アースは休みたい?
僕の装備がそろった。
購入した後鍛冶屋に細かい調整を頼んだのだけどこれが意外と早く一日で終わるようなのだ。一週間ぐらいを見ていたので意外と早くグライオンを出られそうだ。
本当はガーベラとも会いたかったのだけど、組合に預けられた手紙から忙しくて会えないそうだ。この街の特性上この街に住んでいるガーベラに会いに行くのは難しいし迷惑になるだろう。残念ながら今回は縁がなかったという事になる。
剣は結局アイネが選んでくれた物にした。あれ以上にしっくり来た物は無かったし、それは籠手を着けた状態でも変わらなかった。
ミサさんにも剣を見てもらった所良い物だと太鼓判を押した。アイネは武器を見る目があるのかもしれないな。
レナスさんのローブも決まり、カナデさんの買い物も終わった。
後は山に備えるだけだ。
グライオンから西に一日の所にある山はグラード山と呼ばれていて、高さの違う山頂が近い距離で三つ三角形の形で存在する。
大昔に魔王が山の山頂部分を壊したから三つに分かれたという云われのある山でもある。
標高は高いけれど斜面がなだらかでとても広く、山頂までは観光用に道が整備されていて登るのは難しくはないらしい。
もちろん僕達も山頂まで行くつもりだ。
開拓地まで急ぐのなら行く必要の全くない場所だけれど、僕らの旅の目的は観光なのだ。魔物と戦う事じゃない。
そう、訓練や武具の買い替えで忘れがちだが僕達の旅の目的はあくまでも観光なのだ。
なので行きたい場所があれば優先してその場所へ向かう。
山の頂上へ行きたいのはレナスさんが発端だが、アイネも大変楽しみにしている。
何せ気球に乗った時よりも高い所へ行けるのだ。アイネはもっと高い所から世界を見渡せる事を待ちわびている様だ。
もっとも、実際に山の頂上と気球で上がった高さなんて図って比べたわけじゃないからどちらの方が高いのかなんて分からないのだけど。
登山の準備と言っても特別変わった事をするわけじゃない。
グラード山の地図を買って遭難した時の為に個人で持てる非常食を購入するだけだ。
遭難に備えて救助用の縄みたいな役に立ちそうな道具は旅をしていても必要な物なので全て揃っている。
もっとも、その遭難も精霊がいるからほとんど心配はいらないと言ってもいいだろう。
心配なのは足場の悪い所での滑落だ。特にアースは身体が大きいから高い所から落ちたら一巻の終わりだ。
そもそもの話、頂上までの道は整備されているとはいえ、アースが通れる道があるのかもわからない。
なかったら僕は魔獣達と一緒に皆を待つ事になるだろう。
なんにしても地図を手に入れて下調べは必要だ。
そんな今後の予定を食事処で夕飯を食べながらしているとミサさんが申し訳なさそうな顔をしながら小さく手を上げた。
「あのですネ、明後日教会で行われる説法を司祭様がなさるのですヨ」
「それを聞きに行きたいんですね。大丈夫ですよ。元々ゆっくりする予定でしたから。他の皆はどう? 何かしたい事とかある?」
そう聞いてみると。
「んー、私はもうちょっとこの街見たいかなー。ねぇナギ。明日皆で一緒に街見て回ろうよ」
「んふふ。他の皆がそれでいいならいいと思うよ」
「それならさ、あたしナス達も一緒がいい!」
「いいよ。ナス達にも一緒に行くか聞こうか」
「うん! あっ、でもアースどーすんの? アース連れてけるの?」
「アースはさすがに無理だと思うな」
「えー、それじゃーアース可哀そうじゃん!」
アイネは頭を抱え大きな声を上げた。
「アイネ、声大きいよ。アイネの気持ちは分かるし僕も思う所はあるよ。でも実際問題アースは大きすぎるんだ。一緒に街を見て回るのは難しいんだよ」
「えー、じゃーどーすんの? 置いてくの?」
「うん。ただまぁこういう時はいつもお土産を用意してるよ」
アースの事は魔獣達の中でも一番特別扱いしていると僕は思っている。
アースの好きそうな食べ物は切らさないように気を付けているし願いも大抵の事は聞き入れている。
でもそれがアースの為になっているのかは僕にも分からない。
アースはきれいな物や美味しい物は好きだけれどめんどくさがりで何もしていない時はいつも眠っていて移動する時以外は動くのを嫌がる。
一見して怠け者に見える。だけどアースは重い荷物を運ぶ事に不満を漏らした事が無い。アースは重く感じていないと言うけれど不満がないなんて事はないだろう。
なにせナスは何も運んでいないしゲイルは自分の宝物を持っているだけ。ヒビキに至ってはいつも抱っこされて移動して楽をしている。
なのにアースだけは宝物でもなんでもない荷物を運ばされている。不満がないはずがない。
なのにアースは僕達についてきてくれている。そんな義務も強制もないのに。
いまだに僕はアースが一緒にいてくれる理由が分からない。聞いても答えてくれないのだ。
だからきちんと恩を返せているのか心配になる。
「ナギさん。難しい顔をしていますがやはりアースさんの事気になりますか?」
レナスさんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「まぁね。でも誘うのも迷惑に思われるかもしれないんだよね」
「ん? そーなの? なんで?」
「アースって本来はすごく長い睡眠時間が必要なんじゃないかって思ってるんだ。なにせ施設の小屋にいると大抵寝てるからね」
ネズミなどの小さい動物は睡眠時間が長く、逆に象などの大型の動物は睡眠時間が短い。理由はたしか体重に対するエネルギー消費量が関係するとかなんとか。
ここからは僕の仮説だが、体重が軽いと燃料を蓄えられる量が少なくなりエネルギーが早く尽きてしまうのではないだろうか。
エネルギーを無駄に浪費しない為に小さな動物は常に食料を取ってエネルギーを補給するか眠ってエネルギー消費量を減らすしかない。
後者の具体的な方法が眠りだ。小さな動物は睡眠時間を長くして活動時間をなるべく減らしているんだ。
逆に大型の動物、とくに食料を安定して食べられる象のような大型の草食動物は蓄えられるエネルギーの量が多く、またエネルギー消費量をを減らす必要がないため睡眠時間が短くなる傾向がある。
これらを踏まえてアースの事を考えてみる。アースは身体が大きい割に睡眠時間が長い。これはつまりアースの燃費は悪い、もしくはエネルギーの補給に難があるということではないだろうか?
