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閑話 あの人の様に

 ナギ達が出発してもうそろそろ二週間だけどサラサからの情報だとまだ目的地には着いてないらしい。

 今の所魔物の襲撃も無いみたいだからこのままナギ達に何事も無ければいいんだけど。


 一方で私達の方ではちょっとした問題が起こった。

 アイネちゃんがまた調子を崩した。

 たしか去年も同じ頃に調子を悪くしていたから生理の時期に気温が上がると調子が悪くなるのかな?

 最初に気づいたのは朝早いはずのアイネちゃんが中々起き出してこなかったからだった。

 中々起きてこないアイネちゃんに疑問を覚えて部屋に行って戸を叩いてみると生返事が返って来た。

 部屋の中に入ってみるとアイネちゃんはベッドで寝たままだったから確かめてみると具合が悪いのが分かった。

 生理自体はまだ来たわけじゃないらしいけど多分二、三日中には来るだろうってアイネちゃんは予想してる。


 アイネちゃんは起き上がる元気が湧かないと言っていたからナギがやっていたように抱きしめてみたら少し元気を取り戻してくれた。

 ナギの真似してみて分かった事だけど、甘えてくるアイネちゃんすっごくかわいい!

 いつも元気なアイネちゃんだけど今はしおらしくて私にくっついてくる。


「アイネちゃん。今受けてる依頼は無いんだよね?」

「うん……」

「じゃあ私と一緒に今日はお休みしようか。何か食べたいものとか欲しいものある?」

「んー……お肉食べたい。調味料たっぷりの焼肉」

「朝から? 何のお肉がいいの?」

「お昼がいい。お肉はフルイがいい」

「フルイ……」


 たしかこの辺りに生息してるアライサスとはまた違った大型の四足獣だっけ。

 私は料理には使った事ないけどナギは時々出してたっけ。

 ナギが出してたのは結構分厚いお肉で調味料で味付けした物を焼いただけの料理だったけど噛み応えのある食感と程よいしょっぱさが美味しい料理だけど……。


「ナギが出してたみたいなの?」

「うん……」

「ううん……」


 あの調味料ってカナデさんが調合した物だから多分売ってないんだよね。どうしよう。

 とりあえずサラサ経由で聞いてみよう。ただ時間的にカナデさんはまだ寝ぼけてる時間かな?


「とりあえず朝ごはんにしようか。何食べる?」

「辛いのがいい」

「辛いの? じゃあ食べやすいように汁物にしようか」


 生理のせいで刺激が強い物が欲しいのかな?

