フソウ その6
フソウには森と山が多い。特に山はアーク王国や魔の平野には何で全然ないんだと思うぐらいフソウには山が多い。
最初の宿場町を出て預かり施設も通り過ぎると田んぼがあり川もある。そして川を渡れば森があり、その森の北と南には山があるという情報を得る事が出来た。
首都までの交易路は山と山の間を通り抜けていくのでしばらくは山道を通らない事は宿場町で確認できている。
しかし、道中には川を渡る必要が何度も来る。川には橋が架かっている所もあれば川幅が広いので船で渡る必要がある川もある。
橋は交易路という事もあって大型の馬車が二列になって何台も並んでもびくともしない位広く頑丈に作られているようだ。
問題は渡り船の方だがこちらは水を操るなりして人の見えない所で渡ればいいだろう。
そんな道中を時折観光目的で寄り道しつつゆらりと進んで行く事を楽しみに出発をする。
魔獣達と馬車を預けていた預かり施設から出発して最初に見たのは地平線まで続く田んぼだった。
休耕期らしく何も植えられていなかったがアールスはリュート村にある畑とは違う水田だという事に真っ先に気づいた。そして自分の知識との際にすぐに気が付き感心していた。
アーク王国、というか三ヶ国同盟では小麦を育てる為の田んぼで使われる水はため池の水を利用している。
三ヶ国同盟の土地には川が無いのでため池を作ってそこに魔法で作った水を貯めて田んぼに使うのだ。
一方フソウでは用水路をちゃんと作り川から水を引き込むようだ。
僕達がこの道に戻ってくる頃には早くとも新年が明けているだろう。
稲か小麦のどちらを育ているのかは分からないがどちらにせよ黄金色に育っている所は見られない。残念だ。
田んぼ地帯を通り過ぎたら川がある。川には事前の情報通り大きく頑丈そうな石造りの橋がかけられていた。
ちょっと怖いなと思いつつ最初に僕と馬車を引いているアースが石橋を渡る。さすがに揺れる事も異音もする事もなく渡れた。
アースの引いている馬車が橋を渡り切った事を確認してから対岸に残っているヘレン達に向かって両手を振って渡る合図を送り渡ってもらう。
遠くから見るヘレンは恐る恐るといった様子で石橋を渡る。かわいい……なんて和んでないで石橋に異常がないかしっかりとマナで探りつつ見守る。
そして、無事渡り終えた所で緊張感が解けた事が伝わってきたヘレンを労う。
橋を渡った後少し歩るいた所に森がある。
森にはどうやら肉食の群れをつくる犬のような動物がいるらしい。
見た目の特徴を聞く限りだと狐っぽいのだけど名前を聞いても狐と翻訳されなかったので多分僕の知っている狐とは何かが違うのだろう。そもそも狐は群れを作らないはずだし。
群れているとはいえ臆病な動物で滅多に人前には出てこないらしい。
とはいえ食べ物の匂いをさせていたらさすがに別らしく森の中での食事する時は肉は使わない方が良いんだとか。肉の匂いにつられて盗みに来るらしい。
しかし、今日の僕達は事前にお弁当を用意してあるので問題ない。
お弁当は今朝宿を出る時にもらったもので泊まったお客に配っている物らしかった。
そして、そのお弁当の中身というのがなんと、おにぎりなのだ。
ちゃんと具だって聞いている。わさび漬けの山菜だと聞かされている。
具の中身を聞いた時ちょっと食べた時の事を考えてドキドキしてしまったのは、昨晩の事を考えると致し方ない事だろう。
ちなみにわさびはわさびでも紅わさびというわさびの近縁種らしい。
僕が知っているわさび自体はきちんと存在しているようでこちらは栽培条件が難しいらしく高級品の様だ。
近縁種だと本来は僕の自動翻訳では翻訳されないはずだが、本来のわさびが存在している上にそちらが名前の元になっているので紅わさびと翻訳されているようだ。
森に入ると鳥達が一斉に飛び立った。森に入るまで飛び立たないなんてなんてなんて度胸のある鳥達なんだろう。
アーク王国では垂れ流しのマナを感じ取っているのか森にアースが入る前には鳥はすでにいなくなっている。大森林ではそうでもないが。
それだけ人通りが多く慣れてしまっているという事だろうか。
しばらく進むと旅人とすれ違うようになった。次の町から出発してきた人達と出会うようになったのだろう。
やはりアースは目立つようですれ違う人皆アースに近づくとその大きさに驚いた様子を見せる。
やはりアースくらい大きな動物……象のような大型動物はいないのだろうか?
いや、いたとしても交易路を馬車を引いて歩いているとは思わないだけかもしれないな。
さらにしばらく歩くと馬車とすれ違うようになった。馬車を引く馬達を怯えさせないように気を付けながら道を行く。
アースとヘレンの身体は大きいからやはり通り過ぎる際に馬に怯えられてしまう。
消臭のお香のお陰かアースとヘレンの体臭は消しているから遠くから匂いで怯えられる事が無いのは良い事だ。
それにしてもこちらの動物はほとんどマナを持っていない様だ。数字にすれば多分十かそこらくらいしかないんじゃないだろうか? と思うぐらいマナを纏っていない。
これではマナを感じ取る事なんて出来ないのではないだろうか?
試しに近くに隠れていた小動物を濃いマナで触ってみても反応はなかった。
アーク王国の動物だったら確実に気づいているマナの濃さなのだけど……。
このマナの無さはやはり魔素がかなり薄い事が原因だろう。
魔素が薄い事の問題はマナの量が増えにくくなり魔法をあまり使えなくなってしまう。
それとアースが美味しい魔素を吸えなくてがっかりしてしまう事も付け加えておこう。
野生動物のマナは少ないが人間は数値にすると百ぐらいはある。日常生活を送るだけなら問題ない量だ。
兵士や冒険者、ミサさんの様な教会関係者ならもっとマナがあるかもしれない。
しかし、この魔素の薄さでは魔法に頼った文化の発展は難しそうだ。町についたら改めてどういう風に発展させているのかを見るのも楽しいかもしれない。