エネルギー補給に必要な食事を魔獣は必要としていない。マナから勝手に必要な栄養素を作り出す臓器があるからだ。
その臓器の変換効率がアースの場合は悪いのかそれとも最低限の変換しか行っていないか。
アースは僕と出会う前は土の中であまり動かずに暮らしていたようだ。それが外敵から身を守る為だったのか、それともただ単に動くのが面倒だったのかまでは分からない。
とにかくあまり動かないで生きていたので臓器もその暮らしに適応してしまってあまりエネルギーを生み出せない身体になってしまったのではないだろうか、というのが僕の考えだ。
まぁそれにしては長距離を走り抜けるだけの体力があるのだけど、いざという時の為に眠ってエネルギーを溜め込んでいるだけなのかもしれない。寝だめという奴だろうか。
「いつも重い荷物運んでるからたまの休みくらいはゆっくり休んで身体を休めたいのかもね」
「んー。そっかー……じゃあお土産いっぱい買ってかないとね。アースって何が好きなの?」
「基本何でも食べるけど、やっぱり野菜とか果物が好きだよ。特に歯ごたえのある物かな。まぁお土産は僕が選ぶから大丈夫だよ」
食べ物以外にもおしゃれが好きなので装飾品を見繕ってもいいかもしれないな。体毛をまとめる為のリボンとか。
翌日、僕達は魔獣達を連れて街に繰り出した。
やはり魔獣達を連れていると目立つ。通りを行く人達の注目が僕達に集まっているのが分かる。
僕は慣れているので平気だがカナデさんは気になるようで身を小さくし周囲をちらちらと見ている。
そんなカナデさんをミサさんが話しかけ落ち着かせようと話しかけているがそれはいつもの実のない長話のようだ。
カナデさんとミサさん以外の皆は周囲の視線を全く気にせずにグライオンの街並みを楽しんでいる。
レナスさんは街の観光案内の紙をヒビキを抱っこしているアールスと一緒に見て何やら話し合っている。
アイネはゲイルを頭の上に乗せながら屋台で買った食べ物をナスやゲイルと分けあって食べている。
グライオンの食べ物は濃いから心配だ。一応アイネには少しずつ上げるようにとは言っているけど目が離せない。
一応シエル様から栄養素でも毒になったり過剰摂取の場合でもピュアルミナの効果内だと聞いているのでちょくちょくピュアルミナで確認はしているのだけど心配は心配だ。
ぶらぶらと興味の向くままに街を歩いた結果、山の情報を得る事が出来た。
元鉱山のグラード山は麓と中腹の辺りに村がある。
中腹の辺りにある村は元々は山で取れた鉱石を一旦留めておく場所で、集めた鉱石を仕分けする場所でもあったようだ。鉱石が取れなくなった今では山頂へ向かう途中の休憩所として機能しているらしい。
そして、麓の村は仕分けした鉱石を研究し合金や武具を生み出していた場所だ。今は観光客向けの商売をしていて宿泊施設やお土産屋、登山用品を取り扱ったお店などが主流のようだ。
そして肝心の頂上までの道だが途中……三つの頂上に囲まれた真ん中のくぼ地には宿泊施設とお店のある休憩所があり、そこまではアースを連れて行けそうだけれど頂上までさすがに道がないようだ。
一応くぼ地とはいえ頂上との標高差は少なくくぼ地と頂上の間からでも風景を見下ろすことは出来そうだ。
少しの落胆を感じつつも別にこの街で準備する必要はない事が分かったので僕達は準備の時間を削り遊ぶ時間を増やす事にしたのだった。
アースの背中のこぶはたぶんエネルギーを蓄えておくための物です




