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北の遺跡でⅢ その2

 護衛と言っても四六時中護衛対象に張り付いているわけじゃない。

 普段は護衛対象の仕事場や寝泊まりしている天幕の傍に設置された天幕で待機したり、天幕の周辺を見回ったりする。

 ついでに荷物運びなどの雑用を任される事もある。


 遺跡に行く時は当然護衛としてついて行くのだけど、治療士が一緒について行く場合は学者さんとその護衛の人数の関係上治療士の護衛が付く事になる。

 学者さんは十人に対してその護衛は二十人。

 治療師は二人に対して十人と、一人当たりの人数では治療士の護衛の方が多く、学者さんの護衛は少ないのだ。

 学者さんは全員が一緒になって動くわけではない。なるべく固まって動くようにはしてもらってるけれど、それでも調査の為に別れてしまう事は多々ある。

 それでも護衛の割合が治療士の方が多いのはそれだけ治療士が重要だという事だろう。


 三ヵ月目ともなると遺跡の調査も一段落ついて調査で得た資料の整理が主になって遺跡に行く事は少なくなるだろうと前任の冒険者さんから言われた。

 さらにその分雑用が増えるだろうとも付け加えられ同情の目を向けられていたのが複雑な心境だ。


 護衛をしつつ雑用をこなす日々が一週間続いた所で複数ある冒険者の一団のまとめ役や個人参加の冒険者に招集がかかった。

 集めたのは冒険者を管理しているいつもの士官ではなく遠征軍全体をまとめている上級士官だった。

 わざわざ上級士官が出るという事はこれは重大な話か、と僕を含めた冒険者達がざわつく。

 そして、話が終わった後知り合いの冒険者と少し話をしてから皆が待機している天幕へ戻った。


「ただいま」

「お帰りなさいナギさん……何かありましたか?」


 出迎えてくれたレナスさんが僕の様子に気づいてくれたようだ。


「皆は……いるね」


 ちょうど護衛の時間ではなかったようだ。

 ヒビキが別の一団の女性冒険者と戯れているが、一緒に戻って来たその女性冒険者の一団のまとめ役が呼びかけをするとヒビキを僕達の元へ戻してくれた。


「僕から話があるから皆集まって」


 そう言うと皆すぐに集まってくれる。

 アースとヘレンはこの場にはいないから後でまた僕から話す必要があるな。


「なになに? 何かあったの?」

「うん。軍の斥候が西から魔物の大きな群れを発見したんだ。上級の魔物はいないようだけど中級の魔物が多いみたい。

 群れのここへの到着予測日数は三日。

 トロールみたいな大型の魔物がいないからこの駐留地を防衛拠点にして守りを固めるらしい。

 それに伴って遺跡への立ち入りも禁止されて僕達冒険者は護衛対象をいつでも逃がせられるように準備しておくようにだって」

「逃亡ですか? 防衛拠点にするのでしたら囲まれてるでしょうし逃げにくいような……」

「いざという時は軍が道を作るみたいだよ」

「うーん。それをするぐらいなら今の内に逃がした方がいいと思うのですが」

「負けるとは思ってないみたいだったね。逃げる準備も本当に万が一を考えてみたいだし」

「遺跡の方から魔物がやって来るという事はないのですカ?」

「今の所その可能性は低いと考えてるみたいだけど、遺跡の方への監視も精霊に頼んでやってもらってるみたい。

 もしも遺跡から魔物がやってきたら僕達冒険者に相手をして欲しいそうだよ」


 精霊は魔素が濃い地域だとマナを広げにくくなり知覚できる範囲が狭くなる。

 けどそれでも人間がやるよりは安全なので精霊に偵察をさせている様だ。

 それに精霊は魔素の動きを感じ取る事が出来るので実際に視認できなくても大きな魔素の動きがあればわかる。

 大きな魔素の動きさえ察知できれば後は人間の斥候が実際に確認すればいい。


「えっ、ぼーけんしゃにって誰が指揮とるの?」

「もちろん軍の人だよ。って言ってもどうせ統制なんて取れないだろうからって担当区域を決めてあとは冒険者に丸投げするみたいだけど」

「うーん。そっちのほーがましなのかな?」

「情報位はきちんと欲しいよね。去年も魔物の襲撃あったんだよね? その時はどうだったの?」

「去年は軍がここを出て戦いを仕掛けたので状況が違いますが、冒険者に出された指示は似たような物ですね」

「担当区域って決まってるの?」

「一応仮配置は事前に決まっているらしいよ。魔物の動向やらなんやらで変わるかもしれなくて、明日の朝までには本決定を出したいから戦力の情報を改めて紙に書いて提出して欲しいんだって」

「戦力のじょーほーってたしか依頼受ける時にナギねーちゃんが書いた奴だよね」

「そうだよ。ただ今回は体調不良の人とか武具が不調になってしまったとかの情報を主に集めて欲しいんだって。皆今は体調不良になってたり装備が調子悪かったりしてない?」


 聞いてみるが皆首を横に振り問題なさそうだ。


「問題なさそうだね。じゃあアースとヘレンにも話をしてくるね」


 何事も無ければいいのだけど。




 事態に変化が起こったのは魔物の群れ発見の情報を知った翌日の朝、担当区域が発表される場でそれは知らされた。

 山の方から大きな魔素の揺れを感じたと報告があったらしい。詳しい事は人間の斥候からの情報待ちだが撤退も視野に入ったようだ。


 続報が入ったのが意外と早く昼過ぎだった。

 山では大型の魔物は確認できていないが下級の魔物が多く発生していて遺跡の方へ移動している事が確認されたそうだ。

 その確認できた魔物の群れの内訳の大多数が液体の魔物ウィタエだという報告があり、山の向こう側にある海から発生した魔物ではないかと考察されていた。


 海からの魔物の大発生はアーク王国やイグニティで幾度も経験していて、千年前の魔物の大進攻も海から発生したのではないかと考えられている。

 思えば去年ティタンが現れたのも大発生の前兆なのかもしれない。

 大発生の周期は大体二十年前後だと言われているが、山の向こうの海で南の海と同じ条件で大発生が起こるかは分からないのだけど。


 もしも同じだとすればまずい事がある。ウィタエの大量発生の後にティタンの大量発生が待っているらしい。

 ティタンが山越えできるかは分からないけれどウィタエの大量発生があった後大体数時間後にティタンが姿を見せるんだとか。

 とはいえいくら険しく標高の高い山といえどもさすがにティタン程大きな魔物が大勢降りてきたら目立つだろうから分からないという事はないと思うが。

 本当に魔物の大発生だったとしたら撤退すると思いたいけれど、ティタンや中級以上の魔物を確認できていないからまだ撤退はできないかな。


 疑念点は他にもある。西から来る群れと時を合せてやってきたのは偶然なのか?

 魔物は力と数の暴力は得意だが、目の前の事に対処する短期的な視野は悪くないけれど長期的な視野と思考できるだけの知能を持っていないとされている。

 だから山を越えて味方と時を合せて襲撃しに来るというのは魔物には難しいように思える。

 偶然ならいいがもしも魔物を指揮する存在……魔人のような知的生命体が魔化したモノがいるとしたら。

 真実がどんな物でも今年は貧乏くじを引いてしまったな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >魔物群れ  まものむれ  あまり知らない書き方で、なんか音の流れが詰まって読めます。  魔物“の”群れ  魔物群(まものぐん)  どっちかの方がしっくり来るかな~と思います。…
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