聞き取り
「そんな訳でまとめ役である僕は皆が何をしているか把握する必要があるという結論に達したのでどうか最近の動向をふんわりとでもいいので教えてはいただけないでしょうか」
魔獣達とのお散歩の前にカナデさんに話があると言って倉庫から外に出て早速カナデさんに先ほどレナスさんに指摘されたことを実行する。
「ど、どうしてそんなにかしこまった態度なんですかぁ?」
「女性の私生活を変態である僕が垣間見るにはこうするしかないじゃないですか」
「ナギ、いくら何でもそれは卑下し過ぎだよ」
アールスが擁護してくれる。
「べ、別にアリスさんの事変態だと思っていませんよぉ!?」
カナデさんも慌てて否定してくるが少しやり過ぎただろうか。
「女性の身体をした心が男の人間をどう思いますか?」
「え? 大変そうだなぁって思いますよぉ。
やはり男性と女性の身体の違いがあって戸惑う事も多そうですよねぇ。
それで思い返してみればアリスさんは色々気を使ってくれていたんですねぇ……。
お風呂の時とか一緒に入らないように気を付けてくれていましたしぃ、着替えの時も他の人の事を見ないようにしていたしぃ、部屋に入る時もきちんと返事を待ってくれていますよねぇ」
「か、カナデさん……」
そうだ。カナデさんはこういう人なんだ。
人の悪い所よりも良い所を見る人なんだ。友人の事を悪く思うような人じゃないんだ。
なのに僕は困らせるような事を……。
「カナデさん。変な質問をしてしまってすみません。それで改めて聞かせてください。カナデさんは最近よく弓の訓練に行くようになりましたがそれは武術大会に出る為ですか?」
「ふぇ……ば、ばれてしまいましたか……」
「ばれたって……隠す必要があったんですか?」
「だ、だってぇ……結果が全然駄目だったら恥ずかしいじゃないですかぁ」
「えぇ……」
意外と自信家だなカナデさんは。
恥ずかしいってそれだけ自分の実力に自信があるという事か?
けど完全に勝ち切れるとは思っていない……。
「不躾な質問ですがカナデさんって弓関係の固有能力持っているんですか?」
「え? えと……分かりません。冒険者になってから自分の能力調べた事ないのでぇ……」
「えっ、そうだったんですか?」
「はい……」
「固有能力すら調べた事が無いんですか?」
「そうですぅ……」
「……調べましょう」
「で、でもぉ、お金かかりますしぃ……」
「さすがに自分の能力を把握していないとか駄目です。僕ステータスオープンの魔法石持っているのできちんと調べましょう」
固有能力やスキルというのはそうたやすく新しく生えてくるわけじゃない。
大抵は何年何十年と研鑽を積みやっと新たに生えてくるものだ。
だから確認を怠ると言うのも分からない話じゃないのだけど。
「はぁい……」
「アールスはちゃんと調べてる?」
「調べてないなー。私の固有能力って他の固有能力よく吸収しちゃうみたいだから調べても無駄だと思うよ?」
「吸収されてない固有能力を授かってるかもしれないでしょ。後スキルにまで昇華された技もあるかもしれないしね」
「スキルはさすがにないと思うけど……まっいっか。ナギはちゃんと調べてるの?」
「週一で調べてるよ。魔法石は部屋にあるから取って来るね」
部屋に戻る途中レナスさんにも確認してみると彼女は定期的に調べていてこの前の依頼が終わった後に調べていたようだ。
魔法石を持って倉庫に戻りまず先にカナデさんに渡す。
「能力値の方は……まぁカナデさんに教えてくれるかどうかは任せます」
「助かります~」
能力値を他人に教えると言うのは女性にとって体重を聞くに等しい繊細な話題だ。
男性ならそうでもないのだろうが力の値とかはどうも高いほど恥ずかしいらしく、アールスでさえも僕よりも力が高かったら恥ずかしいと言って教えてくれない程だ。
僕にはちょっとよく分からない感覚だが嫌がる物を無理やり聞くと言うのも気が咎めるし、細かい数値が分からなくても訓練をしているから相手の力量がどれくらいかは分かる。
アールスは恥ずかしがって教えてくれないけど絶対僕より力あるな。
カナデさんは僕に背を向けて魔法石を使う。ステータスが表示される板を見せない為だろう。
「あっ」
「お?」
「弓使いの固有能力授かってます~」
「おおっ、やったじゃないですか」
「ええ~……後は特にないですねぇ。能力が……まぁ相応に上がってるくらいですかねぇ」
「スキルも特になしですか」
「はい~」
「じゃあ次は私ね」
アールスはカナデさんから魔法石を受け取りカナデさんと同じように僕に背を向ける。
「あー……やっぱ何にもないなぁ。スキルの魔力操作と魔力感知の階位が上がってるだけ」
「そっか……でも上がってるだけすごいじゃないか」
