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信仰の在り方

「きのーはお楽しみでしたね」

「どうしたの急に」


 料理を作りに来たアイネが僕に会うなり宿屋の受付のような事を口にした。


「アールスねーちゃんからきーたよ。アールスねーちゃんに膝枕してもらったんだって」

「アールスがどうしてもって言うからね」

「ずるい! あたしもナギねーちゃんに膝枕してあげて思いっきり甘やかしたい!」

「何を言ってるんだろうこの子は」

「あたしもねーちゃんに膝枕したい」

「機会があったらね」

「機会は作るものだよねーちゃん」

「はいはい。それより夕飯の仕度お願いね」

「はーい」


 そしてアイネとアールスが夕飯の支度をし、夕食の時間となった。

 その食事の間、皆で今日の出来事について話している時にアイネが切り出してきた。


「あっ、そーだナギねーちゃん」

「何?」

「あたしさ、いい加減しんせーまほーどーにかしよーとして神様についてべんきょーしたんだよね。でもどの神様もいまいちしっくりこないとゆーかあわないってゆーか」

「まぁ相性っていうのはあるだろうね。神聖魔法に重要なのって信仰というよりどれだけ理解できるかだから無理な人にはとことん理解できないだろうね」


 そもそも神様達は神様になる前の生では同じ種族の生き物ですらない。

 同族同士ですら相手を理解するなんて難しいと言うのに神様相手に理解しろなんてなんて無茶なんだろう。

 憧れや信仰というのは過ぎれば人を盲目にさせる。強大な力を持ちその一部の力を授けてくれる相手に目を焼かれず真っ直ぐ真正面から向き合える人がどれだけいるだろう。

 まぁさすがに完全な理解は必要とはしていないが、それでもピュアルミナの使い手の少なさを考えれば難しいと言わざるをえない。


「だからそういう意味じゃツヴァイス様が一番楽なのは前に言ったよね?」

「うん」


 ツヴァイス様の神聖魔法を使える人は科学者が多い。

 合理的で現実的な科学者はあまり信仰に熱心ではない……というような事は無くむしろツヴァイス様の熱心な信者である事が大半だ。

 世界の真理、構成する物、法則……ここら辺を解き明かす事がツヴァイス様を理解する一番の道だとされているし実際正しいと僕は思う。

 理解理解というが実際に大切なのは神様の情報をどれだけ正確に知っているか、もしくは理解しているかだ。

 じかに会えればいいけれどそんな訳にもいかないので聖書を読み神様の心を理解する事でしかツヴァイス様以外の神様との回線を太くする手段がないのが現状だ。

 そして、ツヴァイス様に関してはこの世界はツヴァイス様の身体の中にあるので存在する物質はツヴァイス様の身体の一部であり、世界の法則はツヴァイス様自身が定めた法となる……というのが他の神様に比べて授かるのが簡単な理由だ。


 ただ今の科学水準ではまだまだ理解力は低いのか科学方面からだと大体は第五階位までで止まり後は聖書のお話を勉強し理解すれば第七階位までは行ける様だ。

 なので第七階位の神聖魔法を授かっているのはツヴァイス信者が一番多い……という噂がある。


「でも本格的にべんきょーする前にさ、シエル様の事も知っておきたいなって思ったんだ」

「シエル様の事を?」

「うん。やっぱさ、こーげきまほーがあるならそっちのほーがきょーみあるんだよね」

「んー……いいけどまぁ僕も知ってる事は多くないから簡単にね」

「そーなの?」

「話はしてるけど聖書に書いてあるような事は特にないからねぇ。

 シエル様は他の世界から魂を他の世界に運ぶ運び屋で他に特に何かをしてるわけじゃないんだよ。だから話をするくらいしかシエル様の人柄……神柄? を知るすべがないんだ」

「ねーちゃんの場合は声を覚えてたからこーいのまほー授かったんだっけ?」

「間違ってはいないけどちょっと違うな。神様から神聖魔法を授かるには神様と繋がりを作らないといけないんだ。

 この繋がりっていうのは管のような物だと思えばいい。

 この管は相手の事を知っていれば太くなってより多くの物を通せる……つまり高位の神聖魔法を通す事が出来るんだ」

「知っていればって理解するとちょっと意味が違うように感じたけど?」

「そのままの意味だよ。どんな声をしているかだけでも第十階位の神聖魔法を授けられるくらいの太い繋がりを得られるんだ。まぁ高位の魔法はそれだけじゃ授けてはくれないんだけど」

「知ってるだけで……だからツヴァイス様が一番楽なんだね」

「そう。そして、だから他の神様は知る手段が無いから聖書を読んで神様の心を理解するしか繋がりを強くする方法がないんだよ」

「教会に飾られている像はどうなのですカ? 声だけでも強い繋がりを得られるというのならば姿を知っているだけでも十分だと思うのですガ?」

「あれ本当の姿じゃないんですよ。多分僕達人間に会う時に接しやすい姿を取ってくれていたのではないかと」

「そうなのですカ? どうせなら本当のお姿を伝えておいた方が良かったと思うのですケド」

「……」


 この話はシエル様から聞いた事があるのだけど、ただのうっかりらしい。本来は本当の姿を口伝なり絵姿なり像なりにして残すのだそうだがどうやらこの星で仕事を終えて急いで次の場所に向かったためうっかり忘れてしまったんだとか。

