幻想遊戯
人生遊戯は結局夜まで続いた。
僕の結果は可も不可もなく平凡な結果というような終わりだった。
資金も幸福度も平均的で冒険者としての階級も十段階の内の六と特に特筆する様な事は無かった。
目立った成果があったのはディアナとエクレアだ。
ディアナは冒険者として最高の階級まで上がり富と名声を得て資金と幸福度が他を大きく引き離して一番となっていた。
ディアナの次が神官の道を進んだエクレアだ。神官になったエクレアは安定して幸福度を上げてディアナの二番手となり、資金も商人の道に進んだ他の人達を抑えて二位に収まる事が出来た。
本来資金が溜まりやすい商人なのだが今回商人に進んだ人は何故だか今回は事業を失敗したり商売がふるわなかったりして皆結果がふるわなかった。
けど一番楽しんだのはカナデさんかもしれない。借金をしたり大金が転がり込んできたり子供が出来たと思ったら伴侶が早めの死を迎えたり……山あり谷ありの人生だった。
しかし、カナデさんとは違い一発逆転を狙っていたミサさんは結局逆転する事なく一生を終えた。
……しかも何事もなく。本当に何もなかった。いい事も悪い事もない人生だった。
「こんなのおかしいデース! なんでワタシの駒だけ何もない所ばかり止まるんですカー」
「出目が偏ってたわけじゃないんですよね……逆にすごいですよ」
「うれしくないですヨー」
「ミサ泣かないで」
エクレアがミサさんの頭を撫で慰めようとするがミサさんはエクレアを振り払う。
「泣いてまセーン!」
「ミサさん。別の遊びで雪辱を晴らしませんか?」
「と、言うとついにアリスちゃんの用意した遊びを?」
「その通りです。人生遊戯と同じようにサイコロを使う遊びなんですが」
「さ、サイコロですカ」
「一応戦闘の思考訓練として用意した物なんですけど……規則書が必要なんですよね。ちょっと取ってきます」
「はーい」
居間を出て自分の部屋に行き用意してある六人分の規則書を持ち出す。
「はい。皆注目。これから僕が用意した遊びの規則書を配ります」
「おー。ねーちゃんのだー」
「今から遊ぶのですか?」
「いや、もう遅いからね。さすがに説明で終わらせるよ」
「ナギの用意した遊びってどんな遊びなの?」
「それぞれが役割を演じて進める遊びだよ。詳しくは規則書を配ってからね」
そう言って皆に規則書を配る。
「あれ? 精霊達の分は無いの?」
「うん。それも含めて説明するね」
精霊達はついに来たかと浮足立っているように見える。特にライチーは満面の笑みのような得意顔のような判断しにくい表情をしている。
「この本、題名は『アーク王国隆盛記』だけど大体八百年前のアーク王国を題材にした遊びなんだ」
「八百年前というと……たしかイグニティが出来た頃ですカ」
「その通りです。その頃の世界を皆がサイコロと知恵で渡り歩くんです」
「それはさっきまで遊んでた人生遊戯みたいなすごろくで?」
アールスの問いに首を横に振ってこたえる。
「ううん。この遊びには会話で話を進行させてサイコロと最低限メモ用の紙があれば出来るんだ。
会話型幻想遊戯って呼ばれてるみたい。
本来は……演劇風のごっこ遊びって言えばわかりやすいかな。自分で作った登場人物を会話で演じながら動かして遊ぶんだ」
「人生遊戯でワタシの駒の設定を考えて遊んだような物ですカ?」
「そうです」
「これで精霊達が遊んでいたのですネ」
「練習に付き合ってもらってたんです。この遊びには駒を動かす人の他に演劇の劇作家や演出家の様に物語の進行や演出、審判を担う管理者と言う進行役が必要なんです。その進行役の練習に付き合ってもらってたんですよ」
一息ついてから規則書を皆に見える様に挙げる。
