フソウ その2
検問所の近くにある銀行で契約も済ませ、銀行内の換金受付所で全てのアーク金貨を旅に必要な分を除いて全て銀行に預けてフソウ硬貨に変えておく。
銀行のお金はアーク王国の銀行とも提携しているので一応アーク王国の銀行で預けたお金をこちらで降ろす事も可能だ。
けれど魔の平野を渡るときにもしも通帳を失くしてしまったらお金を降ろせなくなるので、旅に必要なお金は現金で持ってきてから預けたほうがいいらしい。
金貨なら大した量にはならないから直接持ち歩く人もいるらしいが、普通は盗まれたり盗賊に奪われても全てを失わない様に銀行に預けるのだとミサさんは説明してくれた。
その銀行から歩いて数分の場所に宿場町がある。今日はそこで宿を決めて泊まる事になっている。
ただミサさんも一回泊まったきりでどの宿がおすすめかは分からないと言うので下見を十分にしたいが……その前にアース達が休める場所を探さなければ。
見つからなかったら他の皆には宿に泊まってもらい僕は魔獣達と一緒に宿場を抜けて野宿だ。
宿場に着くと僕達はアース達の休める場所を探し宿も探す班と馬車の荷物を守る班の二手に別れた。
宿を探しに行くのは僕とレナスさんとミサさんだ。アイネも行きたそうにしていたがくじ引きで決まったので仕方がない。
精霊もディアナとエクレアには馬車に残ってもらう。
宿場町には多くの人が行き交っているが服装は多種多様で国籍が特定できない人が多い。意外と遠くの国からもやってくる人が多いのだろうか?
「それにしても、フソウでは大きな木の中に人が住んでいると聞きましたが、宿は木造の普通な建物なんですね」
レナスさんが残念そうにつぶやく。
たしかに文献で大きな木の中身をくり抜いて家にしていると読んだ。そんなに大きな木があるのかと疑ってはいたがミサさんからも本当に住んでいると話してくれた事があったっけ。
「いくら大きな木でも不特定多数の人を泊められるほど大きな木は首都の近くにしかないんですヨ」
首都の近くにならあるんかい。
「それに国民の全てが皆木の中に住んでいるわけではありまセン。そもそもこの辺りだと住めるほど大きな木は存在しないそうですヨ」
「そうなんですか? 早く見てみたかったから残念だな」
「ふふふっ、ただお二人が考えているような木とはちょっと違うかもしれませんヨ」
「ええっ、なんですかその含みを持たせた言い方。気になるなぁ」
「ふふふ。楽しみにしていてくだサイ」
ミサさんはそれっきり家の事には口を閉ざすようになり仕方ないので見て確かめようという事になった。
そして、宿場をざっと回ってみたがアース達が休めそうな場所はなかった。
宿やそれ以外のお店の人に事情を話し聞いてみた。するとどうやら隊商向けの大型の馬車と複数の馬を泊める預かり所が宿場町の外にあるらしい事は聞けた。
少し遠く宿場から十分ほど歩いた場所にあるらしい。ミサさんに確認を取るとどうやら忘れていたようだ。
どうやらミサさんが昔に来た時は利用しなかったので記憶に残らなかったらしい。
宿からちょっと離れてて不便に感じるが、隊商向けとなると広い敷地がいるだろうから宿場町には作れなかったのかもしれない。
場所を調べた後僕はレナスさんとミサさんと別れ一旦皆の所に戻り、合流してからアールス達に事情を話してから皆一緒に宿場町の外へ向かう。
アールス達はついてきたいと言い出したので一緒に行く事になった。
皆には宿を探してもらっても良かったのだけど……場所を確認できるし別にいいか。
預かり所まで行く為に馬車を引いたアースとヘレンを連れて町中を歩いて行く。
やはりこちらでもアースとヘレンは珍しいのか道行く人達の注目の的となっている。
注目される事が好きなアースは嬉しそうに顔を上げて歩いている。機嫌のよさもアースから伝わってくる。
一方ヘレンの方は後ろにいる為確かめる事が出来ないがアースとは違って恥ずかしく緊張した気持ちが伝わってくる。ヘレンはまだ人の衆目に晒される事に慣れていない様だ。それとも初めての土地だからというのもあるだろうか?