「ナギのその二つの階位はどれくらいなの?」
「どっちも九だよ」
「あっ、そうなんだ。私は操作が五で感知が六なんだよね」
「アールスでもそんな物なんだ」
「うん……ナギはなんでそんなに高いのに魔法系の固有能力ないんだろうね?」
「さぁ……一応魔眼は魔法系に入るのかな」
「感知系じゃない? あくまでもマナが見えるようになるって言う能力なんだから」
「まぁそうか」
「それでナギは調べないの?」
「ん。一応調べておこうか」
先週調べたばかりだけどね。
アールスから魔法石を受け取りステータスを確認するとやはり変化はなかった。
「……ナギさぁ、少しは能力表示板隠そうとしようよ」
「見られてまずい事もないし」
「裸見せてるような物だよ?」
「そういうものなの?」
カナデさんにも視線で問いかけてみるとカナデさんは困った表情をして頷いた。
「ちょっとはしたないですねぇ」
「その感覚がさっぱり分からない……」
僕も人には見せないがそれはあくまでも冒険者として用心しているためだ。
自分のステータスを知られるという事は弱点を知られたり対策を練られたりするという事。
何が起こるか分からず犯罪に利用されることもあるので無闇に人に教えてはいけないと学校で習った事はある。
けど恥ずかしい物というとらえ方はされていなかった。あれか? グランエルは地方都市だから首都や観光都市では価値観が違うのか?
魔獣達のお散歩を終わらせ家に戻るとアイネが料理をしに帰って来ていた。
丁度いいのでアイネにもステータス確認をしているかと聞くとしょっちゅうしていると返って来る。
ついでにステータスを見られる事への是非についてもおおむね僕と同意見だった。
そしてレナスさんにも確認を取るとやはりほぼ同じ意見であり、土地で価値観が違うのだという事がはっきりとした。
リュート村出身のアールスが恥ずかしがっているのは引っ越した後での過ごした環境の所為だろう。
ちなみにレナスさんも冒険して他所の価値観に触れたおかげで今ではステータスを見せるのが少し恥ずかしいと恥じらいを見せた。かわいい。
そして、夕飯の支度が進む中ミサさんが帰って来た。
「ただいまもどりましター」
「あっ、お帰りなさいミサさん。今皆に自分のステータスの再確認をしてもらっていたんですがミサさんもどうですか?」
「再確認? なぜそのような事を?」
「いやぁ、カナデさんがずっと自分のステータス確認を怠っていて新しく固有能力が生えていた事に気づいていなかったんですよ。ミサさんはどれくらいの頻度で確認していますか?」
「ワタシもあまりしていませんネー。新たな神聖魔法を授かった時
以来でしょうカ」
「前回授かったって聞いたのは……半年くらい前でしたっけ」
「それぐらいでしたかネ?」
たしか今は第六階位まで行ったんだったかな。
そうだ、ちょうどいい機会だから今まで聞けなかった事を聞いてみようか。
「……今更聞くのもなんですが答えたくなかったら答えなくてもいいんですがミサさんの固有能力って何ですか?」
今までそう言う話題をミサさんが全く出してこなかったので聞きそびれていたがいい加減聞いておいた方がいいだろう。
もしかしたらミサさんの故郷では公言しないのが当たり前かもしれないけど。
「あー……実はですネ、『海人』という固有能力なのですガ、どういう能力なのか分からないのデス」
「それならシエル様にどんな能力か聞いてみますよ」
昔はシエル様はこの世界とは関係なかったので調べられなかったが分体がこの世界にいる今なら分かる。
「迷惑ではないですカ?」
「これぐらいならむしろ話の種が出来て喜びますよ」
シエル様に聞くと『海人』は方向感覚の強化と体幹の強化、それに空間認識の強化に肺機能の強化、後おまけに船酔いをしなくなるんだそうだ。
おまけの方がメインの効果な気がする。
「船とは酔うものなんですカ?」
「前世の知識から言うと人にもよりますが波のせいで揺れやすいですからね。馬車移動の揺れがずっと続くような物じゃないでしょうか?」
「なるほど。馬車でも酔った事は無いので固有能力のお陰かもしれませんネ」
「それで他の能力も確認してみますか? 魔法石貸しますよ」
「じゃあお願いしマス」
ステータスを確認してもらっている間にミサさんにも今日から皆の動向を把握する事を伝えておく。
私生活に干渉する事にミサさんは寛容だった。元々私生活で何をするかは決まっているような物で隠す事も無いからと笑って了承してくれる。
ミサさんの笑顔で僕は肩の荷が下りた気がした。
後天的な固有能力に関しては才能が無ければ授かるのに普通みっちり訓練や勉強をしても十年以上の時間がかかります。




