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大森林の主達

 お風呂場での事も後に尾を引く事なく済み旅を続ける事が出来た。

 目的地である前線基地は、ルルカ村を真っ直ぐ西に向かって二つ目にある村と大森林の間にある。

 南の方には東にある様な壁は存在していない。それというのも、近年は規模が縮小され続けているが、一昔前までは大森林で木材を確保するのが主流だった。

 木材の運搬をするのに壁があると不便だった、というのと大森林は北から南の海岸線までまっすぐ歩いても二日はかかるほど広く、大森林が壁の役割を果たしているという理由もある。

 海からの大規模な侵攻が無い限りは大森林に住まう魔獣達の縄張りを抜ける事はほぼ不可能で、大森林から出てくる驚異のほとんどは縄張り争いに負けて追い出された獣くらいだ。

 それにバオウルフ等の人に対して友好的な魔獣達が時折人里に顔を出すから邪魔にならない様に作らないという話を聞いた事がある。


 道中ルルカ村に寄る事もなく僕達は最短の道を行く。

 ルルカ村に寄らなかったのは折角レーベさんとしばしの別れの挨拶をしたのにすぐに帰ってくるなんて恥ずかしいと言うフェアチャイルドさんの思春期な気持ちを考慮しての事だった。

 僕としては会える時に会った方がいいと思うのだけど。

 予定通りに着いた前線基地は前に行った事のある石造りの建物ばかりだった前線基地とは違い、木材で出来た平屋の建物がいくつも建ち並んでいた。

 前線基地を囲うのも石の壁ではなく、堀と規則正しく開けられた穴が開いている木製の壁だった。


『東の壁とは違いこちらは大きな壁もないし、建物も木で出来ているのね』


 そう聞いたのはエクレアだった。

 その問いに答えるのはフェアチャイルドさんだ。


『東の壁は越えられない様に強固な物にする必要がありますが、南では大森林がありますから壁は必要ないんです。

 建物が木材なのは万が一の時に魔物に利用されない様に燃やせるようにですね』

『……壁があればシルフィンはともかくクリスは助かったのでは?』

『そうかもしれません。でも、壁があると動物たちが逃げてこれませんから』

『動物達の命は人間よりも価値があると?』

『エクレアさん。今この国にいる動物の大多数は大森林が残っていた事によって生き残る事が出来たんです。

 私の着ている服や装飾品、食べているお肉、お乳、どこかしらの部位が薬になる、なんて事もあります。

 動物達の存在は人の発展に欠かせないものになっているんです。

 南に壁が無いのは何も大森林から動物を逃すばかりではありません。

 万が一この国が滅びたとしても、この国で生きている動物達が大森林に逃げ込めるようにしてあるんだと思います。

 生き物さえいれば生き残った人々がまた大森林の動物達を資源として活用できるのですから』

『つまり大森林は巨大な牧場みたいな物ね』

『その通りです。ただ人が勝手に手を入れる事は出来ませんが』

『それは大森林を支配してるっていう五匹の魔獣がいるから?』

『はい。昔の人が五匹の魔獣と交渉をし一部の立ち入りと資源を得る事が出来るようになったんです。

 代わりに捧げものを要求されていますね。例えばルルカ村ではバオウルフ様に果実を捧げています』

『あのねーあるじさまはアップルがすきなんだよ。レナスとおんなじ!』


 ずっと話を聞いていたライチーが両手を一杯に広げて答える。


『なるほど。確かバオウルフ様ってのは馬に似た動物だったかな。そのバオウルフ様以外にはどのような魔獣がいるの?』

『魔獣の事ならナギさんの方が詳しいですね。お願いできますか? ナギさん』

「うん。いいよ。と言っても僕も本の知識しかないんだけど」


 魔獣というだけなら大森林は主様と呼ばれる魔獣以外にも沢山の魔獣が住んでいる。

 殆どの魔獣は主様の配下に入っていて、広大な大森林にそれぞれの主様が受け持っている縄張りを守っている。

 だけどさすがに主様と直属の部下的な魔獣以外の魔獣は把握していない。

 それにエクレアの聞きたいのは主様と呼ばれる魔獣達の事だろう。


 東にある壁も越して存在する大森林は東から西まで順番に大きく分けて五つの魔獣の縄張りがある。

 縄張りとして一番大きい東の縄張りから順番に説明する。

 一番東の縄張りは、魔の平野に面した縄張りで東の壁に達する辺りまで一匹の魔獣の縄張りとなっている。

 この広大な縄張りを指定している魔獣の種族の名前はレチキュラウス・クライムサン。

 レチキュラウスは大蛇という意味でクライムサンは深紅のような色の事だ。

 主様達からはデェフェールと名付けられ呼ばれているようだ。

 種族名の様にデェフェールはクライムサンの色をした鱗を持ち、その身体は巨大でとぐろを巻けば小山が出来上がるほどらしい。

 残念ながら能力に関してはよく分かっていない。そもそもデェフェールに関してはバオウルフからのまた聞きなのだ。

 性格は温厚で滅多に他の生き物を襲う事が無く、隣の縄張りに住むバオウルフとは友好関係を結んでいるようだ。

 だがしかし、別に人間と交渉している訳ではないので人間と友好的という訳ではない。友達の友達は友達、という事にはならないようだ。


 東から順番に話すと次はバオウルフ様の話になる。

 バオウルフというのは種族名ではなく個体名だ。種族名はハイラコザリウム・マスタールという。

 ハイラコザリという種族は千年前の魔物の大進攻以前にバオウルフ様以外は絶滅している種族だ。残っていた資料も少なくどのような種族だったかはバオウルフから語る量の方が多い。

