表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/530

新しい仲間ヘレン

 都市に着くとヘレンは人の住まいが珍しいのだろう。首を動かし落ち着かない様子を見せている。

 途中立ち寄ってきた村でも落ち着かなかったから仕方ないか。


「ヘレン。あちこち見るのはいいけど気を付けてね。物を壊したら怒られるんだから」

「くー……」


 口調を少し強めに注意するとヘレンは素直に返事をする。嫌われるのが怖いんだろう。

 一応人気の少ない道を選んでいるが何もない訳じゃない。路肩に置かれている樽や箱、植木鉢なんかもある。

 それに子供が飛び出してくる危険だってある。

 危険があるので優しく注意というのは出来ないけれどなるべく早く慣れさせて安心させたいな。


「ヘレンとアースは身体が大きい分僕達と生きるにはお互いに注意し合わないといけないんだ。

 けどヘレンがいくら注意してもうかつな人もいる。相手のミスで怪我させてしまう事もあるんだ」

「くぃん……」

「怖くなった? でも僕達と一緒に生きたいなら十分に注意しないといけないんだ。

 その注意の仕方は教えたよね?」

「くー」


 ヘレンは自分のマナを動かし答える。

 そう、マナで自分の周囲の状況を感知出来ればある程度は危険を排除できる。

 だから都市に着くまでにヘレンには魔力感知に慣れて貰った。


「うんうん。常にマナを意識するんだよ?」

「くー」


 もちろん僕もいつも通りマナを広げて周囲の確認を怠っていない。

 ヘレンの相手をしながら我が家へ帰るとまずはヘレンが暮らす事になる倉庫へ案内する。

 本来はアースが引く馬車を購入した時の為に広さに余裕を持たせていたのだけどそれが功をそうした。

 まぁ馬車の購入をどうするかという新たな問題も出来たわけだが。

 こうなったらここでは馬車を買わずにグランエルに帰ってから買う事にするか。

 馬車を引いての旅を慣れさせたいのだけど……皆と相談だな。何かいい案が出るかもしれない。


 倉庫に行っている間にカナデさんにナスとヒビキを倉庫まで連れてきてもらうように頼む。

 アールス達はまだ仕事が終わっていないようで家には二人ともいないみたいだ。

 倉庫に入り一先ずヘレンに居心地を確かめてもらう。

 新しい敷き藁は必要だろうか?

 今まで一緒にいて気づいた事なのだがヘレンはアースとは正反対であまり眠らないらしい。僕達が眠っている間精霊達が相手をしてくれたから寂しい思いがさせずに済んでいたが、これから先精霊達がいない時の事を考えるとどうしたらいいものか。


 一人の夜に慣れさせるために精霊達に控えてもらうか? いや、今は寂しがりを治す事を優先させた方がいいか。

 寂しがりを治すにはまず先にもう独りぼっちじゃない事を心の底から理解してもらう必要があるだろう。

 それと同時に生き物はいつも同じように自分と行動しない事も分かってもらえればいいのだけど。


「ヘレン。しばらくはここで魔獣達皆と一緒に過ごして欲しいんだ」

「くー?」

「うん。それでね、狭かったり床が硬いとかそういう居心地の悪さは無い?」

「くー……くーくー」


 考えるそぶりも見せずに大丈夫と応えるヘレン。

 けどその言葉をうのみにすることは出来ない。まだ遠慮しているかもしれないんだ。


「とりあえず敷き藁用意するから座り心地を確かめてよ」


 敷き藁は替え用の物がある。

 しかし、アースとたいして大きさ変わらないからこれから今までの二倍近くの量の敷き藁を用意しておく必要があるのか。こっちの敷き藁って結構高いんだよな。

 治療師の仕事があるから資金面は大丈夫だけど、持ち運びが大変だな。買った敷き藁を運ぶ荷車は借りてたもの使っていたけれど買っておくか。

 敷き藁を用意しているとカナデさんがナスとヒビキを連れてきた。

 どうやら再会を喜んでいたのかカナデさんの頭にナスの毛がついている。

 

