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ムチプリ

今回は次話で閑話を入れるので短いです

 まさかレモネードの話だけで夕飯の時間まで取られるとは思わなかった。しかもミサさんは一方的に話してきて、僕が口をはさむ隙が無かった。

 きっとカナデさんが寝ていたのは会話が出来ない上に話についていけなくなったからだろう。

 フェアチャイルドさんが夕食が出来た事を伝えに来てくれたおかげでミサさんの話を止めるきっかけが出来たのが幸いだった。

 夕飯の最中はフェアチャイルドさんが望んだ事もあってかご両親の話を精霊達から話してもらう事になった。

 食事中という事もあってか今度は一方的に話す事なく話を聞く事が出来た。

 話は食事が終わった後、お風呂の中でも続きついには眠りにつく間際まで続いたようだ。

 ようだ、というのはフェアチャイルドさんとは別々の部屋で泊まった為その事を知ったのは翌日の朝だったからだ。

 しかし、それでもフェアチャイルドさんはまだまだ聞き足りない様子だった。

 朝の訓練、組手を終えた僕にフェアチャイルドさんは改まった様子で話しかけて来た。


「ナギさん。皆で少し相談したい事が」

「相談? いいよ。カナデさーん、ちょっとこっちに来てくださーい!」


 離れた場所で弓の訓練を終えていたカナデさんに声をかける。

 三人集まった所でフェアチャイルドさんが口を開いた。


「あの、グレイスさんも私達の仲間になってもらうのはどうかと……思ったんです」

「ミサさんを?」

「はい。昨晩精霊越しに確認を取った所この後はゼレ様の宣教をしながら適当に旅を続ける予定だそうです。

 特に目立った予定はないそうなので、グレイスさんの向こう側の知識は役に立つと思うんです」

「たしかに……実際に旅をした人の知識は欲しいかも」

「ですねぇ。グレイスさんはどう言っているんですかぁ?」

「まだ話していません。まずは相談をしてから、と思いまして」

「ん~、私は構わないと思いますよぉ」

「僕も。精霊達の意見はどうなの?」


 聞くとサラサとディアナが姿を現した。


「私はレナスがそうしたいのなら異論はないわ」

「同じく」


 フェアチャイルドさんの肩にくっついているライチーはまるで口元を山みたいに尖らせて眉をひそめている。


「なんだかライチーはすごく嫌そうなんだけど」

「向こうの精霊が気に入らないのよ。昨晩ライチーがレナスに四六時中くっついていた事に文句言ってきたから」

「それはまたなんで」

「精霊が四六時中っくっついてたらレナスの気が休まる時がないって」


 そう答えてサラサは肩を竦めた。


「それは……うん。たしかに……」

「正論ではあるけど、嫉妬交じりだった。今まで放置してたくせに」


 ディアナの言葉には明らかに刺がある。こんなことで果たして向こうの精霊と旅をする事など出来るのだろうか?


「とりあえずミサさんに話すよりも先に精霊達同士で一度話し合ってみたらどうかな?

 なんだかお互いに思う所があるみたいだし」

「たしかにそうですね……このままでは一緒に旅をするのは難しいかもしれません」


 フェアチャイルドさんは頷きさっそく行動に移った。

 置いて行かれた僕とカナデさんはとりあえず訓練の後片付けをした後魔獣達のお世話をする事にした。

 カナデさんと共にアースの身体を洗っていると背後から声が聞こえて来た。


「大きい動物なデスネー」


 声でまだ判断できなくても特徴的な語尾で誰だかわかる。

 アースを洗う手を止めないで顔だけ動かし確認する。


「この動物のお名前は何と言いマスカ?」

「アライサスです。名前はアース。ただの動物じゃなくて魔獣なんですよ」

「魔獣!? アリスさん魔獣を飼っているのですカ!?」


 飼うという表現はあまり好きではないが、他人から見たらそう見えるのは仕方ない。


「僕の固有能力は魔獣達と相性がいいんですよ。魔獣達とも会話が出来るので家族当然ですよ」

「オゥ……それは失礼しましたネー」


 ここで察して謝ってくれるなんて優しい人なんだな。


「アース、この人がフェアチャイルドさんの従姉のミサルカ=グレイスさんだよ」

「ぼふっ」

「この子はアリスさんの言葉は分かるのですカ?」

「はい。分かりますよ」

「羨ましいデース」

「んふふ。ところでミサさんは精霊達とは一緒ではないんですか?」

「それがデスーネ、レナスさんが精霊達同士で話があると言ってきたですネー。それでワタシは抜けてきたんデース」

「そうだったんですか」

「朝のお祈りも終わったノーで、少し身体を動かしに出て来たのデース」

「そう言えばミサさんはどなたを信仰していらっしゃるんですか?」


 先ほどフェアチャイルドさんとの会話の中で名前が出ていたが、本人の口から聞いたわけではないので確認がてら聞いておく。


「ワタシは軍神ゼレ様を信仰していますヨー」

「ゼレ様ですか。意外……と言うほどでもないですね」


 ミサさんは背が高く、修道服の上からでも分かるほど恵まれた体をしている。

 言ってしまえばむっちむちだ。胸はカナデさんと同等だがお尻の大きさと腰から太ももにかけてのエロさはカナデさんを上回っている。健全な男の子だったら一秒とまともに立っていられないだろう。僕もカナデさんで耐性を作っていなかったら危なかった。

 肉感的……というかまさにムチプリ(ムチムチプリースト)という言葉が似合う女性だ。

 だが僕がゼレ様を信仰していると聞いて意外とは思わなかったのは別の理由がある。

 それは、ムチプリとはまた別の意味でミサさんはいい体をしているように思えるのだ。

 ムチプリと言ってはエロい感じがするが、高い背と肉付きがいい分体重がありそうだ。

 そして歩く姿も大変美しく隙が見えない。

 大きな身体を支えるのにはその分筋力が求められる。僕のアップル二個分の重さを持った胸でさえ負担に感じるのだからミサさんの肉感的な身体を他人に重さを感じさせないぐらい支えるのにどれだけ鍛えているか。

 少なくとも魔の平野を越えて来た人だ。ただムチプリな人であるはずがない。


「ミサさん姿勢がいいですもんね。鍛錬をしているんですか?」

「してますヨー。毎日筋肉を鍛えてマース」

「どうりで」

「それでは、ワタシはそろそろ走り込みに行ってきますネー」

「分かりました。戻ってきたら他の魔獣もきちんと紹介しますよ」


 ナスとヒビキは今教会の裏辺りで仲良くふたりで遊んでいる。


「おー、他にもいるのデスネー。楽しみデース」


 そう言った後それではと小さく会釈をしてその場を去って行った。

 さて、アースを洗うのに集中しなくちゃ。ミサさんと話している間カナデさんがフォローしてくれていたからその分を返さなくては。

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