 立ち上がり部屋を出ようとするとアイネちゃんも一緒に立ち上がる。


「休んでていいよ?」

「んー……」


 アイネちゃんは少し悩んだ様子を見せてからお布団の中に戻った。


 私は朝食の仕度をする為に部屋を出て台所へ向かう途中サラサに連絡を取り調味料の事をカナデさんに聞いてもらう。

 すると目的の調味料はまだ残ってて台所にある棚の中に置いてあることが分かった。

 容れ物の特徴を聞いてそんなのあったかな? って思いつつ探してみると他の調味料の容れ物の陰に隠れていたのを見つけた。

 少し手の上に出して味見して確かめてみるとたしかに目的の調味料だ。朝ごはんにもちょっと入れてみようかな。




 朝ごはんを作ってアイネちゃんの部屋へ持っていくとアイネちゃんは上半身だけ起こして迎えてくれた。


「はい朝ごはんだよ。食べられる?」

「ん」


 机の上に料理を置くとアイネちゃんはベッドから降りようとするけれど、その途中ふらついたから慌てて支える。


「あんがと……」

「無理しちゃ駄目だよ」

「うん……」


 アイネちゃんを椅子に座らせて手を洗う為の濡らした布巾を渡す。


「濃い目に作ってみたけど辛すぎたら言ってね」

「うん。いただきます……あれ? ねーちゃんは食べないの?」

「私はアイネちゃんが食べ終わるまで待っています。ナギならそうすると思うし」

「そっか」


 アイネちゃんは納得したのか気だるそうにしながらも食べ始め、手を休める事なく全て食べてくれた。


「ご馳走様……」

「辛さは大丈夫だった?」

「うん。ちょーどよかった」

「よかった。じゃあ片付けるね。ついでにご飯も食べてくるけど、アイネちゃんは休んでてね」

「うん。あんがと」


 さて、ご飯食べたらお掃除と洗濯しようかな。

 お昼に向けて買い出しにも行かなきゃ……あっサラサに頼んでナギにフルイの料理法教えてもらわなきゃ駄目だよね。




 買い物が終わって家に帰ると早速お昼の準備を始める。

 フルイのお肉はとっても獣臭いお肉でナギは新しい調理法を試したりやカナデさんが作った調味料を試す事が多いからそんなお肉でも調理するけど私は匂いの強くないお肉しか使った事が無い。

 だけど、ナギの調理したフルイは確かにおいしかったっけ。脂身が少なくてさっくりと噛み切れる絶妙な歯ごたえ。

 それに下に乗った時の肉汁の旨味と調味料でつけられた少し痺れるような刺激とその後に来る脂肪部分の甘辛さ。

 今思い出してもちょっと涎が出てきちゃいそう。

 あの味が私に再現できるかな。今日はアイネちゃんの為に頑張らないと。

 とりあえずお肉の臭みを消さなきゃ。


 袋から取り出してブリザベーションを解いた二枚のお肉はすぐに血生臭さと獣臭さが混じったひどい臭いが漂ってくる。

 最初は血抜きか。たしか分厚いお肉の場合はお肉の上に紙をかけて潰れない程度の強さで軽くポンポンって叩く。

 紙が血で濡れたら紙を取る。

 まだまだ血生臭さは抜けきってないけど相対的に獣臭さが目立ってきた。

 次にお肉に細かく切り分けた臭い消し用の香草を両面に振りかけてさらに香りのいい大きな葉っぱでお肉を包んで涼しい所に大体一時間くらい置いておく。

 一時間の間に外の時計塔で時間を確認したりアイネちゃんの様子を見たりして時間を潰す。


 一時間が経つと一旦お肉を取り出し香草を取ったらもう一度葉っぱで包んで今度は常温で置いたまま三十分待つ。

 ここまで来たら後は付け合わせの身体を温める料理を作るだけだ。

 三十分の間に付け合わせを手早く作って三十分経ったらお肉を取り出す。

 お肉の筋を切る為に細かく包丁で切れ目を入れてからお塩とカナデさん特製の調味料を振りかけ油を敷いて温めておいたフライパンに乗せて強火で焼いて短時間で表面に焼き色をつける。

 焼き色が付いたら火を弱めて二分待つ。


「出来た!」


 まずは一枚目。包丁でちょっと切って味見してみる。

 ちょっとしょっぱかったかもしれない。アイネちゃんの分は調味料を減らす? いや、アイネちゃんは今は生理中で味覚がいつもと違う。朝ごはんだってそれを考慮して濃くしたんだ。これぐらいが丁度いいかもしれない。でも足りなかったとしても調味料を渡してアイネちゃん自身で調整してもらえばいいかな?

 後は大丈夫だと思う。臭いは消えて歯ごたえも悪くない。肉汁も問題ないかな?

 でもナギのとは何か味が違う気がする。言われたとおりに作ったはずなんだけど一体何が違うんだろ?