ヘレンの傍に行きたいが僕は先頭に立ち案内をする役目がある。
誰かと交代して貰おうかと思ったその時馬車の中にいたゲイルが出て来てヘレンの頭の上に乗ったのをマナで確認できた。
どうやらゲイルがヘレンの緊張をほぐしてくれるようだ。ここは任せよう。
宿場町を抜けるとすぐに預り所の場所が分かった。広い土地に柵が設けられており、その敷地内に大きな建物が何棟も立ち並んでいる。
そしてさらに警備員と思わしき武装している人が巡回しているのが見えた。
入り口は道沿いにある建物の近くだろうか。近づいてみると建物には木製の看板が掛けられており預かり所だという事が分かった。
木造の建物の入り口は木で出来た引き戸構造になっている。屋根は瓦だろうか? 何となく日本家屋っぽい外観をした建物だ。
皆には外で待っててもらい僕が代表して建物の中に入る。
木造の建物の中は明り取り用に開かれている窓以外には無い様だ。おかげでもう夕方近いので殆ど室内は暗くて見えない。
ライトを使い室内を照らす。
奥は敷居が高くなっていてそこに長机が置かれており座布団っぽい物が机の奥の床に敷かれている。机には帳簿らしきものも置かれているから多分これが受付なのだろう。
しかし誰もいない。奥に続く襖を奥に見つけ声をかけてみる。
「すいませーん」
「はーい」
奥から声が返って来た。
「ちょっとお待ちをー」
若い男性の声だ。言われた通り待ってみるとどたどたとした足音が近づいて来て止まったと思ったら勢いよく襖があいた。
「いやーすみませんすみません。ちょいと厠へ行っていた物で。丁度出て手を洗った所で声が聞こえて来たんですよ」
入ってきたのは若い男性で筋肉質で全身が太い男性だった。
「ああ、そういう事でしたが」
「うんうん。待たせちゃったみたいでごめんね。お客さんは馬車預けに来たの?」
「大型馬車二台と魔獣を五匹明日まで預かって欲しいのですが」
「魔獣? 魔獣に馬車を引かせてんのかい?」
「ええ、大型の馬車と同じくらいの大きさの魔獣が二匹。残りの三匹は小型三匹です」
「ふぅん。魔獣ねぇ。暴れなきゃ別に預かれるけど」
「そこは大丈夫です。なんなら固有能力のお陰で意思の疎通も可能です」
「んまぁそうならいいけどね。うちには馬用の餌しか出ないよ?」
「魔獣に餌は必要ないので大丈夫です」
「ええ? 魔獣ってそうなのかい? 便利なんだねぇ。うちの馬も魔獣にしようかな」
「普通の馬をわざわざ魔獣にするのはお勧めしませんよ。濃い魔素がある所を見つけてそこに留まらせないといけませんが、濃い魔素があるという事はそこには魔物がいるはずなので安全ではありませ」
「んじゃあやめとくかぁ。で、お客さんの魔獣はどうしたらいいんだい? 一応倉庫に泊める事も野外に放したままにしておく事も出来るけど」
「倉庫に泊めさせてください」
「あいよ。となると大型馬車二台と大型の魔獣に引き留めるのに倉庫二つ使う事になるな。倉庫二つで値段は一晩銀貨十枚だ」
「確認ですが小型の魔獣も泊めていいんですよね?」
「ああ。どっちに決めるかはそっちで決めてくれ。くれぐれも物を壊したり汚したままにしないでくれよ」
「それはもちろん。それと金庫はありますか?」
「倉庫に備え付けの物があるよ。使いたかったら貴重品はそこに入れるようにしてくれ」
「……後好奇心から聞くのですけど、人間が泊まってもいいんですか?」
「時々いるな。食事は出ねぇし寝心地も保証はしないが警備の奴らがいるから宿に泊まるよりも安心できるぜ。もっとも信じられねぇから貴重品と一緒に自分も泊まるっていう奴もいるけどな」
泊まってもいいのか。しかも安全の保証付き……こっちに泊まろうかな。いやいや……レナスさん達が折角宿を探してくれているんだからそういう訳にも行かないだろう。
問題なく馬車と魔獣達を預けられる事をディアナとエクレアに伝えて連絡して貰おう。




