北の遺跡でⅡ その2
遺跡について二日が経った。
遺跡の周辺は前に来た時とは全く様子が違って氷の壁は無くなり代わりに土の壁と壁に沿って二重に溝が掘られていた。
そして、その壁の中には天幕がずらりと並んで設営されている。
移動の途中に使っていた天幕があるのだけどそれは僕達と入れ違いで帰る人達に渡された。
僕とウェイリィさんにあてがわれた天幕は会議所兼非常時の傷病人収容用の大きな天幕のすぐ横に備え付けられた天幕だった。
あてがわれた天幕も恐らくは傷病人が体を休められるようにという意図なのか隣ほどではないがこれまた大きい。
この二人で住むには広い天幕でウェイリィさんと一ヵ月暮らして行く事になる。
ちなみに天幕の近くには冒険者の女性陣が住む天幕も用意されている。
会って半月程度の女性と一つ屋根の下で暮らす事になるが……それよりもアイネの事が心配だ。
どうやらアイネはまた月のもので体調を崩したらしい。
サラサを通してアールスからフルイの調理の仕方を聞かれてからあまり連絡をしてこない。
便りがないのが元気の証拠とは言うし、何があってもすぐに戻れるわけじゃないから逐一連絡されても何もできないのだけどね。
アールスもきっとそれが分かっててサラサに何も言わないんだろう。
でもここでは暇な時間が多い。
僕の仕事はあくまでも傷病人の治療。傷病人がいなければ暇なのは当然だ。
訓練したり魔獣達と触れ合ったりウェイリィさんと神様について語り合ったりレナスさんに僕の護衛という名目で遺跡見学に連れていったりしても空いた時間は出来てしまう訳で、そうした隙間の時間にふとアイネの事が頭によぎってしまう。
そして、なんだかんだで一週間が経つとやる事も決まってくる。
朝起きたら朝の訓練をした後配給所で食事を貰い、その後前日着ていた服を洗濯する。
洗濯が終わったら魔獣達のお世話兼ウェイリィさんや護衛さん達と一緒に遊び相手をして午前を終える。
午後になれば遺跡見学が解放されるので暇つぶしに護衛を連れて見学する日もあれば持ってきた本を読んだり訓練をして時間を潰す日もある。
護衛は基本的にレナスさん達とレスコンシアの人達で日替わりで交互に努めていて、今日は護衛であるレナスさん達と一緒に遺跡見学をする日だ。
まぁ見学できると言ってもあくまでも調査が終わっている部分だけなのだけど毎年調査しているだけあって見れる範囲はかなり広い。
大体都市の四分の一程調査が終わっているらしく一日二日で回り切る事は無理だ。
とはいえ千年前の魔物の大進攻で破壊されたと思われる遺跡の跡は建物は損傷が激しく立ち入らないようにと厳しく禁止されている。
見れる範囲に制限があるのだから一ヵ月もあれば多分公開されている部分はすべて見て回れるだろう。
遺跡の街並みは僕達の住んでいる……というよりアーク王国から発生した計画的に効率よく整然とされた都市の作り方とは違い、統一性がない建物とまるで迷路のように入り組んだ路地が特徴的だ。
レナスさん曰く大進攻以前の都市は人間同士の戦争もあった事から敵が攻め込んできた時の為に迷路のような作りになっている都市が多かったようだ。
遺跡の見学中はレナスさんが先行しての安全確認という名目で遺跡を楽しんでいる。
正直瓦礫のような建物ばかりで何が楽しいのかは分からないがレナスさんの熱心に観察してる姿を見ていると嬉しくなる。
というかそういうレナスさんを見る為にここに来ていると言っても過言ではない。
……いや、さすがにちょっと言い過ぎか。
実はちょっとこの遺跡探索が楽しい。
魔素が濃いから広範囲は無理だけどマナを操って立ち入れない場所を探っているのだけど気分はお宝探しだ。
この遺跡の建物のほとんどには地下があり、瓦礫に埋もれたり巧妙に隠された入り口をマナで探り見つけ出すのが今の僕の遊びだ。
もう精霊によって調査済みだという事と隠れていた魔物はすでに排除されていると聞かされているので魔物を恐れずに思う存分地下室探しが楽しめるのだ。
そして、万が一本当にまだ見つかってない地下室や隠し部屋を見つけてお宝を見つけてそれが一大発見だったら、という妄想までしている。妄想楽しい。
発見済みとそうでない物の区別は事前に借りた遺跡の地図に書かれている。
その地図は遺跡の見学者の為に配られていて魔物が潜んでいるかもしれない要注意個所が書かれているのだ。
当然地下室は魔物が隠れているかもしれないから発見済みの所は全て記入されている。
「あらぁ……教会でしょうかぁ。こんな姿になって……」
「ラーラ様の紋章ですネ。きっと教会でショウ。お労しい事デス」
聞こえて来たカナデさんとミサさんの言葉に気が付き二人が見ている方を向くとそこには大きな建物が建っていた。
今普及している教会の建物とは形が違うけれど神様を現す紋章が入り口の上に大きく残っている。
「大きいですね。よくこれだけ外観が残ってますね」
教会の外観は一部が崩れているだけで他に比べたら被害が少ないように見える。
「きっとそれだけ頑丈なのでショウ」
「他の建物と同じ石造りなのにどこが違うんでしょうね」
「厚みですかね~。それとも大進攻の時は結界を張って守っていたとかぁ」
「ああー……」
「いえ、逆に誰もいなかったのかもしれまセン。魔物は生き物を狙いますが他の物には無頓着デス。
初めから誰もいないと分かってたらわざわざ破壊しようとはしないのですヨ」
「う~ん。なるほど。そうなると魔物の習性を利用して教会を守ろうとしたのかもしれませんね」
「もしくは単に別の場所に避難場所があったのかもしれまセン」
「そうですね。なんにしろよく千年も形を保ってたものです。雪に囲まれて凍ってたお陰かな」
「ですね~」
千年前の人達がこの教会にどんな思いを抱いていたんだろう。
魔物の大進攻に対しどれだけの絶望を感じたのだろう。
今の僕には想像し黙祷をささげる事しかできない。
そしてもう二度と同じような事が起こらない事を願うばかりだ。