 まっいっか。美味しくは出来たんだし。


 私の分の料理にはブリザベーションをかけておいてアイネちゃん用のお肉に取り掛かる。さっきと同じように作るけど弱火て焼く時の時間は時間が確認できないから少し緊張する。

 ナギだったらマナを使って時計塔で時間を確認できるんだけどな。

 さすがにそんな変態的な魔力感知と時計塔まで伸ばせる魔力操作は持ち合わせてない。

 マナを持ってる生き物ならともかく遠くの無機物の動きまで把握できるとか普通出来る事じゃないよ全く。


 出来上がったお料理をアイネちゃんの部屋へ持っていく。

 アイネちゃんは相変わらずベッドの上にいるけど寝ていた訳じゃないみたいで私でも分かるくらいアイネちゃんのマナが部屋の中で蠢いていた。


「アイネちゃん。お昼出来たよ。食べられる?」

「うん」


 話しかけながら料理を机の上に置くとアイネちゃんがベッドからゆっくりと起き上がり椅子に座る。


「動きづらい?」

「うん……からだじゅーが変な感じがする」

「痛い所とか吐き気はどう?」

「そっちはまだだいじょーぶ。まだ来てないからかな。いただきます」


 アイネちゃんは早速お肉に手を出す。ナイフで切り分けた一切れを口に含むと表情を一変させた。


「ふぉいしー!」


 よかった。気に入ってもらえたみたい。


「アイネちゃん。お行儀が悪いよ」


 嬉しいけどナギだったらまず叱るよね。


「むー……」


 アイネちゃんは私の小言が耳に入っていないみたいに幸せそうな顔をして目を閉じ口を動かしてる。

 こんな顔されたら嬉しくて何にも言えなくなっちゃうよ。


「なんか元気出てきた。身体動かしたいし後で付き合って」


 口の中の物を飲み込んでからそんな事を言い出した。


「もちろんいいよ」


 美味しい物を食べただけで元気が出るなんて単純な子だなぁ。でもそういう所も可愛いかも。




 生理が始まってアイネちゃんは本格的に動けなくなった。

 具合の悪さや身体の調子の悪さもあるのだけど動けない主な原因は気持ちが落ち込んでるからみたい。

 昼間は身体の調子の悪さを押してベッドから起きて鬱憤を晴らすように身体を動かしてるけど日が暮れると途端に落ち込み始める。


「あたしね、がっこーにはナギねーちゃんがいたしミリアもいて全然寂しくなかったよ。

 ナギねーちゃんがそつぎょーしてからはちょっと寂しかったけどミリアがいたからへーきだったんだ。

 ミリア元気かな……会いたいな」


 日が暮れてベッドに入ってからはずっとこの調子。同じ話を何度も繰り返してる。

 それだけ寂しいんだろうな。

 私はアイネちゃんがなるべく寂しくないようにベッドの傍に座ってアイネちゃんと手を繋いでる。


「ねーちゃん達と一緒に行きたかったなぁ……」


 思えばアイネちゃんはナギを追いかけて一緒に旅をしてるんだ。

 なのに置いて行かれている現状はいくら覚悟していたとしても思う所があるのかもしれない。

 私だって本当はナギ達と一緒に行きたかった。

 だけど今のアイネちゃんを見ているとナギやミサさんがこの家で一人にしたくなかった理由がわかる。

 気落ちしてる時に一人でいるにはこの家は広すぎるよ。


「アイネちゃん。そろそろお風呂入ろうと思うんだけど一緒に入る?」

「……いい。一人で入る」


 さすがに今の状態じゃ人と一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいか。

 昨日寝る時も迷った挙句に一人で寝たからな。


「先に入る?」

「ねーちゃんの後に入る」

「うん。分かった。」


 羞恥心が上回ってる分には多分大丈夫かな。

 私の手に固く握られたアイネちゃんの手をゆっくりとほぐすように解いてから立ち上がり部屋を出る。

 私は上手く出来てるかな。ナギの様にアイネちゃんに接しているかな。

 去年はずっとナギがアイネちゃんの相手をしてたんだ。がんばらないと。

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― 新着の感想 ―
[一言] >去年はずっとナギがアイネちゃんの相手をしてたんだ。がんばらないと。  お?  介護(介助)で一番思っちゃいけないやつー。  何でもかんでも自分(だけ)が頑張らないと~っての。  責任感…
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