僕の妹だ!
特別授業の時間が終わる前に先生方は子供達をもう一度まとめて列を作って校舎へ帰って行った。
休憩時間に自主的に帰そうとすると休憩時間が終わっても教室に戻ってこない子が出てくるかもしれないからそうならないようにまとめて戻す事にした様だ。
ルゥはナスから中々離れようとしなかったので僕が説得しようとしたら先にナスに説得されてしまった。……ルゥのお姉ちゃんは僕なのに。
子供達がいなくなった後ナスにルゥが離れなかった理由を聞いてみると、特別授業が終わったらまた長い事会う事が出来なくなりそうだったのでその寂しさから来た行動だったようだ。
そしてその際にナスはルゥにお昼ご飯を一緒に食べようと約束したらしい。
ナスは本当にルゥから好かれているな。嫉妬してしまいそうだ……じゃなくて本当はこういう約束はルゥが相手でもしない方がいい。一度前例を作ってしまうと次からルゥ以外の子供達とも約束を望む子が出てきりが無くなってしまう。
ナスにはルゥが相手であろうとうかつに約束しないようにときちんと注意しておく。
ルゥの事はとりあえず置いておいて休み時間の間に皆に今の授業の感想と反省を次の授業に生かす為に聞いてみる。
すると一番多かった反省点が人数の多さで出た問題だった。
はい。人数を把握してなかった僕が悪かったんです。
次の授業は六年生で、昔特別授業を受けた事のある学年だ。なので人数把握は問題ない。
しかし、四年生以下の人数把握はしておかないといけないだろう。先生方に聞いておかないとな。
感想に関してもやはり人数が多くて大変だったという意見が多かった。特に話せる上に人当たりの良くルゥにしがみ付かれていたナスは沢山の子供と話せて楽しかったが疲れてしまったようだ。
次の授業では休んでてもらおうかと提案したがナスはちょっと休めば大丈夫だと言って反対した。
そこでレナスさんがナスとヒビキとゲイルは固まってもらって子供達の興味をすぐにナスから移せるようするという案を出してくれた。
さっきの授業では人数が多かったので子供達を一ヵ所に集めないようにしたけれど、次の六年生は三年生の半分以下の人数だ。
子供達が集まってもヒビキとゲイルがナスを助けてくれるなら負担はぐっと減るだろう。
それにナス達を一緒にしてもアースとヘレンがいてくれるので一ヶ所に全員が集まるという事はないはずだ。
遊具のようになっていたヘレンの負担の方も気がかりだ。
しかし、ヘレンは全然平気だと言い、さらにそれを証明するかのように自分の周りの水をぐにょぐにょと動かす。
水はずっと出したままにしておくのだろうか? いや、いちいち授業毎に出しては処分するのも面倒だし別にいいのだけど。
それにヒビキが水に乗っかり楽しそうに揺られているので維持してもらったままでいいだろう。
そして、休み時間が終わると六年生達が三年生達と同じように列を作って校舎から出てくる。人数は三年生の半分位か。
僕が学校を卒業した後入学した子達で特別授業も二、三回くらいしかやってないので公園に来た子達以外は顔を覚えている子は全くいない。
けれど子供達の方は魔獣達の事は覚えているようで小声ながら久しぶりに会えた事を喜ぶ声が聞こえてくる。
皆の事を覚えてくれていて嬉しいな。
子供達が先生に叱られ静かになった所で三年生にしたのと同じように自己紹介から入る。
さすがに僕の事は覚えていないようで魔獣達と比べて反応が薄い。
けどいいのだ。特別授業の主役は魔獣達。魔獣達の事を良く知ってもらうのが目的なのだから。
……まぁルゥにかっこいいお姉ちゃんとして見られればそれが最高なのだけれど。
初日の特別授業をすべて終えると同時に子供達はお昼休みに入った。
丁度お昼の時間なので僕達も昼食にする事になるのだが、ナスがルゥとお昼の約束をしている。
元々ルゥと一緒に食べる予定はなかったけれど授業はお昼まである事は決まっていたのできちんとお弁当も用意してある。
校長先生に校庭で生徒と昼食を取る許可をきちんと取ってからルゥを待っていると先に出て来た他の子達が魔獣達に気づいて寄って来てしまった。
だが予想通り。子供達にはこの場でお昼ごはんを食べるので魔獣達との触れ合いはやめてもらうようにと頼む。
そうすると大抵は離れて行くが中には一緒にお弁当を食べたいと言い出す子も出た。そういう子には先約があるのでナスの傍は空けてもらうようにとも頼んでおく。
そして、そうこうしている内にルゥもやってくる。
友達とやって来たルゥは魔獣達の傍に上級生がいる事に緊張したのか少し足を止めたがすぐにナスの元へ近寄る。お姉ちゃんもいるんだよ?
