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モテる理由

 警らの帰り道、僕達に同行する一匹の魔獣がいた。それはアロエと仲良くなったミストラだ。

 ミストラは空中を駆ける様に脚を動かしアロエやライチーと追いかけっこをしている。

 先ほど好奇心でどうやって空を飛んでいるのかと聞いてみると、驚いた様子で僕を見てきた。

 ミストラも他の魔獣達の様に僕の言葉が理解できる事に驚いたようだった。


 驚いているミストラの代わりに僕の問いに答えてくれたのはアロエだった。

 どうやらミストラは空気の塊を作りそれを土台にして空を走っているようだ。

 きっとアースのソリッド・ウォールと同じ原理なのだろう。魔力(マナ)ではなく空気というのは固有能力に関係しているのかそれとも空気を操る事が得意なのか。


 アロエに僕も真似が出来るだろうかと聞いてみると首を横に振られた。

 ミストラは体重が軽いから、ミストラの魔力(マナ)の量でも自重を支えられるが、僕の体重では無理だろうと言われた。

 残念に思いながら僕はただ三人が楽しそうに駆け回る空を見る事しか出来なかった。


 ミストラは追いかけっこに疲れると何故かアースの背に降りて寝転がり、体力が戻ると再びアロエ達と遊ぶという事を森の入り口まで繰り返した。

 アースとヒビキはミストラに対して気にした様子を見せなかったが、ナスはどうも昨日襲ってきた事をまだ許せていないようでたびたび空を駆けるミストラを見て低く唸っていた。

 そんなナスに対して僕はナスと触れ合う事でなだめる事にした。

 休憩時間に頬や背中、首元に耳元等を撫でるとナスは機嫌を直し僕に鼻先をくっつけてくる。なだめようとしたのに逆にこちらが癒されてしまう。

 ナスとの一時を楽しんでいるとヒビキがやって来て混ざりたそうに見てきた。

 ナスは優しいのでヒビキに気が付くと身を引いてヒビキを鼻先で僕の前まで押した。

 そんな事をされたらナスの株は上がるというもので、帰ったらナスと一杯遊ぼうと心に決めたのだった。


 森を出るとミストラは空の追いかけっこを辞めて森の奥へと帰って行くのを手を振って見送った。空にいたから挨拶が出来なかったのが悔やまれる。

 見送った後はそのまま真っ直ぐ基地へ向かい、日が暮れる前に着く事が出来た。基地に着くと僕とカナデさんで報告書を書き二人で事務室へ提出しに向かった。

 その際に書類のよく分からなかった所を聞き書き直したりもした。

 提出した後は食堂で夕食を食べ、お風呂に入る前に魔獣達の所へ向かった。フェアチャイルドさんとカナデさんは疲れたと言って辞退したがミサさんは一緒に来た。

 どうやらミサさんは道中休憩時間に戯れていた僕達を見ていて羨ましかったらしい。

 身に纏っていた金属をすべて外し身軽な格好になったミサさんはライトを維持したまま軽い足取りで魔獣達のいる厩舎の中に入って行き、ナスを見つけるとすぐに中腰になり抱き着いた。

