シエル様と一緒
遅くなりましたが明けましておめでとうございます
今年もどうかよろしくお願いします
グランエルに着き魔獣達を施設に預けた後組合へ行って研修の旅完了の手続きをした後、この後の予定を話をする為に組合から出て近くの食事処に入った。
席に着き適当に注文を終えた後僕は改めてアイネとアロエの顔を見る。
二人共ようやく課題が終わり新たな旅に思いを馳せているのか表情が緩み切っている。
早く旅をしたいであろうアイネには少し申し訳ないがすぐに出発という訳にはいかないのだ。
「アイネ、これからの予定だけど」
「あっ、あたし早くオーメストに行きたいから寄り道しなくていーよ」
「あっ……うん。それはいいんだけどね、僕ちょっとグランエルで用事があるんだ」
「用事?」
「しばらく帰ってこれないから友達の所に挨拶しに回りたいし、補修用の生地とかもそろそろ補充しておきたい。
学校で魔獣達の触れ合いのお仕事もやりたい。しばらく留まる事になるかな」
「ええー、すぐに出発しないの?」
「うん。相手の都合もあるからどれくらいかかるかは僕もちょっと分からないんだ」
シエル様以外にもユウナ様との約束もある。ユウナ様にはこの後手紙で戻ってきた事を伝え返事を待たなくてはいけない。そこからユウナ様の予定に合わせて訪問となるとどれくらい滞在する事になるだろう。
「それとね、しばらくはアイネ達とは別行動を取ろうと思ってる」
「それって挨拶回りするから?」
「そう。アイネも会いたい人がいれば会いに行くのもいいと思うよ。ほら、ミリアちゃんとか」
「んー……そうしよっかなぁ」
「うん。そうした方がいいと思うよ。アロエも、自由にしていいんだけどどうする?」
『私ー? んー、ゲイルと遊べる?』
「それは……施設の敷地内でアイネがいる時ならいいけど、僕がいない時に外に出るのは駄目かな」
『私だけで都市の中見回るのは?』
「もちろんいいよ」
話が終わるとアイネがまるで本当に溶けてしまうかのように脱力した様子で目の前の机の上に上半身を投げ出した。
「あーあ、よーやくねーちゃんとの旅が始まると思ったのになー」
「ううっ、そう言われると……ごめんね。滞在中にかかるお金と暇つぶしに使うお金は僕が出すよ」
「ほんと~?」
「本当本当。さすがに今回は僕の我儘だからね」
一応見習の身分でも組合で働いて給金は貰えるのだけどその額は宿暮らしするには厳しい金額だ。滞在期間の生活の保障は僕がするが筋という物だろう。
『ナギー私にも何かちょーだいよ。ミサに会えるのが遅くなるんだからさー』
「といわれてもアロエ何か欲しい物あるの?」
『無い!』
「精霊が喜ぶものってすごく難易度高くない?」
契約者に関係する事柄なら簡単なんだけれど、アロエの代わりにミサさんに何かをするというのを僕から提案するのは何か違う気がする。
気がするのだけどいい案は思い浮かばない。ライチーと違って絵本を喜ぶような精霊でもないし。
如何しようかと思案に暮れそうになった所で注文していた物がやって来た。
アイネを起こしお茶と前菜を店員さんから受け取る。
「アロエへのお返しは置いといてさ、この後どーすんの? 宿探すの?」
「そうだね。宿探した後は僕は友達宛に手紙書いて、その後は時間があったら学校まで仕事を取りに行こうと思ってる。アイネはどうする?」
「あたし宿見つけ終わったらナス達のとこ行きたい!」
「あははっ、いいよ。あんまり遅くならないようにね」
今の時間はお昼。宿を見つけた後でも遊ぶ時間はあるだろう。
「僕は手紙書かなきゃいけないからついて行けないけど、アロエ一緒に行ってくれるかな?」
『いいよー。いつも頼み事ばっかしてくるナギは心の広い私に感謝するがいいよ』
「ありがとうアロエ。いつも感謝の気持ちで一杯だよ」
『ふふーん。もっと崇め奉っていいんだからね!』
「いや、信仰してる神様がいるのでそういうのはちょっと」
『ええー』
「とりあえず明日からは皆個人行動っていう事でいいかな?」
「いいよー」
『はーい』
「じゃあいただきます」
元気よく返してくれる二人に僕は安堵しつつ料理へ手を伸ばした。
宿を取ってアイネ達を見送った後僕は手紙を書くために椅子に座り机に紙を置いた。
下書き変わりにマナを操り文章を考える。
あて先はユウナ様。
まず最初に挨拶の定型文を書きグランエルに戻ってきた事を書く。
そう言えばユウナ様からの手紙には帰ってきたら空いている日を教えてほしいと書かれていた。
学校でも仕事は子供達が通っている平日に行う予定だから休日を書いておけば問題ない。
けどそれはいいとして今は何曜日だったか。旅をしていると曜日感覚があいまいになってしまう。特に曜日に囚われない生活習慣を送っている村を周っていると。
この世界では十二月以外は三十三日あり、一週間は七日で区切られていて七日目が休日だ。
別に天地創造に七日間掛かったとかそういう神話はなく、昔からの慣習で七日間とされており、今の所起源は分かっていない。
前世の曜日のような七日間に割り振られている名前は全て古代の言葉でアーク王国の公用語ではあまり使われていない言葉だ。
太陽を意味するハラが一日目で前世で言う所の月曜日だ。
二日目は土を意味するフォークィン。
三日目は風を意味するサーン。
四日目は火を意味するクライ。
五日目は水を意味するシール。
六日目は植物の葉を意味するライクナート。
七日目が月を意味するツバイアス。
ちなみに、全ての言葉の意味は二百年位前に僕の自動翻訳のような言葉が翻訳されて聞こえる固有能力を持った人間が現れるまで不明だったらしい。
僕の自動翻訳では相手が意味を理解していない言葉は翻訳されないので似たような状況になっても僕では役に立たないんだけど。
「ああ、そうだ。今日はフォークィンだ」
思い出した勢いで口から勝手に独り言が出てしまった。
シエル様がいられるのは今日を入れないで後四日間。休日に約束を取れればシエル様を案内するのに問題はないだろう。
都合のいい日はツバイアスと書いた後僕は再びマナを止めた。
ユウナ様に会いに行く服が無い。
以前着ていたバロナは着れなくなったのでもう売って処分した。新しく購入する事もしなかった。
正装用のドレスがあるがあれは単体で着ると地味だし友人であるユウナ様に会いに行くのに着る服としては相応しくない。
無いのなら買うしかない。グランエルにバロナがあるだろうか?
