北の遺跡で その1
「あっ、これなんていいんじゃないですカー?」
組合で依頼を見繕っているとミサさんが依頼の紙を手に取って見せてくる。
「なになに。遺跡の整備隊の道中の安全確保?」
「護衛ではなく先行しての雪などの障害物の排除や魔物退治のお仕事ですネー」
「こういう仕事って暖かくなってからやるもんだと思ってたな」
「ミサさん。私としてはすごく受けたい依頼ですが、ミサさんが選んだ理由はどんなものですか?」
「前の依頼で魔物と戦うの事になりましたガ、二人ともまともに戦えたとはいいがたいのでこの依頼でいい加減魔物と戦ってもらおうと思ってマス。
それでこの依頼を選んだのはワタシ達だけである程度動けそうでかつ助けを求めやすそうだからですネ」
「なるほど……僕は構いませんがカナデさんはどうですか?」
「問題ないですよ~。特にやりたい依頼もありませんでしたし~」
「ちなみにレナスさん。依頼のカーデアル遺跡ってどこら辺にあるのかな?」
「壁の向こう側ですが近いですよ。ここからだと歩いて一週間ほどの北北西の位置の山の麓辺りにある古代都市国家の遺跡でとても広い遺跡ですね。
都市の北側半分は切り立った険しい山に囲まれ南半分は何重もの壁があり堅牢な作りであったと考えられていますが……遺跡の破壊され方からして山の方から魔物の軍勢が攻撃してきたと考えられています。なので険しい山の壁があるからと言って安心はできません」
「なるほど~。遺跡の整備ってどれくらいかかるんでしょうかねぇ。というかそもそもつゆ払いが仕事となると遺跡に着いたらそこで依頼は終了なんでしょうか~?」
「遺跡の整備を今の時期に本格的にやるとは思えません。恐らくは整備の為の道の確保と状態確認の最低限の調査が目的ではないでしょうか?」
「遺跡に着いた後は状況によっては依頼を終わらせてそのまま帰っていいみたいデス。
調査が出来ないような状態だったらそのまま護衛として帰る事になるみたいですネ。
けど調査が出来る状態だった場合そのまま残って警備についてもらってもいいみたいですネ」
「選択できるんですね。まぁ警備についていいですよね。そっちの方が報酬美味しそうですし」
なによりレナスさんはそうしたいだろう。
「警備って護衛とは違うんでしょうかぁ?」
「ん~。そこは書いていませんネ。聞いてみまショウ」
「ですね。とりあえず受付に持っていきましょう」
ミサさんから依頼書を受け取り受付へもっていく。
受付で説明を受けた後正式に依頼を受け僕達はお昼頃に合流する事を約束し各々の準備の為一旦解散した。
依頼人や共に依頼をこなす冒険者に挨拶回りをしつつ準備をして依頼の日を迎えた。
今回もナスとヒビキはお留守番だ。共有化は済ませているのでナスとマナを操りあい文章で連絡を取り合う事も可能だ。
整備隊との合流は都市の北の検問所を出た先で行われる。
整備隊は三十人でほとんどが整備調査の為の業者さんであり、残りが遺跡の管理責任者である役人さんと遺跡自体を調査する学者さんだ。
この大所帯を護衛するのはこのあたりでは有名で信頼の厚い「ハモラギ」という冒険者の一団だ。
強さは折り紙付きで十人程度の数で上級の魔物を死者なしで倒せるほどの強者揃いなのだそうだ。ちなみにハモラギはこの辺一帯で冬に咲く花の事らしい。
そのハモラギから二十人が護衛についている。
そして、僕達つゆ払いの冒険者は僕達を入れてさらに魔獣を抜いて十人しかいない。これだけの数で大丈夫なのだろうか? とも思うがそんなにお金に余裕が無いのかもしれない。
そもそもわざわざ雪が積もっている中遺跡保全の為とはいえ危険を冒してまで調査しにいくのが酔狂というか、大金を出してまでやる価値はあるのだろうか?
そんな誰もが思ったであろう疑問をミサさんが口にした時答えてくれたのが準備期間中遺跡の事をさらに詳しく調べてくれたレナスさんだった。
どうやら今から行く遺跡は雪と魔物のお陰で調査が終わっていないらしく、まだ貴金属や金属製の武具が残っているのではないかと考えられているようだ。
金属……特に鉄というのは三ヶ国同盟では金に匹敵するほどの価値があるとされている。
流通量が金より多い為一応値段が抑えられてはいるが武具以外に鉄を使った物が出回る事はない。
その武具だって質のいい鉄は軍に優先して回されて一般に出回っている金属の武具は質を何とかしようとして出来た合金製ばかりだ。
今の所武具は一応全国的に出回っているが所詮は消耗品。それも鉱山はグライオンに頼りきりで後は東の国々からの輸入だよりだ。
イグニティは魔法国というお国柄あまり武器にお金はかけていないらしいからまだいいとしても、魔の平野と面しているアーク王国には切実な問題となっている。
そんなアーク王国に錆びてたとしても金属の武具を売り込めばかなりの値段になるだろう。まぁ輸送費の元が取れるかは謎だが。
まぁわざわざアークまで持っていって売らなくても普通の金属製なら近くの都市でもそれなりの値段にはなるだろう。貴金属が見つかれば万々歳と言った所か?
それにしても調査が進んでないというのもおかしな話だ。ガルデが都市になったのは最近だとしても東には出来て半世紀以上は経っているであろうルーグがあると言うのに。
そう疑問に思いレナスさんに確認してみるとどうやら意外にも遺跡が見つかったのは近年の事らしい。
距離が近いから見つけてずいぶん経っていたのかと思っていたがそんな事は無く、山に囲まれて雪が解けにくいという立地条件の所為でかえって発見が遅れたらしい。
山には魔物や魔獣がおり人が気軽に近寄れる場所ではない為資源調査の際に近くに行って初めて万年雪に埋もれた遺跡を見つけたそうだ。
その万年雪を冬以外の季節に除去するのに時間がかかり本格的に建物内部の調査が始まったのは去年の事だとか。
そして、積もっていた万年雪を除去するのに最初トラファルガーの力を借りたが力の使い方が豪快過ぎて遺跡を壊す危険性があるので協力を断念した、なんて言う小話まで教えてくれた。
レナスさんの話が終わると丁度今回の依頼の責任者が声を上げて注目を集めた。
どうやらいよいよ出発の時間らしい。
皆私語を止め姿勢を正し責任者の言葉を聞く。
といっても寒空の下だからか話は短くすぐに終わった。
そして、ハモラギの人達を先頭にして一団は動き出す。
僕達の出番は壁を越えてからだ。




