自己紹介 後編
ミサさんは出されたお茶をグイッと勢いよく飲み干し後カップを丁寧にテーブルの上に置いた。
どうやらようやく落ち着いたようだ。
「落ち着いたみたいなので再開させますね」
「すみまセン。少し取り乱しまシタ」
「じゃあえと……神聖魔法は話しましたよね。後魔法は第七階位と独自の魔法が使えますが……魔法の階位はこの国独自の基準ですけどどの位の物か分かりますか?」
「そもそもワタシは魔法自体詳しくないのデスヨ」
「そうでしたか……なんと説明すればいいですかね。魔法の階位はその魔法の難易度と危険度を表しているんです。
目安としては第一階位から第三階位までは初心者向けで、第四階位から第六階位までは中級向けという難易度です。
ただ第七階位以上を使えるからと言って上級向けの難易度になる、という事ではありません。
第七階位以上の魔法は主に危険度で分けられており、難易度的には第六階位以下の魔法とは大差がないんですよ。
なので第七階位の魔法は高等学校に通わないと習う事が出来ないんです。僕の場合は学校に通ったわけじゃなく友達の教本を読んで習ったんですけど。
ちなみに都市の中では魔法陣を使った魔法は原則禁止されています。ですが施設によっては第三階位まで使う事が出来るんです。第四階位以上を使う場合は資格を持った人の立会いが無ければ使う事は出来ません。その資格も、よほど信用がないと得る事が出来ないんです」
「はぁ……なるほど」
ミサさんは分かってるのか分かっていないのか曖昧に返してくる。
「まぁ魔法に関しては直に見て貰った方がいいですね。それで武具は剣と盾を使っています」
「オゥ。ワタシも武具は剣と盾を使ってイマース。お揃いですネー」
「そうなんですか? でしたら後程お手合わせお願いしたいですね」
「いいデスヨー。ワタシも興味ありマース」
「お願いします。えと、僕の方からはこれくらいかな? あっ、通訳出来るので言葉の事で困った事があったら僕に頼ってください」
「はいー」
「じゃあお次は私ですかね~。ミサさんはどれぐらいこちらの言葉が分かるんですかぁ?」
『あまり分かりません。でもカナデさんの言葉はゆっくりでとても分かりやすいです』
「それはよかったです~。私妖精語は分かりますけどぉ、喋るのは苦手なんです~。
ですからぁ、分からない言葉があったらナギさんに聞いてください~」
『そうさせていただきます』
「えとぉ、私の得意なのは弓ですねぇ。後目や耳もいいので先ほどナギさんがおっしゃったように周辺の警戒は得意ですねぇ。
ただお料理は苦手なんですよぉ。いつもお二人にお世話になりっぱなしでしてぇ」
「やだな。その分洗濯や魔獣達の面倒を見てくれたりとか、それに力仕事を多めにやってくれるはないですか。いつもお世話になっているのは僕達の方ですよ」
「そうですかねぇ? 私の出来る事はこれぐらいでしょうかぁ?」
「後薬や食材になる植物の見分けも出来ますよね」
カナデさんは時々道に生えている植物を目ざとく見つけて摘み取っている。
僕も特徴を覚え探そうとはしているのだがいつも見つけるのが早いのはカナデさんだ。
「分かりやすい物だけですよぉ」
『素晴らしいではないですか! 旅をしていても飢える心配がないのですね!』
「あっ、飢えに関してはこの国ではあまり心配しなくて大丈夫ですよ。
たとえ草原の真っただ中に置いて行かれても半日位一方向にまっすぐ歩けば街道に出れますし、お金が無くても村なら仕事を貰って働いて食いつなぐ事が出来ます。
ただ逆に都市だと冒険者自由組合に登録していないと仕事が見つからないという事もあるので注意しないといけませんけど」
『冒険者自由組合……私の所属している国際冒険者組合総連合会と提携している組織ですね』
「そうです。たしかこちらの組合と同じように細かく冒険者の位が分かれているんですよね?」
『そうです。東の方では冒険者の位は高い順に白金級、金級、銀級、鉄級、銅級という風に五つに別れていて、私はそのうちの銀級です』
「えとぉ、確かこちらの階位に照らし合わせると二階位ずつ当て嵌めてぇ、白金級だけが第九階位になるんでしたっけ~」
『いえ、少し違います。正確には銅級に当てはまるのは第一階位だけで、後は二つずつ当て嵌めていくんです。そうして第十階位だけが余るようになっているんですよ』
「あっ、そうでしたそうでした~」
「そうだったんですか? どうしてそんなにややこしくなってるんだろ?」
『規模では確かに国冒連の方が大きいですが、立場としてはこちらの国の後ろ盾がある自由組合の方が上なんですよ。
