北の遺跡で その4
二度目の交代をする頃には精霊が無闇に索敵出来なくなるほど魔素が濃くなった。
アースが魔素が美味しいと喜んでいるが僕は喜んでいられない。
蜘蛛の巣を使い感知しようにも太く強くしないとすぐにマナが途切れてしまうが、もし魔物が引っかかったらすぐにばれてしまうに違いない。。
あまり遠くまで広げると藪蛇となるかもしれないから遠い場所の索敵はカナデさんにまかせ僕は積もった雪や岩等の物陰を探る事ににした。
そして、足を止めて休憩する時はゲイルに道の先の索敵をしてもらう。
歩みは昨日より確実に遅い。
前の依頼で出会った骨で出来た犬に似た魔物、ディアンドゥが襲ってくる事もあった。
魔素が濃い中だと高い感知力が遺憾なく発揮されているのか僕の感知外からこちらを発見しているようだ。
近づかれる前にフォースで倒せたが、動きが早く当てるのに苦労した。
さらにその後幸い交代まで会う事は無かったがディアンドゥにつられ他の魔物がやってくるのではないかと神経を使った。
交代して休憩している間に依頼人から毎年こんなに魔物が多いのかと話を聞いてみるとどうやらいつもこんなものらしいし、別に多いという訳でもない様だ。壁を離れればこんなものらしい。
今回は僕達のお陰でいつもよりも進むのが早いが、もしもトロールを見つけたらすぐに退却してほしいと言われた。
そういえば依頼を受けた時にもトロールを発見した時は速やかに撤退し依頼人の指示を仰ぐようにと言われていたっけ。
トロールは巨大な魔物で中級の冒険者が十人はいても全滅してしまう恐れのある恐ろしい魔物だ。
巨体から繰り出される拳は金属の全身鎧を着ていてもたやすく吹き飛ばされるほどの威力で絶対に接近戦を挑んではいけないと言われている。
さすがに魔獣達や精霊達がいるからといってトロールを相手にする勇気はないな。
ミサさんも正面からは相手にしたくないと言っていたっけ。
トロールは毎年雪の止んだ十二月から一月の間に行われる魔物の襲撃に参加してくるのだが、時たま生まれるのが遅かったのか何かわけがあって参加しなかったのか残ったトロールがこの辺りで出現するらしい。
この辺一帯をまとめる魔人のような存在がいないので襲撃は散発的でまとまりがない物がほとんどだ。
おそらく強い魔物が適当に近くにいる魔物を連れてきているのだろうと考えられている。
だから遅く生まれたり何かの理由で襲撃に参加してなくてもおかしくはない。
ひょっとしたら魔物を集めている最中なのかもしれない。もし多くの魔物を引き連れていたら僕達は逃げる事になるだろう。
幸いな事にトロールどころかオーガのような中級上位以上の魔物とは出会う事なく二日目の移動も目立った被害もなく終える事が出来た。
そして、雪蔵が出来るまでの間目的地まで後どれぐらいかかるか現在地を確認するとあともう少し、数時間程度で着く事が分かった。
予定よりも早い。魔物がいなかったら今日中には着いていたかもしれないな。
それにしても今日は疲れた。精霊達から索敵を変わってからは神経を使っていたからな。
カナデさんも最後の方は目頭の辺りをよく揉んでいたっけ。
お風呂に入ってゆっくりしたい。
翌日、何事もなく遺跡のある場所にたどり着いた。
本来崩れた外壁があったと思われる場所は雪に覆われてしまっていて入り口がどこなのかすら分からない。
業者の人が何やら地図を見つつ場所に当たりをつけている。
「さて、ついにここまで来たわけだけど、改めて皆に聞くけど警備の仕事は受ける?」
「ワタシは受けても問題ないですネ。むしろ受ける事を進めマス。ワタシ達の戦力だと金貨を貰わないとわりにあいまセン」
「そうですねぇ。寝床が雪蔵というのがちょっと心配ですけどぉ、ここまで来て私達だけ帰るというのはちょっと怖いですねぇ」
「わ、私も帰りたくないです」
レナスさんは先ほどからちらちらと遺跡の方を見ている。そんな様子に苦笑しつつ精霊達と魔獣達にも同じことを聞くが異論は出なかった。
警備の依頼を受ける事を責任者に伝えに行くと僕達と同じつゆ払いの仕事をしていた一団のまとめ役の人がいた。
どうやらあちらも警備の依頼を引き受ける様だ。
警備の仕事は基本的に野営地の見張りだ。遺跡内での護衛や調査はハモラギの一団が行う事になる。
