オーゲスト
魔物の討伐作戦が決行されたのは昼前の早い時間からだった。
その作戦と言うのが穴を僕達が掘り直した後軍が穴の周りに壁を作り穴の中を爆破させるという物だった。
危険という理由で軍属ではない僕達は遠く離れた場所に監視付きで避難させられた。
何度も鳴り響く爆発音に魔獣達が怯えを見せた。
「大丈夫。大丈夫だよ」
特に怖がっているヒビキを抱きしめ慰める。
ナスも怖がっているようで僕に身体を寄せて来た。
ゲイルは僕の頭の乗ってこれぐらい平気さと強がっているが尻尾が僕の首筋を叩いてきて怯えを誤魔化しているように見える。
アースは全く怖がっているようには見えないが、ヘレンが寄り添ってきているのでカナデさんと一緒に相手をしてくれている。
ジーンさんの方を見るとあちらも僕の方とあまり変わらない様子だ。
「ナスは昔前線基地で僕が治療士として働いてた時いなかったんだっけ」
たしか爆発音を聞いたのはヒビキと初めて会ったあの前線基地以来かな。
「ぴー」
「あの時はレナスさんと一緒にいたんですよね~」
「そうでしたね。レナスさんの事守ってくれてたんだ」
「ぴー!」
「んふふ。あの時は本当頼もしかったよ」
そう褒めるとナスが僕の肩に自分の頬をこすり付けてきた。褒められて嬉しがっているんだろう。
「爆発の魔法ってすごいですねぇ。こんなに離れてて、しかも壁に囲まれていても音が聞こえるなんて~」
「僕としてはどういう運用をしてるのか気になりますね。魔素が濃いからどれだけ深くまで魔法の攻撃を届かせられるか」
「ちゃんとあの巨大な魔物を倒せるか心配ですねぇ」
「ええ」
しかし、そんな僕達の心配も杞憂となって終わった。
軍の作戦行動は昼すぎまで続いたけれどどうやったのか魔物のせん滅を確認したらしい。さすがはプロだ。
この後僕達は博士達が戻って来るのを待ってから次の調査地点に魔物討伐部隊と一緒に向かう事になった。
どうやら次の調査地点でも魔物がいた場合、その存在の確認と討伐を行う為らしい。
そして、三日かけて二つ目の調査地点に付き、調査するとやはりそこでも巨大な魔物がいた。
しかも最初に見た魔物と同じ種類の様だが大きさが違い一回り大きかった。
ここでは完全に魔物の対処は軍に任せる事になった。
またしても僕達は遠くで兵士さん達が戦う所を見ている事になったのだけど、今回は巨大な魔物も地上に出て来て討伐部隊と戦っている。
いつでも加勢できるように準備はしているがライチーが映し出してくれている映像には討伐部隊が終始優勢に立って巨大な魔物と戦えている。
馬を使い徹底的にかく乱しながら武器で足首を削っている。ティタンと違って武器で肌を傷つけるのは可能なようだ。
むしろ問題そうなのは穴から出てくる魔物達か。
今は部隊を分けて抑え込めているが、こちらは少々辛そうに見える。
落とすだけなら爆発魔法を使えばいいのだけど、それを邪魔しているのが巨大な魔物だ。
膨大な魔素を穴の上に毒の霧と共に待機させこちらの魔法を妨害し、さらに戦っている最中に穴を担当している部隊に向かって掘った際に出た岩を投げつけている。
巨大な魔物を相手にしている部隊が優勢に立てているのも妨害に手間を取られているからだろう。
僕達と一緒にいる連絡兵さん達には焦りの顔が見られないので穴からの魔物の抑え込みが辛いのは予定通りなのだろうか?
連絡兵さん達とは状況が状況なだけに話すことは出来ないが、話す言葉から巨大な魔物の名前が分かった。
オーゲストという名前らしく、どうやらオーガが進化した魔物のようだ。
名前がついているという事は新種ではないという事なんだろうけど、僕達が習った教科書には載っていない名前だ。
「あの巨大な魔物オーゲストっていう名前らしいですけどカナデさんとジーンさんは知っていますか?」
「私は知らないですねぇ」
「名前だけなら聞いた事あるわ。そう……あの魔物がそうなのね。
たしか十年前くらいから見るようになったっていう魔物ね。十年前に前線基地の壁を破壊したのもオーゲストの仕業だっていう噂も聞いた事があるわ」
「オーゲストが?」
昔の事を思い出し自分の身体が強張るのを感じる。
あいつがいたからアールスの小父さんが死んだのかもしれないっていうのか?
「実際はどうなのかは分からないけどね。噂よ噂」
「そう、ですか」
「それにしてもオーゲストが連続で見つかるなんて魔物達は狙ってたんですかね~」
「確実に魔人の策略でしょうね。きっと地中のオーゲストが育ちきる頃になったら一気に地上に出すつもりだったんでしょう」
「その時期に合わせて魔物の大軍が押し寄せてきたら危なかったですね」
「はわわっ、そうなってたら大事ですよぉ」
「そうね。早く見つかってよかったわ。
でもこうなるとリュート村近くの魔素溜まりも気になるわね。グランエルにも近いし至急再調査する必要があるわ」
「ちゃんと最後まで調べた方が良かったですかねぇ?」
「それはないわ。あの場所は村に近すぎるから何かあったら大損害を被るのはリュート村よ。
あの時点では村人を避難させられていなかった。
万が一の事を考えたらあの時点ではやめておいて正解だったわ。
もっとも、ナスちゃんがいれば被害なく倒せるかもしれないけれどね」
「さすがに倒せたとしても何の準備もなくオーゲストを出させるのは恐ろしいですよ。魔法も使うみたいですし無力化する前に魔法を使われたらどんな被害が出るか……」
「た、たしかに大規模な魔法を使われたら大惨事ですねぇ」
討伐部隊はオーゲストの気を散らして大規模な魔法は使えないようにしているようだけれど簡単な魔法の発動は防げていない。
精霊が盾になってオーゲストの魔法を防いでいるから兵士さん達に被害はないが僕達だけだとどれだけ防げるか分かった物じゃない。
そう考えるとティタンは魔法を使わないからやりやすかった所があったのかもしれないな。
オーゲストは見事討伐部隊が倒す事に成功した。
そして、討伐部隊がオーゲストを討伐した後の休憩中突如兵士さん達が慌ただしく動き出した。
どうしたのかと思いながらナスと一緒に眺めていると博士が呼び出された。
そしてしばらくしてから戻ってきた博士は難しい顔をしながら僕との契約を終了させる事を告げてきた。