 抱き着かれたナスは少し苦しそうだったが拒否する事なくミサさんの抱擁を受け入れていた。

 仕方ないので僕がミサさんにナスが苦しそうだと注意する。


「オゥ、すみません。痛かったですカ?」

「ぴぃ」


 抱擁を解いて顔をナスの正面に合わせるミサさん。

 そんなミサさんにナスは耳をパタパタと動かしながらミサさんの言葉を否定し、ミサさんの頬に鼻先を押し当てた。


「ふふっ、くすぐったいデース」

「ぴーぴー」


 ミサさんは本当にくすぐったそうに言いながらも自分からナスに頬を向けている。

 いっぱい遊ぼうと思ってたのにミサさんにナスを取られてしまったな。


「きゅーきゅー」


 僕を呼ぶヒビキの声に姿を探してみると、ヒビキは構って欲しそうに羽を揺らしていた。


「おっと。ミサさん、ナス。ブラッシングするからそこまでで。ヒビキ、おいで」

「きゅー!」


 跳んでくるヒビキを受け止めた後アースの傍に置いてある荷物袋からナス用の櫛を、丈夫な木の箱からはアース用の櫛を取り出す。


「ミサさん。ナスの毛を梳いてくれますか」

「いいですヨー」


 ミサさんは僕から櫛を受け取ると早速ナスの身体に櫛を当てる。基地までの道中や、基地のいた時にミサさんもナスとアースに櫛を当てていたのでやり方は分かっている。


「さぁアース。ブラッシングするから外に出よう。ヒビキ。ヒビキはアースの毛づくろいだよ。出来るかな?」

「きゅー!」


 ヒビキには櫛を当てる事はしない。いつものすり寄ってくる行為自体がヒビキにとっての毛づくろいになっているらしくブラッシングは必要ないのだ。

 それに自分で毛づくろいもよくする。丸っこい身体でどうやっているのかと思うかもしれないが、ヒビキは毛づくろいの時は首が伸び、フクロウの様に首を百八十度以上回す事も出来る。初めて見る人は驚く事間違いなし。僕も最初はキモイとか思ってしまった。

 ヒビキの種族のペルグナーはペンギンよりもフクロウに近い種族なのかもしれない。


 ヒビキにやってもらうアースの毛づくろいとは、主に背中や頭の上で固まっている毛をかき分けて身体に着いた虫を処理してもらう事だ。

 処理の方法は能力で焼き殺し捨てて貰っている。アースの毛や皮膚に影響を与えないからヒビキの能力は本当に便利だ。

 元々ブラッシングしている僕達を見てヒビキがやってみたいと言いだして始まった事だ。

 終わるまで時間がかかるので今の様に時間がある時に手伝って貰っている。


 厩舎の外に出てヒビキの仕事の間に僕はアースウォールで足場を作りブラッシングを始める。

 土の土台に乗って作業するのももう慣れたものだ。


「ヒビキ、暗くない?」


 一応ライトでアースの背より高い所から照らしているがどうだろうか。


「きゅー」


 問題はないようだ。

 櫛で梳きながら次はアースに話しかける。


「アース。今日はもう遅いからちゃんと洗うのは明日にしようね」

「ぼふ」

「明日晴れたらフェアチャイルドさんと一緒に基地の外に出てどこか気に入る場所を探してそこで洗おうか。

 地面に穴開けてフェアチャイルドさんにお湯を作って貰ってさ、アース用のお風呂を作るんだ」

「ぼふぼふ」

「んふふ。そっか。楽しみか。王都を出てから今まであんまりゆっくりお風呂に入る事ができなかったからね」


 ルルカ村ではミサさんの事でなんだかんだとあったからお風呂を作るほどの余裕はなかった。

 アースと話をしながらブラッシングをしていると、近くに一人の兵士さんがやって来て僕に話しかけてきた。

 見覚えがある。一昨日食堂を出た所で僕に話しかけてきた人だ。明らかに挙動不審で僕に興味を持っているのがよく分かったのが印象的だった。

 明日のお昼に一緒に食事に取りたいようだ。

 僕はその誘いを丁寧に断る。明日は出かける予定なのでお昼ご飯の時間に帰れるか分からない。

 明後日はどうかと聞かれたがこれも断っておく。理由を聞かれたので素直に男性と食事を取る気はない事を伝えておく。

 すると兵士さんは残念そうに大きくため息をついて肩を落として帰って行った。

 結構諦めがいい。カナデさん相手だと結構粘る人は多いんだけど、僕相手だといつもこうだ。やはり僕程度ではフェアチャイルドさん達に囲まれていると霞んでしまうんだろう。

 男としての意見だが、僕の顔立ちは悪くはないのだけど他の皆と比べるとどうも地味だ。


 千年前のアーク王国を起源とする三ヶ国同盟に住むアーク人は目が大きく目の堀が浅く鼻も小振りだ。

 肌の色は黄色人種に近く白人の様に肌が白い人はアルビノの人以外はいないと言っていい。

 頭の形は丸に近く身体に対して大きめで魔素の影響か若く見える人が多いので、全体として見ると大人でも割と子供っぽく見える。

 僕はそんなアーク人に対して目は少し細く見えて比較的手足が長い。多分フソウの人の血が混じっているからだろう

 フソウの人の顔立ちは基本的にはアーク人とはあまり大差がない。違いと言えば頭が小さく、目も小さく細い。アーク人よりも胴が短い分手足が長いといった具合だろうか。

 全体的に見て同い年の子と比較すると僕は大人びて見える。


 対して僕と同じ混血であるカナデさんはアーク人とフソウ人、それにヴェルス人のいい所どりといった所だろうか? フソウ人譲りの手足は長く、アーク人らしくたれ目がちな目は大きい。

