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アイネの力

 調査隊の大部分が他の村の調査に向かった後まとまった時間が取れたのでアイネ達に会いに行く事にした。

 アイネ達は宿を取らずに村の空き地で野営をしているが、アロエによると日中は村の外に出て訓練をしているようだ。

 外と言っても村からそう離れた場所ではなく、森の近くの周囲に田畑の無い場所で訓練をしていると教えてくれた。

 アロエに案内をしてもらってアイネが訓練をしている場所へ向かう。

 そして丁度アイネがアースの操る土人形相手に棒を振り回している場面が見れた。

 どうやら一気に破壊するのではなく棒の先を当てて少しずつ削っているようだ。

 僕は邪魔にならない様に離れた場所に立ち訓練を見守る事にした。

 魔眼も発動させアイネとアースのマナの動きを観察する。

 マナは基本的に全て青く見え色で判別は出来ないのだが、マナの動きと濃さで誰のマナかはなんとなく分かる。

 土人形にはアースのマナが纏わりついていて背後から伸びる太いマナの線でアースと繋がっている。

 アイネの方は棒の先っぽにマナを纏わりつかせ高速で回転させている。

 これは間違いなく魔法剣の一種だ。恐らくマナで空気を操り回転させ攻撃力を上げているんだろう。


 アイネの武器だとアースの土人形は普通に叩いたり突いたりするよりも砕いたり削った方が効果的だ。

 普通に叩くには土の身体は固く木の棒では強度が足りない。

 突いても痛みを感じない土の身体では受け止められそのまま武器を取られてしまうだろう。

 だから棒先にマナを使い風を操り破壊力を上げているんだと思う。

 ……だけれど、アイネのマナの総量じゃ長くは続かない。

 アイネもその事はよく分かっているようで砕かれ出来た傷が全身に出来た所で棒先に纏わせていたマナを解放した。

 これからどう出る。土人形は魔物の再生能力を再現しているはずだから、ここから時間をかけたらアイネに勝ちの目は無くなる。

 アイネがどう出るか、僕は魔眼に力を込めて見極めようとした……その時、世界が変質した。

 最初は何が変わったのか分からなかった。

 驚いて声を出そうとしたが思うように動かない。

 口だけじゃない。身体全体がゆっくりとしか動かない。意識と身体の動きが噛み合わない。

 だけどアイネだけは先ほどまでよりかは遅いが確かに動いている。

 何があったのか、シエル様に聞こうとしたその時アイネ以外に視界の隅で動いたものに気が付いた。

 ナスだ。ナスの耳がぴこぴこと動いている。

 何故動ける?


(おやこれは珍しい)


 シエル様の声が僕の頭の中に聞こえて来た。


(シエル様、これは一体?)

(これは時間操作ですね。どうやらアイネさんが世界の時間を遅らせているようです)

(そんな事できるんですか!?)

(魔法を使えばそこまで難しい事ではありません。アイネさんの場合は恐らく魔法陣を使わない、あなた方の言葉で生活魔法と呼んでいる方法で時間を遅らせているのでしょう。あまり長時間の使用は出来ないと思います)

(そう……なんですか。でもすごいな。こんな動きにくい中であんなに動けるなんて)

(体内のマナを操り身体中に染み渡らせた後、さらに周りの時間の停滞で重くなった気体をマナを使い動かせば那岐さんも普通に動けますよ)

(あっ、なるほど……割と簡単な方法で動けるんですね)


 シエル様の助言通りに体内のマナを身体中に染み渡らせ、生活魔法を使い試してみるとたしかに身体を自由に動かせる。マナの消費も普通に操る時と変わらない。

 ただ空気を操る感触がいつもよりも固く重く感じられる。まるで練りに練った水飴のような感触だ。

 アイネも同じ方法で動いているんだろう。ああ、でもアイネの残りのマナは少ない。自分のマナを薄く広げいるようだ。


(アイネってもしかしてマナの補助は最低限でほとんど自力で動いてる?)

(そのようですね)


 それは水よりも重い液体の中を動いているような物だ。

 そうか、昔アイネと試合をした時一瞬で間合いを詰められ負けたけれど、これを使っていたからか。そりゃこんな動きにくい空間を移動したら疲れてもしょうがない。

 アイネは今土人形の目の前に立ち脆くなっている四肢にとどめの突きを入れている所だ。

 不思議な物だ。魔法を研究しているイグニティなら時間操作を思いつきそうなものだけど。


(時間操作の欠点は発動中は世界に術者の認識外の物もすべて停滞してしまう、という事です。

 もしも世界の一部分だけの時間の速さを変えてしまうと正常に時が流れている場所との間に歪みが出来て世界が傷ついてしまいます。

 それを防ぐ為に時間操作は世界にある全ての物質に影響するように出来ているのです。

 そして、その結果時間を操ると物質の変化も魔法の効果に合わせて変わる様になったのです。

 簡単に言うと時間を遅くすれば遅くするほど物質は動きにくくなり固くなってしまうようになっている、という事です)


 だからアイネは最初に土人形を削り脆くしていたのか。


(ままならない物ですね)

(それと、発動者以外が時間操作を認識するには魔眼が必要なのです。しかも時間操作の発動時に魔眼を発動させていないと認識する事は出来ません)

(この世界に入れるのは発動者と魔眼持ちだけって事ですね)

(その通りです)


 時間操作か。僕も出来るのだろうか?

