優しくてかわいいは最強
通された応接間で先生に長椅子に座って待つように言われいう通りにする。
そして、先生が部屋を出て一分もしないうちに扉を叩く音が聞こえてすぐに扉が開いた。
椅子から立ち上がり入ってきた人達を迎える。
最初に入ってきたのは案内してくれたフォンディーヌ先生で、その後ろに隠れるようにいるのがルゥだった。かわいい。
しかも僕が作ったナスのぬいぐるみまで持っているじゃないか。かわいい。
「ルゥ! 久しぶりだね」
声をかけると驚いたのかますます先生の後ろに隠れてしまった。かわいい。
先生は苦笑しながらルゥを前に出そうとする。
「ほらルイス、お姉さんよ」
「ん……」
ルゥは先生に促されようやく前に出てくる。緊張しているようで表情が硬くかわいい。
「お姉ちゃん……久しぶり」
ぺこりと頭を下げるがぎくしゃくとしていてかわいい。
「うん。ねぇルゥ」
「何?」
「抱っこしてもいい?」
「わたし子供じゃないよ」
ルゥは機嫌を悪くしたのか可愛らしい眉をしかめる。かわいい。
「ルゥが子供だから抱っこしたいんじゃないよ。ルゥの成長を確かめたいから抱っこしたいんだ」
「ん……だったら……いいよぉ?」
照れているからなのかそれとも緊張しているからなのか声が上ずっている。かわいい。
「じゃあ行くよ」
ルゥに近づき優しく……壊れやすい物のように優しくさわり、抱きしめビックリしないようにゆっくりと持ち上げる。
重たくなった。大きくなった。
「大きくなったね、ルゥ」
赤ちゃんの頃は腕の中に納まるほど小さかったルゥが今では収まりきらない程大きくなっている。
ルゥの温もりと重さと柔らかさ、全ての感覚でルゥの事を確かめる。
そして、確認が終わるとルゥを降ろし椅子に座ろうと促す。
僕が長椅子に座るとルゥは対面の長椅子にではなく隣に座って来た。かわいい。
「元気そうでよかった。学校や寮での暮らしはどう? 楽しい?」
「うん。楽しいよぉ?」
また声が裏返ってる。かわいい。
「んふふ。もう緊張しなくていいんだよ?」
「むぅ……ナスいないの?」
緊張を解くにはナスの話した方がいいかな?
「ナスは預かり施設にいるんだ。さすがに寮に無許可で魔獣を入れる訳にはいかないからね」
魔獣というか動物だけれど魔獣と言った方が納得しやすいだろう。
「そっかぁ……」
「ルゥが次の学校がお休みの日に近くの公園にナスを連れてくるよ。その時まで我慢してね」
「ナスに会えるの!?」
「んふふ。当り前じゃないか。ナスもルゥに早く会いたがってるよ」
「ほんと? ほんと?」
緊張気味だったルゥはどこに行ったのか嬉しそうな顔をして僕の腕を掴んで揺すって来る。かわいい。
「本当だよ」
掴まれてない方の腕を動かしルゥの頭を髪が乱れないように優しく撫でる。
「わたしもナスに会いたい」
そう言って僕の腕から手を離しナスのぬいぐるみを抱きしめる。かわいい。
しかし、すぐにルゥの表情が暗い物へ変わってしまった。
「ど、どうしたのルゥ?」
「お姉ちゃん。ナスからのお手紙はナスが書いてるんだよね?」
「あぁ……」
これは友達に何か言われた奴か? 動物が字を書くって普通は信じないよね。
「もちろん。ナスが書いてるよ」
「でもナスの手じゃ筆持てないよ?」
「んふふ。ルゥ、しっかりと見ててね」
僕はマナを操り色のついた光を生み出し文字を生み出す。
「まほう……?」
「これはただの光だけどナスはマナでインクを操って文字を書いてるんだ」
そう答えながら生み出した文字の形を崩し別の文字に何度も変化させる。
「ナス魔法で字を書いてたんだ!」
納得したようで暗い表情から笑顔へ早変わりした。かわいい。
「そうだよ」
「じゃあお話しできるのも魔法?」
「魔法で話す事も出来るし固有能力を使って話す事も出来るよ」
そう答えるとルゥは満面の笑みを浮かべた。かわいい。
「早くナスに会いたいなぁ。ナスだけじゃなくてヒビキとゲイルとアースにも会いたい!」
「んふふ。皆会えるのを楽しみにしてるよ」
「ヘレンっていう子もいるんでしょ? ナスのお手紙にアースと同じくらいおっきいって書いてあったよ」
「そうだよ」
「あのね、ナスの手紙に書いてあったの。ヘレンは優しすぎて身体が大きな自分が小さなナス達の事を傷つけないかっていつも怯えてるって。私も会ったら怯えさせちゃうかなぁ?」
まだ会った事のないヘレンの事を気遣うとはなんて優しい子だろう。優しくてかわいいとか最強か?
