お帰り
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします
「調査する地点はまだ残っていますが……」
地中の魔素の濃い原因を調査する為に雇われたので原因が分かった以上は依頼を終了してもおかしくはないのだけど……。
「うん。それは軍の討伐部隊と共に進める事になったんだ。これ以上の調査は民間人だけに任せられないって言われてね。
ジーン君は僕の護衛も兼ねているからまだついて来てもらう事になるけれど」
僕の受けた依頼内容に穴の中に魔物がいた場合は討伐する事になっているが、実は博士の護衛は含まれていない。それはジーンさんの仕事であり、一定の収穫を得られたのでこれ以上僕達がついて行く必要はないという事か。
突然の依頼の打ち切り宣告だけれど、こういう時の報酬についての取り決めは契約の時に済ませているので問題はない。
「そういう事でしたら仕方ないですね」
「うん。ただ軍の方から君に頼みたい事があるみたいでね、話をしたい様だよ」
「僕にですか……」
一体何だろう? オーゲストを討伐するだけなら僕達は必要ないし、穴を掘るのだって土の精霊がいれば問題ないはずだ。
「どうだろう。とりあえず話だけでも聞いてから考えても遅くはないんじゃないかな」
「そうですね。博士の言う通り話を聞いてみます」
「うん。話を聞くのならあそこの伝令兵にまず声をかけて欲しいと言っていたよ」
博士は遠く離れた場所にいる兵士さんを指し示してくれた。
博士にお礼を言ってからまずはアースとヘレンの相手をしてくれていたカナデさんに事情を話し魔獣達の事を頼む。
そして博士が教えてくれた伝令兵さんの所へ行ってみるとそこから部隊長さんの所へ案内された。
そして、部隊長さんと話をしてみると中級者でさらに精霊術士向けにリュート村の防衛の依頼を出すのでそれに参加して欲しいと頼まれた。
どういう事なのかと聞いてみると、リュート村の魔素の濃い場所は森の中にあり、比較的村に近い所の様だ。
僕が試しで穴を掘った場所は森の近くで魔素の濃い場所だったけれど本命の場所ではなかったらしい。
村に近いため万が一にも被害が村に行かないようにマナの量が多い精霊や魔獣に魔物の魔法から村を守って欲しいとの事だ。
もちろん軍からも精霊術士は出したいがすぐに動かせる人材も精霊も今は余裕が無い為万全を期したい様だ。
そういう事なら僕に断る理由はないが念の為他の仲間達の意見も聞かないとけない。
なので部隊長さんの頼みごとに僕は即答する事は出来なかった。
しかし、十中八九受けられるだろうとは答えておいた。
博士とジーンさん達と別れ僕達はアースに乗せてもらいグランエルへの帰路についた。
グランエルに帰るまでの間にライチーを通してレナスさんに軍からの依頼を確認してもらうとグランエルに着く当日の朝に中級の冒険者向けに依頼が張り出されたのを確認した。
依頼の日程も確認してもらい同窓会には影響なさそうな事に安堵する。
さらに別行動していたアールス達も帰って来ていて依頼を受ける事に前向きな事を確認できた。
そして、グランエルの中に入れたのは予定通りの夕方だった。
検問所を通ると待っていた皆がいて僕達を迎えてくれた。
「ナギー、お帰りー」
真っ先にアールスが僕に抱き着いてきた。
「ただいま。久しぶりだねアールス。それと僕からもお帰り。ようやくグランエルに帰って来れたね」
「うん! 他の皆とももう会ったよ。皆おっきくなってて驚いたよ」
「んふふ。皆もそう思ったと思うよ。リュート村にはもう行った?」
「ううん。ナギと一緒の時に行こうと思ってたんだけど……依頼受けるの?」
「うん。受けるつもり。だけどそれは明日かな。さすがに荷ほどきしたら疲れるし」
「それもそうだよね。アースお疲れ様」
アールスが頷き離れ、馬車を引いているアースの方へ向かう。
アールスが離れると間髪入れずにレナスさんが僕の前に出てきた。
「お帰りなさい。お疲れ様です。荷物お持ちしましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう」
荷物と言うのは剣と盾、それに小道具の入った荷物袋の事だろう。
着替えなどのかさ張る荷物は馬車の中に置いてある。
「そうですか。ライチーさんから聞いてはいましたが怪我一つなく安心しました」
「心配させたかな?」
「巨大な魔物が現れたと聞いた時は心臓が止まるかと思いました」
「ごめんね」
「ナギさんが謝る事ではありません。不可抗力と言うものでしょう。……立ち話はこれまでにしてそろそろ預かり施設へ向かいましょう」
「そうだね。ずっとここに居たら通行の邪魔でもあるし行こうか」
再会を喜んでいる他の皆に声をかけて預かり施設に向けて歩き出す。
「こっちで変わった事はなかった?」
「無いですね。こちらは平穏そのものです」
「それはよかった」
「ナギねーちゃんナギねーちゃん」
僕の名前を呼びながらアイネが背後から僕の横に並んで手を繋いできた。
……よく見ればアイネの頭の上にゲイルがのっかっているじゃないか。
「アイネ? どうしたの?」
「依頼について聞きたいなーって。巨大な魔物の話聞かせてよ」
「それは預かり所について荷下ろししてから皆が揃ったらね。魔獣含めて全員とその魔物について話したいんだ」
「そっか。残念。まーいーや。おかえり」
「うん。ただいま」
「あんねー、首都行く前におーとに行ったんだけどさー」
「ああ、行ってたらしいね」
アイネが旅で会った事を話し始めると突然レナスさんが僕の手を取った。
驚いてレナスさんの顔を見上げるがレナスさんは素知らぬ顔で手を繋いだまま歩いている。
手を繋ぎたかったのかな? んふふ、レナスさんもまだまだ子供っぽい所があるんだな。
「あー、ナギ達手ぇ繋いでるー。いいなー。カナデさんミサさん。私達も手ぇつなごー」
「オゥ! いいですヨー」
「ふえぇぇ? 手繋ぐんですか~?」
「カナデさん真ん中ね?」
「ど、どうしてですかぁ? ヒビキさん抱っこしているんですけどぉ……」
「私が代わります」
「あっ、そ、それが目当てですね~!」
「あははっ、ヒビキこっちおいで~」
「きゅ~?」
アールス達も楽しそうだな。