 現在の馬よりも体格は小さく腰の辺りに白い線の模様が五本あったらしい。

 マスタールも古い言葉で現在の言葉に直すと春風という意味になると本には書いてあった。

 どんな性格なのかはサラサ達の方が詳しいだろう。僕が本で読んだ限りでは温厚でデェフェールとは違い人間とも親交を築いているので非常に友好的な魔獣だ。

 能力は風を操ると言われており、その力は巨大な竜巻を起こすほどと言われてはいるが、住処が森なのでそんな力を発揮した所を見た事が無いと語ってくれたのはサラサだった。


 東から三番目の縄張りを支配しているのはギェイラ・アルクシール。

 ギェイラというのはぶっちゃけゴリラだ。文字から本来の名前はギェイラだと分かるが、僕が人からギェイラと聞くとゴリラと翻訳される。なのでゴリラで間違いない。

 大きさは人よりも大きく体毛は黒い。図鑑で見た姿はまんまゴリラ。しかし、人と同等以上の知性があり人とは主様達の中では率先して交流を図っていて仲介役を担ってもいる。

 大昔に住処を魔物に追われたそうで大変魔物を憎んでいる、というのも人に友好的な理由の一つだろう。

 アルクシールはこちらの言葉で聖なる水という意味だ。

 その名の様に水を操り森の動物達を助けていてカワイアという名前の他に彼の事を良く知る人間からは森の聖者とも呼ばれていると本には書かれていた。


 四番目の縄張りは二番目に広く、そこを収めている魔獣はドグベアスという熊に似た見た目をした動物が元になった魔獣だ。

 体長は男性の平均身長の二倍程度。しかし支えが無いと二足で立つ事が出来ず、骨格的には大型の猫科の動物と大差がないようだ。

 手足は短く太い。五つある指の先には太く頑丈な爪が備わっており走る時は爪によって地面が抉られ、岩の場合は切り裂かれた跡が出来るという。

 人とはあまり友好的とはいえず、情報を教えてもらえる事なくその所為で詳しい種族名は誰も知らない。ただ主様達の間ではクラウアスという名前で呼ばれているらしい。

 カワイアの仲立ちがあって不干渉という関係でいられている。

 カワイアがいなかったら人は彼の縄張りに入るどころか近づく事すら危ういと言われている。

 性格は生に貪欲で臆病。人間や他の魔獣達に対しても警戒を解いておらず縄張りが広いのも自分が生きる為に盾や囮となる動物を確保する為だとか。妖精も精力的に生み出しておりいざという時の為の武力とするつもりのようだ。

 その生き汚さは嫌いではないがあまり会いたいとは思えない魔獣だ。何が起こるか分かったもんじゃない。


 西……イグニティをまで伸びている大森林の西部部分を収めているのは主様はリオスという種族の動物が元になったと思われる魔獣だ。

 リオスという動物は大型の猫科の動物で、豹の様に細くしなやかな身体をした動物だ。豹との違いは体毛の模様の違いくらいだ。リオスも言葉で聞くと一応豹と翻訳される。

 能力は電気を操るらしく、縄張りへの侵入者を察知すると電気を纏って襲い掛かって来るらしい。

 こちらも人間とは友好的とは言えず詳しい種族名は不明。人とは不干渉を通しているが、クラウアスとは違い人に興味が無いだけのようだ。

 勝手に縄張りに入ったら敵対されるが、きちんと手順を踏めば縄張りをやたらに荒らさない限りは不干渉でいてくれるらしい。


 主様達の簡単な説明を終えるとエクレアは小さな声で勝てるだろうか、と呟いた。

 精霊は膨大な魔力(マナ)と知恵を持つ魔獣とは相性が悪い。

 自分と匹敵するぐらいの魔力(マナ)を持ちながらも自分よりも巧みに魔力(マナ)を操るのだから当然だ。

 以前サラサに聞いてみたのだが自分だけではアースに勝てる気がしないそうだ。

 何かあった時の為に対策を考えるのはいいが、ここら辺一体は友好的なバオウルフの縄張りだからエクレアが心配する事にはならないだろう。

 むしろ警戒すべきなのはバオウルフの配下に入っていない魔獣と動物達だと僕は思う。


 話をしているうちに僕達は前線基地の入口へ辿り着いた。

 入口には兵士が二人おり僕達に止まれと声をかけてくる。

 カナデさんが持っている依頼書を見せると片方は顔を緩めもう片方は依頼書の確認を取ってくると言って中へ入って行った。

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