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ゲイルの選択

 前線基地を離れ、僕達はグランエルへと来た道を戻る。

 初めて大森林を離れるゲイルは新芽が出始めている野原を早速駆け回った。

 街道を外れて移動している間の事なので遠くに行かない様にと注意したが聞く耳を持ってくれずアロエと一緒に遠くまで行ってしまった。

 アロエと一緒なら迷子になる事は無いだろうがそれでも魔獣を一匹でいさせるのはまずい。


 僕は追いかける為にナスに背中に乗せてくれるよう頼み、鞍とくつわに手綱を出しナスに装備させた。

 フル装備のナスにミサさんとエクレアは疑問の声を上げた。

 まさかナスちゃんに乗るのですカ? と。

 前線基地にいた時休みの日に何回かナスがおねだりしてきた事があった。今思えばどの時もミサさんはいなかったな。

 簡単に説明しておいて後の詳しい説明はフェアチャイルドさんに任せ僕はナスの背に乗りゲイル達の後を追った。


 そして、ゲイルに追いつき注意をしながら皆の元へ戻るとミサさんが笑顔で時間があったら自分もナスに乗りたいと言ってきた。

 ミサさんは鎧を着て居なくても結構重そうだが大丈夫だろうか?

 だがナスはそんな心配を全くしていない様子ですぐに了承した。

 限界を確かめるのも悪くないだろう。さすがにフル装備のミサさんはお試しでも乗らせる気にはなれないが。


 油断すると遠くへ行ってしまいそうなゲイルを何とか御しつつグランエルへ向かう。

 その旅の間に僕はゲイルの小石を自分で持ち歩けるようにする為に、ゲイルが身に纏うベストとベルト二種類を適当な布で作り実際にゲイルに身に着けて貰った。

 あくまでもゲイルの好みを確かめる為なので小石を入れるポケットまでは作っていない。

 ゲイルにベストタイプとベルトタイプどっちがいいかと聞くと、ベストタイプと答えた。

 理由を聞いてみると温かいからという事と、ベルトタイプは締め付けられている感じがして嫌だと言う。緩めたら緩めたでどうも頼りなさを感じるんだとか。

 ならばベストタイプでいいだろう。

 ベストタイプなら自分で作れる。一から作るのならまずは型紙作りから入るのだが、その前にグランエルへ辿り着いた。


 グランエルの中に入る前に僕はゲイルの魔獣登録を済ませないといけない為、皆には先に中に入ってもらい、僕は大型の魔獣用の出入り口の所で登録を済ませる。

 受け取った許可証であるメダルは首輪に付けてもらいゲイルに装着させ、絶対に外さない様に言いつけておく。

 連絡係にディアナとエクレアがそばにいてくれるから他の皆との連絡に問題はない。

 登録が終わる頃に組合への依頼終了の報告を済ませた事と、中級向けの依頼がないという報告が入った。

 依頼が無かった場合の行動は決まってる。宿を取り一泊してから北上し北の都市へ行く事になっている。

 登録が済み、グランエルの中に入ると僕は真っ直ぐ組合へ向かおうとしたのだが……。


「きー……」


 検問所を抜けるとゲイルが立ち止まった。

 中に入る前からゲイルは都市を見て挙動不審になっていたが……。


「ゲイル? どうしたの?」


 声をかけるとゲイルは僕の方を振り返り、視線を僕の目に合わせてきた。

 ゲイルの瞳は水色だ。前世の海を思い出させるような水色の瞳が僕を真っ直ぐ見てくる。


「きーきー!」


 家が一杯! なんで!? と驚いている。

 ゲイルは村でも驚いていたっけ。

 村の時は家が、というより人が沢山いた事に驚いていた。

 その時に家には人が住んでいると教えたから、所狭しと建てられている家の多さ、そしてその家に住んでいるであろう人の多さに驚いているんだと思う。

