表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/530

エウネイラ その5

 エウレ湖へ出発の日、天気は前日から引く続いての雨だった。

 街の出入り口で待ち合わせしていた案内人さんと合流し首都ネルを発つ。

 案内人さんは女性の冒険者で名前はアーロ=シャイリーと言う。

 普段はエウネイラ国内を回って様々な依頼を請け負っているらしい。そして、今の時期は僕達のようなエウレ湖目当ての観光客相手に案内役の仕事をしているようだ。

 年の頃は僕より下で十六。アイネの一つ下だ……大人びててアイネよりも年上に見える。いや、アイネが幼く見えるだけか?


 聞けば幼い頃から冒険者として働いているらしい。冒険者歴で言えばアイネよりも長く僕と同じくらいの様だ。

 強制的に学校に通わせる三ヶ国同盟と違って東の国々ではそういう教育機関は一切ない。

 教育を受けるにはミサさんのように教会に所属するか知識人に弟子入りするしかないのだ。

 それでは東の国々の人達は子供の頃何をしているかというと、家の仕事を手伝ったり弟子入りを試みたり、シャイリーさんのように冒険者になって食い扶持を稼いでいるらしい。

 そういう意味では僕達よりも社会の荒波にもまれているかもしれない。


 エウレ湖は山に囲まれた高原にある。エウレ湖まで行くのに山を登る必要は無いが渓谷や森の所為で道が入り組み、さらに道を外れると迷った観光客狙いの野盗も出るという情報がある。

 胡散臭くはあるが正しい道なら野盗は出ないという情報もあるので素直に案内人を雇ったのだ。

 精霊が五人もいる事にシャイリーさんは驚いた様子だったがこれなら野盗が現れても怖くないと言い切ってくれた。

 とりあえず野盗対策は当初の予定通り精霊の数を見せて襲われにくくする作戦で良さそうだ。




 道中はずっと雨だった。一週間近く続く雨を体験した事が無い。

 ディアナが雨水を操りアースとヘレンに雨で濡れないようにしてくれていた。

 そして、道中では一日で辿り着く距離毎に宿場町があったが、残念ながらアース達が満足できる預かり施設は存在しなかった。

 一応大型動物用の雨除けが出来る場所はあったが、屋根はボロボロで雨漏りをしているところが多かった。

 雨漏りをしなくても壁が無い所ばかりで湿気の所為でアースの体毛が固まったうえで跳ねてたりとすごい事になってしまっていた。

 アイネはそんなアースを見て笑っていたが直す時の事を考えたら僕は笑う事なんて出来なかった。

 でも初めて会った時のような姿のように見えて少し懐かしくも思ったのだった。


 そんなアースを笑っていたアイネだが、アイネも朝起きると髪が爆発しているので笑えない。

 自分じゃ無理だからと毎朝僕に髪を整えさせてくる。

 実際よくも一晩でこんなに髪が絡まるものだと感心させられるくらい荒れていた。

 これが手強く朝の内に終わらせられるものではなかった。

 なのである程度とかした後は移動中馬車の中でレナスさんやアールスに任せる事になった。

 カナデさんとミサさんは残念ながらアイネの髪を任せられるほど器用ではない。


 そして、旅程の後半、森へ入るとシャイリーさんに先頭に立ってもらい森の道を進んで行く。

 精霊達は全員姿が目立つように馬車の周りに浮かんでもらう。

 さらに僕がマナを拡散させ広域を感知する事で野盗の存在を探る。

 考えられる最悪の状況としては野盗が精霊を多数抱えているという事だ。

 だがそれも精霊のマナを察知できれば対応できるだろう。

 基本的にエウネイラの人間や動物はマナが少ない。そんな所に膨大な量のマナがあればそれは精霊だと言っているような物だ。すぐに分かる。


 怪しい反応はいくつもあったが、それは遠くて歩きで半日はかかる場所だ。シャイリーさんはちゃんと野盗のいない道を案内してくれたのだ。

 その広範囲の感知のお陰で人が襲われている所も察知出来てしまったので陰ながら助太刀もしておいた。

 といっても本当に簡単な物で一方的に襲われている人をヘレンの固有能力『液体固定』で雨を盾にして守り、襲っている人間をサンダー・インパルスで痺れさせ、落とした武器をヒビキの固有能力『炎熱操作』で燃やしたり溶かしたりして跡形もなくしただけだ。

 ちなみに野盗の区別が絶対につくという訳ではないので殺したりはしていない。もっとも殺す度胸もないが。

 ナスとヒビキ、ヘレンの力はやっぱり強すぎる。

 ついでにゲイルの固有能力『風読み』のお陰でマナ越しでも声を振動で感じ取り、さらに感じ取った振動を僕の耳元で再現すれば簡単な言葉なら何を言っているのか分かる。

 もっと訓練して完全に再現できるようになれば何を言っているのか分かるようになるだろう。僕の感知能力と本当に相性がいい。


 物騒な森を抜けると岩石地帯が現れた。

 山も僕達から見て左右に存在し、真正面の遠くの方にある高台に町が見える。

 距離としては馬車で二時間ほどだろうか。シャイリーさんの話によると高台にある町が一番エウレ湖に近い町なんだそうだ。

 町の名前はハックス。名前の由来は塩であり、この辺りの山はとてもおいしい岩塩が取れる事で有名なんだとシャイリーさんが教えてくれた。

 そして、そのハックスから半日かけて歩いた所にエウレ湖があるらしい。

 今日の所はハックスで宿を取って明日エウレ湖に向かう事になる、のだが……シャイリーさんの話ではハックスには預かり施設は無いらしい。

 商人専用の倉庫はあるらしいが一般人が使える倉庫はないのだという。

 僕は野宿決定だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>シャイリーさんの話ではハックスには預かり施設は無いらしい。 >商人専用の倉庫はあるらしいが一般人が使える倉庫はないのだという。 >僕は野宿決定だ。  ひとつ前の穴だらけでボロボロの屋根より、野宿の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