「で、どうやって登場人物を作るかと言うと、作り方はこの規則書に書かれてるんだ。今日の所はもう時間も遅いから作らないけど興味があったら規則書を読んでおいてね」
「おー。仕組みとかはこの本読むとして、結局この遊びで何するの? 演劇みたいなごっこ遊びって言ってたけど目的が分かんないと登場人物作れないよね」
アイネが規則書をパラパラとめくりながら質問してくる。
「物語の中で第二の人生を演じれるのがこの遊びなんだけど、戦闘の思考訓練にもなると思って買ってみたんだ。だから皆には冒険者を作ってもらって冒険してほしいと思ってる。
けど本当に何でも自由にやってもらうとこっちの負担が増えるからある程度の道筋……話に沿って動いてもらう事になる。もちろん行動の指針となる選択肢も与えるよ」
「ふーん。いろんな役割があるみたいけど、戦闘の思考訓練って事は現実の私達と一緒にした方がいいの?」
今度はアールスが本を読みながら質問してくる。
「そんな難しく考えなくてもいいよ。思考訓練って言ってもついでのような物だし気楽に遊びとして考えて貰ってくれていい。
だから皆が選ぶ役割は自分達で決めてくれていい。
ただ役割はなるべく被らせないで調整してくれた方が管理者は楽になるかな」
「ふんふん。第二の人生かー。神官様になるのもいいかなー。もちろんルゥネイト様の!」
「ワタシはゼレ様を信仰している戦士にしましょうかねー」
「私は何がいいですかねぇ」
「管理者ってナギねーちゃんがやるの?」
「そうだよ。あとレナスさんとアロエとディアナ以外の精霊達が補佐してくれる事になってて、アロエとディアナは皆のお助け役だね。分からない事があったらどんどん聞いてね」
「ほーほー。あっ、まじゅー使いあるんだ。これにしよーかなー」
「あっ、役割の中にはなるのに条件が必要な場合があるからそこもちゃんと確認しておくといいよ」
「おー。あっ、まじゅーいないと駄目なんだ……」
「一応明日登場人物の作成から練習がてらの短い話をやろうと思ってるけどどうかな。規則書を読みこむのは実際にやってみてからの方が理解しやすいと思うんだよね」
「私は良いと思うよ」
「あたしもだいじょーぶ」
「私も大丈夫ですよぉ」
「どんな遊びか楽しみですヨ」
皆の感触は良好なようだ。よかった。
それにしてもこの世界にもこのゲームがあるとは思わなかった。
前世で似たゲームがあって僕はそれを動画を見て一度やってみたいと思っていたんだ。やる前に死んだけど。
翌日、朝の雪かきと訓練を終え朝食を取り食休みを挟んでから居間に皆で集まった。
「皆どんな人物を作るか決めたかな?」
「私はやっぱ神官様!」
「ワタシは盾役の神官騎士デース」
「あたしはせーれーじゅつし!」
「私は格闘家にしようかな~って思ってますぅ」
「カナデさんが格闘家とは意外ですね。弓使いや魔術士みたいな後衛になるかと思ってました」
「遊びですからねぇ。普段とは違う役割を担ってみたかったんですよぉ」
「いいと思いますよ。普段とは違う事をしてみるって楽しいですもんね」
「ねーねー、あたしがせーれーじゅつしってのは意外じゃないの?」
「アイネは何選んでも不思議じゃないかなぁ」
「えー」
アイネは僕の回答に不満そうにする。
「ああ、いや。一つだけこれだけは無いだろうってのはあるか」
「なになに?」
「神官」
「あー」
アイネは本当神様に興味示さないからな。
「いちおーあたしだってエリアヒール使えるまでツヴァイス様の事べんきょーしたよ?」
「おっ、もう三階位まで行ったんだ。すごいじゃないか」
「えへへ」
「んふふ。さて、それじゃあ始めましょうか」
ちなみに会話型じゃない幻想遊戯はゲームブックです




