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お帰り

「ただいまー!」


 自室で皆の予定の確認作業をしていると玄関からアールスの元気な声が聞こえてくる。

 中級試験でドサイドまで行っていたアールス達が帰って来たんだ。

 作業の手を止め、部屋を出て玄関まで行き迎えに行く。


「二人ともお帰り」

「ナギだーただいまー」

「ただいまー」

「他の皆は?」

「皆出かけてるよ。レナスさんは図書館、ミサさんは教会、カナデさんは組合の訓練施設」

「そっかぁ。ナギは何してたの?」

「皆の予定の確認をね。それより疲れたでしょ。僕が荷物運ぶから二人は先に部屋に戻って休みな」

「私は全然大丈夫だけど……アイネちゃんは疲れた?」

「疲れたー」

「んふふ。じゃあ荷物は僕が運ぶから貸して」

「ありがとー」


 アイネから荷物を受け取る。


「アールスも荷物はここに置いとけば後で僕が運ぶよ」

「やだー。ナギのエッチー」

「なんで?」

「荷物届ける時に私の着替え見るつもりでしょー」

「そんな訳ないでしょ。そんな知識どこで得たの」

「向こうで買った本」

「いかがわしい本?」

「普通の冒険譚だよ。主人公が何でか行く先々でエッチな出来事に会うけど」

「十分いかがわしい類の本だと思うけど……まぁいいや。アイネ、行こう」

「んー」


 アイネの返事に張りがない。本当に疲れているんだろう。

 そんなアイネと違って元気そうなアールスは荷物を降ろすつもりはなさそうだ。


「それで試験はどうだった?」

「無事合格したよ。楽勝だった」

「そーだ! きーてよねーちゃん!」

「ん? 何?」

「魔のりょーいきでアールスねーちゃんに魔物全部倒すまで待たされたの!」

「え。あの試験って数体倒せば終わりだよね」

「魔物はせん滅しなきゃ駄目なんだよ?」


 魔物をせん滅した事に問題があるのかと言われると特に問題ないはずだ。

 そもそも魔の領域の魔物は濃い魔素の所為で無限沸きするからいくらせん滅しても時間が経てばまた現れる。

 そして魔素に侵された土地の浄化はアールスには出来ないはずだから浄化までは行ってない……だろう。


「あたしはさっさと帰りたかったのにさ!」

「どれぐらいかかったの?」

「一時間ぐらい」

「おかげでお昼ご飯遅くなったんだよ」

「お弁当用意すればよかったね」

「ちなみに土地の浄化はしてないよね?」

「さすがにそこまではやらないよ。魔素が無いとマナが増えないもんね」

「よけーな時間を使わされたあたしに対しての弁明は?」

「余計な時間なんてないよ。魔物はせん滅しなきゃ駄目なんだから」


 アールスにふざけている様子はない。本気でそう思ってるんだろう。


「魔の領域のは一応管理されてるからせん滅する必要はないんだけど……まぁアイネの承諾なしに動いて待たせたっていうのは少し問題かもね。ちゃんとアイネにも事前に話しておかないと。あと同行したはずの試験官さんにも?」

「えー?」

「アールスにとっては魔物のせん滅は当然の事かもしれないけど少なくともアイネにとっては違ったんだ。次からは気を付けないとね」

「うー……たしかにそうだね。アイネちゃんごめんなさい。時間がかかりそうな時はきちんと言わないと駄目だよね」

「……まぁ別にあたしも本気で怒ってたわけじゃないけどね」


 アイネがそう言うと同時にアイネの部屋に着いた。


「じゃああたしはこれで」


 アイネは扉を開けて部屋の中に入って行く。

 荷物を置くために僕も続きアールスと別れた。

 部屋の中に入ったアイネは早速椅子に座って休んでいる。


「荷物はどこに置く?」

「そこら辺に置いといて」


 とりあえずベッドの近くに置いておく。


「ねぇねーちゃん。アールスねーちゃんってさ」

「うん?」

「やっぱ魔物を憎んでるのかな」

「多分ね」

「そっかぁ……魔のりょーいきに着く前も着いた後も変わったよーすなかったんだよね。だから、さっきのアールスねーちゃんの考え聞いて驚いたんだ。

 あたしも別の魔物に対してよーしゃするつもりは無いけどさ、なんてゆーか……危ない感じ? 目的の為になんでもしちゃいそうな危うい感じがしたんだよね」

「アイネの懸念も分かるけど、何でもはさすがにしないと思うよ。じゃなかったら反省なんてしないよ」

「うん……そーなんだけど、そーじゃなくて……なんて言えばいいのかな」

「自分の身を顧みなさそう?」

「そーそれ」

「うん。そういう所があるよ。そしてアールス自身も自覚してる」

「そーなの?」

「アールスの固有能力について話してなかったっけ?」

「どーだっけ? ブレイバーだよね?」

「うん」

「くわしーのーりょくはきーてないと思う」

「そっか……詳しい事はアールスに聞いた方がいいね」


 今までアールスの個人的な事だから僕から皆に詳しい事を話すのは控えて来たけど、壁の外に出るなら皆にきちんと伝えた方がいいかな。アールスと相談しておくか。


「少しだけ言うとね、アールスは固有能力の所為で恐怖を感じにくい体質になってるんだ」

「きょーふを? えっ、それってだいじょーぶなの? むぼーに突っ込んだりしない?」

「さすがにしないとは思うけど……でも判断を間違える事を自分でも懸念してるね」

「気を付けてるならだいじょーぶなんじゃないの?」

「どうだろうね。僕はアールス本人じゃないからそこの匙加減は分からないよ」

「そっかぁ。ナギねーちゃんはどー思ってるの?」

「恐怖っていうのは安全装置の為にあると思うから心配だよね。とりあえず知識と経験を積んで何が安全で何が危険なのかを学んで意識できるようにする事が重要だと思う」

「まぁそれしかないよねー」


 朝の訓練なんかもその一環だ。皆の実力を把握してもらって何が出来てどこまでやれるかが分かれば押引きの判断は出来るようになるだろう。

 知識と経験は恐怖の代わりに安全装置になるはずだ。

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