 どう伝えたものか……さすがにうっかり忘れてたなんて神様達の威厳に関わるぞ。


「恐らくは魔物との戦いで失われてしまった情報なのかもしれませんね」


 そういう事にしておこう。


「ツヴァイス様の二つ顔って接しやすいかなぁ?」

「そこは威厳を持たせるためと元の姿からの要素を残したんじゃないかな」

「というとツヴァイス様は元々二つのお顔を持っているのですか?」

「シエル様によるとツヴァイス様に一番近いのは頭が二つある蛇だそうですよ」

「蛇……あ、あのゼレ様はどういうお姿なのかは聞いていますカ?」

「ゼレ様は……二本の角をもった獣人と言えばいいんですかね。アライサスのような大型の獣が人の形に進化した姿をしているそうです」

「あ……やっぱりワタシ達とは違う姿なのですネ」


 そう言えばミサさんはゼレ様に恋してる勢だったな……やる気をそぐことになってしまっただろうか。


「ねぇねぇ、ルゥネイト様はどんな姿してるの?」

「見た目は樹木に似ていて枝が腕、根っこが足の役割をしているらしいよ」

「おー」

「人間に近いのってゼレ様だけなの?」

「一番近いのはラーラ様だね。見た目は僕らとあんまり変わらないけど耳が長くて手の平が指を除いても顔を覆う位大きいんだ」

「へー。んじゃあザースバイル様は?」

「僕の表現力では言い表せない姿をしてる」

「何それ」

「な、なんだか怖いですねぇ」

「僕の常識に照らし合わせてもなんと言えばいいのか分からない姿してるって事です。多分怖い事は無い……と思いたい」


 シエル様の説明でも大半が何を言ってるのか分からなかった。多分あれは神様固有の言語なんじゃないかと思っている。


「じゃーさじゃーさ、シエル様はどんな姿なの?」

「こんなの」


 光を操りクジラの姿を描く。


「おー? 何これ蛇の仲間?」

「尾びれあるし魚じゃない?」

「変わった姿をしていますね~」

「海に住む生き物という点では魚と一緒だね。僕の前世の世界ではクジラって呼ばれていてシエル様はそのクジラに近い姿をしてるみたいなんだ」

「へー、じゃあシエル様も海を泳いでるの?」

「神様になる前はそうだったみたいだね。今は空みたいな所を泳いでるようだけど」

「空飛べんの!? すげー!」

「神様だからそれ位当たり前だよ。ねー?」

「んふふ。そうだね」

「それでシエル様はどんなせーかくしてんの?」

「ん? んー……話す限りじゃ人とあんまり変わらないかなって思うんだよね。基本的には善良で所々価値観が違う感じかな」

「神様とむしろ一致する所があるのが驚きだよ」

「聖書にだって神様は人と行動してるんだしやっぱあんまり変わらないんじゃないかな」

「しかし、ワタシ達とは違う生態の生き物だと言うのに話が合うと言うのも不思議なものですネ」

「他の神様と話す機会があるからでしょうかね?」


 でもシエル様は神様同士は一人でいる事が多くてあんまり会わないとも言っていたような?


「それか僕に合わせてくれてるとか……そっちの方がありそうだな」

「そーなるとねーちゃんの話からだとシエル様の神柄は分かんないかもね」

「ところでレナスちゃん静かだけど大丈夫?」

「え? ああ、いえ、今までの話はすでにナギさんから聞いていましたので特に口を挟む必要がなかっただけです」

「そうなんだ? レナスちゃんも神聖魔法ってヒールくらいしか使えないんだよね?」

「そうですね。私もシエル様のお力を授かろうと思っているのですが一向に授かる気配がないのでこの世界の神ではないから授ける事が出来ないのかもしれません」


 レナスさんそんな事考えていたのか。


「そーなんだ。ざんねーん。じゃーとりあえずツヴァイス様でいってみよーかな」

「とりあえずで決まる信仰」

「最初はみんなそんな物ですよぉ。私もとりあえずでラーラ様から入ってみましたからぁ」

「えっ、カナデねーちゃんラーラ様しんこーしてたの?」

「あれ? 前はザースバイル様じゃありませんでした?」

「……ルゥネイト様じゃなかった?」

「カナデちゃん……もう節操無しは嫌われますヨ?」

「ふ、ふえええ!? わ、私は特定の神様を信仰しているわけじゃないだけですよぉ」

「それだと神聖魔法を授かれないのでハ?」

「べ、別に力が欲しくて信じ敬っているわけじゃないのでぇ……」

「あー……」


 前世の世界での信仰の在り方としてなら力の為に信仰しているわけじゃないカナデさんの在り方は正しいんだろうけどこの世界では少し違うからな。


「力授かれなかったら信じる意味なくない?」

「アイネちゃん。さすがにその発言は私許せないよ?」

「ワタシもデース」

「げっ、ご、ごめんなさい」

「さすがに神様を軽んじる発言は許されないよ」

「お説教が必要ですネ」

「ね、ねーちゃん……」

「反省しなさい」


 ガチ勢を敵に回すような発言する方が悪い。

 だがまぁアイネのような意見は当然多くの人が持っているだろう。

 実際力を授けてくれるから神様を信じるというのが多分大半なはずだ。

 神様自身も知的生命体に力を授ける必要があるから信仰というものを利用しているにすぎず、必要が無かったら力を授けず世界の真実は誰にも知られずにいただろう。

 そしてツヴァイス様の名は誰にも知られなかったはずだ。

 アイネの言い分は神様的にもあながち間違っていないんだ。

 神様は別に信仰を必要としていない。力を授けられないなら信仰されても仕方ない……シエル様はそう言っていた。

 だから信仰の形として正しいけど間違っているのはカナデさんで間違っているけど正しいのはアイネの方なのかもしれないな。

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[一言] >信仰の形として正しいけど間違っているのはカナデさんで間違っているけど正しいのはアイネの方なのかもしれないな。  信仰に実利がある世界は、その辺面倒そうですよねぇ。  どっちも正しい。 そ…
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