閑話 戦うのと同じくらい好き
今話は今日の投稿二回目です
前話があるのでまだ読んでいない方はそちらから
「ナギがもう仕事終わったって」
「ほんとっ?」
夕飯の後の食休みの時間、さっき入ってきたサラサちゃんからの伝言を伝えるとアイネちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。
「きゅー?」
「ぴー……ナギ達、早く帰ってくるんだって」
「きゅー! きゅーきゅー」
ナスとヒビキちゃんも嬉しそうだ。
「それでね、新しく魔獣が仲間になったみたいなんだ」
「えー? どんなまじゅーなの?」
「なんだかアースくらいおっきくて体形はバオウルフ様っていう魔獣にそっくりなんだって」
「ばおーるふって大森林の主達の内の一匹だよね。見た事ないけど」
「私も無いけど馬に似てるって話だよ。仲間にしたって言う魔獣はバオウルフ様より首が短くて尻尾がないんだって。あと顔の形も違うみたい」
「へー、どんな魔獣だろ。早く会いたいなー。ナスとヒビキも会いたい?」
「ぴー! 会いたい!」
「きゅー? きゅー……」
ヒビキちゃんはよく分かってないのか困ったようにナスに抱き着いてる。かわいい。
ナスは抱き着いてきたヒビキちゃんを鼻先で撫でてる。
「それでね、その魔獣と会う前に魔物と会ったんだって」
「えっ、ナギねーちゃん達だいじょーぶだったの?」
「うん。兵士さん達が頑張ってたみたい。ナギは何にもしてなかったみたいだけど」
「そっか。まぁねーちゃん初めてだろうししょーがないよね。むしろ初戦に慣れてる人達がいてよかったじゃん」
「うんうん」
「それでナギねーちゃんは落ち込んだりしてない?」
「え? えと……してないって。魔獣につきっきりみたい」
「そっか」
「どうして落ち込んでるって思ったの?」
「だってナギねーちゃん責任感強いから何もできなかったら自分が弱いんじゃないかって思い込みそーだもん」
「えーそうかな?」
「そーだよ。ほんとーならあたしが傍に居て守ってあげたいのになー」
アイネちゃんは口をとがらせてそう言い放つ。
「アイネちゃんってずっとナギの事守りたいって言ってるよね。ナギってそんなに心配になるほど弱いかな」
「うーん。弱いってゆーかさ、ねーちゃんて戦いに向いてない性格してるから心配なんだよね」
「ん……それは分かるかも。前世で男の子だったとは思えない位穏やかな性格してるよね」
「あたしとしてはさ、どーぶつ狩るのにも落ち込むよーなねーちゃんが魔物と戦えるのかって心配なんだよね」
「魔物と動物じゃ別じゃない?」
「そーだけどさ。ナギねーちゃんだったら魔物に剣を向けるのにもとまどいそーじゃん」
ナギが魔物に立ち向かう姿を想像してみる。けど、私の中のナギは勇敢に立ち向かうナギの姿が簡単に思い浮かんだ。
「それはいくらなんでもナギを侮りすぎだよ。ナギだったらきっと魔物に立ち向かえるよ」
「守る人がいればね」
「え?」
「ナギねーちゃんってもしも自分一人しかいなかったら怖がらずに戦えるかな」
「そんなの……」
もう一度想像してみる。周りに誰もいないで魔物と対峙するナギ。
その姿はさっきの想像とは違ってひどく怯えてるように見えた。
「……」
「きっと戦えるだろーけどさ、すごく怖がると思うんだ。さっき言った通り魔物に剣を向ける事を」
「どうして、そう思うの」
「あたしの知ってるねーちゃんはそーゆー人だもん。誰か守る人が傍に居ないと剣を振るえないんじゃないかな」
守る人がいれば戦える。たしかにそうかもしれない。ナギは守るために戦える人なんだと思う。けど、それと同時に自分だけを守るためには戦えないかもしれない。
「でもナギの傍にはレナスちゃんがいるし大丈夫だよね」
「んー……でもさ、守るために戦えるからって心までだいじょーぶとは限らないよね」
「え」
「本質的には向いてない事なんだから心に負荷を感じるかもよ」
「そういう……物なの?」
「ただの憶測だけど、ナギねーちゃんって繊細だからなー。あたしがいなくて大丈夫かな」
「れ、レナスちゃんがいるから平気だよ」
気遣いが出来るレナスちゃんが傍に居るんだからもしもナギが落ち込んでたってすぐに気づいて助けるはず。
