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北の遺跡でⅡ その1

 六月の中旬になりついに北の遺跡へ出発する日となった。


「二人とも病気とか怪我には気を付けてね。暖かくなったって言ってもグランエルの秋くらいの気温なんだから油断しないように」

「うん! でも私達よりナギ達の方が体調崩しやすいだろうし気を付けてね?」

「うん。お互いに気を付けよう」


 そして、アールスは僕以外の皆にも声をかけて手短に話をする。


「ねーちゃん。あたしがいないからって訓練さぼっちゃ駄目だかんね」

「あははっ、がんばるよ。アイネは怪我に気を付けてね?」

「うん!」

「それじゃあ行こうか」


 これから往復を入れた二か月の間に不幸な事が怒らないように祈りつつ皆に声をかけ僕達は歩き出した。

 長期間の壁の外での活動に人間の皆は緊張の色を隠せていない。

 しかし、前向きに考えれば魔の平野を渡る為の予行練習と捉える事も出来る。

 絶対にみんな無事で戻ってこよう。


 組合の近くまで行くと僕と魔獣達以外の全員と一旦分かれた。

 皆は一旦組合に行き他の冒険者たちと合流する必要があり、僕は治療士として役所に行かないといけない。

 魔獣達を連れて役所まで行くと役所前の広場には多くの馬車と木箱が置いてあり、その間を軍服と鎧を着た人達が忙しそうに動き回っていた。

 聞こえてくる声から判断するにどうやら荷物の最終確認をしているようだ。

 役所に近づこうとすると近くにいた兵士さんに誰何されたので目的を伝える。

 すると兵士さんは敬礼で答え僕達を役所の入り口前まで通してくれた。

 通り過ぎる途中馬車に繋がれた馬に魔獣達が近づく事があったがどの馬も警戒はすれど怯える様子は見られなかった。

 さすがは軍馬。アースを恐れないほどよく訓練されているようだ。

 兵士さんには魔獣達は文字が読めるので何かあったらそれで意思の疎通を図ってもらうよう頼む。


 そして、魔獣達には入り口近くで待っていてもらい僕は役所の中に入る。

 役所の中も外と同じように……いや、一般の人もいるからさらに慌ただしい様子だ。

 とりあえず依頼用の受付に行き用件を伝えるといつもと同じように別室へ通され、そこで準備が終わるまで待っていてほしいとの事だ。

 どうやら僕は早く来すぎてしまったようだ。


 しばらく待っていると女性が部屋に入って来た。

 話を聞くともう一人の治療士らしい。

 緊張した面持ちだったので自己紹介をしてから軽く話をしてみた。

 名前はカーミュ=ウェイリィというらしく年は僕よりも二つ上で信仰している神様は賢神ラーラ様を信仰をしているんだとか。

 僕と二つ違いで治療士になれているという事は僕と違ってウェイリィさんは相当優秀だと思っていいだろう。

 ラーラ様といえば人に知恵を授け神の文字などの魔物と戦うすべを授けた事で知られているが特殊神聖魔法はステータスオープンやアナライズのような解析にまつわる物が有名だ。


 ウェイリィさんは軍に所属している治療師らしいが今回長期間の遠征どころか壁の外に出る事も初めてだという事を教えてくれた。

 それなら緊張するのも無理ないだろう。

 緊張をほぐせるようになるべく優しい話し方を心がけてみた所ウェイリィさんの表情から緊張の色が薄くなった。

 

