。ルゥネイト様を祀っている大きな寺院で歴史を感じさせる風情にレナスさんが興奮し、さらに割と正確な姿のルゥネト様の神像があった事にアールスもまた興奮していた。
どうやら神託があった時に新造した物のようだ。
そして、三週間かかってようやくフツノーカ山脈の麓の町に辿り着いた。
町の国冒連で依頼の達成を報告しシャイリーさんと別れる。
山脈越えは二日かかるが道は山間に沿って進む一本道なので案内はいらないだろうと別れ際にシャイリーさんが教えてくれた。
町には魔獣達を預けられる施設が無かったので僕は魔獣達と一緒に町の外で野宿し、翌日町を出て国境を目指す。
夏という事もあって山は青々とした森で覆われていて、道の両脇には草が生い茂って道を侵食してきている。
さらに暑くなったせいか虫をよく見るようになった。しかもただの虫ではない……蚊だ。
アーク王国には蚊はいなかった。多分千年前の魔物の大進攻の所為で魔素濃度が上がり魔蟲になった事により子孫を残せなくなり絶滅したのではないだろうか。
蚊の最初の犠牲になったのはアイネだった。
首筋に蚊に吸われた痕が出来てかゆみを訴えてきたのだ。
試しにヒールを使ってみるよう勧めた。すると痕は消えたがかゆみは消える事はなかった。
ミサさんに聞くとヒールを使ってもかゆみは消える事は無く、時間が経てば吸われた所がまた赤くなるらしい。
そういえばかゆみは蚊の唾液が原因だったか。
ためしにピュアルミナを使ってみると吸われた所に黒いもやがたしかにあり、それを消すとかゆみがなくなった。
正直かゆみを消す為だけにピュアルミナを使うのはちょっと割に合わない気もするが……蚊を媒介にして移る病気もあるだろうし感染症予防と考えておこう。
蚊以外には特に問題は起きず速やかに国境を超える事が出来た。
メランゾはエウネイラの水の国に対して火の国と自称しているくらい鍛冶が盛んらしい。
それと言うのも東方国家群では鉱山の所有が三本の指に入るくらい多く、冶金技術が優れているのだという。
そんなメランゾを三週間かけて北上すればヴェレスとの国境に着く。その国境から一日かけてようやく目的地である山がある。
とはいえミサさん曰くヴェレス人からすればヴェレスと呼べるのは山の中だけであり、平地にある土地はあくまでも他国との距離を置くための緩衝地帯でしかないようだ。
さらに、メランゾでは過去に起こった戦争の所為でヴェレス人は白眼視されているのでレナスさんとミサさんはあまり姿を見せない方が良いらしい。
カナデさんは髪の色が桃色で、メランゾでも珍しくはない髪色なので姿を見せても怪しまれはすれどそれほど問題にはならないだろうとも教えてくれた。
問題なのは長身で白に近い髪色である事、そしてさらに精霊がいたら最悪なんだとか。誰も会ってくれなくなり買い物や宿を取る事すらままならない様だ。
そして、この状況はヴェレスの隣国全て同じらしい。ミサさんはどうやって隣国を通過したのかと思ったら狩りや森の恵みを取りながら通過したらしい。
中々世知辛い状況のようだ。
全員の相談の結果メランゾにいる間はレナスさんとミサさんは馬車の中にいてもらう事になってしまった。
それに伴い二人が常に宿に泊まれないのはかわいそうなので宿に泊まるのは止めておこうという話しにもなった。
宿を探す手間が省けた分だけ道を進められる。
そして、実際のメランゾだが数日北上しただけでも山に囲まれた国だという事がよく分かる。
それほど山が近く途切れる事が無いのだ。
今の所は山を避ける道を選んでいるから山を登らずに済んでいるが、地図で確認している限りでは山登りはさけられないだろう。
案内人がいて欲しい所だがヴェレス人との確執を考える限り案内人を雇うのは難しいように思える。実際ミサさんに確認してもおすすめはされなかった。
まぁ道自体は精霊達がいるから問題はない。隊商が通れるような道の情報も集めばいいだろう。
北上する途中でメランゾの王都に寄る事になった。アイネがメランゾの武器を見てみたいと言い出したのだ。
僕も品質が良いとされるメランゾの武具に興味があったので王都でアイネと二人で武具屋へ立ち寄った。
しかし、僕は武器の目利きなんて出来ないので今装備している物よりもいい物なのかどうかはさっぱり分からなかった。
アイネも同じようで手に取って確かめたりしていたが余りしっくりこないようだ。
僕も同じように剣を確かめてみるがどれも軽すぎてしっくりとこない。強度はどれ位なのかと店員さんに聞いてみるとどうやら最新の合金製で強度を上げつつ重量を軽く出来たらしい。
それならば一本位買ってみてもいいかなと思ったが、高い。
今の装備だって実戦で使った事が無くまだまだ使える物なのにここで買うというのは躊躇われた。
アイネも悩んでいたが結局買わない事に決めた。理由はやはりしっくりこなかった事だ。
武器が軽すぎると体格に恵まれていない僕達には軽い武器だと打ち合った時に簡単に打ち負けてしまう。
いくら丈夫に出来ていてもそれでは駄目だ。まぁ僕の盾や籠手なら買い替えてもいいかもしれないが。
結局数件武器屋を周ってみたがどれも同じような武器ばかりでアイネのお眼鏡にかなう武器は無かった。
どうやらメランゾでは今軽く丈夫な武具が流行っているらしい。体格のいいミサさんなら武具が軽くても問題ないのだろうが、ヴェレス人との確執があるからお店に入ることは出来ない。
全身鎧はお店で着る人に合わせて調整して貰わないと行けない為気軽に買って贈るという事は出来ないのだ。
そして、事件は市場に行った時に起きた。
メランゾはどうも豆料理が郷土料理らしく、豆が安く手に入るので豆を求めて市場に寄ったのだ。
そこで……黒い液体を見つけた。
その液体は調味料で量り売りされていた。
味見も出来たので店員さんにお願いをして味見をさせて貰う。
……予想通り醤油だった。なんでお米、魚、醤油が別々の国で存在してるんだよ!