 と、考えているうちに世界は元に戻った。

 土人形は四肢を砕かれ、アイネがとどめの突きを胴体に入れようとしている所だ。

 僕と戦った時よりも疲労は少なそうに見えるがマナはもう残っていなさそうだ。

 試しに僕も時間操作を試してみるとしよう。

 生活魔法と同じ要領という事は効果を考え名付けをするだけでいいはずだ。

 効果は……アイネと同じく時間の遅延でいいか。


「『タイム』」


 適当に名付けた名前を呼び魔法を発動させるが何も起こらない。


「あれ?」

(きちんと効果時間も考えなくては発動しませんよ)

(なるほど。ありがとうございます)


 効果時間とは盲点だ。普通の生活魔法は発動の後は込めたマナの量で効果時間を調節できるし、魔力操作に慣れればマナを継ぎ足して効果を発揮し続ける事も出来る。だから生活魔法の発動時に効果時間を指定する事はあまりない。

 シエル様の助言通りにとりあえず五秒間だけ時間を遅らせる。どのくらい遅らせるかも指定できるのだろうか?

 とりあえずアイネが使ったのと同じくらいでいいだろう。


「『タイム』」


 カチリ、とどこかで音が鳴ったような気がした。

 同時に世界の時の速さがゆっくりになる。

 勝鬨を上げているアイネの声は聞こえず動きもゆっくりとしている。

 時間にして五秒。ゆっくりした時間の中僕の主観時間で五秒が経つと魔法の効果は消えた。

 世界に影響を与える魔法だと言うのにマナの消費は意外なほどに少ない。数字で表すと大体一秒で百位の消費だろうか?

 でも少ないとは思ったが今のアイネが十秒以上も止められるほど少ない量でもない。どういう事だろうか?


(恐らく固有能力の力ではないでしょうか?)

(固有能力……そうか、アイネ進化したって言ってたもんな)


 固有能力の持つスキルはナスの雷霆やヒビキの炎熱操作のようにマナの消費が極端に少ない。それを使って時間を遅らせているのなら、少なくなったアイネのマナでも十秒以上持たせられても不思議じゃない。

 アイネの能力は分かった。

 問題の時間遅延の生活魔法。これは……誰にも教えない方がいいだろう。

 こんな手軽に使える時間遅延の魔法なんて犯罪の元だ。

 ……でもアースには教えておいた方がいいかもしれない。マナの多いアースが覚えていれば危機的状況の時に役に立つかもしれない。


(あと伝え忘れていましたが、魔物は動きを止められますが、魔王の意思ともいえる魔素の侵食は止められませんし、世界のどこかにいるツヴァイスさんの分体も動きが止まってしまいます)

(それ先に言ってくださいよ!)


 時間を止める度に侵略が進むって事じゃないか!


(人の止められる範囲ならあまり影響は出ないはずで問題はありません。それにもしも問題があるとしたらツヴァイスさんが放っておくはずがありません)


 大丈夫だとは言われても安心はできない。少なくとも僕は使うのは控えておこう。


「ぴー!」


 ナスの僕を呼ぶ声が聞こえて来た。

 そりゃ気づくよね。ナスもアイネの時遅れている世界で普通に動いていたんだから。僕の今の魔法も気づいて当然だ。

 ナスがヒビキを背に乗せて走り出した。

 アイネもナスの声で気づいたのか僕の方に手を振りながら走ってくる。

 一番最初に胸に飛び込んできたのはヒビキだった。

 ナスは自分の角が僕に届かない位置で止まり、ナスが止まったと同時にヒビキが僕の元へ飛び込んできたのだ。

 ヒビキを受け止めた時ナスは口を開けてなんだか呆然としているように見えた。


「ヒビキ、元気にしてた?」

「きゅー」


 ヒビキはパタパタと羽を動かし返事をする。

 そして続いてナスの前で地面に片膝をつき、ヒビキを一旦降ろす。


「ナス、アイネとヒビキの事見てくれてありがとうね」

「ぴー」


 ナスを正面から抱きしめるとナスも耳を動かしパタパタと鳴らしながら応えてくれた。


「きゅーきゅー」


 ヒビキが寂しそうにするのでナスを抱きしめるのを一旦止め、ヒビキを片腕で抱いてから空いた方の手でナスを撫でる。


「ききっ」


 遅れてゲイルがやって来て僕の頭の上に乗る。


「ねーちゃんおかえりー!」


 アイネもやって来た。


「ただいま……って言いたい所だけど、まだ終わったわけじゃないんだ」

「そーなの?」

「うん。出発するのにはもう少しかかりそう。ごめんねアイネ。研修の旅の最中なのに」

「んー……いいよ別に。ここに留まってれば皆と一日中特訓できるし」


 そうは言うがアイネの顔は不満げだ。すべてが終わったらお礼にアイネの相手をしよう。


「それよりねーちゃん。ちゃんとせつめーしてよね」

「ああ、うん。そうだね。ちゃんと説明しなくちゃ」


 僕はアイネにシエル様に関する事以外の全ての事を話した。

 ピュアルミナを使えるようになった時期ときっかけ。

 使えるようになってからの僕が治療士となった事。

 寮にいた頃も治療士として働いていた事。

 全て話した。

 話してみるとどうやら僕が治療士であった事は知っていた……というか学校で噂されていたらしい。

 そう言えば噂を信じた同級生の子にも聞かれた事があったっけ。あの時は秘密にしていたから否定はしたけど。

 ああ、だから僕はアイネに自分が治療士だと話さなかったんだ。噂があると耳にしたからアイネが知っていてもおかしくないと思ってしまっていたんだ。

 そして実際アイネは僕が治療士だという噂を知っていた。

 だけどさすがにピュアルミナまで使えるとは思わなかったようだ。

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