 笑顔を見せる様になった頃に職員さんがやって来て準備が終わった事を教えてくれ、さらに責任者の元へ案内してくれるようだ。

 とりあえず言われるままに職員さんについて行き別の部屋に入るとそこには顔に見覚えのあるきれいで高価そうな職員服を着た男性職員さんと軍服を着た男性が二人いた。

 見覚えのある男性職員さんはたしか正式に依頼を受けた時に顔合わせをした今回の依頼の責任者であり遺跡調査課という所の課長さんだ。


 挨拶を済ませると課長さんが軍人さんを紹介してくれた。

 どうやら今回の遠征の部隊を指揮する上級士官と衛生隊の責任者だそうで、顔合わせと僕達治療士の最終的な契約内容と意志の確認をしに来たようだ。

 話が終わると軍人さん二人と一緒に部屋を出て外まで行く。


 外に出るとヒビキが僕に飛び込んできた。 

 ヒビキを受け止めて宥めてから軍人さん二人とウェイリィさんにヒビキを紹介する。

 そして、遅れてやってきたゲイル、ナスと続き大人しく待っているアースとヘレンも紹介した。

 一応魔獣達にお二方はえらい人だという事を伝え、ウェイリィさんは同僚だという事も伝えておく。

 ウェイリィさんは魔獣達は軍に所属している魔獣だと思っていたらしく僕の仲間だと知るととても驚かれた。


 魔獣達を紹介した後僕とウェイリィさんは治療士用の箱馬車まで案内されそれに乗るように指示された。

 そこで僕は魔獣達はどうしたらいいかを聞いた。箱馬車の後ろにつかせればいいのかそれとも横につけるか。

 指示を出す為に僕も歩いて行くという手もあるが、しかし、その手は却下され小さいヒビキとゲイルは箱馬車の中にいてもよいが大きな魔獣は箱馬車の両側につかせてほしいと言われた。どうやらいざという時の為に魔獣達には箱馬車の護衛をしてほしい様だ。

 念の為にナスとアースとヘレンに聞いてみると了承してくれた。

 ヒビキとゲイルを連れてウェイリィさんと共に箱馬車に入ると外から出発の号令が聞こえ、そして馬車が動き出した。




 馬車は都市を出ると街道横の広い場所で一旦止まった。

 どうやらここで冒険者と合流するらしく僕達も一度降りて冒険者達と顔合わせする事になった。

 冒険者の数は多く酒場で何度か話をした人もいた。

 だけど女性の姿は少なくレナスさん達以外には五人しかいない。

 その五人は仲間同士なのか固まって集まっていて何やら僕達を見ながら小声で話をしている。

 話は今回の遠征隊の役所側の責任者と軍の中でも冒険者担当の人が主導で話をする。

 話は確認なのか依頼を受けた時に聞いた内容とほぼ変わらない。

 ただ一つ違った点と言えば僕達治療士の身辺護衛は女性の冒険者達がやる事になったくらいか。

 僕もウェイリィさんは女だからその方がいいだろう。


 念のために僕からも護衛の皆さんにナスとゲイルが一応意思の疎通が図れ、ナスはアーク語、ゲイルは精霊語でなら自分の意思を伝える事が可能だという事を伝えておく。

 さらにアースとヒビキはグライオン語も簡単な言葉なら理解出来るが話せない事、そしてヘレンはまだまだ勉強中だという事も話しておいた。

 ほとんどの人は半信半疑だったがナスとゲイルに話してもらうと驚かれながらも納得してくれた。


 話が終わると解散となり男性の冒険者達は持ち場へ散っていった。

 ウェイリィさんを誘って残った女性冒険者達に改めて挨拶をする。

 まずは酒場で会った事のある人から話しかけ挨拶をし他の人も紹介してもらう。

 予想通りレナスさん達以外の女性は全員仲間同士のようで一団の名は『レスコンシア』。同じ名前の薄水色の透明な水晶から取られた名前らしい。

 全員剣や魔法の腕に覚えがあり、ドサイドの闘技場でも名の知れた闘士なんだとか。


 挨拶が終わると次はレナスさん達の所へ行きウェイリィさんに皆の事を紹介し道中について少し話をする。

 アースとヘレン、そしてナスが護衛として馬車の周りに付く事になったので道中三匹をレナスさん達と同行させることは出来なくなった。

 逆にヒビキとゲイルは特に何も言われていないので皆に預ける事も出来るのでふたりの気分が向いたら皆の所に行くかもしれない。

 後ついでにナスに声をかけて欲しいという事も伝えておく。

 さすがに護衛中に歌うのは駄目だろうけど雑談位なら夢中にさえならなければ大丈夫だろう。


 そして、話を終えると僕はウェイリィさんと一緒に箱馬車に戻り出発の時を待つ。

 馬車に乗っての長期間の旅は初めてだ。少しワクワクしている自分がいる。

 アールスはこの依頼を受けなくて正解だったかもな。あの子昔馬車に乗って酔った事がトラウマで馬車が苦手みたいだったし。

 しかし、未だに苦手という事はブレイバーの影響を受けてないという事で、やっぱり幼少期の嫌な思い出からくる苦手意識は無くせないようだ。僕やレナスさんに対して失うことへの恐怖を感じてるのときっと同じだな。 

 今まで馬車に乗る機会がなかったけど、固有能力の弊害を何とかする為にそっちの方からアールスに恐怖を感じさせてみるのも一つの手か?

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― 新着の感想 ―
[一言] >特殊神聖魔法はステータスオープンやアナライズのような解析にまつわる物が有名だ  これでナギの信仰対象がバレたりしますかね?  信仰対象が表示されなくても、使える魔法の名前の違いで既存の存…
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