十一月最後の日
十一月最後の日、今日は雪は降っているが吹雪ではなく外に出られる天候だ。
しかし、僕達は外に出る事なく十一月最後の日を会話型幻想遊戯で遊ぶ事となった。
今日の管理者はアールスだ。
アールスの作る話は僕の物とは違い架空の世界の架空の都市で起こる事件を解決するという都市物語だ。
建物とかの建築様式は僕達に想像しやすいようにアーク王国と同じくしているが生活様式はミサさんに手伝ってもらい東の国を元にしているようだ。
例えば神聖魔法は高位の魔法どころか中位の魔法すら覚えている人は滅多におらず、遊ぶ側も神聖魔法の習得に制限を受けている。
そのおかげで魔法を使って事件を調べる事が広まっていないので調査して推理する事が多くなる。
身分制度もあり都市に立ち入れない区画で自由に動けなかったり権力による横暴なども話に盛り込まれている。
僕達が東の国々をする時にこのような貴族の横暴にさらされたらどうすればいいのか、考えさせるようにしているのかもしれないな。
実際は外国人は貴族と出会う機会が少なく、会ったとしても普通は戦争を起こす気がない限りは理不尽な目には合わないと言う。
特にミサさんの故郷であるヴェレスは恐れられているらしくヴェレス人に関わろうとする知識層は少ない様だ。
しかし、なるべくアーク王国と国交のある国を通った方がいいだろう。
今日の話は商人から護衛依頼を受ける所から始まった。
僕達は冒険者としての名声が高まって来た事によって商人から依頼が来るようになったようだ。
そして、その護衛依頼を出した理由というのが命を狙われているからだとか。
冒険者に個人的な護衛依頼を出すのはこっちでも東の国家群でも変わりない様だ。
というか東の国家群では常備軍を持ってる国が少ないのでこういう貴族以外の護衛の仕事は冒険者がやるのが常識らしい。
三ヶ国同盟なら一応命の危機があると分かれば衛兵が動くのだけど……。
アールスの作る話でも兵は貴族や街や都市の治安維持のため以外には動かないようだ。
こうして遊びながらも他の国の常識を学べる幻想遊戯を買って本当によかった。
まぁ学べるのはミサさんのお陰ではあるが。
黒幕を倒し話が終わった後は休憩の為にお茶会が開かれる。
このお茶会は幻想遊戯の後の喋り疲れた喉を潤す為のお約束になりつつある。
「アールスねーちゃんの話って頭痛くなるー」
「推理要素多いからね」
「レナスちゃんに合わせると自然と難易度高くなっちゃうんだよね」
「でも分からなくても証拠集めとか推理の材料を集める事で役に立てるのはいいですよね~」
アールスとミサさんって推理の難易度を一番頭がいいレナスさんに合わせつつ他の人も活躍できるように調整してるんだよな。
話を作ってる僕から見て二人ともヤバい。一体どういう風に調整してるんだ。
「アイネは戦闘でも大活躍だったよね」
アイネは僕の話の時は精霊術士を使っているがアールスの時は短剣を主武器にした軽戦士だ。
動きが早く敵の急所を突き一度に与えられる損傷を増やしていく攻撃的な役割だ。
「せーれーじゅつで一気に敵倒すのもいーけどだいせーこー出して損傷点増やしてくのもたのしーね」
「んふふ。そういえば今回の話一から考えてるにしては前回から間をあまりおかずに出来上がってるけど今回の話って元になった物とかあるの?」
「うん。今回やりたい事をミサさんに相談して、それに合ったお話をミサさんから教えてもらって私がいじくって作ったんだ」
「ほとんど原形が残っていませんけどネ」
「仕事再開したらさすがにこの速さで話作るのは無理かなー」
「だねぇ。月一で出来たらいい方かな。ここを引き払ったらそれこそどれくらいの間隔でできるか分からなくなるんだよね」
「それまでには切りの良い所まで終わらせたいよね」
「うんうん」
「そっかー、来年の夏にはここともお別れなんだよね」
「アイネもここを発つの寂しい?」
「友達もいるからなー。ねーちゃん達はそーゆー人いない?」
「仕事の付き合い上親しくしてる人はいるよ。でもアイネが思っているような友達はいないかな」
「ワタシは教会の皆さんと仲良くしていますヨー。別れは寂しいですが旅をしていたらよくある事デス」
「私も教会の人と仲良くなったなー。だけど冒険者の友達はいないんだよね」
「意外ですね。アールスさんなら一人か二人はいそうですが」
「年がねー。私と初級の女の子でなおかつ同じ年の時間の余裕ある子って婚活目的ばっかで話が合わないんだよねー。まぁ私自身忙しいってのもあるんだろうけど」
「年下の女の子と仲良くなれないの?」
「あんまりねー。なんでかなー。アイネちゃん分かる?」
「年上だからじゃない? 忙しそうにしてる年上って話しかけにくいよ?」
「余裕のなさが原因だったかー」
「カナデさんはどうです? カナデさんもあまり外で交流を持っている様子ありませんが」
「私もいませんね~。話す相手はいますけどアリスさんと同じく情報交換が主ですよぉ」
「皆意外と友達いないんだね。レナスねーちゃんは?」
「私もいませんね」
「考古学仲間とかいないの?」
「この都市では会った事ないですね……いえ、先生やその生徒達はいるんですよ? でも仲間と呼ぶのはとても恐れ多いです」
