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フソウ その9

 フソウの家屋は木製で石や煉瓦を使う建物は蔵などの基本的に人の住まない建物で使われる事が多い。

 何故人の住む家は木造ばかりなのかというと木が豊富な上に夏になると湿気が多くなり、換気の良い家の方が好まれるからだ。と、昔読んだ本に書いてあった。

 ちなみに家の傾向はフソウだけではなく東方国家群のフソウと同緯度以下に存在する国は大体同じ建築様式をしているようだ。


 だがそれもフソウでは中心部を除いた話にすぎない。

 首都サンケイから約一週間かかる範囲内では事情が違う事が僕の目を持ってしっかりと示された。


「これは……確かに僕の想像していた物とは違うね……」

「私もそうです……なんというか、その……可愛らしい家? ですね」


 僕の言に同調するレナスさん。

 僕達の目の前にあるのは木の家だ。昔からどんな物だろう。一体どんな風に暮らすのだろうと想像していた木の家だ。

 僕が想像していた木の家は樹齢何百年も経っていそうな大木の内部を加工して人が住めるようにしたものだ。レナスさんの想像も僕の想像と大差はないだろう。


 だが実際は高さはそれこそ三階建ての建物と同じ位の高さだ。その高さも天辺から生えている枝や葉っぱによってかさ増しされているので内部の居住空間の高さは外観よりも低い事になる。

 そして、人が暮らすであろう幹部分。何故か丸い。スイカのようにまん丸だ。

 しかも地面を見てみると地中から木の皮のような物が出ていて、そこから丸い木が生えているのだ。


「え、なんですかこの不思議植物」


 ミサさんに説明を求めるとミサさんは面白そうににやけ顔になりながら答えてくれた。


「これはですネ、世界樹の根っこから生えている瘤デス」

「……瘤!?」

「世界樹の根っこ!?」


 ミサさんの解答に僕とレナスさんは叫んでしまった


「世界樹の根っこに出来た瘤を家にしているんですヨ」

「ま、待ってください! 世界樹の根っこって……まだ姿も見えない世界樹の根っこ何ですか!?」

「世界樹の根っこは国中とまでは行きませんガ、中心部のほぼ全域に張り巡らされているそうですヨ」

「そんなに木って成長するものなのですか?」


 レナスさんは信じられないといった様子で丸い木の家に視線を向ける。


「それは精霊の力らしいですヨ。建国当初からずっと少しずつ伸ばしているらしいデス」

「建国って確か五千年くらい前ですよね?」

「そのくらいだと聞いていマス」

「五千年かけてもフソウ全土には届かないんだ」

「それ位慎重に力を込めて成長させているという事ですね」

「うん。僕が思っている以上に世界樹は堅牢で強大な力の塊かも知れないね」

「それにしてもフソウについて書かれた本には何故木の家が丸い事が書かれていないのでしょう? こんな分かりやすい特徴を書き漏らす事なんてないと思うのですが、私にはそれが不思議で仕方ありません」


 レナスさんは本を読む事が好きだから余計気になるんだろうな。かくいう僕も気になる。


「どうしてでしょうネ?」


 ミサさんも分からないといった感じで首をかしげる。


「案外翻訳を失敗したのかもね」

「私達の参考にした本は古い物でしたから可能性はありますね」


 僕達が十年前に勉強に使用した時点で十年前出た書物だった。つまり二十年前発行された本。

 さらに翻訳に時間が考えるとなると元になった本はもう少し古いものと考えられる。

 国交の開通はまだ半世紀も立ってない事を考えれば情報の正確性や翻訳の出来に問題が出ていてもおかしくは無いのかもしれない。

 それか実物を見た事が無い人が丸い事はさほど重要ではないと判断してしまい、より重要そうな木の家に重点を置いてしまって情報が欠落したのかもしれない。

 なんにせよ色々原因を考えてもそれはただの妄想に過ぎない。重要なのは……。


「やっぱり自分の目で確かめるって言うのは大切な事だね。人から教えてもらった情報だけじゃどんな情報の欠落が起こっているか分からないんだ」

「その通りですね。私はフソウの事を勉強しよく知った気でいました。この木を見て本当に知った気でいただけなんだと痛感させられました」

「うんうん。でもこの木の中じゃ換気良くなさそうだけど湿気の問題はどうしてるんだろう?」

「この瘤は生きているそうですヨ? それで内部の水分を吸ってくれるそうデス」

「ああ、根っこの一部だからそういう機能もあるんですね」

「意外と便利ですね」

「でもずっと住んでたら肌や髪の水分が取られちゃって荒れそうだね」

「ふふ、たしかにそうですね」

「……そう言えばフソウの中心部では女性が肌に白い粉のような物を固める様に塗りたくるという文化がありますネ」

「あっ、それ知ってます。フソウの女性は美容の為に肌を白くするんですよね」

「香油もフソウでは人気が高く質が高い物が多いそうですネ」

「ナギさんもたしかフソウの香油を使っていましたよね」

「うん。べとつかないし髪の潤いを一日保ってくれるんだ」


 アーク王国では高いがこちらではお手頃価格になっていて購入しやすくて助かっている。


「……」

「……」

「……香油を使わない男性は薄毛が多いそうデス」

「止めようこの話は。僕達はこの国の闇に触れようとしている」

「そ、そうですね。ところで関係ないですが今日の宿はどうしましょう。たしか木の家の宿もあるとか……」

「いやいや、さすがにこの大きさが標準だと僕達全員が泊まるのにはちょっと狭いんじゃないかなぁははは」

「もっと大きい家もありますヨ」

「僕はこの家で寝泊まりするくらいなら魔獣達と一緒に野宿する」

「私もついて行きます」

「一日くらいは平気だと思いますけどネ」

「くっ」


 たしかに一日くらいなら問題ないかもしれない。荒れたとしても何ならヒールで治せる。


「く……くく……皆の意見を聞いて決めよう」

「ナギさん……」

「何事も経験デース」


 そして、みんなの意見を聞いたところ結局木の家に泊まる事になった。

 僕は遠慮しようかと思ったがアイネがアールスと結託してだだをこねてきたので僕も泊まる事になってしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お盆くらいから一気に全話読ませていただきました あまりシリアスになりすぎない感じで日常感強めな旅が目的なファンタジーって以外と見つかりにくいので目に止まってよかったです [一言] この作…
[気になる点] >「……香油を使わない男性は薄毛が多いそうデス」 >「止めようこの話は。僕達はこの国の闇に触れようとしている」  これは月代(さかやき)にしてるってのを勘違いした訳でなく、マジの薄毛…
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