北の遺跡でⅡ その8
部屋の中を学者さん達が調べ始めてどれくらい経っただろうか。冒険者さん達が休憩の為に戻って来た。
冒険者さん達の話によると中は二手に分かれてていたらしい。
中級の魔物はおらず魔素が濃く集まった魔物シャイルや土を依り代に魔物になったゴーラムがうじゃうじゃいて、さらに土の魔物化で穴の中は穴だらけであまり探索ははかどらなかったようだ。
学者さん二人はそれを聞いて天井が崩れ道が通れなくなっているのではないかと懸念した。
だが冒険者さん達にはその事よりも別の懸念材料があるようだ。
「問題なんは下級の魔物が沢山おるのに魔素が濃いっちゅうこってす」
熟練の風格をかもしだしている三十手前ほどの男性冒険者さんは難しい顔をしてそう述べた。
「魔物が多いのですから魔素が濃いのは普通なのでは?」
僕がそう聞くと冒険者さんは首を横に振った。
「下級、それも最下級ばっかなのが問題なんや。普通こんだけ魔素が多かったらもっと上位の魔物に変異してないとおかしいんですわ。
なのに千年は熟成されてるはずなんに最下級ばっか。これの意味する所はその最下級の奴らは生まれたばっかっちゅうことや」
「あっそうか……」
「まぁ上級の魔物はいるだろうね。上級の魔物……中級でも見かけたらすぐに引き返してもらいたいね。
今回の君達の仕事はあくまでも穴がどこに繋がっているか調べる事だ。戦いで荒らされたり道が塞がれるのは勘弁願いたいね」
「分かっとります。けど十分気を付けてください。俺らがやられてここに来る可能性は十分あるんで」
冒険者さんの最後の方の言葉と視線は僕の護衛達に向けられた。
護衛は全員頷き答える。
それから冒険者さん達は再び穴の中に潜って行った。
そして、次に戻ってきた時にはいい時間だったのでこの日の調査は終了となり遺跡から退散する事となった。
二日目は別の教会の地下室を調査した。そこにも穴は開いており中にいた魔物は前日に退治されている。
三日目もまた同じく別の教会の地下室を調査した。
しかし、三日目は穴の中にある程度まで入る事となった。
理由は分からないが学者さん達が中を調査したいと言い出したのだ。
そこで穴の調査をしている冒険者さん達と相談をし調査を行う事になった……護衛の関係上僕も一緒に。
冒険者さん達が先頭と最後尾に分かれ、護衛役がやはり前後の二番手に配される。
僕は鎧を着こんでいる事もあって学者さん達の前だ。
穴の中はライチーが照らしてくれ、有害な気体対策のセイクリッドバリアは僕が張り、空気は冒険者さんが持っている空気を生み出す魔法陣を封じ込めた魔法石で補う。
地面は意外と均されていて時折穴が開いていてそれに注意する。
ちなみにこの穴は土の中を移動する動物か魔獣が開けたのではないかという推測を冒険者さんがしてくれた。
小さい穴の他にも地面と側面の壁には時折大きく浅い穴がある。これは壁の土がゴーラムになって動き出した際にできた穴だろう。
魔素が濃いから精霊達のマナを広げられないがライチーが生み出している光はマナの範囲を超えて遠くまで照らしている。
しかし、長い事暗い地下で生まれたからか出会う魔物は光を感じる器官がないのか全て光が当たっても反応する事がなかった。
見つけた魔物は反応する前に前方の冒険者さん達が素早く間合いを詰めあっという間に倒してしまう。
護衛の出番はなさそうだ。
そして、しばらく歩くと壁に当たり、道が左右に伸びた丁字路になっていた。
分かれ道の行き先はすでに見当がついている。
まだきちんと確かめたわけではないが伸びている方向からして他の教会の地下室に繋がっているんだろう。
学者さん達はこの穴を地下室から脱出の際に教会の地下室に逃げ込んだ人達と合流するための物だと考えたみたいだ。
実際穴を掘るのは土に関係する精霊がいれば難しくはない。
「とりあえず左へ向かおうか。推測が正しければ昨日のゼレ様の教会の地下室に着くはずだ」
「了解しました。これからは後ろからも魔物に襲われる危険があります。挟み撃ちにあっても決して騒がんといてください」
「分かっている」
先頭を行くまとめ役の冒険者さんの言葉に学者さんも重々しく頷く。
「それにしても……随分と長い穴だけどこの遺跡って下水道とかないのかな?」
そんな僕が疑問を口にすると二人の学者さんがすぐに答えてくれた。
「あるにはあるがもっと深い所にあるのだよ。きっと地下室を作る事を念頭に入れて都市設計していたんだろうね」
「魔物がぎょうさんおって調査できないんでしたっけ?」
「ああ。おかげでどこに排水してるのかも分かってないよ」
「どうやって下水を処理してたんかも興味がそそられるんやけどなぁ」
「この穴その下水道と繋がってるって事は無いですよね……」
「無いと思いたいがね。まぁそれが分かるのはまた来年以降の事だろう」
地面が崩れて下水道に繋がる……なんて事ないといいのだけど。
悪い想像をして心臓の鼓動が早くなる。いかんいかん。落ち着かないと。
「中級のゴーマや!」
深呼吸を一回したところで後方から怒声が飛んでくる。
「前方には魔物の姿は無い! 後ろの護衛! 少し前に進むから邪魔にならない位置まで進め!」
金属に硬い物がぶつかり合う音が聞こえてくる。
前の人達は少し前に進んでから立ち止まる。どうやらこれ以上は前に進む気はない様だ。
ゴーマはゴーラムの上位種で岩のように硬い身体を持った魔物だ。
しかし、中級とは言っても強さ的には下位に当たり、動きが鈍い為大槌を持っていればオークなどと比べれば比較的楽に倒せる敵だ……広い場所なら。
ここは狭い穴の中。大槌のような大きな武器は振るえない。このような状況下だと魔法剣が無ければ傷をつけるは難しいはずだが……。
「よっしゃ。倒せた! 先に進んでくれや!」
怪我をしたという報告もなく数十秒で事が終わってしまった。
なんて早いんだろう。場慣れしているという事だろうか。
また少し進むとゴーマの姿が見えた。まとめ役の冒険者さんが声掛けをしてもう一人の冒険者さんが眼にも止まらない速さで飛び出しゴーマに盾をぶつける。
そして、ゴーマが体勢を崩した所でこん棒にマナを込めた魔法剣ならぬ魔法こん棒を使い一刀両断する。
流れるような動作だ。後ろの人も同じようにやったのだろうか?
一刀両断され地面に倒れるゴーマ。けれど前方の護衛を含めた冒険者は誰も警戒を解いていない。
それも当然で弱点となる核を潰さない限り倒したとは言えないんだ。
斬りかかった冒険者さんは魔法こん棒で何度も叩きつける。
すると核を破壊できたのか岩の様だったゴーマがただの土に戻った。
……それにしてもこん棒でも一刀両断ってできるんだな。僕も剣だけじゃなくてこん棒みたいな物も持つべきかな?
二体目のゴーマを倒し、現れる下級の魔物を倒しながらしばらく進むと横に道が出来て分かれ道になっている場所へ着いた。
この横道は昨日調査した遺跡に続いているはずだ。
その証拠に昨日冒険者さん達が壁に残したという目印もあった。
そのまま横穴に入り抜けるとそこはやはり昨日調査した地下室だった。
これで学者さん達の地下室の穴は始点となる場所から教会の地下室にいる人達を助け逃げる為に掘られた物という予想は信憑性を増したと思っていいのかもしれない。




