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南へ

 大型の魔物の首を落とせたがまだ油断はできない。

 頭と胴体、核がある方を見極め確実に核を破壊しなければ安心なんてできない。

 そういう行動をしてくるという話しは聞いた事が無いが死んだふりをして核のある方を誤魔化してくるかもしれない。


「ナギ、頭の方は私が処理するから胴体の方はお願いね」


 そういうや否や魔物の頭部が宙に飛んだ。どうやらアールスが精霊魔法を使い近くに落ちる様飛ばしたみたいだ。


「アイネ! 胴体は僕が見張るから離れて!」


 アイネは了解の合図に左手を上げた後走って後退してきた。

 胴体の方は動く気配はない。予想通り頭に核があるのだろうか?

 いや、確かめる手段があるじゃないか。


「ヘレン、サンライト使うから暴れるかもしれない。注意して」

「くー!」


 水で拘束して貰っているヘレンに警告してからサンライトを大型の魔物に向けて放つ。

 十秒ほど照射を続けたが反応はない。


「アールス、やっぱり本命は頭っぽい!」

「りょーかい!」


 ちょうど落ちてきた頭に向かってアールスが二本の剣を抜き走り出した。


「ミサさんはアースと一緒にアールスの援護をお願いします! 僕は後続のゴーラム共にサンライトを浴びせます!」

「分かりましタ!」

「ぼふっ」

「ヘレンは大型の胴体を拘束を解いてゴーラムと大型の頭の両方を見てて危ないと思った方に力を貸して!」

「くー!」


 ゴーラムを含めた岩石系の魔物にサンライトを当てられるように位置を変える。

 もちろん大型の胴体と頭には念の為に近づかない。

 位置に着くとアイネも僕の所へやって来た。マナにはまだ余裕があるか。足止めにマナを使い切るかと思ったから良い結果だろう。


「次何すればいい?」

「とりあえずアイネは休憩してていいよ。この後もまだ歩くからね」

「りょーかい」


 サンライトを放ち岩石型の魔物に当てていく。すると前回と同じように手足がポロポロと取れていき動けなくなる。


「よし。じゃあ後始末としてホーリースフィア使ってみますか」

「おーがたのには使わなくてよかったの? こーそくできるんでしょ?」

「実戦で使った事無い消費の激しい魔法を迫って来てる大型の魔物相手に使いたくないよ」

「それもそっか」


 ホーリースフィアは単体用の魔法だがフォースと同じように複数同時に発動できる。

 フォースと違うのは使うだけで認識している敵を囲って閉じ込めてくれる。手軽なだけに消費が激しいのも納得だ。

 

「ホーリースフィア」


 唱えると同時に僕が認識していた魔物達を白く光る球体に包まれ宙に浮いた。


「おー」

「浮くんだ。お陰で分かりやすいけど」


 浮いていない魔物もいるのが陰に隠れていて気づけなかった魔物だろう。


「しょーひはどう?」

「やっぱり大きいね。これだけでアースのマナを三分の一も持って行ったよ」

「オーゲストみたいなおーがたが沢山いたらちょっと使えなさそうだね」

「うん」


 現代の人間のマナの限界量は九千前後だと言われている。アースの十分の一にも満たないので総量を限界まで増やしても人間一人じゃ複数相手に使うのは厳しいだろう。


「残ったのはどーする?」

「ホーリースフィアは使わないで核を壊そう。ヒビキ、頼める?」

「きゅっ!」


 ヒビキに後を任せ、アールスの方に視線を向けるがあちらも終わったようだ。

 こうも簡単に倒せると緊張感が無くなってしまうな。もちろん皆無事に倒せる事に越した事はないが。

 しかし、アイネの強さは予想外だった。ほとんど援護もなく大型の魔物を一人で倒せるとは。


「それにしてもアイネすごかったね。あの……オーゲストもどき? を一人で倒せるなんて」

「あー、なんかあれみょーに柔らかかったんだよね」

「柔らかかった?」

「うん。密度が低いってゆーのかな? おーがたの魔物って金属みたいに硬いってゆーじゃん。でも野菜みたいに簡単に切れたんだよね」

「ふぅん……もしかしたら成長途中で身体が出来上がってなかったのかもしれないね。ほら、オーガとオーゲストの中間くらいの大きさだったじゃない……ってアイネはオーゲスト見た事無いか」

「ティタンと同じくらい?」

「そうそう。同じくらい。外に出てた魔素の量は同じくらいに見えたから総量が少なかったんだろうね。前のオーゲストとの差は何なんだろ……潜ってた期間? それとも魔蟲が魔素を食べた所為で溜まらなかった?」