国冒連は冒険者や旅人、傭兵を支援するための各国の組合同士が手を組んで生まれましたが、運営はあくまでも民間が行っている物で国は関与していないんです』
『なるほど。こちらの組合では国からの仕事や軍からの協力要請が来ますが、そちらの方ではそう言ったものは無いんですね?』
『その通りです。お仕事はあくまでも民間の物。貴族から仕事はきますがあくまでもそれは個人的な物という事になっています』
「なるほどね……でもいくら後ろ盾があるからって、良く規模の小さな自由組合よりも立場が下だって認めましたね」
『あー、それはですね。まぁ公然の秘密という奴なんですが、実を言うと立場云々は建前なんですよ』
「建前?」
『はい。そもそも国冒連が生まれたのはアーク王国との交流が生まれた時なんです。
それまで組合は国々で別れていて多少の協力体制は取ってはいても手を組んでいた訳ではないんです。
ですがその……交易が開かれてから冒険者同士に交流が生まれた事によってアーク王国の冒険者の質の高さを知ったんです』
『質の高さ……ですか?』
『はい。武力としての実力は当然の事、知力や民度の高さ、そう言ったものが段違いなんですよ』
「そこまで差があるのですか?」
『はい。例えばこの国では誰もが文字を書けるようですが、東の国々では庶民は文字をかける人は大変少ないのです。書くどころか読める人もどれくらいいるか……』
ミサさんの言葉を聞いてフェアチャイルドさんが信じられないと言った感じの表情をしている。
『ど、どうして東の国々ではちゃんとした教育を受けさせないのですか?
勉強をすればそれだけいろんな事が出来るようになると思うのですが』
『私には国の偉い人が何を考えているかは分かりません。
ただ、この国の冒険者の質と組合の内情を知って危機感を覚えました。
自由組合は国の後ろ盾があり冒険者の質も高い。このままでは自分達は自由組合の傘下に入ってしまうのではないか、と。
そこでバラバラだった東の組合の長達は手を取り合い国際冒険者組合総連合会という一つの組織を作り上げたのです。
そして、表面上は歴史の浅い為という理由で歴史ある自由組合を持ち上げておく事によって様々な差を誤魔化し自分達だって規模では負けていないぞ、と見せて自分達の立場を守る事にしたんです』
「はわ~。色々とあるんですねぇ」
「なるほど……そこまで差があるんですね」
機械技術や学問は東の国々の方が発達しているとは聞いているけれどその分格差があるようだ。
三ヶ国同盟では東の国々ほど格差が無く平均値は高いのだろう。それでも東の国々に後れを取っているのは資源の問題と人口の問題があるからだ。
古来から限られた資源で魔物達に囲まれた状態では人口を無暗に増やす事が出来ず、生き抜く為には個々の質を高めていくしかなかった。
その結果が東の国々の国民との差なんだろう。
『話が大分逸れてしまいましたね。次は私の方の紹介をしましょう。私は精霊魔法と神聖魔法を第四階位まで使えます。
武器はどうやらナギさんと同じ物を使っているようですね。
野営に関しても一人で旅をしていた時もあったので問題はありません。
それと掛け算と割り算も出来ますよ!』
ミサさんは大きな胸を張る様に背を反らして自慢げに言った。
「え? あっ、はい」
一瞬呆気に取られてしまったがよくよく思い返してみればミサさんが東の方の庶民には教育が行き届いていないと話していた。きっと掛け算も満足に教えられていないんだろう。
『むぅ、反応が悪いですね。やはりこちらでは掛け算は普通に出来るのですね』
「まぁ得意不得意はあるでしょうが、四則演算は学校で習うので」
『はぁ……そうですよねぇ。やはり皆さん四桁同士の掛け算位はパッと出来てしまうんでしょうね』
「いや、人によっては時間かかりますよ。僕は二桁同士でも時間かかりますし」
「私もですねぇ。何かに書いて計算しないと無理ですよ~」
『おおっ、それなら私の方が上ですね。三桁までなら暗算ですぐに答えが出せます』
「暗算ならすごいじゃないですか」
『ふふふっ、私旅の間勉強しましたから。レナスさんはどうですか? 何桁までいけますか?』
まるで挑発するかのような目でフェアチャイルドさんを見るミサさん。そんなミサさんに対してフェアチャイルドさんはすまし顔で答えた。
『五桁同士までなら間違える事なく暗算で答えられます』
『ご、五桁!?』
「はぁ~。さすがレナスさんですねぇ」
「独学で勉強して三桁を暗算ですぐに計算できるミサさんの頭の回転の速さも十分凄いんですけどね……」
『くぬぬっ、勝ったと思わないで下さいね』
『もう勝負ついていますから』
一見すまし顔に見えるフェアチャイルドさんだが口角が誇らしげにわずかに上がっていた。