「その先生方とは交流あるの?」
僕がそう聞くとレナスさんは慌てて両手を振って否定する。
「ありませんありません! 皆さん忙しい方達で生徒ですら中々会えないんです」
この言い方だと多分会いに行ったんだろうな。
「特に今年は北の遺跡で地下が見つかった事と古文書の解読が進んだ事で休む暇もなさそうだと……ミサさんが言っていました」
「ああ……」
皆の視線が一斉にミサさん……にくっついているアロエとエクレアに向く。
「私は悪くねぇ!」
「分かってるって。歴史的な大発見だったんじゃない? ミサさんとアロエ、エクレアの名前教科書に名前が載るかもね」
「私達の名前が世界に響き渡る?」
「そこまでの影響力があるかは分からないけど」
「なんだー」
「でもさー、一番歴史に名前が残りそーなのってナギねーちゃんだよね」
「え?」
「だってピュアルミナ使えてききゅーはつめーしてるんだよ?」
「ああ、気球については……僕の名前は載せないようにお願いはしてるんだけどどうなってるかな」
「えー? もったいなーい。ふつーに名前載せちゃっていいじゃん」
「前世の記憶を元に作った物だから僕独自の発明って訳じゃないからね。それで僕の名前が載っても嬉しくないよ」
「ねーちゃんは謙虚だなー」
「名前に残るって言うならアールスは闘技場の歴史には確実に残ってるよね」
「あっ、たしかに」
「最年少最短十連勝記録ですからね。破られるまで……いえ、破られてもアールスさんの名前は残り続けるでしょうね」
「あっ、そーだ。たんじょーび過ぎたらその記録にちょーせんしなきゃ」
「え、やるきなの?」
「あったりまえじゃん! あたしはアールスねーちゃんに追いつきたいもん。だからまほー使った訓練をナギねーちゃん手伝ってよ」
「アールスの方が良くない?」
「あたしはまほー対策がしたいの。まほーの扱いはねーちゃんのほーが上手いでしょ」
「う、うーん。魔法を織り交ぜた試合って昔アールスとやってからは訓練でしかやってないからな。アールスの方が経験ある分参考になると思うけど」
「もちろんアールスねーちゃんにも頼むよ」
「私はいいよー」
アールスが快く頷くがその様子を見ているレナスさんが眉を顰める。
「アイネさん。やる気なのはいいですが一人でドサイドまで行くのですか?」
「ドサイドまで中級試験受けに行くつもりだからアールスねーちゃんとだよ」
「中級試験はここの組合じゃ受けられなくてドサイドまで行かないと駄目みたいなんだよね」
「なるほど。そういう事でしたら私からは何もいう事はありませんね」
眉を顰めるのをやめて一人頷くレナスさん。
アイネが期待を込めた視線で僕を見てくる。
アイネの誕生日は六月。多分その頃って……。
「……誕生日に合わせると多分北の遺跡の依頼を受けられないけどそれでもいいなら」
「あ」
「あー」
アイネとアールスの二人はどうやら北の遺跡の仕事があるかもしれない事を忘れていたようだ。
「北の遺跡に行きたいなら試験は五月に受けて欲しい。別に行かなくてもいいなら闘技場に出て……出て欲しくは無いけど出ていいよ」
「あっ、私北の遺跡に行きまーす」
アールスは小さく手を上げてそう宣言する。
「ぐぬぬぬっ」
「参考までにアールスは十六歳で勝ち抜いたから僕達がここを引き払った後ドサイドによって闘技場に出ても一応アールスよりも低い年齢で挑戦は出来るよ」
「うー」
「そもそもアイネさんに勝ち残れるだけの実力はあるのですか? アールスさん」
「厳しいと思うよ。アイネちゃん体力無いから長期戦になったら勝ち目ないよ。長期戦を狙ってくる相手と当たらなければいいなんて言う運まかせも期待できないしね」
「ううー!」
「アールスから見ても速攻は無理?」
「私が毎試合速攻を決められてない時点で無理だよ」
アールスにしては珍しく厳しい事を言う。
だけどそうか……アイネじゃ厳しいか。
「それでもやる!」
けれどアイネは認めたくない様だ。この頑なな態度は心配になる。試合でむきになった挙句大怪我……最悪死ぬ事もあるかもしれない。
「……じゃあアイネ。訓練してアールスに認められたら六月に闘技場に出る事を認める。駄目だったら大人しくここを引き払った後ドサイドに行くまで待つ。これでどう?」
「むー。なんでそんな事しなきゃいけないの?」
「僕としてはアイネに大怪我なんて負ってほしくないからね。アールスを認めさせられなかったらせめて僕の目の届く範囲にいる時出場してほしい……っていう僕の我儘だよ。もちろん条件を飲まないで勝手に出場するのもアイネの勝手だけどね」
せめて僕の目の届く範囲にいて欲しいけど……これは過保護だな。だけどまとめ役としての責任もある。
「……ひきょーだよ。そんなふーに言われて勝手に出たらあたしが悪者じゃん」
「どうする?」
「いーよいーよ。そのじょーけん乗るよ。絶対認めさせてやるんだから」
「じゃあそういう事で……アールスに手間を取らせるけどごめんね」
「私は全然大丈夫だよ」
僕も本気でアイネの相手をしよう。僕に教えられる事なんて何もないのかもしれないけど……。