「それ考えるの後でよくない?」

「……そうだね」


 ホーリースフィアの方は小さい下級のゴーラムはすでに終わっていて中級のゴーマはまだ残っている。

 魔物の大きさで浄化時間が変わるのだろうか? 今残っているのは一定上の大きさをしたゴーマだけだ。


 残りのゴーマの浄化を見届けてから僕達はまた南下を始めた。

 足跡のような痕跡は見つからず、地面を掘った魔物が南に向かったという保証はないが他に当てがない。

 アースとヘレンの背にそれぞれに皆別れて乗り急ぐ事にした。

 振り落とされないようにしっかりしがみ付きながらマナを広げ探知を試みる。

 しかし、収穫は無く探索は中止する事になった。

 途中横切った街道まで戻り、そこから西に向かって宿を確保する為村を目指す。

 そして村に着くと村長宅を探すのは他の皆に任せ、僕は念の為に近くの森をマナで探ってから変わった様子がない事を確認し皆の所へ戻る。

 村の倉庫に残っていた食料をありがたくいただき、夕食を作って食事の後皆と今後の相談をする。


「これからどうしようか」

「南下するか東に向かうか西に向かうか……それともこの村を拠点にしてしばらく周辺を調べてみる?」


 アールスが簡単に指針を出してくれる。


「アイネ、東と南の前線はどうなってる?」

「聞いてみる」


 少し待ってからアイネはまだ均衡を保っていると教えてくれる。


「オーゲストが沢山いるから危ないかと思ったけどそうでもなさそうだね」

「サンライトが役に立ってるって言ってたよ」

「それは良かった。この分なら神様の出番はないかな」

「ゲイル達無事だといーけど」

「まだ大森林には着いてないんじゃないと思うよ」


 いくらあの二匹が速くても二、三日で大森林にはたどり着けないだろう。


「でもとちゅーで魔物と会ったりとか」

「距離を考えるとそれも可能性は低いと思うけど……」

「ナス達が遭遇する可能性考えて思ったんだけど、そういえば魔物って眠らないんだよね。そう考えると穴の位置までたどり着くのに三日もかかるって魔物の移動速度遅くない?」


 たしかにアールスの言う通りだ。あの穴の位置から壁まで三日もかからない距離のはずだ。

 人間に見つからないよう隠れて移動したとしてもそんなにかかるとは思えない。


「……移動速度が遅いんじゃなくて見つけるのに時間がかかったのかも」

「確かにそう考えた方が自然ですネ。どうやって見つけたかを考えるト、すごい感知力を持っているよりしらみつぶしで探して運よく見つけたという方が納得できマス」

「でもそーなるとますます魔物のいどー先が予測できなくなるね。元々予測できるものでもない気がするけど」

「うーん……結局は僕達がどうするかは情報もないまま決めるしかないか」

「どれくらいの魔物が壁を越えたんでしたッケ?」

「越えたのは結構いたらしいけど無事なのは三十体もいないはずだよ。後方にも戦える兵はいたからそこからさらに逃げ出せたのは少ないって言ってた」

「三十体未満かぁ。さすがに冒険者だけで探すとなると数が足りないよね」

「ワタシ達もしらみつぶしで探すしかありませんネ。それで結局どうしマス?」

「……南下を続けると大森林まで行く事になるかもしれないんだよね」

「……行っちゃう?」

「僕達の仕事はあくまでも壁を越えてきた魔物の探索だ。さすがに駄目だと思うよ」

「迷走してきましたネ。他の冒険者達の状況はどうなっているのですカ?」

「特に何も見つけられてないみたいだよ。ぼーけんしゃも別に数がおーい訳じゃないから見つけるのは難しーんじゃない?」

「う~ん……」

「……私達全員ヘレンとアースに別々に分かれて動く?

 ヘレンとアースが別々の場所でマナを広げてナギが探知すればかなりの範囲を探れるよ」

「僕とヘレンのマナを合せてもアースのマナで探れる範囲は十倍は違うからなぁ。

 明日のマナの範囲外となると合流するのにも時間がかかるようになる。

 何かあった時に対応が遅れるからやりたくはないかな」

「そっかぁ」

「とりあえず南下しよう。大森林までは行くつもりは無いけど、大森林に一番近い村までは南下する」


 とりあえず何も手掛かりがない。地道に探すしかないだろう。

 それと南に行くにはもう一つ思惑がある。もしもの場合ナス達に助太刀しやすいように南に向かっておきたいのだ。


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