バロナはグランエルのような地方の都市ではあまり見かけない服だから無いかもしれない。
だけど服をシエル様と一緒に探すというのも悪くないかもしれないな。
服は後でシエル様と考えればいい。そう考え頭の中を切り替え僕は手紙の続きに取り掛かった。
手紙を書き終えると僕は宿の窓から顔を出して太陽の位置を確認し今の時間を確かめる。
シエル様の所に行く時間はありそうだ。
僕は貴重品を確認し全て荷物袋にまとめてから部屋を出て鍵をかける。
そう言えばと僕は木製の鍵を見て学校を卒業した日に泊まった宿でフェアチャイルドさんが鍵に興味津々だった事を思い出した。
彼女は今どんな顔をしているだろう。泣いたり傷ついたりしていないだろうか?
出来れば鍵を見ていた時のような好奇心旺盛な顔をしてくれていたら嬉しいのだけど。
鍵を受付に渡し代わりに割符を受け取る。こうするとアイネが部屋に入れなくなるが割符を渡しておけば大丈夫だ。
出かける事を伝えるついでに渡しておけばいい。
宿を出て早足で近くの郵便屋へ向かい、手紙を速達でお願いしてから次にアイネ達に出かける事を伝える為に預かり施設に向かった。
小屋の中を覗いてみるとアイネは床に敷いた布の上にうつ伏せに寝転がり本を音読している。魔獣達にも分かるように声に出しているんだろう。
中に入ると皆の視線が僕に向く。
「あっ、ねーちゃん」
「ぴー!」
「僕これから学校に行くけど遅くなるかもしれないから割符渡しておくね」
「んー」
「あっ、言い忘れてたけど、他の動物がいたら魔獣達は外に出しちゃ駄目だからね」
「えー? なんでー?」
「普通の動物は魔獣達がいると怯えちゃうんだよ。だから注意してね」
「あーい」
アイネの返事に不安は残るが、ナス達がいるから大丈夫だろう。
魔獣達は動物が近づいてきたら自分から小屋に戻ってくれるはずだ。正直アイネよりも信頼してる。
「うん。じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
『さーい』
「ぴー!」
皆に見送られ僕は小屋を出て施設を後にする。
そして、大通りに出て歩けば一時間はかかる道のりをおおよそ十五分位で走り抜け都市の中心にある噴水の前にやって来た。
辺りを見渡しながら頭の中でシエル様に呼びかけその姿を探す。
(ここですよ)
シエル様はすぐに姿を現した。どうやら姿を消していたようで僕の目の前に突如現れた。
姿を現したシエル様は人型なのだけれど、サラサ達と同じように子供のように小さくデフォルメした等身だ。
(随分とかわいらしくなっていますね)
(ふふん。そうでしょうそうでしょう。サラサさん達を見た時から私もやってみたかったのですよ)
(所でついいつものように頭の中で会話していますけど、普通に喋った方がいいですか?)
(今私は姿を他の人には認識しにくくしています。理由は私の姿を見た者が私と回線を繋いでしまわないようにする為です。
そして、その理由から声を直に出す事も控える事になります)
(つまりいつも通り頭の中で話した方がいいんですね)
うっかりシエル様と回線を繋いでしまったらその人はシエル様の神聖魔法を授かるしかなくなってしまう。
この世界には本来いない筈であるシエル様の事を知るには僕に聞くしか方法が無くなってしまう。
それを避ける為に自身を認識させにくくしているんだ。
(その通りです。では那岐さん。早速観光案内を頼みます)
(お任せください……っていいたいですけど、今朝伝えたようについでにお仕事を受けに行きますが大丈夫ですか?)
(問題ありません。突然やって来たのは私の方ですから、那岐さんの用事が優先されるのは当然です)
(ありがとうございます。とりあえず道中の説明は任せてください)
こうして、僕のシエル様を相手にした案内は始まった。




