卓上遊戯
「本格的に吹雪いてきたね」
十一月、居間でアイネとカナデさんと僕という三人でお茶を飲んでいる中家の外の吹雪について言及するとアイネが残念そうな顔をしながら言った。
「まじゅー達にもゆーがたまで会えなくなっちゃうね」
「そうだねぇ」
暇つぶし用の玩具や本は置いといてあるけど精神的負担がちょっと心配だ。
去年はほとんど寝て過ごしていたらしいけど今年はヘレンがいる……少し心配だ。
「ん~……それでしたらお弁当を作って一日魔獣達と一緒にいると言うのはどうでしょう~」
「ああ、いいですね。でも邪魔にならないかな」
「だいじょーぶでしょ。ゲイルとヒビキがはしゃぎ回れるくらいの余裕はあるんだから」
「アースさんとヘレンさんは逆に元々身体が大きくて身体を動かせる場所は限られていますしねぇ」
「考えておくかー」
お弁当を作るとして使う食材の事を考えないと消費が増えたり残る食材の種類が偏ってしまうかもしれない。
買い出しに行けない中きちんと考えないといけない事だ。
カナデさんの案がもっと早くに思いついていればそれ用に準備できたのだけど……。
「あっ! そーだ! あたし暇つぶしよーの玩具みたいなのよーいしたんだった! 友達にお勧めされたやつ!」
「へぇ」
アイネも用意してたのか。
「玩具ですかぁ。どういうのですかぁ?」
「皆で遊ぶ奴。たくじょーゆーぎってやつ」
卓上遊戯か。すごろくみたいな物かな?
「取って来るから皆であそぼ!」
「何人用なの?」
「何人でもだいじょーぶなはずだよ。せーれーも楽しめるって言ってた」
「そっか。じゃあ皆でやろうか。僕他の皆を呼んでくるよ」
「わかった! じゃーあたし持ってくるね!」
他の三人は各々の部屋にいる。レナスさんは勉強中だろうか?
とりあえず居間から一番近いレナスさんの部屋から回ろう。
居間を出てすぐそばのレナスさんの部屋の前に立ち戸を叩く。
するとすぐにサラサから返事が返って来たので用件を伝える。すると……。
『ついにわたしのでばんー?』
ライチーが扉の前にうきうきとした様子で現れた。
「ライチーの出番はまだだよ。今回はアイネが用意してくれた物で遊ぶんだ」
『なんだー』
ライチー……というか精霊達には僕の用意した遊びに協力してもらう事になっている。
実際に皆とやるのを楽しみにしているんだろう。
「とりあえず中に入るね?」
『はーい』
ライチーに扉の前からどいてもらい改めて声をかけてから中に入る。
レナスさんは部屋の中で立って出迎えてくれる。
「今時間大丈夫かな」
机の上に視線を向けると本や紙と羽ペンが置かれている。やはり勉強中だったか?
「はい。もちろんです」
「アイネが用意した遊びに誘いに来たんだけど」
「大丈夫ですよ」
「よかった。じゃあアールスとミサさんも呼んでくるから……」
「それでしたらミサさんは私が声をかけます」
「そう? じゃあ頼むよ。精霊達も遊べるみたいだからそれも伝えておいてもらえるかな」
「分かりました。きちんと伝えておきます」
「ありがとうね」
ミサさんはレナスさんに任せアールスの部屋に向かい同じように誘う。
アールスは部屋で本を読んでいたようだったが喜んで誘いを受けてくれた。
そして、居間に戻る途中に二つ折りになった大きな板を抱えたアイネと会ったので僕が板を持とうと申し出るとアイネは自分で運ぶと言って首を横に振った。
「大きいね」
「うん。これとね、サイコロがひつよーなんだ」
「なんていう遊びなの?」
アールスが興味津々と言った様子で聞く。
「んとね。たくじょーゆーぎのじんせーゆーぎってゆーの」
「おおぅ」
人生遊戯こっちでも発明されたのか。
「すごろく?」
「みたいなものだって」
人生遊戯……前世では小さい頃にやったような記憶があるけどこっちだとどういうゲームになっているんだろう。
居間に着くとアイネが机の上に板を広げる。
板にはすごろくと同じようにマス目が書かれている。マス目は多く終わるのに時間がかかりそうだ。
「あとこれも」
さらに懐から小冊子を取り出し板の上に置いた。
「それは?」
「これも使うんだって。中にはいろんな出来事が書いてあるんだけど、止まったマス目に書いてあるとーりにこの本をさんしょーしてゲームを進めるみたい」
「なるほど。それで駒は?」
「駒はねー」
アイネがズボンのポケットから銅貨と紙、それに複数の羽ペンと墨を取り出した。
「これ。付属のだとせーれー達の分が足りないから代わりに紙に絵をかいてどーかをくっつけてつかおーと思うんだ。まぁどーかは重りだから別のでもいーけど」
「なるほど。銅貨なら確かに数揃えやすいよね」
「とゆーわけでこの紙に名前でも絵描いてもいいから自分のだって分かりやすくしてね」