これは遺跡の中で魔物と戦闘になった時なるべく傷つけないように戦わないといけない為信用のあるハモラギの一団に任せているんだ。
休憩時間の遺跡の見学は出来るかを聞いてみるがやはり許可は下りなかった。
見学と言ってまともに整備されていない遺跡内を荒らされるのが嫌みたいだ。
ただどうしても見たい場合は春から夏にかけて今回よりも大規模な依頼が出るからそれに応募すればいいと教えてくれた。これは朗報だ。レナスさんに早速教えなければ。
皆の所へ戻りレナスさんに教えてもらった情報を教えると一瞬顔をほころばせた後顔を引き締め真顔になった。
「先の事はどうなるか分かりません。今は今の仕事に集中しましょう」
「そうだね。早速だけど僕達が最初にこの周辺の見張りする事になったよ」
ここまで最後に導いたのはもう一方の冒険者達だから僕達から警備するのは当然だろう。
「壁を作ることは出来ますか?」
「作っていいって。ただ見張るのは壁の外を見張れる場所でって言う話だったね」
「まぁそれは当然でしょう。となると内側に階段を作って登れるようにしましょうか」
「そうだね。雪蔵の設営が終わったら僕がアイスウォールを使って作るよ」
「あと壁の中の魔素も精霊達に頼んで薄くしてもらいましょう」
「そんな事出来るの?」
「壁を作った上で精霊達が協力し合えばできるはずです。他の冒険者達が契約している精霊にも協力を頼みたいですね」
「それをやって精霊達のマナはどれくらい減るの?」
「マナを集めて動き回り壁の外に魔素を追い出すだけですからほとんど減りません」
「ならそれで行こうか。壁の中だけでも精霊達の索敵が出来るようにしたいしね」
「見通しよくする為に外側の地面を均したいですネ」
「そこまでするのっで僕達の仕事じゃない気も……まぁそんなに苦労せず出来ますが」
「ん~、均すのはいいですけどぉ、やはり光の反射はどうにかしたいですね~。ライチーさんばかりにまかせるのは悪いですしぃ」
「目のいいカナデさんには死活問題ですからね。いっその事見える範囲の雪全部砕いて壁の材料にして土の地面が見える様にしようか?」
「そんな事出来るんですか?」
「凍った雪にマナを通す為に集中するのに時間かかるけどマナを共有してる今なら出来るよ」
警戒しながらだと難しいが落ち着いた状況でやれば三十分くらいでできるだろう。
「相変わらずすさまじいですね~」
「マナの量でのごり押しですよ」
「それで細かい制御も出来るんですからナギさんはやはりすごいです」
「慣れだよ慣れ」
「雪の下は毒の沼なのではないですカ?」
「いえ、沼ではないようですよ。地質調査をして毒に汚染はされていますが普通の地面だと分かっています」
「しかし、毒に汚染された土地でどうやって国を発展させたんだろうね?」
「それを解き明かすのが考古学です。今の所有力な説なのは千年前は毒に汚染されていなかったという説ですね」
「あれ? 千年前から毒の沼地ってあったんじゃなかった?」
「千年の内に広がったというのがこの説では考えられていますね。もしくは地道に植物を育てて毒素を抜いて少しずつ農業を出来る範囲を広げたとかですかね。
もう一つ有力なのが毒に汚染されているのは山の麓だけなので山の恵みを採っていたという説ですね。
後は千年前この遺跡で暮らしていた人達は毒に耐性がありましたがアーク王国人に耐性がなかった、もしくは長く毒の沼に触れる事が無くなったので耐性が無くなってしまったという説がありますが、千年前から毒の沼と言われていたのに耐性があったという事はないと思うんですよね」
「なるほどね」
「とりあえず今は地面を露出させても大丈夫という事でいいんですネ?」
「はい。毒の沼地で問題になるのは毒が気化によって空気中に漂うからです。土や地面から生えている植物を口にしなければ大丈夫です」
「じゃあそういう事で雪を利用して壁を作るという事で」
「これで評判が広がっていい依頼を受けられるようになるといいですネ」
「逆に怖がられて依頼が受けられないような事にならないといいんですけど」
「それを言ったら魔獣達を引き連れてる時点で怖がられてもおかしくないと思いますガ」
「……それもそうですね」
皆良い仔なんだけどな。