「そうだね。きっとヘレンはルゥが近くによると傷つけないように動かなくなるだろうね。
けどそれは人と暮らしていくには必要な臆病さなんだ。
考えてごらん。もしも人を傷つける事を何とも思わないで好き勝手動き回る大きな動物が街にいたとして人々はどうすると思う?」
「んと……遠くに逃げる?」
「うん。きっと怖くて近寄らないだろうね」
もしくは排除されるか、だけれど……それはまだいいか。
「けどヘレンは寂しがり屋なんだ。他の生き物と触れ合いたいんだよ。
だから怖がられないように、自分の周りから誰もいなくならないように臆病になる必要があるんだ」
「でも怯えさせるの可哀そうだよ?」
「ルゥは優しいね。そうやって相手の気持ちを考えられるのはとてもいい事だよ。
けど怯えさせるからって遠ざかってたら怖くて逃げだすのと状況は変わらないんだ。結局ヘレンの周りには誰もいない事になる。
ヘレンと仲良くしたいのなら僕達の方も勇気を出さないといけないんだよ」
「ゆうき……」
「と言ってもちゃんと近づく方も注意と警戒を怠ったら駄目だよ。ヘレンだって生き物だ。何か失敗をしでかして相手に害を与えてしまうかもしれない。
その失敗を無くす為にヘレンは頑張るけど僕達の方も傷つかないように頑張らないといけないんだ」
「うー……なんだか大変」
「そう、大変なんだ。違う生き物同士が暮らしていくっていうのはお互いに油断できないんだ。
これはヘレンだけの話じゃない。
体格差で言えば逆の立場にあるヒビキとゲイルだって気を付ける必要があるんだよ。このふたりは小さいからね。僕達が力加減を間違えると大怪我してしまう可能性があるんだ」
「んと……私もヘレンみたいに気を付けないと駄目って事?」
「うん。後ナスの角も気を付けないとね。ナスも気を付けてるけど絶対に正面から駆けよっちゃ駄目だよ。もしも角で人を傷付けてしまったらナスは悲しむからね」
まぁさすがに街中に連れ出す時は角に被り物を着けさせるけど。
「やらない!」
「約束だよ?」
「うん。約束する」
ルゥが力強く頷いてくれる。かわいい。
っと、ちょうどその時扉を叩く音がしてきた。
視界にルゥしか入ってなかったから忘れていたがいつのまにかフォンディーヌ先生がいなくなっている。
お茶とお菓子をお盆に乗せて運んできたフォンディーヌ先生が入って来た。
どうやらお茶の用意をしてくれていたらしい。
いくらルゥに気を取られていたとはいえ先生の事を忘れるなんて失礼な事をしてしまった。反省しなくては。
とりあえずルゥとのお話は中断しお礼を言ってお茶をいただこう。