アイネが渡してきた紙は長方形で四分の一位の所に左右対称の山の形に山折りの折り目がついている。
さらに長い辺を縦にし、その中心縦一直線に折り目がついている。その縦の折り目も広い方は山折りで狭い方は谷折りでちゃんと立つように工夫がなされている。
広い方に何か書けばいいだろう。
とりあえずナス……は魔獣達と一緒にやる時にややこしくなるか? いや、魔獣達にも出来るかは分からないけど……。
適当に自分の顔でも描くか。
椅子に座り紙を受け取る。
インクをマナで操り自分の顔っぽく描いたら後は紙に押し付けるだけ。簡単な作業だ。
「ナギ、終わったのなら私の分も書いて欲しい」
ディアナが申し訳なさそうに紙を差し出しながらお願いしてきた。
レナスさんを見るとライチーがすでに張り付いている。きっとレナスさんは自分の分が終わったら次はライチーの分をやるんだろう。
そうなるとレナスさんの負担となると思ってディアナは頼みにくいのかもしれない。
「いいよ。どんなのがいいかな」
「分からない。ナギの好きにしていい」
「じゃあディアナの顔にしようか」
「うん」
ちゃちゃっとディアナの似顔絵を描いてディアナに渡す。
「ありがとう」
「どういたしまして。他の皆はどうかな」
周りを見渡してみるとどうもみんなあまり進んでいない様で、暇そうにしているのはアールス位だ。
「ってアイネはアロエの分描いてるのか」
四苦八苦しているアイネの頭の上からアロエが楽しそうに指示を出している。
アロエはアイネに頼んだのか。エクレアの分はミサさんがやっている。
サラサは……自分でやってる。羽ペンをぐりぐりと動かしていた。
「サラサは自分でやるんだね」
「そうね。最近のサラサは変なの。前よりもマナの扱いが上手くなってる。私じゃ自分で絵は描けない……」
しゅんと肩を落とすディアナ。
「ディアナから見て精霊が自分で絵を描くってそんなに変なの?」
「羽ペンを使って描けるのがおかしい。羽ペンは軽いから持てるのはおかしくないけど動かして何かを書くとなると途端に難しくなる」
「結局はマナを操ってるだけだからね。そりゃ精霊からしたら高難易度にもなるか」
その場に留めるだけならマナを集め固めるだけでいい。アースのソリッド・ウォールと同じ理屈だ。
でもそこから動かすとなると難しくなる。集めて固めるというのは力の方向を中心点に向ける必要があり、動かす場合はその力の配分を変える必要がある。
精霊はその配分を細かく変えるのが苦手で少し動かそうとしたら全く動かないか動かし過ぎてしまうんだろう。
「サラサなんだか遠くに行ってしまいそう……あっ、今言った事はレナスには秘密にして欲しい」
「うん」
遠くか。近くにいたらそりゃサラサの変化に気づくよな。
「出来たー!」
アイネが大きな声を上げる。
「ありがとー」
「他の皆は出来たー?」
「僕とディアナはもう出来たよ」
「私も出来てる」
「私も丁度終わりましたぁ」
「私はライチーさんのがあともう少しです」
「ワタシもエクレアのが終わってまセーン」
「はーい。じゃーとりあえず簡単にこの遊びについて教えようか。サイコロ振って出た目の通りにマス目を進めるだけ! いじょー!」
「……」
「……」
少し待つが説明の続きが来ない。
「小冊子見てもいい?」
そっちを見た方がよさそうだ。
「いーよ」
「私も見るー」
アールスが椅子を動かし僕の隣にやって来る。
小冊子を手に取って開きアールスと一緒に一ページずつ見ていく。
「どうやらマス目に停まった時に起こる出来事がまとめられてるみたいだね」
「一つ一つに一から六までの数字振ってあるしサイコロで決めるのかな」
「多分ね。あっ、職業まで書いてある」
選べる職業は冒険者と商人と神官の三つだけの様だ。
「なんで農家ないのー?」
「さあ……」
「んもう。でもやり方自体は普通のすごろくと変わらないのかな。マス目の出来事が多いくらい?」
「だね。これって何したら勝ちなんだろ?」
「一番最初にゴールに着いたら?」
「でも資産が増えるみたいだしそれが一番多い人が勝ちとかかも」
「うふふ~、お二人とも違いますよぉ」
「ほう? 違うとは何か知っているんですかカナデさん?」
「人生遊戯というからには楽しんだ人が勝ちですぅ。なので単純な勝ち負けは無く皆でわいわいと仮想の人生を歩む事を楽しむ遊びなんですよぉ」
「なるほど。そういう見方もあるのか」
「きっとカナデさんの言う通りだよ! 」
仮想の人生を楽しむか……本当にその遊び方をするなら被ったかもしれない……。
人生〇〇〇は商標登録的にまずいかなと思い名称を人生遊戯に変更しました。




