エウネイラ
エンソウを通り過ぎようやくエウネイラへ着いた。
旅の予定は順調予定通りだ。
このまま何事もなければ一週間でエウネイラの首都ネルに着くはずだ。
そこから更に南西にいけばエウレ湖にいける。
直接向かった方が早く到着するが、僕達が見たいエウレ湖の天空を映す鏡のような姿は雨期にならないと見られない。
エウネイラでは五月の終わり頃から六月の初頭が雨期とされている。
一応国境から向かっても雨期になる頃に到着するのだが、首都に寄ればエウレ湖に入るのは雨期の終わり頃に調整できるのだ。
そして、そこから北上すれば九月辺りにヴェレスに着ける算段となっている。
エウネイラはエンソウとは違い自然豊かなと聞いてはいたが国境を越えたばかりでは自然はあまり見られなかった。
エウネイラの情報はアーク王国に伝わっている少ない文献とミサさんが旅の途中で耳にした噂位しかない。
エンソウは本当に何もなかったので情報が必要なかったがここから先は違うだろう。
言葉が分かる僕が積極的に情報を集めなくてはいけない。
そんな訳で最初の宿場町で僕は精力的に動き地図を手に入れる事が出来た。
フソウの時と同じように大雑把な尺度の地図ではあったが、首都までの道ならば迷う事は無いと地図を売っていたお店の店員さんは言っていた。果たしてどこまで信じていい物か。
まぁカナデさんが持ってきた文献もあるし交易路を通って行けば首都までは大丈夫だろう。
そして、エウネイラでの初めての食事は皆が驚くものだった。
なんと魚料理があったのだ。フソウでは釣りをした時に食べたがそれ以来魚料理には出会っていない。
フソウの首都サンケイでは魚を取り扱っているというお店の話は聞けたが、そこは高級店だったので縁のない話だった。
それで結局僕は魚を長期保存する技術が無いのだろうと思っていたのだが、エウネイラには魚を塩漬けにして食べる文化があったのだ。
しかもちょっと高いが頑張れば庶民でも買える値段で。
お店で初めての魚の塩漬け料理を食べ味を確かめてみた所かなりしょっぱかった。
しかし、身が良く締まっていてご飯と一緒にとてもおいしく食べる事が出来た。
カナデさんなんかはお酒のおつまみとして気に入ったようで、保存食としてまとめ買いできないかと僕達全体の旅行資金を握っているレナスさんに相談をしていた。
首都までの道中ではまた新しい発見があった。エウネイラの主食はパスタだったのだ。
ご飯は一般的な主食ではない事は知っていた。カナデさんの持ってきた文献にもシェスタという小麦粉を練ったものが主食だと書かれていた。
実際に目にかかるまではパスタみたいな物かなと想像していたが本当にパスタだったのだ。
パスタにはさまざまな形の物があり、色んな具材と絡めたり一緒に煮込んだりして食べられているようだ。
しかもエウネイラの一般的な料理の味もアーク王国の料理と比べたら濃いが、フソウの料理と比べたらかなり薄味となっていて僕達でも食べやすい味になっている。
アイネなんかはひき肉がたっぷり入ったボロネーゼのような料理が特に気に入ったようで、お店で見かける度に毎回頼むようになった。
食事以外で変わった事といえばエウネイラは水の国と言われるだけあって水場が多い事だろうか。
大小の差はあれど歩いているだけですぐに川が行く手を阻んでくる。
そして、川が多い分水田や田畑が多くフソウよりも豊かに見える。
治水もきちんとされているようで自然なままな川は少なく、道中で見かけただけでもきちんと土手が作られていたり調整池があったりした。きっと探せばもっと他にも治水対策が施されているのだろう。
さらに人に目を向けるとこの国の人は陽気な人が多く女性ばかりの僕達は声を掛けられる事が多かった。
とくに大きな町では僕とアールスは断るのが面倒な位声を掛けられた。
カナデさん? カナデさんはナンパされるのが嫌でレナスさんのフード付きローブを着て顔を隠して過ごしている。
レナスさんとミサさんは……ヴェレス人だという理由で声を掛けてくる人がいない。
ミサさんが昔教えてくれた通りヴェレス人は恐れられているようだ。
なのでカナデさんも背が高いのでフードを目深まで被ってレナスさん達と一緒にいればヴェレス人と間違われ声を掛けられないのだ。
アイネは……子供と間違われてナンパはされない様だ。
そんなナンパに負けず建物を見てみればこれまたフソウとは違う建築様式で家が建てられている。
フソウは建物は和風建築っぽく見えるがエウネイラの建物は同じ木造でも洋風っぽい建物になっている。
建物自体が大きく二階建てが基本で、部屋分ける為の壁が少なく一つ一つの部屋が広くなっている。木造と石造りの差があるがアーク王国の都市で建てられる家と似たような間取りだ。
後窓の大きさも違う。アーク王国やフソウでは窓は大きく取られているが、エウネイラでは窓が小さいかわりに数が多い。どうやら雨を入れにくくしつつ空気が流れ易くするために窓の数が多い様だ。
そして、屋根だけはフソウと同じように瓦で出来ていた。遠く離れていて文化が違うものに思えても同じ所はやはりあるんだな。