 驚きが大きいのは大森林に暮らす魔獣や動物には縄張りはあっても群れで一ヶ所に暮らす習慣が無いから密集して家を建てて住んでいることが理解しにくいのかもしれない。


「村でも説明したけど、集まった方が便利なんだよ。近くに人がいればそれだけ助け合えるからね」

「きー……」


 ゲイルは開いた口が塞がらないといった感じで街中を見渡す。


「ゲイル、行くよー」


 と、声をかけても動こうとしない。仕方ないので抱きかかえていたヒビキをナスの背に乗せる。


「ヒビキ、ちょっとナスの背中にいてね。ナス、ヒビキの事お願いね」

「きゅー?」

「ぴー」


 ヒビキをナスに任せ、次に僕はゲイルを背中から抱き上げる。


「きき?」


 さすがのゲイルも急に抱き上げられて戸惑っている様子だ。


「皆が待ってるからね。もう少しじっくり見たいのかもしれないけど、このまま行かせてもらうよ」

「きぃー」


 抗議の声を上げるが暴れないのでそのまま抱きしめたまま歩き出そうと……する前に。


「あっ、痛く無い?」


 僕は今ゲイルの前足の下に腕を回し抱いている。この格好だと骨格によっては負担があるかもしれない。


「きーきぃーきぃー」


 やはり脚の付け根と胴の辺りが痛いようだ。


「ごめんね」 


 僕は抱くのをやめてゲイルを背中に回す。

 背負い袋の上に被せるように身に着けている皮の盾にゲイルの後ろ足を乗せ、僕の頭の上にゲイルの胸部が乗る様に調整する。

 大森林でゲイルが僕の頭に乗ってきた時の体勢を調整しただけだ。


「これでどう?」

「きー」


 ちょっと重いが足場の背負っている盾に体重がかかっているのでさほど問題にはならない。


「よし。これでゲイルはよそ見しても大丈夫だからね。思う存分都市の中を見な。じゃあ皆行こう」


 魔獣と精霊達に声をかけて僕は歩き出す。

 まず最初に行くのは預かり施設。魔獣達を預け、その後ゲイルだけを連れて組合に行かなければ。


 ゲイルを頭に乗せたまま都市の説明をゲイルにしつつ預かり施設へ向かう。

 途中ディアナから宿が取れた事と、食料の補充の為に市場に向かったので預かり施設に着いたら足りない物を教えて欲しいと伝えられた。

 それと、エクレアからはミサさんがアースの荷ほどきを手伝う為に組合の前で僕と合流する為に待っていると伝えられた。

 エクレアの言う通り組合の入り口横にミサさんが仁王立ちで待っていた。

 隙の見えない威風堂々とした立ち姿はどう見ても熟練の冒険者の物だ。

 組合前を通る人も皆一度はミサさんの姿を見て驚いた表情をしている。


 ミサさんと合流し預かり施設に着くと手早く手続きを終えて魔獣達を小屋の中に連れて行く。

 そして、ミサさんに手伝って貰いアースの背から荷物を降ろし早速食料や日常品で足りない物を確かめる。

 確かめ終えるとミサさんが鎧を脱ぎだした。剣と鉢金以外は全て小屋に置いておくみたいだ。

 ミサさんが脚甲を脱ぎだす前に視線を逸らし補充しておいた方がいい物をディアナを通してフェアチャイルドさんに伝える。

 その後僕はもう一度組合に行く為にゲイルを呼んだ。

 小屋の中を物珍しそうに鼻をぴくぴくと動かし匂いを嗅ぎながら動き回っていたゲイルは僕に呼ばれると顔だけ僕の方を向けて来た。


「昨日説明したでしょ? ナス達みたいに職業に就いて貰うって」

「きー」


 はーい、と返事をして僕の傍に寄って来る。


「きゅっきゅ」


 ヒビキも寄ってきた。

 ヒビキもついて行きたいようだ。


「ナスとアースはどうする? ついて来る?」

「ぼふん」

「ぴぃ」


 アースは来ない事は予想がついたがナスも来ないとは思わなかった。

 なんでだろうと考える前にナスが眠たそうに欠伸を見せた。眠たいのならしょうがないか。


