防衛
リュート村とその隣接している森の境目で僕達は今遠くから聞こえてくる爆音と怒声と魔物の咆哮を聞かされている。
リュート村での僕達冒険者の役割は軍と魔物との戦いで村に被害が及ばないように守る事だ。
魔法だけではなく一応戦場から逃れ森から出てきた魔物も対象になる。
一応と言うのは冒険者以外にも兵士さんがちゃんとついていて、主に兵士さんが魔物の対処をしてくれることになっているからだ。
冒険者の本業はあくまでも精霊の膨大なマナや魔法で魔物の魔法を防ぎ村を守る事である。
念のため僕とミサさんは大金槌を武器として持っている。
前見た穴の中の魔物は岩石型の魔物ばかりだったのでこっちの方が有効だろうとグランエルで購入しておいた者だ。
そして、僕達以外の参加者は少なく精霊術士が二人に精霊二人だけだった。
精霊術士は数が少ないからしょうがない。
ちなみにその二人の精霊はサラサ達の知り合いのようでルルカ村にある精霊の森出身の様だ。
説明会で久しぶりに会った時は淡白な反応をしていたが、リュート村までの道中では互いの契約者の自慢話で盛り上がっていたっけ。
魔物の魔法に備えて待機していると森の中からラビィが良く逃げ出そうとしてくる。
森から逃げ出してくる動物への対処はする必要なのだけど、念の為にディアナに頼んで水の壁を作り村の中に入らないようにはしている。
さすがに僕には動物によって村が荒らされるのは見過ごせない。
本当は村よりも畑の方が荒らされたくないのだけど、畑の方までは手を伸ばせないのが歯がゆい。
ヘレンも協力すれば防げる範囲は広がるがヘレンの場合は集中力が問題となって長く展開はできない。
お父さんのいる自警団が残っているから畑は自警団の皆に任せるしかないだろう。
思考を村と畑の方から周囲に戻し辺りを見渡す。
レナスさんとミサさんは精霊達と会話しているおかげかいい感じに気を抜いているようだ。
対してアイネとカナデさんはどうも表情が硬い。緊張しているんだろう。僕もあまり人の事は言えないが。
そしてアールスは……ただ腰に掛けた剣に手を置いてジッと森の方を見て微動だにしない。
緊張している……と言うには雰囲気が異質で不気味だ。
集中しているのだろうか? 確かめようにも声を掛けるのを躊躇わせる圧の様なものがある。
レナスさんもアールスの事を気にしているのか時折アールスの方を横目で見ていて、さらに時々同じようにアールスを見ている僕と視線が合う。
レナスさんもアールスに対して声を掛けづらいと感じているのだろう。どうしようと目で訴えかけてきている気がする。
しかし、集中しているだけなら邪魔するのは不味いのではないか?
「レナスちゃん。森の中十二時半の方向から一体魔物が来るよ」
「あっ、ほ、本当ですぅ! まだ遠いですけどゴーマですよぉ! 核は今の所目視できません!」
アールスが教えてくれた方向を見てみるが言われないと岩石型の魔物であるゴーマが木々に溶け込んでいて見分けられないほど距離がある。アールスはよく見つけた物だ。
ゴーマの核を目視できればカナデさんが弓で射貫く事が出来るのだけど……残念だ。
「吹き飛ばされてきたか戦場が拡大しているのかもしれませんね。ミサさんとナギさんは念の為に守りやすいよう前に出てください。
攻撃は森から出てきた所をまずはナスさんに任せます。……ヒビキさんに任せると森に引火する危険がありますからね」
たしかにナスの雷も引火の危険がない訳じゃないがヒビキよりは低いか。
レナスさんの指示通りミサさんと一緒に盾を構えながら皆の前に出る。
ゴーマは魔法を使ってこないので精霊達が前に出てくる必要はない。仮に魔法を使ってきたとしても僕の今の立ち位置から森までの距離はかなりある。接近されなければ僕が確実に魔法で防げるだろう。
「ライチーさん。電撃の光を防ぐの頼みますよ。精霊術士のお二方は大きな音がするので耳を塞いでおいてください!」
『まっかせて!』
ゴーマは僕達に向かって真っすぐ走って来る。
「ぴー!」
ナスの合図と共に魔獣達と自分の耳の周りの空気を操り音を防ぐ空気の壁を作る。
そして、森から出た所でナスの生み出したサンダーインパルスがゴーマに当たるが少しのけ反っただけだ。
「ひ、表面が少し削れて焦げただけですよぉ」
「ナスさんの雷では威力が足りませんか」
「下手すると僕達の攻撃でも破壊できないかもしれないな」
雷は岩を砕く事が出来ると聞いた事がある。ナスの力はその雷の特性を再現し操る力だ。
サンダーインパルスも普通の岩なら砕く事が出来るほどの威力を持っている。
サンダーインパルスでも破壊できないとなるとかなり頑強だ。
「ならばヒビキさんお願いします!」
「きゅ!」
今度はヒビキのフレイムランスがゴーマを襲い、その腹部に穴を開けた。けれど動きは止まらない。森と僕達の間の中間まで迫っている。
「来させないよ。『大地に喰われ喚け』」
アールスの精霊魔法が発動しゴーマの足元に穴が開き、結果身体が腰の辺りまで埋まった。
そこにヒビキが間髪入れずにフレイムランスをゴーマの真上から叩き込んだ。
岩が解け弾ける音が響く。これで終わりだろう。
あまりの熱量でゴーマだった物の周りの草花が燃えてしまっている。
ファイアランスに直接触れた訳でもないのにこれなのだからもしも森の入り口でやっていたらどうなっていたか。
とりあえず魔法を使って消火しておく。
「カナデさん。他に魔物はいますか?」
「うーん。見える範囲にはいませんねぇ。ナギさんが感知した方がよろしいかとぉ」
「って言われてもオーゲストの魔素の所為で森の中の感知難しいんですよね。まぁやってみますけど」
マナの蜘蛛の糸を使ってみるが大分離れている場所にいるはずのオーゲストの魔素が濃く森の中に漂っていてマナを入り込ませる事が出来ない。
「やっぱり駄目だ。広範囲を探ろうとするとかなりのマナの消費が必要だ。今使えるマナだと多分カナデさんが目視できる範囲と大差ない。もちろん持続時間も短い」
すでに森の外に蜘蛛の糸を張り巡らしている。森の中まで調べようとしたら森の外の蜘蛛の糸の維持が出来なくなってしまう。
「それでしたらやらない方がいいでしょう。感知は森の外だけで十分です。
しかし、それだけの魔素を垂れ流しの状態のままとは。軍が気を引いてくれているおかげでしょうか?」
「多分。前の時も僕達の方には魔法が飛んでこなかったから目の前の敵に集中してるんだろうね」
「やはり兵士さん達って優秀なんですね~」
「馬いないのにどーやって戦ってんだろーね?」
前のオーゲスト戦では馬を使った機動戦を仕掛けていたが森の中では馬は使えないので村に置いて来ている。アイネの言う通りどういう風に戦っているのだろう?
分からないが、そろそろお喋りは終わりにした方がいいだろう。
「分からないけど……お話はここまでにして監視に集中しよう。また魔物が来るかもしれないからね」
「あーい」
「言ってる傍から今度はゴーマが二体来てますよぉ!」
「先ほどと同じやり方で倒しましょう。ヒビキさん、アールスさん準備をお願いします」
「きゅきゅ!」
「こっちはいつでもいいよ」