……とりあえずルゥも来たので魔獣達に器を配りマナポーションで中を満たす。
ルゥ以外の子供達から魔獣達のご飯はこれだけでいいのかと疑問の声が上がるのできちんと説明しておく。
魔獣は基本的に食事を取らない。魔獣は空腹を覚えないし特有の臓器を使って魔素やマナを変換させて身体の栄養を補うので外部から栄養を取る必要がないんだ。
ちなみに魔蟲は変化する前の行動をそのまま変化後も取り続けるので食事をするが、魔蟲も本来は食事を取る必要がない。
だけど気を付けて欲しいのは空腹にならないからと言って魔獣に友好的に接しようと無闇に近づく事だ。
動物が人を襲うのは空腹で餌を求めるからだと学校では習う。間違いではないがそれだけじゃない。縄張りや身を守る為だったり狩りの練習として弱い物を狙いいたぶる動物もいる。
そこら辺は魔獣も変わらない。不用意に魔獣達の領域に入ろうとしたら襲われてもおかしくないのだ……と大森林で暮らしていたゲイルが教えてくれた。
話の内容の所為で空気が重くなってしまったがそれを僕が率先して払しょくする為に明るい話題を提供する。
魔獣は空腹を感じないと言っても全く食事が出来ない訳じゃない。
魔獣達の好きな物を子供達に教える。すると自分のお弁当箱の中に魔獣達の好きそうな物が入っていた子供が魔獣達に食べさせようとするではないか。
おかずを差し出された魔獣達は許可を求めるように僕を見てくる……ヒビキだけは食べようとしてカナデさんに止められているけれど。
一応人が食べる物は一通り試して問題がない事は分かっているので身体の小さなヒビキとゲイルには食べさせ過ぎないようにとだけお願いしておく。
そしてご飯を食べ終わった後に一つだけ皆に忠告しておく。
それは魔獣は食べられるものが多いけれど普通の動物には人が食べる為に調理された物は食べさせない事だ。
人が食べられる物でも他の動物が食べたら毒になってしまうものがある。その逆に動物が食べている物が人間にとっては毒だったという事だって考えられる。
なのでむやみやたらに人間の食べ物を食べさせたり、動物が食べている物をまねして食べてはいけないよと教え諭すと子供達から分かったと元気な返事が返って来た。
皆分かってくれたようで何よりだ。
そして、食べた後の片づけが終わり食休みの時間になるとルゥがナスから離れ僕の元へやって来た。
「ナスとはもういいの?」
「うん。次はお姉ちゃんと」
「!?」
僕に……番が回って来た……だと?
ルゥは座っている僕の横に座り身体を寄せてくる。なんだこの……この……この愛くるしい生き物は? 僕の妹だ!
「お姉ちゃん今日はいつまでいられるの?」
「休み時間の終わりまではいられるよ」
「じゃあもうすぐ行っちゃうんだ。明日もこうやってお昼にここにいる?」
「そうだね。いると思うよ」
「そっかぁ……じゃあ明日はお姉ちゃんとお昼食べる」
「……」
……はっ!? いかんいかん。あまりの嬉しさに今息が止まっていた。
落ち着け。ゆっくり呼吸をするんだ。
「ごめんね約束は出来ないんだ」
「えっ、どうして?」
「僕は先生として来ているからね。生徒一人だけがいい思いする様な約束は出来ないんだよ」
「……そっかぁ。駄目なんだ……」
ルゥの顔が悲しげに曇る。僕を殺してくれ。
「や、約束できないだけだから。明日もちゃんとここにいるよ」
「本当?」
「本当だよ」
「よかった。お姉ちゃん旅のお話聞かせて?」
「いいよ」
何から話そうか。ヘレンに関する話は公園でしてしまったんだよな。
グライオンでの食事でも話そうか。




