感じ取れ全てを
ゲイルからの報告は悪い物だった。
ルルカ村南の前線基地の兵が撤退したのは作戦でもなんでもなく本当に敗走した結果らしい。
それでも兵達は諦めず魔物を二手に分かれて引き付けているようだ。
アースとヘレンから荷物を降ろしヒビキをアースの角の上の乗せる。
「ナスとゲイルを頼むよ」
「ぼふっ」
「くー」
「きゅ~……」
ヒビキは僕と離れるのが少し不安そうだ。
「ヒビキは向こうに着いたらサラサの言う事を良く聞くんだよ。危ない時以外サラサのいない所で力を使ったら駄目だからね」
「きゅ……」
「大丈夫。遠く離れても僕はヒビキと一緒にいるから」
「きゅ?」
「本当だよ。僕達の間に距離なんて関係ない。ヒビキだって僕との繋がりをいつも感じているでしょ?」
「きゅっ!」
後一日。一日耐えきれれば神様がやって来る。けれど、この星に着いたからってすぐに助けに来てくれるとは限らない。
東の方を先に対処するのか南の方を先に対処するのか分からない。
全員で来て同時に助けてくれるかもしれないが最後まで油断はできない。
「絶対に生きる事を優先してね」
「ぼふっ」
誰かひとりでも死んだら……ひとりでは逝かせはしない。絶対に。
けど僕だって死にたい訳じゃない。だから離れていても絶対に力になってみせる。
アース達が街道から外れナス達のいる方角へ走っていくのを見送った後僕達もルルカ村へ向かって走り出す。
アースから降ろした荷物は置いて行く。念の為に持ってきた天幕と非常食だけだ。皆が無事に戻ってくれば後で取りに戻ればいい。
盗まれたとしても惜しくはないし今の状況で使われるのならそれは必要だからだろう。
そして、走っている間にナス達の様子を魔力感知で探る。状況を把握できればナスやゲイルの代わりに僕が魔法を使う事が出来る。
僕が少しでも思考の肩代わりが出来ればふたりの負担も減る。
時間を止めれば魔眼を持っているナスだけは動き回れるというのも大きい。時間止めは消費が大きいし連携の問題もあるが消費に関して僕のマナを使えば問題ない。
だけど走りながらだと集中しきれない。
立ち止まって感知を続ける?
駄目だ。万が一の時の為に僕はルルカ村で囮にならないといけない。
少しでも時間を使わせる為に、レナスさんの故郷を少しでも守る為に。
とてもじゃないが命を懸けるなんて言えないけれど魔獣達を戦地に送る僕自身へのけじめの為に。
僕のマナはナス達へ送れない。なら、今使っても問題ないか。
集中できないなら他の方法で助ければいい。時止めなら世界そのものの時間の流れを操るからどんなに離れていても効果がある。
ナスにも伝えておかないと。時間を遅くするのはともかく時間の流れを元に戻す時は魔眼を持っているナスの動きにも影響が出てしまう。
そして、走りながらナスと連絡を取り合い時止めの打ち合わせをしてナスの合図で行う事を決めた。
ナスの合図か来る度に僕が時を止めたり遅くして補助を行う。
数時間後時止めでナスへの援護をしつつようやくルルカ村に着いた。
アース達もナス達との合流に成功している。
今ナス達は変わらず魔物を引きつけつつ東にある前線基地へ逃げている部隊の援護を行っている。
大型の魔物はいないようで今兵士さん達を襲っているのは中級以下の魔物の様だ。
そして、引付けが成功しているのかルルカ村及びその周辺には魔物がいる様子はない。
安全を確認してから僕は感知に集中する為に村の真ん中の地面に座る。
神様が来るまであと半日。それまでナス達を助ける。
感知をして魔獣達全員の状況を知る為に集中をする。遠く離れていてもマナを通して皆の事を感じ取れる。
だけど援護するならこれでは足りない。魔獣達の動き、表情、声全てを感じ取れなければ。
動きは簡単だ。表情は難しいが口の動きや目の動きを捉えられれば分かるかもしれない。
声は空気の振動を感じればいい。ナスやゲイルが言葉を使えばその動きをこちらで再現すれば分かるはず。いや、それならば空気の振動を僕の耳元で再現すれば何を言っているか分かるか?
しかし、鳴き声の再現の場合自動翻訳が機能しないかもしれない。あくまでも僕が翻訳できるのはその生き物が声帯から発した声だけだ。
だけどどんな声色で鳴いているか分かればどんな状況かの判断材料になるだろう。
感じ取れ全てを。
ナスは今何をしたい?
ゲイルは今何をしようとしてる?
アースは今何を思ってる?
ヘレンは今何を守ってる?
ヒビキは……怖がってる?
ヒビキが怖がっていると何となく感じる。ヒビキの心臓の鼓動が早まっているからそう思うのか?
魔物が怖い? 違う。戦いが怖い? 違う。
何かを探そうと首を動かそうとするけれど途中で我慢してやめるような仕草。敵を探してるなら我慢する必要はない。乗っているアースはもちろんナスもゲイルもヘレンもヒビキの見える範囲にいて探す必要はない。
抱きしめてくれる人を探しているのか?
魔獣達だけで戦うのは初めてだから心細いのか。でも、そんな気持ちを我慢して勇気を出して頑張ろうとしているんだ。
僕は傍に居ない。だけどヒビキに言ったじゃないか。僕達は繋がっていると。本当に僕の気持ちがヒビキに届けられればいいのに。
届いてくれ僕の想い。
そう思ってマナを操りヒビキを撫でてみるとヒビキの鼓動が落ち着き始め挙動不審な動きもなくなった。
僕の気持ちが届いたのだろうか? それなら嬉しいのだけど。
魔物に攻撃をして集中しているゲイルにむかって死角から小指ほどの小さな石が飛んできた。それをマナを固め防ぐ。身体の小さなゲイルでは小さくても危険だ。
ナスが低木の尖った枝に足を引っかけて怪我をしてしまったので僕のマナで時を止めた後ヒールを使い治す。どうやら時を止めている間でも魔眼持ちで動いている相手なら魔法の効果もあるようだ。
ヘレンが水の角を使って魔物をなぎ倒しアースが倒れた魔物を土人形を使って圧殺する。この二匹は中々安定している上に他の皆の盾になってくれている。防御手段がある上に毛皮のお陰でちょっとやそっとの攻撃では傷を負わず頼りになる。
さらにアースは顔の角の陰にいるヒビキに攻撃が届かないように立ち回りを考えているようだ。
時間が経つにつれて魔獣達の事が良く感じ取れるようになってきた。
何を考えているかまで分かるような気がする。
ゲイルは大森林の仲間を良く見ている。危険な時にすぐに助けに行くのがゲイルだ。
しかし、焦っている所があるのか強引な所がありそこを助けているのがナスだ。
ナスは耳が良く感知力も高い為森の中でも神聖魔法を使い上手く立ち回れている。けれど僕の言った事も守ってくれているようで自分達の命を優先して動いているようだ。
ヒビキは気持ちに余裕はないようだけれどゲイルと同じように他の魔獣達や兵士さん達を狙う魔物を優先して狙っている。
ヘレンは冷静に物を見れているようだ。水を攻撃と防御うまく使い分けつつ前に立ってその場にいる皆を助けている。
アースからは他の皆を絶対に守るという意思を感じるような気がする。攻撃は他の皆に任せ自分は補助に集中しているようだ。
分かる。皆の事が。視界が広くなるように今まで分からなかった事が分かる……?
《魔獣の誓いが進化しました》
前回のあとがきの件ですが問題ないようなので時間がある時に修正しておきます