「ミサさんはどうしますか? 宿は割符を持ってるフェアチャイルドさん達がいないと中に入れませんが」

「どうせ暇なのでアリスちゃんについて行きマース」


 ヒビキを抱きかかえ、ゲイルには僕の横を歩いてついて来てもらう。

 預かり施設を出てすぐ隣の組合に入り真っ直ぐ受付へ向かった。

 自分の名前を言いながら身分証を出し、カナデさん達が報告を済ませた依頼の報酬を受け取る。

 そしてそのままゲイルに職業を就けさせたい事を言うと、動揺を見せる事なく魔法石を取り出した。

 ヒビキの時はまだ魔獣が職業に就ける事が広まっていなかったから驚かれていたけど、今の様子を見るに驚かれない程度には認知されているのかもしれない。


 ゲイルに魔法石を使って貰うと僕の時と同じように青い半透明な板が出てきて光の文字が浮かび上がる。

 浮かび上がってきた職業の数は多くはない。

 まずは風術士。名前の通り風の魔法に補正がかかる職業だ。僕のスキルが共有された事によって魔獣達にも魔法陣の情報が流れているようだから活用できるだろう。

 次に飛脚。足の速さと体力、力に補正のかかる職業だ。主に足が速く走るのが好きな人に出てきやすい職業で、多分アイネも出て来るんじゃないだろうか。

 固有能力に足の速くなる物を所有している人が飛脚の職に就くと馬よりも速く走れ、一昼夜走り続けられるようになると聞いている。

 最後に隠密。これは存在感を薄くしたり、隠れる行為に補正がかかる。

 魔物等から逃げたい時や偵察の時等に役に立つ職業だ。


「きー!」


 説明を終えるとゲイルは飛脚になりたいと言ってきた。


「もっとよく考えなくていいの?」

「きー!」


 これしかないとゲイルは言うので僕はゲイルの前足を手に持ち、飛脚と書かれた文字をゲイルの足で押した。

 板は僕の時と同じように球体となりゲイルの身体の中に入って行く。事前に説明していたお陰かゲイルに混乱は見られない。


「これでお終いだよ。ちょっと預かり施設の空き地で走ってみる?」

「きー!」

「んふふ。じゃあ行こうか」

『おー、ゲイル速くなったんだー。楽しみだねー』

「きー」


 アロエが喜びを表しているかのようにくるくると回転しながらゲイルの周囲を飛び回りはじめた。


「まぁその前に……すみません。僕宛に手紙とか届いていますか? あと治療士のお仕事とかはありますか?」


 受付から去る前に郵便物と仕事の有無を確かめておく。


「治療士のお仕事の依頼はただいまございません。手紙の方は少々お待ちください」


 受付のお姉さんは受付台の引き出しを開けて紙を二枚取り出した。一枚目に目を通し二枚目に移ると顔を上げて僕に視線を合わせて来た。


「手紙が一枚届いていますね。差出人はユウナと書かれています」

「ユウナさ……から?」


 魔眼の事だろうか? 確かにユウナ様には僕が魔眼を会得した事を手紙で教えた。

 習得した時の状況も書いておいたからもしかしてユウナ様も習得できたのかな?

 手紙を受け取り皆に少し時間を貰い内容を確かめる。

 手紙は時候の言葉から入り身近で起こった事に続き本題に入っていた。


「会いに行くって……」


 どうやらアールスから今年の年末辺りの僕の予定を聞いているようで直接僕に会いに来る気らしい。

 魔眼の話を聞きたいようで、これからの一年自分でも努力して習得を目指す気でいるようだが、習得できなかった場合は詳しい話を聞き、習得できた場合はごく普通に話をしたいようだ。

 詳しい日程については年末までに手紙を送る事にするらしい。


「まぁいいか」


 ユウナ様の進路がどうなるかは分からないが、もう会う事が無いかもと考えていただけにこうして会う約束が出来たのは純粋に嬉しい。

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