「ふたり共ただいま。ヘレン。この仔達が僕の言っていた仲間のナスとヒビキだよ。大きい方がナスで小さい方がヒビキ。

 ナス、ヒビキ。この仔が新しい仲間のヘレンだよ。挨拶して」

「ぴー!」

「きゅー」

「くー。……くぅ」


 ヘレンは挨拶を返した後に恐ろしそうに小さいと小さく鳴いた。

 怪我させてしまう事を恐れているのか。

 しかし、ヒビキはヘレンのそんな気持ちなど気づいていない様子でとてとてとヘレンに近づいていく。


「ぼふっ」


 後ずさりしようとしたヘレンをアースが身体を寄せて止める。


「ぼふぼふ」

「ヘレン。アースが変に動かない方がいいって言ってるよ」

「くー」


 ヘレンはすでにアースの教えで基本的に手加減できないうちは自分からは動かないように教えられている。後は実践できるかどうかだ。

 ヒビキはヘレンの足元まで行くと羽をぱたぱたと動かしきゅーきゅー鳴いて頭を下げる事を要求しだした。

 要求を伝えるとヘレンは頭を下げる。

 するとヒビキはヘレンの口に向かって飛び跳ねた。


「く?」


 いきなり飛び跳ねてきたヒビキに驚いたのかヘレンは頭を上げた。そして、ヒビキは何事もなく地面に着地した。

 しかし、ヒビキは不満そうに鳴き出した。


「きゅぃー……きゅいきゅい!」

「避けちゃ駄目だって」

「くー?」


 ヘレンは困惑しながらももう一度頭を下げる。

 するとヒビキはもう一度ヘレンの口に向かって飛んだ。今度はしっかりと届いたがそれだけだ。

 口先に当たりヒビキはそのまま落ちてしまった。


「きゅぃ~……」

「ヒビキ、何がしたいの?」

「きゅ~……きゅーきゅー」

「ヘレンの頭の上に乗りたい? ……みたいだけどヘレン。ヒビキを頭の上に乗せてもいいかな?」

「くー」


 ヘレンの許可を貰い僕がヒビキを持ち上げ頭を下げているヘレンの頭に乗せた。

 天辺にはギリギリ届かなかったので鼻筋に乗せる形となった。


「きゅ~……きゅきゅっ!」


 高い高いと喜ぶヒビキ。そいて次の瞬間ヒビキはヘレンの鼻筋をまるで滑り台に見立てているかのように滑り落ちた。

 華麗に地面に着地したヒビキは嬉しそうに鳴きながら羽をパタパタさせている。


「……ヒビキがごめんね」

「くぃ」

「嫌な事は嫌って言っていいんだよ?」

「くいくいー」


 自分の頭を遊具代わりにされ怒るどころかヘレンはヒビキが喜んでいる事に対して喜んでしまっている。

 ヘレンがいいというのならいいか?


「ヒビキ、僕のいない所で今のやっちゃ駄目だからね」

「きゅ? きゅー」

「ぴーぴー」


 ヒビキを叱った後ナスが前足で僕を叩き呼ぶ。


「ん? どうした?」

「ぴーぴぴー」


 どうやら構ってほしいようでお帰りの挨拶を要求された。


「んふふ。ただいま、ナス」


 しゃがみナスを抱きしめる。ふわふわのもこもこだ。アールスとアイネはきちんとナスのお世話をしてくれていたらしい。

 ナスとの挨拶を堪能した後改めてヘレン用の敷き藁を敷き詰める。

 そして、敷き藁の準備が終わりヘレンに具合を確かめてもらう。


「どう?」

「くー」


 どうやら気に入ってもらえたようだ。


「じゃあ敷き藁の具合も確かめた事だし、手入れを含めて身体洗おうか」

「くー?」

「ぼふぼふ」


 ヘレンはまた洗うのかと聞いてくる一方でアースは喜んでいる。

 帰ってくるまでの道中は土や埃を落とす程度の手入れしかできなかったが今日は違う。ゆっくりと洗う事が出来るぞ。


「という訳でレナスさん。手伝ってくれるかな?」

「いえ、今日はさすがに休みましょう。もう外暗いですよ?」

「え」

「それに帰って来たばかりですから疲れています。土や埃を簡単に洗うなら出来ますがナギさんの求める手入れはさすがに日を改めた方が……」

「そ、そうかな……でもアース……」

「アースさん。今日は水浴びだけでいいですよね?」

「ぼ……ぼふ」


 なんてことだ。あのきれい好きなアースでも説得されてしまうなんて。

 でも仕方ないか。二匹の身体の手入れをするにはサラサとディアナの協力は必要不可欠。

 その二人が力を貸しているのがレナスさんだ。そのレナスさんが否というのならあきらめるしかない。


「ごめんねアース。今日は水浴びだけで我慢しよう」

「ぼふーん……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「ぼふーん……」 こんな声のアースは珍しい。 つい笑ってしまった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