 肌の色も他のアーク人と比べれば白く見えるし、ミサさんによるとヴェレス人は殆どの人がスタイルが良いらしいのでヴェレス人譲りの体形なのかもしれない。

 目の堀も周りと見比べれば深く目鼻立ちがはっきりとしている。

 それに加えて本人のおっとりとした雰囲気。少し押せば容易くなびいてくれそうな気弱な表情。男性にはたまらないだろう。僕も男のままで会いたかった。

 こう考えてみるとカナデさんは本当にモテるのがよく分かる。中身が男である僕が敵うはずがないのだ。


 小一時間ほどかけてアースのブラッシングを終わらせる。

 ヒビキは疲れたのかアースの頭の上でうつらうつらとした様子で身体が揺れていた。終わっているかどうかは分からないがここまでにしておいた方がいいだろう。こっちに来るように呼ぶとヒビキはぴょんと跳んだ。

 さすがに高い所から勢いよく落ちてくるヒビキのような重量物を受け止めるのは無理だ。僕は風を操り落下速度を緩めさせてから受け止める。

 そして僕の腕の中に納まったヒビキはそのまま寝息を立て始めた。

 もう遅い時間だから仕方がない。

 ヒビキを腕に抱いたままアースと共に厩舎に戻るとミサさんとアロエの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 どうやらナスと遊んでいるようだ。

 ミサさんに誘われたがさすがに時間が遅い。僕も遊びに加わりたいが遊んでいたらお風呂に入る時間が無くなってしまう。

 お風呂の事を言うとミサさんは思い出したように間の抜けた声を上げてナスとの遊びを終了させた。

 ナスは寂しそうだったが抱きしめて頭を撫でて僕の頬とナスの頬をくっつけ毛のくすぐったさを堪能した後、ナスとアースの食器を出して食事を用意してからさらにナスに眠っているヒビキを任た。


 部屋に戻るとフェアチャイルドさんとカナデさんはすでに眠る準備をしていた。いつもよりも早い時間ではあるが、慣れない警らの仕事に精神的に疲れを感じて早く眠る事にしたようだ。

 僕も同じなので気持ちはよくわかる。

 それに対してミサさんはいつもと変わらず疲れた様子を見せない。

 きっとミサさんはこういう仕事は慣れているのだろう。頼もしい限りだ。

 お風呂は僕達の泊まっている建物に個人用と複数人が同時に入れるお風呂場がある。

 僕達が使うのは個人用の物で泊っている部屋に併設されていてまるで旅館やホテルのようだ。


 ミサさんの勧めで僕からお風呂に入り、そして出るとフェアチャイルドさんが眠りについていた。

 僕は何気なしに彼女の寝顔を覗いてみる。

 そして確信する。やはり一番の美人さんはフェアチャイルドさんだ。

 背が高く切れ長の目に無駄な肉のついていない細面の彼女の顔は大人びていて同い年とは思えない。

 こうして眠っている姿をこの国の人が見たら老けているように見えるかもしれない。

 しかし起きている彼女はまだ仕草や行動に子供らしさが抜けきっておらず年相応の初々しさを感じさせる。

 大人な彼女に垣間見える幼さは見事なギャップ萌えを生み出している。

 それに髪だってきれいだ。薄水色の髪は柔らかくてずっと触っていたくなるくらい手触りがいい。

 何故彼女がモテないのか、これが分からない。

 少なくとも僕が見ている所で彼女が男性に話しかけられる姿は数えるほどしかなく、その話しかけた人も一言二言彼女が話をしただけで去ってしまっていたっけ。盗み聞きはいけないと思い内容は聞いていないけれどどんな事を言っているのだろうか。

 目的があるとはいえ、少しぐらいは異性と遊んでもいいと思うのだが……いや、もちろん健全な範囲でね?

 少しだけ彼女の将来が心配だ。一生独身で過ごす事にならなければいいんだけど。

アーク人の男性の好みは背が低いながらもスタイルが良く可愛らしい女の子というのが大多数です。

フェアチャイルドはその大多数から外れた容姿という感じ。

可愛らしいというよりは美人。高身長で貧乳(盛っているので他人からは気づかれにくい)。

顔立ちが整っていてきれいだからモテないという事はないけれど、近くには大抵スタイルが良くて可愛らしいカナデやそれなりに可愛くて愛嬌のあるナギがいるのであまり男性からは声を掛けられません。

フェアチャイルドは友人や仲間以外には愛想は見せても愛嬌は見せないというのもモテない事に拍車をかけています。

背が高いというのも、マイナス要因でありながらも一定数の需要はあるのですが、背が高いのはカナデも同じなのでやっぱり声を掛けられる理由としては弱いです。


まとめるとカナデが男性ホイホイになっている、です。

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