「どーかな。レナスねーちゃんナギねーちゃんの事信じすぎてるよーに見えるから気づかないかもよ」
「えっ、そ、そんな事ないよ。レナスちゃんよく気が付くよ?」
「まー出来たら出来たでいいけど、帰って来て落ち込んでたらあたしが慰めればいいだけだよね」
「……レナスちゃんにはこういう話した事あるの?」
「ないよ?」
「カナデさんやミサさんには?」
「ないけどどうして?」
「どうしてって、ナギが心配なら他の皆に助ける様に頼んでおくものじゃないの?」
「カナデねーちゃんとミサねーちゃんだったら危なくなる前に気が付くよ。でも話さないのは別のりゆーかな?」
「別の理由って?」
「あたしがナギねーちゃんを助けたいから! 他の誰かに取られたくないじゃん!」
「え、ええ?」
「あたしね、怖いのに守るために戦おうと努力してるねーちゃんが大好きなんだ。
あたしとは違う理由で戦うねーちゃんが強くなっていくのを間近で感じるのが大好き。
守りたい物を守れるようにって研鑽しようとあたしに勝てなくても向かってくるねーちゃんが大好き。
痛くても苦しくても毎日諦めないで特訓を続けるねーちゃんが大好き。
大好きだからあたしはねーちゃんの為にしてあげられる事をしたいし力になりたい。そんでもって傍に居たいし居て欲しい。ついでに頭も撫でたいし撫でて欲しい。抱き着きたいし抱きしめて欲しい。
あたしはねーちゃんが大好きなんだ」
「……」
アイネちゃんの大胆な告白に口が閉じられなくなった。
まさかここまでの想いをナギに抱いていたなんて思いもしなかった。
アイネちゃんはもしかしてフィラーナちゃんとマリアベルちゃんの二人のような仲にナギとなりたいのかな。
「アイネちゃんってナギと恋人同士になりたいの?」
「へ? なんで? 別になりたいと思ってないけど」
「そ、そうなんだ。大胆な告白だったからそう思っちゃった」
「女同士が恋人同士になれる訳ないじゃん?」
「あー……あはは、そうだね」
そっか。アイネちゃんは同性愛を知らないんだ。じゃあ教えない方がいいのかな?
「でもさ、アイネちゃんの想いを伝えてもいいんじゃないかなって」
「えー? ナギねーちゃんって中身男でしょ? それで勘違いさせたら悪いじゃん」
「そ、そっか……」
アイネちゃんはその気は全くないんだ。どう聞いても愛の告白にしか聞こえなかったけど。
「あたしの好きはそーゆーんじゃないんだよね。それにさ、ナギねーちゃんはレナスねーちゃんの為にずっと頑張って来たのに邪魔なんてできないよ」
「レナスちゃんの為? どういう事?」
「ん? どーゆー事ってそのまんまの意味じゃん。ナギねーちゃんがわざわざ鍛えたり旅する理由ってレナスねーちゃんを守りたいからでしょ?
ずっと昔から頑張って来てたことを邪魔するなんてできないよ」
「えっ、でもナギって自分にも旅する理由があるって」
「フソーを見てみたいって奴? 臆病なねーちゃんがそれだけで魔のへーやを渡る訳ないじゃん」
「昔は男の子に戻れる方法を探してるって……」
「そんなほーほーあるかな? ねーちゃんならもー無いってわかってそーだけど」
「そう言えばあきらめたって言ってたような……後は」
そうだ約束だ。私達は昔約束したんだ。でも、あれ? アイネちゃんの言う通りナギ自身に旅する理由がないなら……。
「もしかして約束を守る為だけに一緒にいるの……?」
「それは分かんないけどさ、ナギねーちゃん自身が納得してるんだったらいいんじゃない?
あたしだって別に人に誇れるよーなりゆーでついてきたわけじゃないし」
「納得してるかな……」
もしもナギが本心では嫌がってたらどうしよう。
けど、そんな心配をアイネちゃんは一刀両断してきた。
「してるよ。ナギねーちゃん楽しそーだし、嫌な事ははっきりと嫌ってゆーし心配する事ないんじゃない?」
「うん……そうだね。アイネちゃんはすごいね。ナギの事よく分かってるみたい」
「ふふん。だって戦うのと同じくらい好きだもん」
さすがにナギはそれと同列には並べて欲しくないと思うな。
「あたしが一日にどれくらいねーちゃんの事考えてるか教えよっか?」
「あはは、それは別にいいかなー」
アイネちゃんどうみても恋してる女の子にしか見えないんだけどなぁ。
でも自覚は無いみたいだしそっとしておいた方がいいかな?




